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めざせ豪華客船!!  作者: たむたむ
第十七章
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12話 合流

 グレートワームというある意味では極限状態の中、僕の眠っていた才能が開花した。それは天才達の領域、極限の集中力により突入するゾーン。ついに僕はその領域に足を踏み入れ、仲間達の美技を隅々まで観察することに成功した。ついでに、仲間がグレートワームの体内から脱出もさせてくれた。




「えーっと……ハイダウェイ号で一度休憩するのはどうでしょう?」


 グレートワームを倒し、巨大な魔石とゴムボート一艘分のお肉を確保した後、僕は提案した。


 グレートワームの魔石は巨体に相応しい大きさと質を兼ね備えてはいたが、正直それはどうでもいい。


 だってこの大陸では換金できないんだもん。目立ちすぎるから。


 お金にならないのなら、ちょっと大きくて綺麗な石でしかない。まあカミーユさんに任せればお金になるから確保はするが、現在の金欠に未来の報酬は特効薬と成りえない。


 そんなことよりも、灼熱の砂漠での解体作業で汚れ疲れた体のケアの方が重要だ。


 汗とグレートワームの血と体液と砂に塗れたこの体、早急になんとかしたい。


 周囲に沈黙が満ちる。


 僕の提案にイネス、フェリシア、マリーナさん、カーラさんも魅力を感じているのだろう。


 誰だってそうだ、こんな状況ならお風呂に入りたいよね?



「…………アレシア達との合流を……優先しないと駄目」


「……そうよご主人様、お風呂にはとっても入りたいけど、パーティーが意味なく分裂しているのは危険なの。合流を優先するべきだわ」


 マリーナさんが絞り出すような声で僕の提案を否定し、楽しさ優先気質のイネスまでマリーナさんの意見に従った。


 パル二号が元気に動き回っているのを感じるから、お風呂に入る余裕くらいはあると提案してみたが、どうやら冒険者としてのテンプレにそぐわないらしい。


 僕以外のメンバーも悲痛な顔をしながらも頷いているので、おそらく大切なことなのだろう。 


「分かりました。でしたら一刻も早く合流して、一刻も早くお風呂に入りましょう」


「「はい!」」


 良い返事だ。今までの冒険の中で、一番全員の心が一つになったような気がするくらいに良い返事だ。


 方針が決まれば言葉はいらぬとばかりに、即座にパル号に乗りこみ発進する。


 パル二号の位置を確認し、現在の速度を考えると合流までおよそ二十分強、グレートワームが一時間以上暴走したのだから仕方がないが、ずいぶんと離されてしまったようだ。


「……そういえば普通に走っていますけど、魔物は大丈夫なんですかね?」


 走行中に地中からパックンチョされるのは最悪だ。またグレートワームの体内からの脱出ミッションは勘弁してほしい。


「索敵に集中しているから心配ない。今度はあんな無様を晒さないから安心して」


 僕の疑問に後部座席のマリーナさんから心強い返事が届いた。


 どうやら前回のグレートワームの奇襲を防げなかったことが、マリーナさんの斥候としてのプライドを傷つけたらしく、かなり気合が入っている様子だ。


 これならいきなり呑み込まれるようなことは起こらないだろう。


 あっ、グレートワームが来た時にどう行動するかは打ち合わせておいた方がいいな。避けるタイミングや指示は共通していた方が分かりやすい。



 攻撃方向が進行方向に切り替わっただけで、ほとんどグレートワームの体内からの操縦法と指示は変わらなかった。


 上と下が前と後ろに変わっただけだ。そして走行中だから後ろという指示はほぼない。結構簡単だな。


「来た! ワタル、加速!」


 簡単だなんて舐めたことを考えていた罰だろうか、すぐにマリーナさんが魔物の気配を感知して指示が飛んだ。


 指示に従いアクセルを踏み込むと、後方からグレートワームが飛び出してきた。丸呑みされたグレートワームと比べるとかなり小さいが、それでもパル号くらいなら呑み込めそうな大きさだ。


 一度避けられたくらいで諦めるつもりはないらしく、グレートワームは僕達を追いかけてくる。


 マリーナさんの指示に従い、右、左、加速の三パターンで軽々とグレートワームを躱す。


 なんだかゲームみたいでちょっと楽しい。


「ワタル、もう一匹来た!」


 えっ? 途中で増えるのはルール違反じゃ?


「ご主人様、向こうから砂煙が近づいてきます」


 えっ、また? どうなってるのこの砂漠……あっ、そうだった、ここって砂漠の中でも一等の危険地帯だった。


「全力で逃げます。マリーナ、指示を!」


 ただでさえ体全体が不快な状態なのに、また魔物を倒して解体なんてことになったら目も当てられない。


 必ず逃げ切る!

 


 ***




「なんとか撒いたわね!」


「ええ、さすがにあの数は驚きました。ご主人様、お疲れさまでした」


「ビックリした!」


「大変だった。ふうちゃん、大丈夫?」


 僕はハンドルに突っ伏し、女性陣の言葉に返事もできない。


 なんなのあれ、途中から魔物がシューティングゲームの弾幕みたいな密度になっていたんですけど?


 というかゾーンは? あの時こそゾーンの出番でしょ? すべて見切った! みたいな感じで活躍する場面でしょ? 


 あと、なんでみんなそんなに元気なの? 僕はもうヘトヘトですよ!



「ワタル。アレシア達と合流できそう?」


 少し休憩した後、マリーナさんが質問してきた。


 逃げるのに夢中で合流のことはすっかり忘れていた。えーっと、パル二号の位置は……。


「あれ? 意外と近くに」


 ドバン!


