21話 やっぱりそんなに甘くない
ジェットコースターを止めたらという意見を感想欄でいくつかいただきました。
それが無理な設定を考えて書いたつもりになっていたのですが、書いていませんでした。申し訳ありません。
前話に
『他にも、パイレーツなブランコでハイダウェイ号を設置してブランコを止めたら失格になってしまった。
試練ということで最低限クリアしなければいけないルールがあるのだろう。』
という文を追記しました。
いつも感想やアドバイスを頂き、ありがとうございます。
返信はできておりませんが、大変励みになっております。
よろしくお願いいたします。
様子見だが、いよいよ通行手形を完成させる最後のアトラクションであるジェットコースターに挑戦する。料金が5倍になっていたり、逃亡阻止の結界が強化されていたり、敵が不気味なマスコットで暴走族が持っているような武器を持っていたりとろくでもないアトラクションの予感がプンプンするが、頑張って応援しよう。
「頂点に到達したら凄い勢いで下ってきます。気をつけてください!」
ガタンゴトンと音を立てながら急勾配のレールを登っていたジェットコースターの車体がもうすぐ頂点に到達する。
事前にジェットコースターについて説明はしてあるが、念のために作業中のドロテアさんとマリーナさんに大声で伝えておく。
二人がこちらに手を振ってくれたから無事に伝わったのだろう。できればもっと詳しい情報を教えられたら良かったんだけど……ジェットコースターの速度なんて知らないから無理だ。
「いよいよね」
隣を見るとアレシアさんが真剣な顔で車体を見守っている。できる限りの対策を打ったとはいえ、やはり心配なのだろう。
「はい」
頂点に達した車体が急加速しながらレールを滑り降りていく。
イメージしていたよりも圧倒的に速い。
コーヒーカップと同じく日本でなら確実に問題になる速度だが、この世界には安全基準なんて素晴らしい物がないし、ついでに魔法もあるからやりたい放題だ。
車体を躱してドロテアさんとマリーナさんがレールの上から飛び降りる。レールの枕木にロープを繋いであるから問題はないが、宙吊り状態のところに上から矢や魔法が降り注ぐ。
その攻撃を二人は危なげなく剣や短剣で弾いていく。枕木に繋いだロープを守る余裕もあるようだ。
車体が凄いスピードで通り抜けるから攻撃の数にも限界があるらしい。
「スピードはかなり速いけど対応は可能ね。一周するのにある程度時間も掛かるようだし、同じことを何度か繰り返せば先に進むのは問題ないわ。問題は車体が増えた時と、あのレールが丸まっている部分ね」
イルマさんが状況を細かく分析する。今のところたいした問題はないようだ。
……なるほど、ダンジョンの理不尽さにばかり目が向いていたが、人類も大概理不尽だった。
この世界の高レベルは異常だから、日本の安全基準に合わせたらヌルゲーになっちゃうんだな。
まあ、理解できてもこのダンジョンは嫌いだけどね。
何度か車体をやり過ごしながらドロテアさんとマリーナさんが先に進んでいるが、イルマさんの分析通り問題はないようだ。
急勾配も急カーブも、遠距離攻撃も二人の前では無意味。そしてついにイルマさんが不安視していた360°ループに到達した。
内側は車体が通るので外側を登っていく二人。
「あれ? むしろループの方が楽じゃないですか?」
ループを攻略中に車体が通過したが、外側を登っているから飛び降りる必要もなく、レールに捕まったまま攻撃をさばける。
しかも、レールが盾になって攻撃を弾いてくれてすらいる。頂上付近だと下からの攻撃ということになるのだろうが、レールが足場になるしそれくらいでどうにかなる二人ではないだろう。
「そうね、逆さを向いても落ちないってことに気を取られていたけど、こちらの方が楽そうね。……イルマ、難しい顔をしているけど何か問題があるの?」
アレシアさんも僕と同意見のようだが、イルマさんには何か不安があるようだ。
「何かが引っかかっているのだけれど、その何かが分からないのよ。でも、嫌な予感がするわ」
漠然とした不安という奴だろうか?
