8話 グレートワーム
砂漠の危険地帯に足を踏み入れ、しばらくするとルーラーという砂漠の危険度ランキングツートップの片割れに襲われた。外見は巨大なインコだったが、その危険度が示すように割と苦戦をした。ようやく倒したと思ったら、今度はグレートワームに呑み込まれた。砂漠の危険地帯、怖い。
急いでカーラさんを探しに行かなければいけないのに、地震とは比較にならない振動に襲われ、ハンドルにしがみつくだけで精いっぱいで身動きが取れない。
どうすればと焦る中、体が急激に持ち上がりパル号がズルズルと落ちて……ガツンとパル号が透明な壁にぶつかって車体の落下が止まる。
見覚えがある透明な壁。どうやらフェリシアが結界でパル号の落下を防いでくれたようだ。さすがフェリシア、頼りになる。
今は揺れで褒められないが、このピンチを切り抜けたら褒めまくって特別ボーナスも進呈しよう。
ん? 車体が急激に上を向くってことは、まさか! 大急ぎでパル二号の位置を確認すると、ドンドン距離が縮まっている。
グレートワームは僕達を食べただけでは満足せず、アレシアさん達も捕食するつもりらしい。
あれ? でも上に出るってことはチャンス? グレートワームの体が地上にあるタイミングで倒せれば、砂の中に居る状態から脱出できる。
あれ? パル二号の位置がもう下の方に、揺れに耐えながら必死で考えている間に地上に飛び出してしまったらしい。
パル二号の位置的に呑み込まれずに躱したってことだろう。まずい、今のうちになんとか「うわっ」ヤバい、車体が平行になり、それでとどまらずに下に向いて前方に落ちていく。
再びフェリシアの結界に助けられ、揺れが収まった隙になんとか体勢を立て直す。
もうパル二号の位置が頭上に移動している。どうやらジャンプした後に再び砂に潜ってしまったようだ。
「みんな、次に僕が合図をしたら一点集中で攻撃してください。狙いはパル号の右側のグレートワームの内壁です。その時には激しく車体が揺れていると思いますが、なんとか頑張ってください。あとフェリシア、結界でパル号の固定をお願い」
一度チャンスを逃してしまったが、それなら次のチャンスを狙えば良い。
本当ならフェリシアを褒めまくって、ついでに詳細に攻撃の打ち合わせもしたいのだが、動き出したら話もできないので大雑把な指示で済ませる。
僕とリムをのぞいてメンバーは一騎当千の美女ばかり、大雑把でもなんとかなると信じたい。
さっさとグレートワームを倒してカーラさんを助けに行くぞ。
……あれ? なんでグレートワーム、動かないの?
***
失敗したわ。
まさかグレートワームがパル号ごと呑み込むなんて考えても……いえ、完全に私達の油断ね。
下調べの段階でグレートワームが個体によっては、パル号どころかレンジャー号ですら一飲みにできるほど巨大だという情報は手に入れていたわ。
ただ、ワタルの船召喚の結界に甘え過ぎて私の危険への認識が鈍っていただけ。こうなる可能性はパリスの時に示されていたのだから言い訳もできないわね。
「アレシア、どうする?」
ドロテアもイルマも珍しく不安そうね。逆にクラレッタは決意を固めた顔をしている。この子は普段はのんびりしているけど、芯は強い子だから大丈夫ね。
「ワタルの結界はグレートワームごときではどうにもできないわ。私達でさっさとグレートワームを倒して迎えに行くわよ」
ワタルの結界の凄さは今まで何度も目の前で見てきたんだもの。飲み込まれたくらいで死ぬわけがないわ。
「そうね、地竜も魔の森の数えきれないほどの虫も、ダンジョンでさえどうにもできなかったんだもの。グレートワームくらいで、どうにかなるはずがないわよね」
ドロテアもようやく落ち着いたみたいね。
「そうね、だったらすぐに救い出してあげましょう。グレートワームは振動に敏感だわ。音を立てておびき出しましょう」
イルマも気持ちを切り替えて頭が回り始めたみたい。
「クラレッタ、私達は攻撃に集中するから運転をお願い。この辺りをグルグル回るように走り回ってちょうだい。グレートワームが近づいてきたら声をかけるから、その時はスピードを上げて躱してちょうだいね」
「えっ、でもそれなら運転に慣れているアレシアの方がいいんじゃ? みんなよりも攻撃は苦手ですが、あの巨体なら外しませんよ?」
「クラレッタの意見も間違ってないけど、今回は攻撃力を優先するわ。外に居る方が助けやすそうだけど、最悪呑み込まれたら呑み込まれたで構わないのよ。グレートワームの体内で合流するだけだもの」
砂の下からの脱出は面倒だけど、ワタルが居ればなんとでもなるでしょ。いざとなったらしばらくグレートワームのお腹の中で暮らしたって良いわ。
……ワタルの船でもグレートワームの体内での生活は、さすがに無理があるかしら?
