11話 結界
更新が一日遅れました。申し訳ありません。
様々な困難とまでは言わないが、船召喚の力がなければ乗り越えられないような難所をいくつか乗り越え目的の場所に到着したら、あるはずの大陸がなくなっていた。人類が存在した痕跡を海底で発見し諦めずに探索を続けた結果、遠くに島影を発見した。
島影を発見し、とりあえず潜水艇組とも合流して今後の行動を話し合うことにする。
「えーっと、そもそも、あの島影って大陸の沈没を逃れた部分なんですかね?」
陸地を発見し完全な無駄足をまぬがれて少しホッとしたが、目的の大陸とは全く関係ない陸地の可能性もある。
それはそれで完全に未知の場所だから面白そうではあるが、そうなると公爵が命がけで逃がした住民達が全滅した可能性が高くなるから、少しせつない。
「イルマ、どうなの?」
アレシアさんも判断がつかなかったのか、素早くイルマさんに話を振る。
「……そうね、確実とは言えないけど、距離的にも私達が探していた大陸、それも中心あたりの可能性が高いわ」
大陸の中心辺りが残っていたってこと? つまり、最低でも大陸の半分は沈んでんじゃん。
全部沈んでいるよりかはマシだけど、半分でも大概だよね。
「でも、それなら日記の情報が少しは使え…………るんですかね?」
日記の情報が参考になりそうだと思ったが、途中で思いなおす。
ただでさえ古い情報なのに、どう考えても環境が激変し過ぎている。
「……まったく参考にならないとは言えないけど、全く別物と考えて行動した方が良さそうね」
ですよね。
「そうなるとどう上陸するかが問題ね。仮に港があったとして、正面から乗り込んで平気かしら?」
元々は公爵が貿易をしていた港が目的地だったが、港どころか陸地まで消えていたから港があるのかすら分かってないんだよな。
というか、陸地があったんだから人も生き残っているよね?
「国の法が分からないのだから、正面から乗り込むのは危険ね」
「ええ、下手をしたら入った瞬間に捕らえられる可能性もあるわ。まずは夜まで待って明かりを探しましょう。発見したら遠くから観察してその後はコッソリ偵察といったところかしら?」
僕が怖い想像をしている間に、アレシアさん、ドロテアさん、イルマさんを中心に話しが進んでいく。
どうやらアレシアさん達は人の生存を疑っていないようだ。
いや、人が存在しなければ人に害される心配はないのだから、人が居る前提で考えているだけかな?
まあ、慎重な行動を心がけてくれるみたいだし、何があってもそう酷いことにはならないだろう。
***
「あっさり発見できた」
「そうですね」
話し合いの結果、夜に明かりを頼りに人里を探すことになったのだが、探すまでもなく暗くなると陸に明かりが灯った。
一緒にフライングデッキで探していたマリーナさんもこんなに簡単に発見できると思ってはいなかったらしく、暗がりながらも拍子抜けした顔をしているのが分かる。
返事をした僕も同じような顔をしているだろう。
念のためにとこちらの明かりは消しておいて正解だったな。
「ワタル。見えているわよね?」
下でも同じ明かりを見つけたらしく、アレシアさんがフライングデッキに上がってきた。
「はい、見えています。……とりあえず決めた通りに、明かりから離れた場所に上陸。こっそりと偵察ってことでいいですか?」
「ええ、それでいいわ」
あっさり発見し過ぎて冒険要素は薄れたが、順調なことは悪いことではない。気持ちを切り替えよう。
明かりから距離を取るように回り込みながら、ゆっくり陸に向かってルト号を進める。
こちらもライトを消しているから岩礁が怖いが、船召喚には不壊の効果がついているので割と気楽に船を動かすことができる。
ドン!
