19話 やっぱりこのダンジョン、嫌いだ
性格がネジくれ曲がっている存在、もしくは何かを激しく勘違いした存在が作ったとしか考えられないテーマパークを模したダンジョンで、今日も僕は憂鬱な気分でアレシアさん達の後に続く。あと一つ通行手形の欠片を手に入れれば城に入れるのだが……たぶん、先に進んでもストレスが溜まる状況は変わらないだろうし、全然嬉しくない。
ダンジョン内に入り歩くたびに気が重くなる。
コーヒーカップの試練は理不尽で、観覧車の試練は意味不明だった。
三つ目の試練は豪華客船にも設置されていて、みんなが知っているメリーゴーランドを選択した。
このアトラクションも最悪だったのだが、一つだけ良いこともあった。
それはアトラクションごとに僕が頭を抱えて、こんなのは違うと苦悶している理由を真に理解してくれたことだ。
だって、アレシアさん達もイネスもフェリシアも、キャッスル号で体験して本物のメリーゴーランドを知っている。
だから、道化のドラゴンから告げられた試練を翻訳して伝えた瞬間、みんなが僕の気持ちを理解してくれた。
試練の内容は、ゴーレム化したメリーゴーランドの馬達を乗りこなし、すべてを元通りにするというもの。
そんなのメリーゴーランドじゃないわ! という言葉がアレシアさんから発せられた時、このダンジョンに入ってから常に感じていた疎外感のようなものが解けるように消えていき、理解してくれる仲間が増えたことに喜びを覚えた。
そんな喜びの中、試練が始まる。
メリーゴーランドのゴーレム化した馬達は、優美な造形と華やかな細工と飾りつけでとても美しく、そして荒々しい暴れ馬だった。
このメリーゴーランドの試練の嫌らしいところは、倒せば済むという解決方法が使えないところだ。
メリーゴーランドの馬達は金属でできており飾りも武器に変化して凶悪ではあったが、元々実力があって技もチームワークも抜群だった上に、海でありえないほどのレベルアップを重ねたアレシアさん達ならば比較的容易に倒せただろう。
でも、倒したら試練は失敗になる。その上、メリーゴーランドの馬ごと攻撃してくる厄介な魔物まで投入された。
数が多くなかったのは幸いだったが、様々な肉食獣を模したゴーレムが登場し、乗りこなそうとするアレシアさん達をあざ笑うように攻撃を繰り返し、ゴーレムの馬達を混乱させる。
本来であればただ偽物の馬が回転するだけなはずのアトラクションであるメリーゴーランドは、パニック映画に出てくる動物園さながらに大混乱になり、アレシアさん達の精神を削った。
最終的に襲ってくる肉食獣のゴーレムをすべて倒し、レベルアップで得た力とスタミナでアレシアさん達が気合でゴーレムの馬を操りクリアしたが、最後には疲労困憊になっていた。
そしてデフォルトで台座には罠が仕掛けられており、疲労困憊なマリーナさんをブチ切れさせた。
このダンジョンは斥候職の天敵なのかもしれない。
翌日はお化け屋敷の試練を選択した。
僕はお化け屋敷とか絶対にろくでもないことになると大反対したのだが、アレシアさんの言い分も理解できたので最終的には賛成に回った。
アレシアさん曰く。このダンジョンはネジくれ曲がっているのだから、ワタルが少しでもマシだと思うアトラクションを選択するよりも、危険だと思うアトラクションの方が実は安全な可能性がある。
この言葉を聞いた時、僕は有り得ると思った。僕以外のメンバー達も同様に考えたのか、満場一致でお化け屋敷に挑戦することになった。
結果は言うまでもないだろう。最悪だった。
安全そうなアトラクションを選ぼうとも、危険そうなアトラクションを選ぼうとも、全部のアトラクションが最悪なのであれば、どれを選んだって最悪だ。
お化け屋敷では予想通りアンデッドが大量にお出迎えしてくれた。ゾンビやスケルトンは当然として、グールにゴースト、そしてその進化系達。
正直、数が多すぎて自分では登場した種類を把握できなかった。後で聞いたところによると、アンデッド関連の魔物はほとんど網羅されていたらしい。
バンパイアまで居たんだそうだ。僕が知らない間に討伐されていたようだが、バンパイアは少し見てみたかった。
お化け屋敷の試練は探索。お化け屋敷に居つくアンデッド達を退治しながらお化け屋敷を支配するアンデッドのボスを討伐し、お化け屋敷を浄化すれば試練クリア。
試練自体は船召喚の結界のおかげでクリアすることはできた。ただひたすらアンデッドが湧きだし攻撃してくるある意味単調な試練。
相手がアンデッドでなければ簡単な部類の試練だっただろう。
だがアンデッドが相手だと話は変わる。見た目も気持ち悪いし臭いも酷く、しかもしぶとい。
倒すには特殊な手順を踏まなければいけないアンデッドもかなりの数が居て、面倒で面倒で仕方がなかった。
しかもドロップアイテムは魔石か、ゾンビやスケルトンなどのアンデッドのキーホルダー。やる気がでる訳がない。
スケルトンのキーホルダーなんかは日本でも売っていたが、あれは存在しない物だから受け入れられたのであって、目の前で普通にスケルトンが殺しに来るこの世界では受け入れる気にすらならない。
そのうえ、このダンジョンはお化け屋敷を微塵も理解しておらず、数で押してくるだけ。人の意識の隙間をぬって、絶妙に驚かせるなんて技巧は微塵もなかった。
