2話 城塞都市
ペントの珍しさとアレシアさん達の美貌に商人や傭兵達が集まり、結局ほとんど観光できずにトイエンを脱出することになった。目的地は広大な砂漠の危険地帯にあるといわれる、古代に滅んだ王都。本当に存在するかも微妙だが、ロマンがいっぱいだと思う。
「ねえ、ワタル。ペントのことなんだけど」
明け方に寝て昼過ぎに起きてみんなで遅い朝食を摂っていると、アレシアさんがペントを見ながら話しかけてきた。
「ペントがどうかしましたか?」
海水を入れたゴムボートに浸かってご機嫌なペントがどうしたんだろう?
「目的地が砂漠なのだけど、連れて行くの?」
……連れて行くつもりだったけど、あらためて問われると気になってきた。ペントはある程度陸でも生活できるけど、基本的に水場を好む魔物だ。
でなければ陸地でシーサーペントを発見なんてことも多々あっただろう。
レンジャー号に乗せて、偶に海水浴をさせればペントは元気いっぱいだけど、砂漠だとさすがにキツイかな?
そもそも砂漠をレンジャー号で移動できるかも微妙だな。壊れることはないけど、砂にハマりそうな気がする。
ホバークラフトがあるから連れて行けないこともないが、それとペントが辛くないかは別問題だよね。
それにホバークラフトは目立つ。さすがにこっちにまで巨大な船を操る魔導師様の御威光は広まっていないから、確実に面倒なことになる。
「出発まで、ちょっと考えてみます」
「ええ、ペントの為にもしっかり考えてあげてね」
砂漠をはいずるシーサーペント……考えてみれば普通にあり得ない。
ふむ、ホバークラフト以外に目立たなくて砂漠を移動できるような船が売ってないかな?
船購入画面を開いて確認してみる。
漫画やラノベなんかだと砂の上を走る帆船があったりするけど……特殊船一覧には載っていない。
さすがにそこまでコアな船は扱っていないようだ。そもそも砂の上を走る帆船って実在するのかな?
気にはなるが今考えるのは砂漠を走る帆船じゃなくてペントのことだな。
なんとかしようと思えばなんとかできるが、ペントには安全な場所で留守番していてもらった方が良い気がする。
となると海で留守番だけど。ただ海で待っていてもらうのは怖い。僕達が近くに居るならなんとでもなるが、広い海にはまだまだ幼いペントでは敵わない魔物も存在する。
僕達と行動を共にしているからシーサーペントとしてもレベルは高いが、過信は禁物だろう。
船召喚の枠が一つ減ってしまうがドルフィン号を海底に沈めて、ペントだけ出入り可能にして留守番してもらうのが一番かな?
ドルフィン号には日持ちする食料を置いて、あとはドルフィン号からあまり離れないように言っておけば大丈夫だろう。
寂しいだろうけど、海で留守番が一番無難な気がしてきた。
「ペント。砂漠って言う砂が沢山あって水がほとんど無いような場所に行くんだけど、一緒に行くのと海でお留守番するの、どっちがいい?」
僕的には海でお留守番の方が良いと思うけど、ペントの意思も確認しておこう。
「えっ? あー、今よりも辛くなるかってこと?」
シャっと言いながら頷くペント。リムと比べると意志疎通が分かり辛いのはなんでだろう?
「うん、かなり、いや、物凄く環境は厳しくなると思う」
砂漠だから、かなりという言葉では足りないよね。
「海でお留守番してくれるの? うん、ごめんね、ありがとう」
なんというかペントが僕達に気を使ってくれた感があって、凄く申し訳ない。日持ちする食料はできるだけ豪華にするから許してほしい。
精一杯の感謝の気持ちを込めてペントのツルツルの鱗を丹念にナデる。
「アレシア、一度海に寄ってください」
僕の言葉で全て理解したのか、アレシアさんが優しい顔で頷いてくれた。
***
海に寄り道し、海に出て深い場所にドルフィン号を召喚、出入口を開けてペントが自由に出入りできるようにして留守番をお願いした。
外海じゃないからペントに敵う魔物も居ないだろうし、すぐにドルフィン号に逃げ込めるからほぼ間違いなく安全だろう。
ポーションの類も置いてきたから、少しくらいアクシデントがあっても大丈夫だ。
ペントと別れた後、僕達は猛烈なスピードで目的地に向かって進んだ。
明るいうちは小屋船やテントに泊まり、夜になったらアッド号とレンジャー号で爆走を繰り返す。
次第に夜の旅にも慣れてきて、効率のいい生活サイクルができあがった。
夜はひたすら移動に費やし、明るくなる少し前にキャンプ地を確保。
ハイダウェイ号を召喚し、お風呂他、キャンプではできない身嗜みを整える。
夜が白んできたらハイダウェイ号を送還して寝る。
昼過ぎには目が覚めるので、食事を摂って出発。
暗くなるまでは移動を主目的にせずに、未知の自然を体験しながらのんびりと歩く。
魔物に襲われたりもするが、街道付近に出てくるのは弱い魔物が多く、アレシアさん達に一瞬で始末される。魔石と討伐部位は確保しているので、良いお小遣い稼ぎだ。
