表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
めざせ豪華客船!!  作者: たむたむ
第十五章
352/576

4話 前倒し

 アンネマリー王女の家は可愛らしいシャコ貝の家で、その内部はアーデルハイト女王陛下の親バカが炸裂した可愛らしい部屋になっていた。そこで美味しい紅茶と、珍しい海の中で咲くバラの蜜を使ったお菓子を頂いた。


「ふー、とても珍しくて美味しいお菓子と、美味しい紅茶でした。アンネマリー王女、ご馳走様です」


 とても楽しいお茶会だった。ホストが幼女で人魚で王女という特異なお茶会だったが、紅茶とお菓子を楽しみながらの穏やかな時間は素晴らしかったと思う。


「いえ、お楽しみいただけたのなら私も嬉しいです。……ワタル様」


「は、はい」


 なんかいきなりアンネマリー王女の雰囲気が変わった。さっきまでニコニコ笑っていたのに何があった?


「ワタル様、海神の神器、王国の結界を始め、ワタル様には返しきれないご恩を頂きました」


「……いや、別にそれほど気にしなくていいですよ」


 海の中のお城とか凄くワクワクする! というお気楽な探索の結果だから、簡単な感謝で十分だ。


 それなのに、幼女に真剣な顔で深く感謝されると、なんだか居たたまれなくなる。


「ワタル様がそういうお方であることは、クリス号でご一緒して理解しております。ですのでこれ以上は言いませんが、最後に人魚を代表してお礼申し上げます。その御恩に報いるために、人魚は全ての力をもってワタル様をお手伝いすることを誓います。これは女王アーデルハイトの意思でもあります。ありがとうございました」


 アンネマリー王女。重い。重いです。


「えーっと、どういたしまして。でも、僕のお手伝いで人魚の国が大変になったら寝覚めが悪いので、程々でお願いします」


 本当ならお手伝いなんて必要ないと言いたいのだが、さすがにそれでは人魚達も納得できないだろう。


「はい、分かっています。ワタル様のお力があれば、我々人魚の力はそれほど必要ないでしょう。ですので、海中に必要な素材や物や海産物がある場合、遠方の相手と連絡を取りたい場合など、少し面倒だと思うような事を我々にお任せください」


 ……なるほど、言葉通り本当にお手伝いをしてくれるということか。


 僕の場合、そういうお手伝いの方が恩返しがしやすいと考えたんだろう。


 大正解だ。大変な出来事からは逃げるし危険な場合も船に引きこもるから、人魚の手伝いは必要ない。


 雑用を引き受けてくれて、僕は面倒が減って楽、人魚達は恩返しできて嬉しい。これぞWINWINというやつではなかろうか。


 特に海産物が嬉しい。豪華客船でも美味しい海産物が食べられるが、この世界の新鮮な海産物を美食神様に料理してもらえば……味だけではなく、他にも色々と美味しいことになりそうだ。


「では、その時はお願いします」


「はい、お任せください」


 アンネマリー王女の力強い言葉でお茶会は閉められることに「おかわりー!」……妖精のお代わり宣言が出てしまった。


 アンネマリー王女が招待客の要望を無視するとは思えないし、もう少しお茶会が続きそうだ。


 アンネマリー王女が出してくれたアクアマリンローズの蜜は希少な物なようなので、次のお茶菓子は僕が提供することにしよう。




 ***




 人魚達の引っ越しが終わって数日、ダークエルフ達も無事に島の二つの村に移動した。


 これからも手助けは必要だろうが船の召喚枠も空いたし、肩の荷が下りた気分……だったのだが、残念なことにすぐに対処が求められる問題が発覚してしまった。


 そう、妖精のおやつ問題だ。


 ダークエルフ達と妖精達は上手くやっており、森の果実等で数日は問題なく過ごしていた。


 だが、シャトー号で様々な甘味を毎日体験しまくっていた妖精達に、ついに限界が訪れる。


 ケーキが、ドーナツが、チョコレートが、アイスが、プリンが、ゼリーが、様々な味と果実では感じられない強烈な甘み。妖精達はそれを激しく求めた。


 シャトー号まで飛んできて、中に入れてお菓子を食べさせろと騒ぐ妖精。


 シャトー号まで飛んでこられるだけ、ダークエルフの島の子供達よりも厄介だ。


 乗船許可を出さずに妖精達の侵入を拒むことはできたが、島に行けば集まってきててんやわんやになるのであまり意味はない。


 そのうえ、妖精達がダークエルフの島の子供達と仲良くなり、シャトー号で食べた甘味を自慢するものだから島の悪ガキ達の欲望にも火がついてしまった。


 島に顔を出すだけで子供達と妖精達にまとわりつかれ、疲労困憊になる始末。


 元々、ダークエルフの島にお菓子の販売を含めた店を作る予定だったし、計画を早めることにした。


「ちゃんとお店にお菓子を並べるから、お店が完成するまでに仕事でもお手伝いでもしてお小遣いを稼いでおいで。ここで見ていてもお菓子は買えないよ」


「……お小遣いって?」


 純真とは言えないが無垢な子供からの予想外の質問。


 そういえばダークエルフの集落は、ほとんど外界から切り離されていたんだった。


 ある程度外の事情に通じているのは村長や村の上役達で、大人ですら情報には疎い。なら、子供は言わずもがなだろう。


 あれ? 僕、迂闊なことを言っちゃった?


