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めざせ豪華客船!!  作者: たむたむ
第十四章
329/576

12話 帯に短したすきに長し

 アクアマリン王国に到着し、ベラさんに続いてフローラさんとも開拓計画について話し合った。陸地での冒険者不足等の微妙な問題も浮き彫りになったが、お金の力でなんとかしたいと思う。




「ようやく出港ね。ご主人様、早く出発するわよ!」


 イネスがとても張り切っている。フローラさんとの話し合いから五日、その間にたまったストレスを早く発散したいようだ。


 まあ無理もないか。この五日間、毎日イネスの家族の誰かがルト号を訪ねて来て、かなりの精神的な圧力を受けていた。


 ベラさん相手が一番酷かったけど、父親のカルロさんと弟のダリオ君からのプレッシャーがなかったわけでもない。


 特にダリオ君からの、『姉さん、ちゃんとやってる? 皆に迷惑を掛けてない? 皆さん、姉のことをよろしくお願いします』攻撃には、僕としても同情した。


 自業自得なんだけど、逃げられない場所で毎日家族から心配される日々は辛かっただろう。


「ふふ、イネスほど辛かったわけではないけど、私も少し運動がしたいわね。ワタル、早く出発しましょう」


 アレシアさん達もイネスと同意見のようだ。


 こちらも無理はないかな?


 僕達に対する注目はまだ薄れていないようで、街に出るのを最小限にしてルト号に籠っていたから、活発なアレシアさん達もストレスが溜まっているんだと思う。


 現代日本のように様々な情報が溢れている訳でもないから、大きなニュースはなかなか忘れられないみたいだ。


 僕はリムやペントと戯れながらの狭い船内での美女達との共同生活、嫌いじゃなかったんだけどね。


 ……人数的にしょうがないけど、ルト号を狭いとか……僕も贅沢になったものだ。


「分かりました。じゃあ、出港しましょう。フェリシア、操船をお願い」


「分かりました」


 フェリシアがフライングデッキに向かう。早く出発していたがっていたイネスに操船を任せなかったのは、ストレスからくる暴走を警戒したからだ。沈没都市に被害が出たら、洒落にならない。


「ワタル、物資は問題ないのよね?」


 出港して沈没都市を見ながら海風を浴びていると、ドロテアさんが話しかけてきた。


 フォロー役のサブリーダーだから、そういった部分が気になってしまうんだろう。


「はい、フローラさんが手をまわしてくれたので、問題ありません。余りそうなくらい用意してもらいました」


「そう。まあ、ワタルなら足りなくても外海に出ればなんとでもなるんだから、余計な心配だったわね」


 ドロテアさんが恥ずかしそうに笑う。でも、そうでもないんだよね。


 たしかに生活する分にはなんとでもなるんだけど、集めてもらった物資の大半は拠点で使う物だ。


 僕達だけならともかく後々はこの世界の住人が使う場所に、フェリーや豪華客船の品物をバラまくのは微妙だろう。開拓地にあふれる異世界グッズとか、違和感でしかない。


 フローラさんとの打ち合わせの翌日には、倉庫に物資が集まり始めていた。


 その物資を夜中にコソコソと回収しに行くのが、この五日間の唯一の外出だったんだけど、毎日コツコツとゴムボートで送還したから、かなりの量になっている。


 倉庫も物資も何もかもを、秘密裏に動かせるように手をまわしてくれたフローラさんには感謝だ。


 フローラさんと商売の神様の契約を交わした僕、グッジョブ。



 ***



「ご主人様、到着しました」


 ドロテアさんとの会話の後、船内に戻ってのんびりしているとフェリシアから到着の声が掛けられた。


 船室からでて陸地を確認する。


 ……分かっていたことだけど何もない。さすが未開地だな。


「うーん、資料で分かっていたことだけど、やっぱり遠浅でフェリーの停泊は難しそうだね」


 陸地から目を離し海の中を観察する。海の透明度が高いので普通に底まで見える。浅い。


 王都みたいに目の前に沈没都市が広がる訳じゃないから、手を入れようと思えばなんとかなるにしても、さすがに一からフェリーが入れる港を作るのは時間的に厳しい。村ができてからの課題かな?


