18話 プレゼン
丸投げしたはずなのに、馬車馬のごとく働かされる意味の分からない時間がようやく終わりを迎えようとしている。あとは最後の……この偉い人に対するプレゼンを乗り越えさえすれば、僕は自由になれる。だから頑張るんだ。
「で、では、説明させていただきます」
ヤバい、声が上ずった。
最初の挨拶ですでに場の空気に呑まれたのに、やってきた偉い人が商務卿と財務卿という、それぞれが担当する役人のトップだと聞いて更に緊張した。
商務と財務、なんか役割が似ていそうだけど別なの? とそこはかとない疑問も抱いたが、聞かないくらいの分別は僕にもある。
あと、二人の偉い人の傍に控える人まで偉そうなのが気になる。
補佐の人なのだろうが、偉い人の補佐なのだからたぶん偉いのだろう。
配られた資料を手に、僕を見定めるように見ている。帰りたい。
でも、帰る訳にはいかないので、説明を開始する。
ホワイトボードなんて便利な物は無い……こともないが豪華客船から持ってこなければいけないので、資料を見せながら口頭で説明する。
「えー、まず一枚目の資料をご覧ください」
「ちょっと良いかね?」
「は、はい、なんでしょう?」
気合を入れて説明を開始しようとしたのに、商務卿に出鼻をくじかれた。
「アクアマリン王国に大きな投資をしてくれることは感謝している。だが、わざわざ獣人達を他国から集め、特に利点がある訳でもない場所を大規模に開発する。ギルドマスター達から話は聞いているが、君の口からなぜそうするのか目的を聞かせてもらいたい」
そこから? ギルドマスターから聞いたのならいいじゃん。
……でも、話さない訳にもいかないんだろうな。
慈善事業費のことはさすがに話せないから、当たり障りのない内容になっちゃうけど……。
「この国は差別が少なく、獣人達の安息の地が作れると思ったからです。利点が少ない場所を開発することにしたのは、後からこの国に入る獣人達が良い場所を独占すると軋轢が生まれると考えました」
本来の目的は慈善事業費の消費だけどね。
ん? 補佐の人がわずかに商務卿にたいして頷き、商務卿も応えるようにわずかに頷いた。
……もしかして、あの補佐の人、嘘を見破る的なスキルを持っていたりするのか?
適当なことを言わなくて良かった。
獣人達を助けたいというのも、慈善事業費の消費に比べれば優先順位がかなり低いが本当のことだ。
軋轢に関しても、ギルドの実務代表に、もっといい場所での開発をと言われて考え出した言い訳だが、本当に軋轢が生まれそうな問題だったから、僕の中で本当のことになっている。
あの補佐の人のスキルはそこまで精度が高くないのかもしれない。嘘をついたら分かるのだろうが、目的の優先順位や本気度までは分からないのだろう。
でなければ、僕の薄っぺらい思い以外にも理由があると、すぐに気がつくはずだ。
「なぜ開拓をした土地を領地にしようとせずに、いくつか住民が不利にならない契約を結ぶとはいえ、国に任せるつもりなのかね? 莫大な資金を使い、利益が多少の税収の受け取りでは大損だろう」
今度は財務卿からの質問ですか。
嘘を見破られるかもしれないから、言えないこと以外は本音を言った方が安全だろう。
先程は気がつかずに嘘ではないが薄い理由を述べてしまったが、それを参考にして本音を隠せるほど、僕は器用じゃない。
「領地の管理が嫌だからです。資金も稼げるあてが他にあるので問題ありません」
一応、管理が面倒で嫌だという本音を、面倒ははぶいてオブラートに包んでみた。
大損という言葉を釣られて使うと、損はしていないので嘘と思われるかもしれないからはぶいた。
僕って、意外と交渉上手なのかもしれない。
先程商務卿に頷いた補佐が、今度は財務卿に向かってわずかに頷く。やはり嘘を看破するようなスキルをもっているようだ。ユニークスキルかな?
「では……」
えっ、まだ質問が続くの?
