2話 南の大陸の商業ギルドとはじめてのテンプレ
最初の村で教えて貰ったヨーテボリに向かって3日目の昼、遠目に大きな港町が見えて来た。このまま港町に入っても良いものなのか?
「イネス、フェリシア、街が見えて来たんだけど、このまま入港するのと、歩いて街に入って情報を集めるのどっちがいいかな?」
「そうね、この船は人目を引くし、歩いて入って情報を集めるのが良いと思うわ。フェリシアはどう思う?」
「私も同意見ですね、目立っても良い事はなさそうなので、出来るだけ目立たず行動した方が良いと思います」
「分かった、ならこの辺で船を降りて歩いて街に行こう」
「「はい」」
船を降り、街に向かって歩く。無事に街に入れたら直ぐ商業ギルドかな? 先に街で情報集めをしたいけど、治安が悪化している街を歩き回るのも危険だし商業ギルドで話を聞こう。
暫く考え事をしながら歩くと、街に入る為の行列が出来ていたので後ろに並ぶ。ようやく自分たちの番が回って来た。
「身分を証明できる物はあるか?」
「これでも大丈夫でしょうか?」
「ん? これは北の大陸のギルドカードだな、身分証としては使えるが船はどうしたんだ?」
「ああ、それがですね、この街に来る前に小さな村に立ち寄ったのですが。色々な事が起きていて治安が悪化していると聞かされたので、船主が心配しまして、先行して様子を確認しに来ました」
「なるほどな、確かにガラの悪いのが入って来てはいるが、戦いが起こっている訳でもない。夜中に出歩いたりスラムに迷い込まなければ大丈夫だぞ。それとこの大陸のギルドカードではないから入場料はもらうぞ、10銅貨だ」
おっ、治安の悪化もそこまでじゃないのかな?
「そうなんですか? ありがとうございます。後ろの2人も私の連れですのでまとめて払います。1銀貨からよろしいですか?」
「価値は同じだから構わんが目立つからな、早めに両替する事だ。70銅貨のお釣りだな」
「ありがとうございます」
ふー無事に入れた。商業ギルドはあそこだな、大通りにある大きな建物に向かう。中に入るとこの大陸でもギルドのお姉さんは美人さんばかりだ。男はどの大陸でも美人に弱いって証明だよね。
「すみません、北の大陸から貿易に来たのですが、このカウンターで良いですか?」
「北の大陸から来られたのですか。……そうですね、別室にご案内しますので付いて来てください」
「はい」
このお姉さんも美人さんだよねー、お胸はCカップぐらいかな? 人族で茶髪、きれい系のお姉さんだ。
「こちらでお待ちください。今お茶をご用意いたしますね」
「ありがとうございます」
「お茶でございます、私はメアと申します。よろしくお願い致します」
「ありがとうございます、私はワタルと申します、後ろの2人は護衛のイネスとフェリシアです、よろしくお願い致します」
「はい、それで北の大陸からの貿易ですと、胡椒貿易でよろしいですか?」
「はい、こちらからはスパイダーシルクが人気だと聞いて、運んで来ましたが取引は可能でしょうか?」
「スパイダーシルクですか? ええもちろんお取引は可能ですが、直接店に持ち込んだ方が高値で取引されると思いますが宜しいのですか?」
「ええ、信頼できるお店を知りませんし、きな臭い噂も聞きますので出来るだけ早く取引をまとめたいと思っています。その事について情報を頂く事は可能ですか?」
「そうですか、正しい判断かもしれませんね。情報については、この国の者なら知っている程度にはお話しできます。それ以上になりますとギルド会員になって頂いて情報を買って頂く事になりますね」
「とりあえず、教えて頂ける情報でお願いします」
「分かりました。では、2か月ほど前にこのカターニア国の王が急死しました。死因は今の所不明です。そして現在は第1王子様と第2王子様が王の座を争っています。
武力衝突は回避されておりますが、第1王子様、第2王子様共に兵力を集めています。それに呼応した貴族も兵を集め、この街にも傭兵等の荒くれ者が集まって来ています。ここまでで何か質問はございますか?」
「何故すんなり第1王子様が王様に選ばれなかったのか? この街はどちらを応援しているのか? 聞いても良いですか?」
「第1王子様のお母様は正妃様で他国のお姫様です。第2王子様のお母様は側室でこの国の宰相様のお嬢様です。
そして宰相様が第1王子様は王に相応しくなく第2王子様が王になるべきだと宣言なされております、この街の領主様は第1王子様派ですね」
「うわー、何と言って良いのか、物語に出て来るような泥沼的展開になりそうですね。このまま武力衝突が起こらないなんて事はありえますか?」
「このまま何事も無く今の状況が続けば、いずれは武力衝突が起こると思われます」
実際はどうなのか分かんないけど、これって宰相が自分の思い通りに国を動かす為に、第1王子を引きずり下ろそうとしている話に聞こえるな。
物語なら追い詰められる第1王子が、試練を乗り越えて逆転するんだろうけど、どうなるかな?
