16話 水の魔法生物の生態
夜明けの僅かな隙間をついて、パル号で幻の王都に一気に突入した。王都は半分砂に埋もれていたが、なぜか広場の周辺は砂に埋もれておらず、中央の噴水は可動状態で綺麗な水が勢いよく噴出していた。しかもその水は魔法生物なのだそうだ。ちょっと意味がわからない。
「えーっと……魔法生物だそうですが、どうしましょう?」
核を探すのか放っておくのかどっちかだとは思うけど、どちらが正解なのか僕にはサッパリ分からない。
「魔法生物は仮初でも命を持っているの。そんな生物が記録にも残らないほど昔に滅んだ王都で生き残っていると言うことは、何か生命を維持する方法を持っていることになるわね」
イルマさんが僕達に説明するように魔法生物のことを教えてくれる。どこか思考する様子も見えるので、言葉にしながら状況を整理しているのかもしれない。
「生きていたら問題があるの?」
アレシアさんが根本的な質問をした。
確かにそうだよね。不思議生物なんだし、生きていても不思議じゃない。だって不思議生物なんだもん。
「そうね、問題ない場合もあるのだけど、こう言った場合、命を維持するために命を奪うなんて分かりやすい解決方法が取られやすいの。みんな気づいてる? 王都に入ってから魔物の姿を一匹も見ていないのよね」
「そういえばそうね。もう日が昇ったのだし、これまでの魔物の密度を考えると魔物の姿が見えないのは違和感があるわね」
イルマさんの説明にドロテアさんが納得した様子で頷く。
魔物の姿が見えないか。僕も王都の中には沢山の魔物が蠢いていると想像していた。
……なんだか凄くホラーな感じがしてきたけど、原因は目の前の水の魔法生物って事なんだろう。
幽霊の正体見たり枯れ尾花……とは違うな。枯れ尾花だったら怖くないけど、今回の魔法生物は怖そうだ。
「ええ、そうなのよ。だからちょっと実験してみるわ。みんな、思った通りなら襲いかかってくると思うから警戒しておいてね」
イルマさんの突然の実験宣言。この人は少しマッド気質があると思う。
「ちょっと、襲われるの前提なの?」
アレシアさんは意外と常識人だよね。さすがリーダー。
「私の想像通りなら、水がある場所ならどこでも襲われる可能性があるわ。それなら周囲が開けているここで試しておいた方がいいわ。パル号の結界があるもの」
……なるほど、王宮に入ったら船の結界から出る場合があるよね。
「そう言う事なら試しておいたほうがいいわね。イルマ、お願い」
アレシアさんも同じことを思ったのか、イルマさんの実験に許可を出した。
「了解」
アレシアさんの許可を得たイルマさんが、そっと結界の外に手を伸ばす。実験ってそれだけ?
若干拍子抜けしていると、噴水の水がブワッと盛り上がりイルマさんの手に襲いかかった。
素早く手を引っ込めるイルマさん、それとほぼ同時に水が結界にぶつかり飛び散る。
「イルマ、大丈夫?」
「ええ大丈夫よ。でも思っていた以上に速かったわ」
アレシアさんの問いかけに笑顔で答えるイルマさん。大丈夫なのは嬉しいけど、なんで笑顔?
「ねえ、ご主人様、あれ見て」
イルマさんの笑顔にビックリしていると、イネスが噴水を指で差した。
うわー、水面がなんか大暴れしている。イルマさんの手を食べ損ねて怒った?
ドン! という音とともに噴水から巨大な水柱が立ち、次の瞬間には結界全てが水で覆われる。
なるほど、獲物を捕らえきれなかったから、次は物量で飲み込もうってことか。
ふわりとパル号が浮き上がり、水に押し流されて運ばれていく。
そっか、グレートワームには丸呑みされた時以外、陸上で動かされたことがなかったから知らなかったけど、陸上でも水がくれば動くんだな。
少し驚いたが、パル号も水陸両用車なんだから当たり前ではある。
なぜか誰一人慌てずに静かなままザーっと広場の隅まで水に流されていく僕達。多分何度もこんなことがあったから、広場は砂の侵食から免れていたんだな。
広場の隅に到着し砂の上に着地すると、水は僕達を放置して波が引くように噴水に戻っていった。
結界の中にいたから、僕達は獲物ではなく異物として認識されたようだ。なんというか、ゴミ扱いされたようで少し納得がいかない。
「えーっと、イルマ、何か分かりましたか?」
「ええ、面白いことがたくさん分かったわ」
パル二号に乗っているイルマさんに質問すると、イルマさんは待っていましたとばかりに自説を展開し始めた。なんか難しそうな単語が出てきているけど、僕に理解できるだろうか?
