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めざせ豪華客船!!  作者: たむたむ
第十五章
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5話 母と娘

 妖精達とダークエルフの子供達の圧力に負けて、雑貨屋を前倒しで準備することになった。頼んでもいないのに見張りに現れた妖精達とダークエルフの子供達を、なんとか村長に押し付けることに成功。急いで作業を進めよう。




 南方都市で仕入れた鍋や食器等の生活用品の陳列。


 僕はゴムボートから取り出してイネスかフェリシアに渡すだけだから、配置を考える必要もなく簡単だ。


 その中に豪華客船の少しお高めな商品を別枠で並べる。高いだけあって良い商品なので、お金を貯めて購入してほしい。


 続いて生鮮食品は……まだアレシアさん達の作業が終わっていないから後回しだ。


 次は各種インスタント系と各種調味料、缶詰等を並べる。これらは賞味期限が長いので、非常食としても便利になるだろう。


 ダークエルフの島にはさほど強い魔物は居ないし、人や魔物も海神の神器で海を操作しているから島に侵入もできない。だからかなり安全な島なんだけど……やっぱり自然災害には注意が必要だ。


 海の災害は海神の神器でなんとかなるが、地震や噴火は危険だ。僕が滞在している間なら安全な船で守れるけど、居ない時にはインスタント食品が命綱になるかもしれない。とても重要な物資だ。


 あと、単純に美味しい。


「きいてきたー」


 あぁ、ちびっ子達が戻ってきてしまった。


「ワタルさんの邪魔をしては駄目だ、静かにしなさい!」


 面倒な事になると諦めたが、ちびっ子達の後に入ってきた村長さんの一喝でちびっ子達が静かになった。


 アンネマリー王女の時にも思ったが、僕に足りないのは威厳だと思う。あと、度胸も足りないな。他にも……いかん、足りない物が思い浮かび過ぎて鬱になりそうだ。


「えーっと、村長さん、お金はどのような扱いになるんでしょうか?」


 気分を変えるためにも別の話題を話そう。


「お金ですか。最初は労働の対価として賃金を支払う形を考えましたが、貨幣経済が活発になる下地もないので、まずは成人した者に一律で配布することにしました」


 なるほど、今までと同じく配給制だが、それに加えてお小遣いが支給される感じか。


 まあ、今のところお金が使える場所がここしかないし、妥当な判断だろう。


「では、子供達は親から買ってもらうという形になるんですね。妖精達はどうするんです?」


 親が買い与えるとなるとなかなか激しいバトルが繰り広げられることになりそうだ。元気いっぱいの我が子のおねだり攻撃を撃退するのは大変だろう。


 あと、妖精達には親が……居る……のか?


 そもそも、妖精は大人になるのかだろうか? 被害の大小の違いはあるが、基本的に全員悪戯好きだよね? 大人な落ち着きを持った妖精は見たことがない。


「ワタルさんが子供達に言ったように、子供達や妖精にできる手伝い仕事を用意することにしました」


 うん、迂闊にも何も考えずにそんなこと言っちゃったよね。


「ですが、それだと村長さんや親御さんの手間が掛かりませんか? 特に妖精達の面倒を見る人がかなり大変になると思います。仕事を探すのも大変ですよね?」


 肉体的にはそれほどでもないが、精神的にはかなりの重労働だと思う。


「この島はようやく最低限の生活が整ったと言える状態です。子供ができる仕事でも、探すまでもなくいくらでも見つかりますよ」


 なるほど、新しい住人も増えたし、家づくりやなんやらで仕事は沢山あるんだろう。


「それに、仕事となれば子供達も少しはおとなしくなるでしょうから……」


 村長さんが若干遠い目をしながら言う。子供を大切にするダークエルフでも、子供の相手をするのは大変なんだな。気持ちはとてもよく分かる。


 それに仕事として子供達を働かせれば、お給金を人質にある程度子供達をコントロールできそうだ。


 あれだけお菓子に執着しているんだし、サボると買えるお菓子が減るとなると無茶はしないだろう。


 まあ、子供を働かせるという言葉は外聞が悪いが、お手伝い程度だろうし子供でもそれなりに働く世界なので問題はないだろう。


「あれ? でも、妖精の仕事は難しくないですか?」


 迷いの山であれば人が入り込まないように迷わせるだけで立派な仕事になった。でも、この島では人を迷わせる必要はないはずだ。


「トリアテムさんに聞いたのですが妖精は細工がかなり得意なのだそうです。木工での手伝い。それと、伝令役をお願いしようかと」


 妖精が木工で細工物?


 ……考えてみたら当然だな。僕達では難しい細かく神経を使う部分も、妖精達から見ればまだまだ余裕で加工できるレベルになるだろう。適材適所と言う奴だ。


 妖精が根気よく細工を続けられるのかが少し疑問だが、伝令で気分転換もできそうだし、よく考えられた配置なのかもしれない。


 たぶん、妖精達が移住してきた時からトリアテムさんとも相談して色々と考えていたんだろう。


 トリアテムさんを村長にと言っていたが、フェデリコさんこそがこの村の村長に相応しいと思う。


 トリアテムさんもそう思ったから、温泉の村に住むことを決めたのかもしれない。まあ、想像でしかないけど。


「あなた達、お手伝いをするならまだしも、ワタルさんの邪魔をしてはいけませんよ。あちらにおやつを用意しましたから、食べてきなさい。あなた、ちゃんと面倒見ないと駄目でしょ!」