「うわっ!」
「キャ」
鈍い音と同時に、船が激しく揺れる。どうやら何かにぶつかったようだ。
衝撃で操縦席にぶつかりそうになるのを右手でなんとかこらえ、衝撃で頭の上から飛ばされたリムを反射的に左手でキャッチする。
「リム、大丈夫?」
『……たのしい……』
ふー。これくらいの衝撃、リムにはなんの問題もないことは分かっているが肝が冷えた。
まあ、僕の心配もよそに、リムは手の中でご機嫌に震えているけど……。
それにしてもナイスキャッチだったな。今なら野球選手として大成できるかもしれない。
「ねえ、ワタル。リムちゃんが心配なのは分からないでもないけど、他にも心配するべき相手が居るのではないかしら?」
リムの無事にホッとしていると、ちょっと怒りのこもった声が聞こえる。
いかん、僕としたことが、リムの心配をするのは当然だけど、ここは素早くアレシアさんやマリーナさん、下の女性メンバーの心配をして好感度を稼ぐべきだった。
「ア、アレシア、マリーナ、大丈夫ですか?」
「ええ、おかげさまで傷一つないわ」
「大丈夫」
「あはは、良かったです……」
今更遅いとも思ったが、奇跡を信じて声をかけてみる。
返ってきたのは冷ややかな声。やはり遅かったようだ。
失敗した。言い訳させてもらえるのなら、僕が無事なのに僕より圧倒的に強い女性陣に何かあるなんて思えないってことだ。
現にアレシアさんもマリーナさんも平気だったし、マリーナさんにいたっては僕と同じようにふうちゃんを心配して声をかけている。
でも、そんな言い訳をしたら、一瞬で好感度が地の底だから言えない。
ここは黙って謝り倒すのが吉だろう。
「ふふ。冗談よ。で、ワタルは大丈夫なの?」
「あ、はい、僕は大丈夫です」
最悪土下座まで覚悟を決めた僕に、アレシアさんが笑いながら声をかけてくれる。
……冗談にしては声に込められていた迫力が凄まじかった気がするが……自分から地雷原に突っ込む必要はない。素直にお言葉に甘えておこう。
「とりあえず、下に降りて何にぶつかったか調べましょうか」
「ええ、そうね」
「わかった」
アレシアさんとマリーナさんと共にフライングデッキから降りようとすると、その前に下からドロテアさんが上がってきた。
「何にぶつかったの?」
アレシアさんが声をかける。
「結界よ。少し面倒なことになったかもしれないわね」
「結界?」
船召喚の結界のことじゃないよね?
「えーっと、前方に結界が張られていたってことですか?」
「ええ、イルマが調べているけど、結界で間違いはなさそうね」
マジか。結界が張られているってことは、進入禁止ってことだよね?
「じゃあ、ここでのんびりしていないで逃げた方がいいんじゃないですか?」
「それを相談に来たの。結界に接触者を感知する魔術が組み込まれているかもしれないし、元から妖しい船なのに慌てて逃げだしちゃったら相手をますます警戒させるでしょ? ワタルの船の中なら安全は確保されているのだし、相手の反応を見るのも悪くないと思うの」
うーん、逃げ出して別の場所から安全に偵察して、あとからシレっと人里に入る方が良い気もするが、相手側に警戒させ続けるのも悪い気もする。
最悪向こうから襲われたとしても身の安全が確保できているなら、ドロテアさんの言うとおり相手の反応を見るのも悪くないのかな?
まあ、見つからずに人里に侵入できるのが一番良かったんだけど……。
「そうね、私はそれでも構わないわ。ワタルはどう?」
どうと言われても、何が正解かさっぱり分からない。まあ、安全面は大丈夫なんだし、逃げて迷惑を掛けるよりかはここで話しを聞いた方がマシだろう。
襲われたら逃げればいい。
「……僕も待機で構いません。でも、逃げる準備だけはしておきましょう」
装備を整えて、いつでも動かせるように船の進行方向を変えておくくらいはしておくべきだろう。
***
「明かり、全部消えちゃいましたね」
フライングデッキで見張りをしている僕とクラレッタさんの視線の先で、最後の明かりが消えた。
「ええ、消えちゃいましたね」
待機すること四時間。明かりがポツポツと消えていく以外に状況の変化はなく、先程全部消灯してしまった。
一斉に明かりが消えるとか警戒で明かりが増えるようなこともなく、ポツンポツンと気まぐれに消える明かり。
まるで寝る時間がきたから明かりを消した。そんな風にすら思える不規則な消え方だった。
「もしかして僕達がここに居ることがバレていないんでしょうか?」
「バレていても気にしていない可能性もありますね」
……顔を見合わせる僕とクラレッタさん。相手の動きが少なすぎて判断が難し過ぎる。
「とりあえず、下に報告に行きましょうか」
「そうですね。私はここに残って見張りを続けますので、ワタルから報告をお願いします」
「了解です。ついでに飲み物とおやつも持ってきますね」
「はい、お願いします」
見張りをクラレッタさんに任せて下に降りると、張り付くように結界を調べるイルマさんと、それを補助しているフェリシアが居た。
「なにか新しいことが分かりましたか?」
「あっご主人様、お疲れ様です。残念ながら新しい発見はなにもありません」
イルマさんは解析に夢中で僕に気がついていないらしく、フェリシアが申し訳なさそうに質問に答えてくれた。
そっか、なにも分かっていないのか。
結界術に関してそれなり以上の腕を持つフェリシア。ダンジョンの結界ですら読み解き干渉することができるイルマさん。
この二人が四時間も調べて何も分からないって、洒落にならないんじゃないのだろうか?
今更だけど、逃げ出したくなってくる。
……とりあえず明かりが全部消えたことをアレシアさんに報告して、もう一度逃げないか聞いてみようかな?
読んでくださってありがとうございます。




