22話 RPGの王道
アクアマリン王国を出発し、シャトー号での優雅な航海。新しく合流したイネスの家族とフローラさんは、急激に変わった環境にはしゃいだり疲れたりしながらなんとか適応している。みんななんだかんだで楽しそうなのは良いことだ。良かった、新たな性癖が芽生えなくて……。
僕はベラさんの魅惑の水着姿から、なんとか生還を果たした。
アレシアさん達に対する下心や、カルロさんの挙動不審な姿を見なければ正直危なかった気がするが、表面上はムッツリを守り通せたはずだ。
ただ、親子丼という言葉で、最初に思い浮かぶのが食べ物ではなくなったので、かなりギリギリだったと思う。
あのプールイベントの後も、ボウリングをしたりショッピングをしたりと楽しい毎日を過ごしている。
「それで、フェリシアはどう思う?」
そんな楽しい毎日の中で、一つの選択肢が浮かび上がっている。
アクアマリン王国からキャッスル号に向かう航路は、南方都市を経由する航路よりも戦争の時の航路、帝国を経由したほうが近い。
そして、明日には森の女神様から教えてもらった、ダークエルフの集落の近くを通過することになる。
「……大変な思いをしていると思いますので、接触できるのであれば早い方が嬉しいです」
フェリシアの思いは当然だよね。それに、僕も森の女神様との約束が果たせるから、寄り道は問題ない。
「分かった。じゃあ明日はダークエルフの集落に向かおうか。イネス。ベラさん達とフローラさんに少し寄り道をするって伝えてくれる?」
「伝えるのは構わないけど、それで問題ないの? 母さん達もフローラも口が軽い訳じゃないけど、うっかり秘密が漏れたりするかもしれないわよ? せめて商売の神様との契約で縛っておいた方がいいんじゃない?」
イネスが自分の家族と親友を信頼していないようなことを言う。
……でも、家族と親友が心配だから、先に契約で縛ることで家族や友人を守りたいのだろう。
素直に家族や友達の心配を表に出せないイネスが、とても可愛いと思う。
「ちょっとご主人様、なんでニヤニヤしながら私を見るのよ!」
イネスが可愛いからだと言いたいけど、拗ねてしまいそうだから止めておこう。
「なんでもないよ。あと、イネスが心配みたいだから、後で念のために契約をお願いしておこうか」
べ、別に心配なんかしていないわよ! とイネスがツンデレみたいなことを言っている。これはこれで有りだ。
でも、最近だとイネスの家族とフローラさんの安全以外では、あんまり契約する意味がない気がする。
少し前までなら、僕がダークエルフを保護していることを知られるのは危険だった。
何かのきっかけでダークエルフの島の存在がバレて、無謀な奴隷商人が外海を乗り越えて島に来ることを、少しは警戒する必要があった。
だけど、海神の神器を手に入れてから、そこら辺の問題はすべて解決した。
僕みたいなチートを貰ったイレギュラーでもなければ、この大陸を総動員してダークエルフの島に攻めかかっても、楽勝で撃退できるだろう。
保護した時に豪華客船に乗せることになるけど、ダークエルフの島に居れば乗船する機会は何度でもありそうだし、今更の話だよね。
あぁ、僕がダークエルフを保護していることが広まることで、この大陸で隠れ住んでいるダークエルフが狙われる可能性もあるのか。
先にダークエルフを確保して、僕と何かしらの交渉をしようと考える人とか普通に居そうだ。
ベラさん達やフローラさんを信じていない訳ではないけど、彼女達とダークエルフ達の安全のためにも契約しておこう。
***
ダークエルフの保護に向かうことを決定した翌朝、ベラさん達に事情を説明してルト号で出発した。
そして、ダークエルフの集落の一番近い陸地に到着したんだけど……山だ。
ちゃんと森の女神様の印の場所を下調べをしていたフェリシアから聞いてはいたが、フェリシアの集落も、魔の森の集落も、竜の森の集落も森だったから、森じゃないことに少し違和感がある。
まあ、ここも木々が生い茂っているから、山と森の違いは傾斜のあるなしだけな気もするけど、少しの違いが凄く厄介だ。
レンジャー号では進めそうにないし、小型のアッド号でも難しそうだ。
みんなが居て船召喚があれば余裕な気がしていたけど、今回も難しいミッションになるかもしれない。
「うーん、この周辺の国々は帝国の影響で人族至上主義だから、この山で無事に隠れ続けていられたのなら発見するのは難しそうよね」
なるほど、たしかにアレシアさんの言う通りだな。
厳しい場所でも生き抜いているってことは、それだけ防御力に自信があるか隠密性が高いということになる。
ダークエルフの価値を考えると発見されていたら全力で襲撃されそうだし、完璧に隠れ住んでいる可能性が高そうだな。
……でも、マップに森の女神様が印をつけてくれているし、僕の場合だと楽勝ってことになるのかな?