 フェデリコさんに尊敬の念を抱いていると、お茶とお茶菓子を載せたトレイをもったセシリアさんが部屋に入ってきた。


 そして即座に奥さんに注意されるフェデリコさん。尊敬に値する村長といえども、奥さんには頭が上がらないんだな。


 おやつと聞いた子供達と妖精達があっという間に部屋から居なくなり、村長も奥さんから子供達の面倒を見るようにと部屋から追い出される。


「さあ、お茶をどうぞ」


 セシリアさんが僕達にお茶を振舞ってくれた。紅茶と、これはクッキーか。手作りのようだからセシリアさんが焼いた物かもしれない。


「いただきます」


 セシリアさんに軽く頭を下げ、クッキーを一口かじる。


 ザックリとした歯ごたえ、抑えられた甘味、噛めば噛むほど小麦の風味が口の中に広がっていく。


 素朴だけどなんだか懐かしい味だ。


「美味しいです」


 最近は凝ったお菓子ばかり食べていたからか、こういうお菓子を食べるととても落ち着く。 


「ふふ、良かったです。フェリシアちゃんとイネスちゃんはどう?」


「結構好きな味ね、美味しいわ」


 セシリアさんの問いかけにイネスはすぐに答えたが、フェリシアはなぜか黙って目を瞑っている。


「フェリシア、どうしたの?」


「いえ、たいしたことではないのですが、母の手作りでこのような美味しい物が食べられるようになるとは考えたこともなかったので、感動してしまいました」


 ん? セシリアさんって料理が下手なの? まあ、美女だから料理が下手でも愛嬌でしかないが、少し意外だ。


「ふふ、そうね。前の村ではお菓子の材料を用意することすら難しかったわね。今、この村の住人が様々な体験をし料理を楽しめるようになったのも、ワタルさんのおかげ。そして、村を助けるために身売りまでしてワタルさんを捕まえたあなたのおかげよ。ありがとう、フェリシア。ことばでは言い表せないくらいに感謝しているわ」


「母さん……」


 目前で美しい親子の会話が交わされている。


 料理が下手だったのかなどと考えていた自分が少し恥ずかしい。邪魔をしても悪いし、僕はイネスとゆっくりお茶を楽しませてもらおう。




「ワタルさん」


 ゆっくりお茶とおやつを堪能し、作業を再開するタイミングでお茶の片づけをしていたセシリアさんが話しかけてきた。


 温かい親子の会話の後だし、フェリシアのことをよろしくとでも言われそうだな。


 でも、僕は全力でフェリシアとよろしくするつもりだから、なんの問題もない。任せてくださいと断言しよう。


「はい、なんでしょうか?」


「ワタルさん。化粧品もお店に並ぶのですよね?」


 予測と違う角度から危険球が飛んできた。女性相手のこの話題は失敗するとデッドボールになる。あの温かい会話からの落差が激し過ぎないか?


「えーっと、はい、並べる予定です」


 豪華客船の美容グッズ関連は劇薬になりかねないので、商品として並べるかは僕達の中でも意見が分かれた。


 各地での化粧品に対する過熱ぶりを見ればしょうがないことだと思う。イネスのお母さんであるベラさんなんか、キャッスル号に引っ越ししちゃったもんね。


 だからまずはクレンジング系とお肌のケア用品、化粧水や乳液の低価格帯の物を商品として並べることにした。


 だけど、今この場でそのことを詳しく語る必要はないだろう。


 この島の人達はメイクをしないし、これで満足してもらえるだろう。たぶん。


「ふふ、お店の開店が楽しみです」


「あはは、楽しんでもらえるなら僕も嬉しいです」


 上機嫌で部屋を出ていくセシリアさんを見送り僕は思う。


 村長さんの配給金の値段次第では血の雨が降りかねない……と。


 低価格帯でもそれなりの金額はするし、ついでに低価格帯のお酒も並べる予定だ。男女で抗争が起こるかもしれない。


 大丈夫なのだろうか?


 穏やかなダークエルフの島に、余計な争いごとが起こらないように切に願いたい。


 ……創造神様に願うと逆に騒乱が起こりそうだし、ダークエルフを見守っている森の女神様に祈ろう。


「ワタル、完成したわ。言われたとおりに作れたと思うけど、念のために確認してちょうだい」


 森の女神様に祈っていると、アレシアさん達が部屋に入ってきた。


 そういえば、開店準備の棚卸の途中だった。


 大工仕事が得意なダークエルフの協力があったとはいえ、少し面倒な作業を頼んだので、完成したのはありがたい。


 カーラさんに抱かれていたリムがモッチモッチと近づいてきて、僕の頭の上に落ち着く。なんだか幸せな気分だ。


 ペントがスルスルと近寄ってきて、僕の足に絡みつく。こちらも可愛いのだが、最近大きくなってきているので足の骨が折れないかが心配になる。


 まあ、ペントもちゃんと加減をしてくれているし、僕も高レベルだから大丈夫なのだが……動きづらい。


「分かりました。確認させていただきます」


 リムとペントを撫でながら、アレシアさん達が作ってくれた前開きで割と大きめの四個の木の箱に近づく。


 作ってもらったのは、氷冷式冷蔵庫。


 幸いダークエルフ達の中に氷系の魔術を使える人が居たから、今回の氷冷式冷蔵庫計画が発動した。


 これが無事に完成していれば、肉や魚の扱いがかなり楽になるし、なにより、冷たいビールやジュースが飲めるようになる。


 この島もかなり暑いし、大人気になるはずだ。


読んでくださってありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 面白いです [一言] アレーシアさん達ともうそろそろ結婚は、まだでも婚約くらいはしてほしい。豪華客船がせっかくあるので、身分関係なく世界中の美女を豪華客船というハーレムに追加していってほし…
[気になる点] すげえ今更なんですが、べにちゃんどこ行った? つうか人物紹介にすら入れられてないんだが作者設定忘れてませんか?
[良い点] ここの妖精が労働… 逆に遊ばなまなるかね
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