「うーん、問題はなさそうなんだけど、でもたしかにおかしいわよね。最後の試練だって指定されてこのアトラクションを攻略することになったのに、今までで一番簡単かもしれないわ。そんなことがありえるの?」
イルマさんの言葉を聞いてアレシアさんも疑問を覚えたようだ。
でもたしかにそうだ。
この性格が悪いダンジョンが最後に楽な試練をプレゼント? そんなことは絶対にありえない。
他のメンバーも僕と同じ結論に達したのか、少し緩んでいた空気が張りつめたものに変わる。
いや、リムだけはホンワカしているな。ドロテアさんとマリーナさんと一緒に冒険しているふうちゃんとべにちゃんをプルプルしながら応援している。ちょっと和む。
「みんな、イルマ以外は警戒態勢。イルマは解析に集中して!」
「「「了解!」」」
おっと、和んでいる場合じゃないな。今回は守られているだけじゃなくて、重要な役割もあるんだ。集中しないといけない。
***
「10周目まできちゃいましたね」
警戒体制のまま、何事もなく10周目まで到達してしまった。
車体が増えた分、回避や防御に割く時間が長くなったが、時間が掛かるだけでドロテアさんとマリーナさんは余裕で進んでいる。
もしかして、本当にプレゼント? ダンジョンが心を入れ替えた?
もしそうなら、アトラクション料金が5倍になったことも許そう。
「ええそうね。でも、イルマの不安は晴れないみたいよ。イルマ、どうなの?」
アレシアさんが困惑した様子でイルマさんに問いかける。
「分からないわ。何かがある、その予感は変わらないからずっと考えているのだけど、嫌な予感だけが増して原因が分からないの」
イルマさんは焦っているようだ。願わくはイルマさんの嫌な予感が勘違いで、何事もなく終わってほしいのだけど……そんな訳ないよね。
もしかしてと期待はしているけど、心のどこかではこのダンジョンがそんなに殊勝な訳がないという確信が僕にもある。
絶対に一波乱あるのだろう。
「結界に魔力が注入され始めました!」
「車体が間隔を詰めて止まり始めた」
ほらね、一波乱あった。
クラレッタさんとカーラさんの声にジェットコースターを確認する。魔力がどうのこうのは僕には分からないが、車体はたしかに間隔が詰まってきている。中にはすでに止まっている車体もあるようだ。
「車体って途中で止まれるの? 不味いわ、すぐに結界に攻撃! いえ、間に合わない。ワタル、壊して!」
「うぇ?」
イルマさんの悲鳴のような指示に驚いて止まってしまう。
「はやく!」
「は、はい!」
よく分からないけど時間がないようだし、とりあえずシャトー号召喚。
たっぷり今までのストレスを込めたシャトー号の重量攻撃をくらえ!
陸上に召喚されたシャトー号が、ゆっくりとジェットコースターに向かって倒れ込んでいく。
本当なら空中に召喚して重量爆撃といきたかったのだが、それをやるとドロテアさんとマリーナさんを巻き込んでしまう可能性があるので、泣く泣く諦めた。
シャトー号と結界が接触するとバチバチと火花を飛び散らせて一瞬拮抗したが、次の瞬間パーンと音を立ててアトラクションの結界が弾け飛んだ。
遮るものが無くなったシャトー号は勢いを増し、ジェットコースターのレールを押しつぶしながら轟音を立てて地面に倒れ込む。
三つほど車体も巻き込めたし、なによりとてもスッキリした。
「ご主人様、もう一発いっちゃいなさいよ」
イネスも同じ気持ちだったのか、豪華客船のお代わりを煽ってきた。
まったく欲しがりやさんだな。だが、嫌いじゃない。
いいだろう、このダンジョンを更地に変えてやろうじゃないか!