***
「か、考えられん……」
僕とアレシアさん以外の面々が、頭を抱えたり眉間に手を当てたり、天を見上げたり、遠くを見たりしている。
「ねえ、ワタル。なんでも素直に話せばいいってものじゃないのよ?」
それくらいアレシアさんに言われなくても僕も分かっている。
ただ、嘘が言えない状況で、なんだか含みがある質問をいくつもぶつけられて、オブラートに包む余裕すらなくなってしまったのだからしょうがないんだ。
最初は意外と僕って交渉上手なんて思ったけど、間違いなく僕は交渉下手だな。
権力とか立場とか面倒。金なら沢山ある。土地とか要らない。僕? 多分強いです。アクアマリン王国には奴隷の家族が住んでいるから好意的。スパイ? 違います。
等々、建て前をはぶいた本音を伝えるたびに、偉い役人達だけではなくギルドマスター達や建築家も死んだ魚のような目になった。
まあ、神様関連と異世界関連、船召喚関連の内容が制限されての本音だから、ちょっと世間の一般常識とズレているのは自覚している。
間違いなく僕はこの人達に頭のおかしな変人だと認識されたな。
でも、嘘を見破れると思われる役人が、自分のスキルを信じられなくなって、他の役人に嘘を言わせてスキルの確認を始めたのは面白かった。
僕の目の前でやったら駄目だろうに、僕の本音がいびつだから混乱してしまったのだろう。
「えーっと、質問がもうないようなら、資料の説明をしてもいいですか?」
質問に本音で答えている間に、緊張も解れた。今なら問題なくプレゼンをおこなえそうだ。
「あ、ああ、よろしく頼む」
商務卿の許可が得られたので、今度こそプレゼンを開始する。
「まず、いきなり開発予定地を大規模に開発するのは難しいそうなので、予定地から一番近い村に獣人達の住居と資材置き場を造ります」
僕は街だけを造ればいいと考えていたが、港にできる場所も大工事が必要で、人里にちゃんとした道も通じていない場所でそれは無理だと言われた。
「それが完成したら、村から開発予定地までの道を通します」
まさか街を作るために他の村に宿舎を立て、道から作ることになるとは思わなかったな。
「道が開通したら、集めた資材で建築予定地近くに小さな村を造ります」
いきなり大きな街を作るのは大変なので、街を作る獣人達がすむ村を造ることになった。商人達も最初はこの村で商売をすることになる。
「完成した村に人と資材を集めながら、本来の街を造ります」
僕はその村を広げて街にすればいいと思ったのだが、一ヶ所にまとめるよりも衛星となる村が有った方がいいとのことなので、そうすることにした。
どうしてそうしたほうが良いのかは僕には分からないが、専門家が言うのだから間違いないだろう。
「まず、街割りをします」
一から一気に開発するのならと、建築家のウィリアムさんが素晴らしく張り切った。
たぶん、機能的で美しい街が完成すると思う。
図面を見ても僕にはサッパリだったので、完成を楽しみにしている。
なんだか形が丸かったから、不思議な街ができあがりそうな気がしないでもない。
一応、道幅が広い方が火事なんかの時には安全らしいと、アドバイスはしておいた。
「街割りが終わったら、ため池を兼ねた巨大な水堀を造ります」
水が足りない場所なので、森から引き込む予定の小川の水や雨水を大量に溜められるようにしないといけない。
「ため池兼水堀が完成したら、街中にも生活用水で利用するため池と水路を造ります。同時に、いくつか井戸も掘るつもりです」
水が不足しがちな場所だから、水不足への備えは十分にしておく必要がある。建築家のこの言葉には僕も納得した。
「街を囲む壁を造ります」
水堀があるからあまり立派な壁は必要ないかもしれないと言われたが、資金をしっかり使うのが大切なので、立派な壁をリクエストしておいた。
資金が足りなくなる恐れがとか言われたが、どうせ次に豪華客船を買ったら慈善事業費が増える。追加投資の可能性は大だ。
少し商売の神様の判定が微妙かもしれないと思ったが、狙われている獣人達の安全の為なら少々の防衛力強化は許されると思う。
だが、獣人達の為に無駄に立派な施設や娯楽施設を造るのはたぶん怒られると思う。
なので、安全にかかわる部分にはしっかり資金を投入しておきたい。
「壁が完成したら後は内部の街造りです。僕は細かいところまで把握していませんので、あとは街の設計者でもある、建築家のウィリアムさんにお聞きください」
細かい説明を求められたら答えられないので、資料に書いてある内容を補足しながら一気に説明し、最後はウィリアムさんにぶん投げた。
***
「ふー、ようやく終わりましたね」
帰りの馬車の中、肩の荷が下りたので一気に気持ちが楽になった。
「ようやくって言うけど、ワタルは最初だけ話して、後はほとんど黙り込んでいただけじゃない」
「なぜか誰も僕に質問しなかったので、話す必要がなかったんですよ」
ウィリアムさんに話をぶん投げた後は、なぜか僕に誰も質問しなかった。
まあ、ウィリアムさんが全部答えてくれたから僕に質問をする必要がなかったのだろうけど、これこそが正しい丸投げの姿だと思う。
今後もこの調子でお願いしたい。
「なぜかって……」
アレシアさんが頭が痛そうに額を抑えた。
「アレシア、どうかしたんですか? 体調が悪くなったんですか?」
「違うわよ。あのね、質問がなかったのはワタルとの関係を諦めたからよ。本来権力者というものはお金や力がある者とは良い関係を築こうとするものなの」
まあ、僕もお金持ちとは仲良くしておきたい派だな。羽振りがいい友達は奢ってくれたりするから好きだ。
しかも、傲慢なタイプではないお金持ちは、心に余裕があって遊んでいても楽しいんだよな。
「それなのにワタルは会議の場でズケズケと本音をぶちまけるものだから、関わるのが危険だと判断したのよ。分かっていてやったんじゃなかったの?」
……なるほど、僕がお金持ちの友人の立場になっていたということだな。
今回の会議も、僕の素性を確かめる目的と同時に、僕が使えそうな手駒なのかを判断するためのものだったかもしれない。
今の自分がお金持ちだということは自覚しているが、権力者とは意図的にかかわらないようにしていたから、想像もしていなかった。
でも……。
「元々、関わり合いになりたいとも思わないので、避けてくれるのならそれでいいんじゃないですか?」
自分で言うのもなんだが、僕は相当有用な駒になると思う。
僕を手駒にするのを諦めたあの二人は、大成しないな。あっ、役人の中でもトップクラスの人達だった。
すでに大成しているから、時限爆弾みたいな僕との関りを拒否したのか。頭の良い人は違うな。
「ワタルがそれでいいのならいいんじゃない?」
アレシアさん仕方なさそうに笑っている。
なんだか駄目な子ね、みたいな目で見られているのが、多少不本意だ。僕は今回結構頑張ったよ?
読んでくださってありがとうございます。