そして魔物よりも面倒なのが、歩く僕達を追い抜いていく商人と護衛の傭兵達。
ジロジロとアレシアさん達を見るくらいなら問題ないが、護衛中にナンパを仕掛けてくる傭兵がウザい。そして偶に商人まで参加してくるのにビックリする。
それらを笑顔で、稀に鉄拳制裁でやり過ごし、合間に村があれば立ち寄る。凄く冒険していると思える旅を続けた。
***
草原を抜け、森を抜け、荒野を抜け、ついに砂漠の出入口である城塞都市に到着した。
「……凄いですね」
城塞都市に圧倒され、とてもシンプルな感想しか口に出せない。
他のメンバーも同意見なのか、ボーっと城塞都市を見ながら立ち止まっている。
ようやく頭が回り始めた。
この城塞都市はズルい。芸術的感性を微塵も持っていないはずの僕が、一枚の名画を見ている気分にさせられた。
だってモロッコなんだもん。
もうすぐ砂漠か、砂漠の旅って大変そうだなーっと意識が別な方向に向いていたところに、テレビで見たモロッコの城塞都市のようなエキゾチックな都市が目に飛び込んできた。
しかも時間が悪かった。
夕日に赤く照らされるモロッコ風味の城塞都市とか、シチュエーションが神だと思う。
感性が鈍い僕でも心がもっていかれるのはしょうがない。
「こんな風景……はじめてみるわ……」
隣にいたイネスがつぶやく。視線は目の前の都市に釘付けなので、おそらく自分がつぶやいたことすら認識していないだろう。
他のみんなもその景色に見とれている。
テレビ画面越しとはいえ似たような景色を見たことがあったから、僕の方が復活が早かったのかもしれない。
正直、日が沈むまでこの景色を見ていたい気分だけど、もうすぐ日が暮れるし城塞都市に入るのならそろそろ行動しなければいけない。
アレシアさん達に声をかけて正気に戻して城塞都市に向かう。
城門でチェックを受けて城塞都市の中に入ると、またも異国の風景が目に飛び込んでくる。
砂漠という今まで過ごしてきた場所とまったく違う環境だからか、衣装も生活様式も建物すら違う城塞都市。
またもその景色にのまれそうにな……あれ? あの服を女性陣に着せれば大半のもめ事から解放されるのでは?
通りを歩く人の衣装を見て、異国の情緒よりも自己保身が顔をだした。
通りを歩く人の服装は、ローブのように長く全身を覆い隠す服に、目元以外を覆いつくす頭巾のような被り物をしていて、どことなくアラブの民族衣装に似ている。
あの服を女性陣にフル装備してもらえば、アレシアさん達やイネス、フェリシアの色香に迷って起こるもめ事はほぼなくなるだろう。
「すみません。あなたが着ているような服はどこに行けば買えますか?」
近くを歩いていた民族衣装を着た人に慌てて声をかける。
「えっ? あぁ、外から来た人か。その格好じゃあ、ここだと辛いよな」
突然声をかけて驚かせてしまったが、僕の格好を見て納得したのか丁寧に服屋の場所を教えてくれる。
別に辛いから服を変えたかった訳じゃないが、今着ている服はこの辺りの環境に向かないらしい。女性陣だけじゃなく僕の服も買うことにしよう。
異国情緒あふれる街並みに見入っているアレシアさん達に声をかけて、教えてもらった服屋に向かう。
アレシアさんが先に宿の手配をした方が良いとか言っていたが却下だ。自分達の美貌をもっと自覚してほしい。
「ここですね」
現地のおじさんが教えてくれた服屋に到着する。おじさんは最初中古の服が売っている店を教えてくれたが、僕も男なので女性陣には新品の服を着てほしい。
高いらしいが、ここは財布の紐を緩める時だと覚悟を決めて服屋までやってきた。
多少高くても道中でかなり魔物を仕留めたし、たぶん大丈夫だ。
「へー。この生地、手触りがいいわね」
「あら? 装飾品もあるのね」
「服自体はシンプルだから、装飾品で個性をつけるんじゃない?」
「黒と白が多いけど、他にガラが入った服もあるわよ?」
「うわっ、凄い露出。これで外を歩いても大丈夫なの?」
……たぶん大丈夫な……はず。
服を見てテンションが上がっているけど、僕達の財布事情もちゃんと理解してくれているはずだもん。
キャッキャと美女達が戯れている姿は眼福なはずなのに、違う意味でドキドキする。
ん? 露出が凄い服? どこ?
聞き逃せない言葉に触発されて店内を見渡すと、店の一角に露出が凄い服が集められていた。
「これは……」
俗に言う踊り子の服というやつだよね。
アレシアさん達のビキニ姿を見たことがあるから、露出としてはそれほどでもないが、スケスケのシースルーがとっても魅力的な衣装だ。
これをアレシアさん達やイネスとフェリシアが着て情熱的に踊ってくれたら……買おう。
……お金が……足りない。
なんでスケスケの薄い生地で布面積も最小なのに普通の服よりも高いの?
読んでくださってありがとうございます。