僕としてはお化け屋敷とはアンデッドをただ配置すればいいものではない、緻密な計算が必要な繊細なアトラクションなんだと声を大にしていいたかった。
まあ、その緻密で繊細な計算で驚かされたらそれはそれで文句を言っていただろうが、物量で押されるよりかはまだマシだったと思う。
この試練のボスはドラゴンゾンビ。腐敗の息や強烈な腐毒、アレシアさん達でも普通なら苦戦は免れない相手だった。
船召喚の結界に籠り、ストレス発散とばかりにアレシアさん達だけではなくイネス、フェリシア、そしてスライムトリオの一方的な攻撃でボコボコにされていたけど、間違いなく強敵だった……はず。
アレシアさん達が言うには、船召喚の結界がズルいだけで、お化け屋敷は最悪の部類のアトラクションだったらしい。
ダンジョンの一階でドラゴンゾンビなんて、バランスが悪いにも程があるのだそうだ。
イネスが言った、最初から全部のバランスが狂っているのだもの、今更よね、という言葉は真理だと思う。
言うまでもないことだと思うが、台座には当然罠があった。
その翌日は巨大な海賊船が振り子のように揺れるアトラクションの試練に挑戦した。
最初は知っているアトラクションは優しそうなのも危険そうなのも最悪だったから、まったく知らないアトラクションに挑戦するのはどうだろうという話になったが、どうせ全部最悪なのだから少しでも情報があるアトラクションの方がマシだという結論に落ち着いたからだ。
この試練は特に思い返すこともない。ただ最悪だっただけだ。左右に揺れる船に乗り体に掛かる強烈なGに耐えながら海賊の格好をした魔物と戦う。それだけのアトラクション。
ただしひたすらに長く、朝から挑戦したのに試練をクリアした頃には夜になっていた。ジラソーレのメンバーの中の一人が乙女の尊厳を崩壊させることにはなったが、それは心の奥底に封印しておこう。
「ついたわね」
アレシアさんの言葉通り、六つ目の試練に到着した。ようやく最後のアトラクションか。全然嬉しくないな。帰りたい。
挑戦するアトラクションはジェットコースター。テーマパークのメインともいえる超メジャーなアトラクションだ。
本来であればどう考えても危険度マックスなジェットコースターなんてアトラクションは絶対に選択しない。
ジェットコースターを選ぶくらいなら、見知らぬアトラクションに飛び込んだ方がマシだと考えて、そう実行しただろう。
なのに渋々ながらもジェットコースターに挑むのには当然訳がある。
欠片を五つ集めた後、道化のドラゴンが今までとは違うことを話し始めた。簡単に直訳すると、通行手形の欠片を五つも集めたんだね、偉い!
じゃあ最後の試練を与えるね。あの蛇みたいになっている道が見えるかな? 最後の試練はあれだよ。頑張ってね。ということだ。
実際には偉そうに長々と話していたのだが、なんかムカつくのでアレシアさん達にはバカっぽく通訳してやった。
みんな白けた表情をしていたし、あの道化のドラゴンの株も下がっただろう。バカっぽく通訳した僕の株は下がっていないと信じたい。
という訳で最後のアトラクションは強制的にジェットコースターになった訳だ。
たぶんどの試練をクリアしたとしても、最後はジェットコースターの試練という流れなのだろう。
嫌な予感しかしない。
「ワタル。ダンジョンに入ってからずっと考え事をしているようだけど、ここからは気を引き締めなさい。最後なんだから今までと違うことが起こっても不思議じゃないわよ」
「あっ、はい、アレシアさん、すみませんでした。このダンジョンのアトラクションのことを考えていたら、なんか納得がいかなくなってしまって……」
「あぁ、それね。気持ちはよく分かるわ。でも、どれだけ考えたって納得なんてできないと思うから諦めなさい。今は目の前の試練に集中するのよ」
アレシアさんが遠い目をしながら、自分にも言い聞かせるように僕に注意をする。アレシアさんも思うところが多々あるのだろう。
「はい」
ここまで来たらグズッていてもしょうがない。さっさとクリアしてこのダンジョンからおさらばだ。
「よくぞ幾多の試練を乗り越え最終試練の場に辿り着いた!」
道化のドラゴンの掲示板が降りてきて、また話し始めた。
僕しか通訳できないから真剣に聞くしかないけど、このふざけたアトラクションの数々を試練と表現する時点でなんだかムカつくから、黙って聞いているだけでも結構ストレスが溜まるんだよな。
「ワタル。どんな試練の内容だったの?」
アレシアさん達の視線が僕に集中する。美女達の注目を集めるのは嬉しいのだが、今回の内容は説明するのも憂鬱だから嬉しくない。
だが、説明しない訳にもいかない。
「このレールの上を、スタート地点から走って十周するのが試練だそうです」
「へ? えーっと、ワタルが言うジェットコースターは乗り物に乗って高速でレールの上を走り回る物だったわよね? 乗り物はどうなったの?」
「……魔物が乗っているそうです。しかも、一周するごとにその乗り物が一台追加されるらしいです」
周囲に沈黙が満ちた。
僕、やっぱりこのダンジョン、嫌いだ。
読んでくださってありがとうございます。