細かい部分は分からなかったが、なんとか概要は理解できた。簡単にまとめるとこう言うことらしい。
水の魔法生物は生命、もしくは魔力に反応する。
船結界はそれらを遮断し、水の魔法生物には捕食対象と見做されない。
魔力の反応から水の魔法生物の核は噴水には存在せず、どこか別の場所にある。
三行でまとめられたな。これだから研究者は……。
「じゃあ安全に探索するために、まずは魔法生物の核の排除を目指す、で良いかしら?」
「ええ、間違いなく水と魔法生物は繋がっているから、王都の水源の中心に核があると考えていいわ」
アレシアさんの決定にイルマさんも頷く。水がある場所全てが危険地帯ということなら、迂闊にお宝探索もできないから無難な判断だろう。
「でも水源ってどこにあるの?」
カーラさんの素朴な疑問。そういえば普通砂漠ではオアシスみたいな水辺に街を作るよね。
王都みたいな巨大な街なら、それだけ巨大なオアシスがあってもおかしくないはずなのに、噴水以外の水場がカケラも見当たらない。
もしかして枯れた? それで王都が滅んだ……いや、それなら水の魔法生物の存在が疑問だ。水の魔法生物なんだから、生命力や魔力以外にも水が必要だろう。
見えない水源か、探すのが難しそうだ。
「もう一度噴水の水を刺激して、魔力の流れを調べるのが無難ね」
イルマさんがアッサリと解決策を提案する。魔力の流れか、僕にはサッパリだが追えるのであればそれが正解なのだろう。
イルマさんの提案が採用され、もう一度噴水に近づく。
今度はイルマさんは魔力の流れに集中するため、マリーナさんが結界から手を外に出す。
先ほどと同じように水が襲いかかり、それを躱すと再び大量の水で押し流された。
「魔力の流れは王宮から続いているわね」
イルマさんが少し嫌そうに教えてくれた。
王宮か、王宮を安全に探索したかったから先に水の魔法生物をなんとかしたかったのだけど、悲しい結果になってしまったな。
「王宮ね、大切なものを権力者が独占するのは、今も昔も変わらないってことなのかしら」
ドロテアさんが不満げに王宮を見ながら文句を言う。確かに砂漠で水を独占していたら権力基盤は盤石だよね。滅んでいるけど……。
「ん? 警戒! 噴水の様子がおかしい!」
突然マリーナさんから警戒の指示が飛ぶ。噴水を見ると僕達は離れているのに、荒ぶったように水がうねっている。なんでだ?
「私達が餌をあげなかったから怒っているんじゃない?」
……イネスの言うことも一理ある。僕達が水の魔法生物の食べ物だったなら、二度も鼻先に餌をぶら下げて、そのままオアズケにしたってことになるもんね。普通に嫌がらせだ。
水が細かく振動しているのか、噴水からビーンと異音が聞こえてくる。
「すごい量の魔力が拡散しているわ」
イルマさんが魔力の流れを教えてくれる。音と共に魔力が広がっているらしい。
しばらく警戒しているが、泉の異常以外は何も起こらない。魔力はドンドン拡散を続けているらしいが、それ以外に変化はない。
「イルマ、どうする?」
「どうするって言われても……この状態で動くのは悪手よね?」
アレシアさんが耐えきれずにイルマさんに質問するが、イルマさんもどうしようもないのか困惑している。
逃げても良いけど、結界があるから逃げる意味も薄い。とりあえず待機か。
「ご主人様、門の方から何か聞こえます」
変わらない現状に若干ダレてきた頃、フェリシアが状況の変化を感じ取る。
門の方向を見ると、何やら砂煙が上がっている。
少し経つとドドドっと聞き慣れた魔物達の足音と共に沢山の魔物の姿が見え始めた。散々追いかけられたから、もはや見慣れた光景だ。
噴水の異常は魔物を呼び寄せていたのかもしれない。
ふむ、侵入者を始末する方法としては悪くないかもしれない。あくまでも僕達が相手でなければだが。
「王都の中を逃げ回るのは無理ね。戦いやすい場所に移動するわよ」
アレシアさんの指示で広場の建物のそばに移動する。壁で一面を潰せたから、少しは戦いやすくなるだろう。
「……あれ?」
広場に入ってきた魔物達がこちらに向かってくると構えていたのだが、僕達を無視して噴水に突撃していく。
「うわー……」
噴水から巨大な水柱が上がり、飛び込んできた魔物の大群を包み込む。明らかに噴水だけでは水の量が足りないので、何処かから容量を補充しているのだろう。
次々と飲み込まれていく魔物の大群。パル号にも水は押し寄せてきたが、結界のおかげで飲み込まれることはなかった。
ゴリボキと魔物の体が潰れる音が聞こえる。魔法生物は、水なのに物理的にもかなりの力があるらしい。
潰して殺して溶かして吸収、グロいが効率は良さそうだ。
「私達を殺すために魔物を呼んだのではなく、食べるために呼んだのね」
イネスが呆れたように言うが、まさしくその通りなのだろう。二度もオアズケにされたから、自分で餌を呼んだんだね。
僕達の目の前で魔物達は次々に吸収され、最後に魔法生物は噴水に戻っていった。集団の後方で水に飲み込まれなかった魔物達は、僕達に目もくれずに逃げ去っていく。
王都に魔物の姿が見えなかった理由と、この周辺が危険地帯になった理由が分かった気がする。
水の魔法生物には音か魔力で王都に魔物を誘き寄せる能力があり、それで王都や周辺の魔物を食べる。
食べ残された魔物達は王都の周辺で繁殖。繰り返されることで密度が増え、食い合うことで蠱毒のように強い魔物が発生。長い時間をかけて危険地帯に変身。
想像でしかないが、間違っていない気がする。
というか、広場だけ綺麗だったのは、この広場が魔法生物の餌場だったからなんだな。
「……とりあえず、王宮に向かいましょうか」
広場が静まりかえると、アレシアさんが次の行動の指示を出した。
撤退しないのであれば当然の指示なのだけど……魔物の集団を無残にすりつぶした魔法生物の本体がいる王宮に向かうのか。ちょっとだけ怖くなってきた。
読んでくださってありがとうございます。