「豪華客船、連続召喚いっちゃいます! いでよ船しょ痛っ!」
「ワタル。ダンジョンの不必要な破壊は、とんでもないことになると教えたはずよね?」
突然頭部に衝撃を受け、振り返るとこめかみに血管を浮き上がらせたイルマさんが、冷たい微笑みで僕を見ていた。
……美女の冷たい微笑みって、傍目に見ると美しいのだけど、当事者になると凄く怖い。そして僕を叩いたと思わしき手の反対側の手は、イネスのホッペをこれでもかと捻じり上げている。
イネスは痛みで声も出ないようで、涙目でイルマさんの手を必死に外そうとしている。
「す、すみません。少しテンションが上がって調子に乗ってました」
全力で頭を下げながら謝る。
イネスの潤いマックスなホッペだからあの捻じりに耐えられるのであって、僕のホッペだとあんなのくらったら千切れてしまう。
アレシアさん、フォローをお願いします。
「……あれ? アレシアさん達が居ない?」
「結界が壊れると同時に中に突入したわよ。本当なら私も突入していたはずなんだけど、ワタルの声が聞こえたからあわてて戻ってきたの」
「あはは、御迷惑をお掛けしました」
「まったく、しょうがない子ね」
「ちょ、ちょっと、私とご主人様でずいぶん扱いが違うじゃない。差別反対よ」
ようやく解放されたイネスがホッペを抑えながら文句を言う。うわっ、ホッペが真っ赤になっている。
「差別じゃなくて区別よ。それに、あなたがバカをやったら叱るようにってベラさんからお願いされているから問題ないわ」
「ちょ、それどういうことよ」
あぁ、そういえばベラさん、別れ際に皆に頼んでいたな。娘は調子に乗るとろくなことをしないから、バカをやったら厳しくしつけてやってくださいって……。
僕とフェリシアなんか特に念入りにお願いされた覚えがある。
「私はもう大人なんだから、母親の頼みなんて関係ないわ。だいたい、私はご主人様の所有物なんだから、あなた達が勝手に罰を与える権利なんてないはずよ!」
あっ、この流れは不味い。
「あら、それならワタルから許可を貰えば問題ないのね?」
やっぱり、この流れは僕がイネスとイルマさんとの板挟みになって苦しむパターンだ。なんとか回避しないと二人からの好感度が下がってしまう。
「い、今は争っている場合じゃないですよ。それよりもイルマさん、もう少しでクリアだったのに、なぜ急に介入したんですか?」
結界が強化され始めたし、車体もおかしな動きをしていたから何かが起こっていたのは間違いないが、まだクリアできないと決まった訳じゃなかったはずだ。
「簡単に言うと包囲寸前だったのよ。ドロテアとマリーナが居た位置だと、すべての方向から攻撃を受けることになっていたわ。普通の状態ならともかく、不安定な足場では危険だったの」
……もしかして9周目まで温かったのは、こちらを油断させる罠だったってこと?
そして油断したところに十体の車両で完璧な包囲網を敷いての全方向からの攻撃。武器に毒っぽい液体が付着していたし、かすり傷でも危ないとなれば陣形が完成していたら確殺といっても良かったのかもしれない。
やっぱりこのダンジョン、性格が悪い。
「それよりもワタル。ひとまず逃げるわよ」
「えっ?」
イルマさんが指す方向を見ると、アレシアさん達がこちらに向かって走ってきている。これは問題ない。
問題なのは、アレシアさん達の背後に迫っている魔物の大群。
これがダンジョンのしっぺ返しってやつか。色々と言いたいことや聞きたいことはあるが、全部後回しで逃げよう。
「あっ無理ね。ワタル、ハイダウェイ号を召喚してちょうだい。中に避難するわ」
逃げようとしたらイルマさんが急に方針を変更した。
……なるほど、反対側からも魔物が押し寄せてきている。たしかに無理っぽい。
「分かりました。ハイダウェイ号を召喚します」
それにしても、押し寄せてきている魔物、なんかジャンルが変わっている気がする。別の階から強力な魔物でも放出したのか?
読んでくださってありがとうございます。