「ありがとうございました。出来るだけ早く取引をまとめたいと思いますが、胡椒はいくらまで購入可能ですか?」
「そうですね、5日間ほど頂けるのなら白金貨10枚分ほどの量はご用意可能です」
「えーとこちらの予算は2白金貨分と、スパイダーシルクが売れた代金全部で胡椒を仕入れて戻ろうと思っています。明日、スパイダーシルクを持ってきますので、お願いしても大丈夫ですか? あと安全で食事の美味しい宿屋の紹介をお願い出来ますか?」
「かしこまりました、宿は現在の状況ですと、少しお値段が高めになってしまいますが、よろしいですか?」
「はい、身の安全には代えられませんから」
「ではこちらの真珠亭がお勧めですね。1人1泊2銀貨と少々お高めですが、安全面では間違いないかと思われます」
2銀貨って2万? 日本ならともかく異世界で1人2万はかなり高い気がする。まあ。しょうがないか、下手な所に泊まったら問題が起こりそうだし。
「ありがとうございます、行ってみますね。明日は朝、何時頃から大丈夫ですか?」
「私は明日、夜明けから出勤しておりますので、いつでも大丈夫だと思います」
「そうですか、では明日もよろしくお願いします」
「お待ち致しております」
何とかなったのか? 取り合えず、何かに巻き込まれる前にと、真珠亭に向かい手続きをする。宿代は1日6銀貨、稼いでいるとはいえ根が小市民の僕には心臓に悪い。
しかもルト号の方が断然快適なのが悲しいな。まあ、安全第一、しょうがないよね。
「それで、ご主人様、お話し合いはどうなったの?」
2人にギルドで聞いた話を説明すると、2人ともため息をついていた。
「こんな状況だから、観光位はしたかったけど、何かに巻き込まれたら面倒だから、今回は取引が成立したら直ぐに戻ろうか」
「そうね、観光もしてみたかったけど、内乱に巻き込まれるのはごめんだわ。さっさと終わらせてさっさと帰りましょう」
「私もそう思いますが、食料はどうなさいますか? まだ1月分以上は残っていますので補充はやめておきますか?」
「あー食料は欲しいね。この大陸の食事にも興味があるし。うーん、今回は単独行動無しで、取引が成立するまでは、この街で食料を買い集めようか」
「「はい」」
「でも、このお部屋、悪くはないんだけどルト号の方が断然良いわよね、早く戻りたいわ」
「でも、食事は食べた事のない料理が食べられそうなので、私は楽しみですよ」
「そうよね、食事があったわね、せっかくだから楽しまないとね」
「そろそろ夕食の時間だし、食堂に行こうか。今日は大奮発で、豪華にいくよ」
「うふふ、楽しみね」
「嬉しいですご主人様」
「せっかく別の大陸に来たんだし、楽しまないとね」
食堂についてメニューを貰う、高級店だけあって様々な料理がメニューに並んでいる。
「さっきも言ったように今日は豪華にいくので好きな物を頼んで良いよ。とりあえずお勧めは先に頼んで持って来てもらうね」
「「はい」」
香辛料の産地だけあって、運ばれて来た料理にもふんだんに香辛料が使われていた。塩コショウにニンニクやハーブががっつり効いたスペアリブ、鳥の丸焼きのハーブ詰め。
魚介のパスタにこれはアラビアータかな? トマトソースのパスタに鷹の爪とニンニクが効き過ぎるほど効いた激辛パスタ。
港町だけあって魚介も豊富だな、刺身は無いけど蒸し魚やムニエル、普段は食べられないご馳走を思う存分楽しんだ。
「リム、美味しい? 鞄の中でごめんね、沢山あるからいっぱい食べてね」
『……りむ、たくさんたべる……おいしい……』
「そう、美味しいんだ、良かったね」
「御馳走様、もう食べられないわ。ご主人様、とっても美味しかったわ、ありがとう」
「私もお腹一杯です。ありがとうございました、ご主人様」
「どう致しまして、僕もお腹一杯です。そろそろ部屋に戻りましょう」
食事をたっぷり楽しんで体を拭いて眠りにつく。
朝か……イネス、フェリシアと朝のキスをして、少しの間、戯れてから身支度を整えて食堂に向かう。朝食が運ばれてくるとリムが起きる。
「おはようリム、朝ごはんだよ」
『……おはよう……ごはん……』
朝食を食べ終え、部屋に戻り船召喚でスパイダーシルクを取り出す。
「では、商業ギルドに行きますね」
「「はい」」
商業ギルドに着き、メアさんに声をかける。
「メアさん、おはようございます。スパイダーシルクを持って来ました」
「ワタルさん、おはようございます。別室にご案内いたしますね」
「ありがとうございます」
「お茶です、それではスパイダーシルクを確認させて頂きますね」
「ありがとうございます、よろしくお願いします」
スパイダーシルクはどの位の値段になるのかな? 商業ギルドのギルドマスター推奨の品だから安くなるという事は無いと思うんだけど。
「確認させて頂きました、品質も十分です。商業ギルドでは全部で5白金貨で買い取らせて頂きます。前回も言いましたが直接店に持ち込めば、後白金貨1枚以上値段が上がってもおかしくありませんが、本当によろしいですか?」
1億以上も値段が上がるって事? どうしようかな? でも、商売に自信なんてないし、内戦に巻き込まれるのもまっぴらだ、手早く済まそう。
「はい、それでお願いします。それで手持ちの2白金貨と合わせて、7白金貨分の胡椒をお願いできますか?」
「かしこまりました、期間は5日ほど頂きたいのですが宜しいですか?」
「分かりました、それでよろしくお願いします。ああそれと、集まった分を少しずつ運び出したいので、ある程度集まったら報せてもらえますか?」
「かしこまりました、真珠亭にお知らせすれば大丈夫ですか?」
「はい、真珠亭でお願いします。では失礼します」
よし、これで何とかなったのかな? もっと値上げ交渉や胡椒の値下げ交渉をするべきなのかも知れないけど、もう無理だな、儲かるなら多少の損失は諦めよう。僕は商売にも向いてないな、何に向いてるんだろう?