「木々が密集しているから、地竜みたいな大型の魔物は少なそうね。魔の森のように小型の魔物が厄介な場所かもしれないわね」
……マジか。ドロテアさんの予想通りで、魔の森の時みたいに時間が掛かるなら、仕切り直しの可能性も考えておくべきだな。
ここら一帯が帝国に近い影響で、フェリシアの下調べでも細かい情報を集められなかったのが痛い。
「マリーナ。偵察をお願い。無理をしないで安全第一でお願いね」
「了解」
アレシアさんがマリーナさんに偵察を頼む。たしかに偵察は必要だと思うけど……。
「えーっと、今までダークエルフが隠れ住んでいる場所は、どこもかなり危険でした。マリーナさんに偵察を頼むよりも、船に緊急避難できるようにして、全員で進んだ方がよくないですか?」
マリーナさんとふうちゃんが戻ってこないとか、洒落にならないよね。
「……そうね、魔物の情報は欲しいけど、ワタルが居るならそちらの方が安全かもしれないわね」
今までのダークエルフが居た森を思いだしたのか、アレシアさんがすぐに前言を撤回した。
自分の意見に意地を張らないで、すぐに考えを修正できるのは素直に凄いと思う。
全員で山に侵入することにして、まずはアレシアさん達がルト号から陸地に飛び移り、続いて僕、イネス、フェリシアの順で飛び移る。
「じゃあ行くわよ。ワタル、この森はスペースがなさそうだし、もしもの時はゴムボートを召喚してね」
「分かりました」
僕を中心に陣形を組んで山を登る。
………………凄く冒険している気がする。
木々を避け茂みをかき分け、急傾斜を登り崖を迂回する。そして現れる魔物。
自分がファンタジーな世界で生きていることを強く実感できる。
ただ、魔物はジラソーレが全て瞬殺してしまうので、緊張感はない。
出会った頃からAランクの冒険者だったのに、海で更に強化されたから中途半端な魔物では相手にならない。
この調子なら簡単にダークエルフ達のところに辿り着けそうだ! なんて思っていたが、さすがにそう上手くはいかないようだ。
「方向がズレています。真逆です」
目的地に向かって進んでいるはずなのに、気がついたら全然違う方向に進んでしまう。
しかも、方向がズレたことになかなか気がつかずに、かなりの距離を進んでしまう。
船召喚のマップ機能で目的地に一直線。常にマップを見ていれば方向がズレたらすぐに分かるはずなのに、真逆に歩いても気がつかない理不尽。
登らなければいけないのに下っていても違和感がないとか意味が分からない。
でも、この不思議な現象があるから、それほど魔物が強くないこの山でダークエルフ達が隠れ住めたのだろう。
まさかこんなところでRPGの王道である、迷いの森を体験することになるとは思わなかった。まあ、ここは森じゃなくて山だけど……。
王道のRPGイベントに少しワクワクしてしまうが、このままだといつまで経っても目的地にたどり着けそうにないから困る。
「イルマ。この現象、どうにかなりませんか?」
先程から難しい顔をして近くを歩いているイルマさんに声を掛ける。
体力的には問題ないけど、自然の中で迷子状態だから精神的に辛い。
「難しいわね。大抵の幻覚魔術は私には効果がないはずなのだけど、いつ感覚を狂わされたのかすら分からないから私では手の打ちようがないわ。おそらく、相手に妖精が居るわね」
妖精? そういえば西方都市の冒険者ギルドの資料室で、フェアリーの資料を見た覚えがある。
たしか少数種族で、ほとんど人間と交流がないと書いてあったはずだ。
「妖精だと対抗できないんですか?」
「ええ。妖精は幻覚魔術、いえ、幻覚魔法に特化した種族なの。私もこの世界ではトップクラスの幻覚魔術の使い手だと自覚しているけど、妖精は格が違うわ」
そうなのか、格が違うのか。
じゃあどうやったってたどり着けないじゃん。
「……フェリシアには悪いけど、諦めて撤退しますか?」
それほど強くない魔物が出る山で、妖精まで味方に付いているのなら無理して保護をする必要はないんじゃないだろうか?
「いえ、是非とも妖精とは接触したいわ。妖精の技術を身に付けられれば、私は幻覚魔術師として更に成長できるもの」
たいていのピンチでも妖艶な笑みを絶やさないイルマさんが、スポコン漫画の主人公並みに燃えている。目に炎が灯っていそうな感じだ。
「でも、妖精の幻覚に対抗できないんですよね?」
接触するどころか、存在すら把握できないのにどうするつもりなんだ?
「大丈夫よ。たしかに幻覚では太刀打ちできないけど、それなら魔術以外の方法でなんとかすればいいの」
魔術以外の方法?
「ワタル。お菓子が入ったゴムボートを召喚してちょうだい。それと、ワタルの世界の音楽も必要ね」
「へ?」
なんで?
「あら、ワタルは知らないの? 妖精は甘いものと踊りが大好きなのよ。ワタルが用意するお菓子と音楽があれば、妖精だっていちころよ」
得意気に話すイルマさんは美しいが、それって賄賂でなんとかしようってことだよね?
それはそれでどうなんだろう?
読んでくださってありがとうございます。