「分かりました」
クラレッタと席を変わり、それぞれが攻撃に備えるなか、パル二号が走り出した。
少し経つとパル二号が発する音と振動以外の鈍い音と振動が地面から伝わってくる。ちゃんと意識していれば走行中でも認識できるグレートワームの接近。
やっぱり私達は鈍っていたのね。
……反省は必要だけど、まずはグレートワームを倒してからにしましょう。
「みんな、もうすぐ飛び出してくるわよ。見えたら頭部に集中攻撃」
「「了解」」
「グレートワームの頭部ってどこなのかしら?」
イルマ、物知りなあなたが知らないのなら私も知らないわよ。ニュアンスで理解してちょうだい。
「クラレッタ、全速!」
気配が十メートルほどの位置に来たところでクラレッタに指示を出す。すぐにクラレッタが反応し急加速するパル号。
その後方に飛び出してくるグレートワーム。
「攻撃!」
指示をしながら私もスキルで剣撃を飛ばす。それに続いてドロテアとイルマの攻撃も当たる。
「足りないわね。落ちてくるところを狙うわ」
私達の攻撃はどれも強力だし、当たった部分では肉が切り裂かれ飛び散ったのが見えた。でも、敵はシーサーペントよりもはるかに大きな体をもっている。
私達の攻撃に威力があっても、致命傷には届いていない。時間を掛ければもっと強力な攻撃ができるが、激しく揺られながら大技を放つのは難しい。
飛び上がったグレートワームの巨体が落ちてくるところ狙い、もう一度攻撃を叩き込むが倒せたという実感はない。
こうなったら、何度も攻撃を繰り返すしかないわね。
……あれ? なんで出てこないのかしら?
「クラレッタ、もっと激しく走り回ることができる?」
「分かりました、やってみますね」
クラレッタが車体を激しく蛇行させながらパル二号を走らせるが、グレートワームが近づいてくる気配がない。どういうことなのかしら?
「もしかして逃げた?」
ドロテアが困惑した様子で呟くが、さすがにそんなわけがないわよね。
「相手は魔物であの巨体よ? 逃げるのは考え辛いわ」
基本的に魔物は本能で私達に襲い掛かる。弱い魔物なんかは逃げることもあるけど、危険地帯でトップクラスの強さを持つグレートワームが、この程度の攻撃で逃げるとは思えない。
「あれだけの巨体だし、ある意味この辺りの王様だったんじゃない? だから傷つけられてビックリした……とか?」
イルマがさすがにあり得ないわよね? と困った顔で推測をする。普通なら笑い飛ばす内容なのに、なんだか酷く嫌な予感がしてきた。
「も、もし、グレートワームが逃げ出したとしたら、どうしたらいいのかしら?」
私の質問にドロテア達が困った顔で黙り込む。えっ、本当に逃げたたらどうしたらいいの?
「と、とりあえず、あれよ、休憩しているとか、油断を誘っているのかもしれないし、とりあえず騒いでおびき出しましょう。きっと襲ってくるわよ、だって魔物なんだもの」
お願いグレートワーム、襲ってきて。
***
グレートワームが大暴れした後、なぜか動かなくなった。一度地上に飛び出してアレシアさん達を狙ったはずだから、その時に手痛い反撃でもくらったのだろうか?
それならその時に死んでくれていれば楽だったのだけど、残念なことにグレートワームの体内は脈打つようにうごめいているから死んではいない。
息をひそめてアレシアさん達を襲うタイミングを待っているのか?
状況がサッパリ分からないから行動に迷うが、カーラさんが心配だからただ待っている訳にもいかない。動かないのならカーラさんを探しに行こう。
「……カーラを探しに行くとして、頭側か尻側、どっちに向かいます?」
二手に別れようかとも思ったが、グレートワームが動き出すと体内が大荒れになるから別れるのは危険だ。焦るが、一塊になって動こう。
「お尻」
マリーナさんが迷いなく断言した。何か理由があるっぽい。あと、美女の口からお尻って言葉が出ると、ちょっとドキドキする。
あれ? 僕、今が思春期?
「えーっと、理由を聞いても?」
「グレートワームが上に向かって移動していた時間の方が長かった。その間、上からカーラが落ちてくることはなかったから、どこかに引っかかっていない限りお尻側に居ると思う」
おお、なんだか凄く説得力がある気がする。どこかに引っかかっての部分が気にならないこともないが、ここはマリーナさんの指示に従ってお尻側に向かうべきだろう。
「分かりました。では、お尻方向に出発します。グレートワームが再び動き出したら、結界と攻撃はお願いします」
簡単に打ち合わせをしてパル号を出発させる。
……今の僕は巨大なミミズの中を走行しているのか。冷静に考えると凄く気持ち悪い。
というか全体的にヌメヌメしているのがとっても嫌だ。砂も大量に呑み込んでいるからか、下は砂が敷き詰められたようになっているが、ライトに照らされた横と上のうごめくヌメヌメが……。
うん、深く考えないようにしよう。
カーラさん、すぐに助けに行きますから待っていてくださいね。ん? ピンチの時にさっそうと現れるヒーロー……好感度、爆上がり?
不謹慎だけど、ちょっとみなぎってきた。
読んでくださってありがとうございます。