 貨幣が流通していなくてほぼ配給と物々交換で成り立っている島。


 店を作るとはいえ、どのようにお金を扱うかすら決まっていない、今の時点での下手な説明は混乱を招く。


「フェリシア。お金をこれからどう扱うかすら決まってなかったよね。どう説明したらいいと思う?」


 今のダークエルフの島はぶっちゃけ硬貨が必要ないから、一般的な経済システムを説明しても意味がない。


 なら硬貨を使わなければ良いとも思うが、将来を考えるとそれも少し不安だ。


 今のダークエルフ達は色々と苦労してきたから島の外に出ようと考えないが、この島の平和に慣れた世代が育てば、島から出ていったり大陸の国と繋がりを持ったりするかもしれない。


 そんな時にお金の使い方が分からないなんてことになれば、下手をしたら搾取されてしまう。


 なかなか難しい問題だ。


「父も色々と考えているはずですので、父に説明してもらえば良いと思います」


 真面目なフェリシアから丸投げ発言が出るとは思わなかったな。フェリシアでも身内には甘えることがあると思うと、なんだか少しホッコリする。


「じゃあ、そうしようか。ちびっ子達、お手伝いやお仕事については村長さんに聞いておいで」


 フェリシアが丸投げを提案しているのに、僕が丸投げを断わるわけ無いよね。喜んで村長さんに丸投げしてしまおう。


「「「そんちょー!」」」


 ダークエルフの島の子供達と新たに合流した子供達、そして妖精達が元気に村長を呼びながら走り出した。


 まあ、ここは村長の家の一角だし、すぐに村長を捕まえるだろう。


 それにしても……おとなしかったはずの迷いの山の子供達が、この島の子供達に影響されて活発になっている気がする。


 元気なことは良いことだけど、悪い部分まで見習わないようにしてほしい。


「な、なんだお前達。コラ、家の中で騒ぐんじゃない! 妖精達も落ち着きなさい。髪を引っ張るな!」


 予想通り、すぐに村長は捕獲されたようだ。子供達に絡まれて焦る声がここまで聞こえてくる。


 さて、村長はお金をどう扱うつもりなんだろう?


 今のところダークエルフの島の収入は温泉の村近くの鉱山から出た金銀だけで、その金銀を僕が預かり対価として各地で仕入れた商品や豪華客船の商品を渡している。


 他にも鉄や銅も採掘できるが、今のところ鉄と銅は加工して島で消費されている。


 そういえば採掘された金銀もある程度溜まったし、いずれ南の大陸に換金しに行くべきなのかもしれないが……南の大陸はかなり危険な状況だったし、変なことに巻き込まれそうだからあまり気が進まないな。


 やっぱり換金は後回しにしておこう。


「ご主人様、村長との話が終われば、またあの子達に監視されることになるかもしれないわ、今のうちにやるべきことをやってしまいましょう。それに、アレシア達も入れ物を作って運んでくるんだから、急がないと置く場所が無くなっちゃうわよ」


 イネスも先程までの状況が嫌だったのか、珍しくまともなことを言っている。


 まあ、僕もちびっ子達の視線はプレッシャーだったから、気持ちは凄く良く分かる。


 アレシアさん達も色々と協力してくれているんだし、僕も頑張らないとね。


 でも、リムとペントがふうちゃんとベニちゃんと遊ぶと言ってあっちについて行ってしまったのは少しだけ寂しい。


「……そうだね。手早くやってしまおう」


 早く終わらせてリム達とたっぷり遊ぼう。


 店になる建物がまだ完成していないので、臨時で村長の家の一室を店にすることになった。


 来客をもてなす為の部屋なのだが、もてなす相手が居ないので臨時で店にするくらいは構わないそうだ。


 本来の用途で使うチャンスがあったのは、アンネマリー王女が来訪した時と新たなダークエルフの住人が増えた時くらいだった。


 だが、アンネマリー王女はクリス号に宿泊で利用せず、迷いの山の村長のトリアテムさん親子が少し前まで利用していたが、温泉の村に旅立ったから今はだれも使う人が居ない。


 トリアテムさん、相談役的なポジションに落ち着いたのだが、フェリシアの父親であるフェデリコ村長から敬われ、微妙に居心地が悪そうだった。


 温泉の村の見学で温泉をかなり気に入ったのを幸いに、温泉の村に移っていった。それだけ温泉を気に入ったのか、無条件で敬ってくるフェデリコ村長から逃げたのか、どっちなんだろう?


 おっと、答えの出ない問題に悩んでいる暇はない。


 ちびっ子達が戻ってくると、強烈な視線で監視されることになる。


 店のこともお金のこともよく分かっていないはずなのに甘味に関係することには敏感で、早くお菓子をと言った猛烈に期待した視線が飛んでくる。


 あの視線の中での作業は遠慮したい。


「ご主人様、お菓子の陳列は後回しにした方が良いのでは?」


「ん? フェリシア、どういうこと?」


 甘味が入ったゴムボートを召喚したら、フェリシアから待ったが掛かった。


「お菓子を陳列してしまうと、お菓子を死守しながら雑貨を並べることになります。先に子供達の興味が薄い物から並べるべきでしょう」


 なるほど、子供達のプレッシャーに負けて出店の前倒しをしたから甘味にばかり注意がいっていたが、本来は甘味だけではなく雑貨も置く予定だったんだよな。


「たしかにフェリシアの言うとおりだね。召喚しなおすよ」


 甘味が入ったゴムボートを送還し、雑貨が入ったゴムボートを召喚する。


 ラインナップは、この島での人気商品に加え、僕達とアレシアさん達のお勧め商品を用意した。


 あとはこれを良い感じに並べるだけだ。


読んでくださってありがとうございます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] ジラソーレの影が薄いw 妖精めんどいからワタルがダークエルフの島に寄り付かなくなる感じかな。遠出する回が好きなので船旅だ!
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