 パル二号の気配の方向に顔を向けると、視線の先に砂煙が舞い上がった。


「たぶん、あそこにアレシア達はいると思います」


 距離的に砂丘の向こうの砂煙で間違いないだろう。


「戦闘中ね、急いで合流するわよ!」


「了解!」


 もう少し休みたいところだけど、すぐそばで戦闘中なら話は別だ。急いで合流しないと。


 アクセルを踏み込み砂丘を登る。


 砂丘の頂上に到達すると僕の右足から急激に力が抜け、スピードもガクンと落ちる。


 視線の先にはブンブンと8の字を書くように走り回るパル二号と、それに襲い掛かる無数の魔物、そして倒された大量の魔物の死骸が目に飛び込んできた。


 一刻も早く合流するべきなのに、なぜだろう、あまり合流したくなくなってきた。美女に弱い僕として珍しい事態だ。


 えっ? 今からあの大量の魔物を倒して、下手をしたら倒れている魔物達の残骸を処理するのですか?


 罰ゲームにしても酷すぎませんか?


「アレシアー!」


 あっ、ちょ、助手席のカーラさん、仲間に会えて嬉しいのは分かるのですが、状況を考えましょう。


 今呼んじゃうとアレでしょ、こっちに来ちゃうでしょ!


 カーラさんの声に気がついたのか、パル二号の進路が変更されこちらに向かってくる。沢山の魔物を引き連れながら。


 これってモンスタートレインだよね?


「ご主人様、ハイダウェイ号を召喚してください!」


 若干パニくっていると、フェリシアからナイスな指示が聞こえる。


 なるほど、ここまで近づいたなら、ハイダウェイ号で合流すればすべて解決だね。


 ハイダウェイ号ごとグレートワームに呑み込まれる可能性が怖いが、あの超巨大なグレートワームでも身動きが取れなくなるくらいだ。


 いきなり丸ごと呑み込むのは難しいだろうから、脱出する時間くらいあるだろう。


 フェリシア、天才!


 すぐにハイダウェイ号を召喚し、魔法陣に飛び移る。


 ハイダウェイ号に乗り込み外を見ると、パル二号はすでに目前まで近づいており、ハイダウェイ号の手前で急停車。


 中からアレシアさん達が次々とハイダウェイ号に飛び込んでくる。


「ワタル、みんな、無事だったのね!」


 アレシアさんの笑顔がまぶしいが、その背後では次々と魔物が結界に弾き飛ばされているので落ち着かない。


「え、ええ、全員無事です。ご心配をおかけしました。アレシア達は大丈夫でしたか?」


「ええ、私達も全員無事よ」


 僕とアレシアさん、他のメンバー達も合流を喜びあう。


 美女同士の抱擁も眼福だけど、リムとふうちゃんが、べにちゃんと再会してむぎゅっと密集しているのも可愛い。


「それにしてもワタル達は自力で脱出していたのね。ワタル達を呑み込んだグレートワームを一度攻撃したら、それ以来出てこなくなっちゃって私達も焦っていたのよ。なんとか襲わせようと音を立てたら別の魔物ばかり集まっちゃって散々だったわ」


 なるほど、やはりグレートワームが途中で動きを止めたのは、アレシアさん達の攻撃の影響だったか。


 その影響で苦労した気もするが、僕達を助ける為だったのだから文句を言うのも筋違いだよね。


 というか僕達の為にあれだけの魔物を呼び寄せるほど頑張ってくれたのだから、感謝しなくてはいけない。


「アレシア、あり「さて、合流できたから少し休みたいのだけど、外がうるさいわ。みんな、さっさと始末するわよ」が……」


「ん? ワタル、何か言った?」


「いえ、なにも。さっさと始末してしまいましょうか」


 お礼を言うタイミングって、一度逃すと次が難しいよね。とりあえず外を始末してから考えよう。


 アレシアさんの号令で、ジラソーレの面々とイネス、フェリシア、も協力して外の魔物達に攻撃を加える。


 やっぱりリーダーというポジションには向き不向きがあるんだな。僕やマリーナさんが指揮を執っていた時よりも、みんながイキイキしている気がする。


 どうしよう、僕も攻撃に加わるかな?


 チラッと攻撃されている魔物達を見るが、巨大な魔物がアレシアさんの指揮の元、集中攻撃でボコボコにされている。


 あれだな、このハイクオリティな戦いの中に、僕が交ざるのは不協和音でしかないな。


 よし、とりあえずお風呂と食事の準備をしよう。


 今日はみんな色々あって疲れているから、ハイダウェイ号のデッキでのんびりお疲れ会なんてどうだろう?


 疲れが酷かったら断られそうだけど、みんなそれなりに元気っぽいから、バーベキューにお酒とお風呂を勧めれば喜んでくれそうな気がする。


 そしてあわよくば、久しぶりに美女達と一緒にお風呂に入っちゃったりなんかしちゃったりして……僕って天才かも。


 そうと決まれば、みんなが魔物を殲滅する前に、バーベキューの準備を整えねば!


 みなぎってきた!


読んでくださってありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
[一言] 巨大な魔物を解体したあとはコンテナ船とかに収納すればいいのにと思ってしまう。
[一言] うおおおお戦闘だあああああぁぁ…? いやむしろこれだとワタルだけ銭湯?
[一言] >よし、とりあえずお風呂と食事の準備をしよう。 お風呂にしますか?食事にしますか?それとも素材回収?
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