「さて、商業ギルドの用事も済んだし。後はお買い物だね。食料を中心に南方都市でお世話になった人達にもお土産を買っていくから。イネスもフェリシアも欲しい物があったら言ってね」
「「はい」」
南方都市でお世話になった女性陣には何を買って行こうかな? 男どもは珍しいお酒で満足するだろう、まあ見て回って決めるかな。
港町特有の活気ある街を見て回ると案の定、絡まれた。
「よお、そこの美人の姉ちゃん達、そんな冴えない男なんかより俺達と一緒に楽しい事しようぜ」
はじめてテンプレに遭遇した気がするな。ムサイ傭兵姿の無精髭の5人組、言ってる事もラノベのまんまだ、でも悲しい事に主人公みたいに自力で相手をボコボコにする力は無いんだよね。
「おい、聞いてんのか? お前はこの女達を置いてさっさと消えろ。ああ金も全部置いてけよ」
「はあ、彼女達は僕の護衛ですので置いて行く訳にもいきませんね。真昼間から大通りでやる事ではないと思いますよ、お引き取り願えませんか?」
「はあ? 俺達がなんか悪い事でもしてんのか? 女達が俺らと遊びたいってんで、しょうがねえから俺達が相手してやろうって話だろ?
それでお前が迷惑料に金をだすんだから、何の問題もねえだろ。ぐだぐだ言ってねえで金置いてさっさと消えろ」
おうふ、ジャ○アン理論だ、俺様が登場しちゃったよ。穏便に解決って無理なのか? 周りを見ても、関わり合いになりたくないオーラ満載で目も合わせてくれない。だれか兵隊さんでも呼んで来てくれないかな?
「言葉で言っても分かんねえのか? さっさと消えろ」
いきなり殴りかかって来た、あっ……イネスとフェリシアが男達を一瞬でボコボコにしちゃった……良いのか?
この場は逃げるべきなのか? この男達を捕まえるべき? 迷っていると兵士さん達が走って来た。もう少し早く来て欲しかった。
「何をしている」
「はあ、私は商人なのですが、この男達が金と女を置いて消えろと言って来まして。殴りかかって来ましたので身を守ってもらいました」
「本当か?」
「はい、周りでも大勢の方が見ていたので、証言してくださると思います」
僕の言葉に何人かの兵士さんが聞き込みをしだした。この傭兵たちは結構悪さをしていたみたいで、僕に絡んだ事だけじゃなく、過去の悪行もばらされている。
「本当の事の様だな、この者達はどうする? 奴隷に落とすならば手続きが必要だぞ」
えっ奴隷に落とされるの? まあお金を奪って女の子を連れ去ろうとしたんだから、奴隷落ちも当然なのか?
「はあ、私達にはあまり時間が無い物ですから、聞いた所色々と悪さをしているようなので、被害にあった人達の補てんに回してください」
「わかった」
おっ、僕の言葉を周りで聞いてた人達が、次々と兵士さんに被害を訴えている。なんか微妙に納得がいかないな。
「では、失礼します」
宿に戻って一息つく。
「イネス、フェリシア、守ってくれてありがとうございます」
「うふふ、護衛として買われたんですもの当然よ」
「私もです」
「あはははは、そうだね。でもありがとう。今日は買い出しに行く気分でもなくなったし宿でのんびりしよう」
「「はい」」
残高 0白金貨 2金貨 0銀貨 40銅貨
誤字脱字、文面におかしな所があればアドバイスを頂ければ大変助かります。
読んで頂いてありがとうございます。