 開発地の海岸にフェリーが横付けできれば、船偽装が必要にしてもそこを拠点にして一気に開発できて楽だったんだけど、そう上手くはいかないようだ。


「フェリシア、陸地に沿って船を走らせてくれる?」


「分かりました」


「アレシア達とイネスも海岸沿いの確認をお願いします」




「何もないわね」


 一通り開拓地の海岸沿いを確認して意見交換を始めると、アレシアさんが開口一番で身も蓋もないことを言ってしまった。


 気持ちは分からないでもないが、残念そうな顔はやめてほしい。そうそう未発見の遺跡やらダンジョンは見つかりません。っていうか、あったら困ります。


 忘れているかもしれませんが、開拓拠点の候補地を探しに来たんですからね?


「森は分からないけど、平地は魔物の影は薄い」


 斥候職のマリーナさんが言うなら信頼できる。平地に魔物が居ないのは開拓しやすいよね。


「開拓するならやっぱり平地ですよね?」


「開拓が楽なのは平地だけど、海風が直接当たると畑が難しいし水場が無いのが辛いわね。それなら歩いて半日ほど海から離れるけど、森の中でも小川が平地に近い場所に拠点を作った方が良いんじゃないかしら?」


 僕の質問にイルマさんが資料と現地を見比べて意見を出してくれる。さすが色っぽいだけじゃないインテリなイルマさん。説得力がある意見だ。


「アクアマリン王国は魚人が多い島なんだから、交流を考えても海辺に拠点を作った方が良いんじゃないかしら? どちらにせよ港は必要だもの」


 ドロテアさんの意見も真っ当だな。特に開拓当初は食料も乏しいから、船での輸送と海の恵みは重要だと思う。


 イルマさん、ドロテアさん、そこでどうするの? と僕に視線を向けられても困ります。


「港に適していて水場が近い場所はありませんか? あと農作物を育てられれば言うことはありません」


「そんな都合の良い場所があれば、すでにこの国が開発していると思うわ」


 ですよね。イルマさんの言う通りだと僕も思います。唯一の小川が、海側だと森の中心にあるのが痛い。


「小川が海に流れ込んでいる場所は森の中ですから、港にするには切り開かないといけませんね。そもそも、小川の水がどこまで農耕に耐えられるかが疑問です」


 うーん、ドロテアさんの言う通りなんだよなー。海に流れ込んでいる小川もルト号から確認したけど、川幅は3メートルに届かないくらいで、用水路を少し大きくしたくらいの雰囲気なんだよね。大規模な農耕は難しそうな気がする。 


 さすが未開地、中途半端で辛い。帯に短したすきに長しってこういう時に使うんだろう。


 森を切り開くのも……どうなんだ? むやみに森林伐採なんてしなければ怒られることはないだろうけど、森の女神様にゾッコンな僕としては避けたい行動だ。


「……とりあえず、水が無ければどうしようもありませんし、最初はイルマさんが選んだ場所を仮の拠点にしてみましょうか」


 森の傍の平地で一番小川に近い場所なら、森から水路を引っ張ってくるのも可能じゃないかな? 井戸は……そこに住む人達の判断に任せよう。


 でも、食料の問題を考えると、海から歩いて半日は辛い気もする。僕達ならどうとでもなるけど、百人以上集まったら餓えるよね? 森の恵みでなんとかなるのか?


 ……最悪、ダークエルフの村みたいに、食料を大量援助してなんとかしよう。


「ご主人様、港はどうするの? ドロテアが言った通り、この国では港は重要よ?」


「後で港も作るよ。町、いや、村を二つ作る感じかな?」


 お金ならある! だから両方作っちゃえ作戦だ。


「ワタル、先に港から作った方が良いんじゃない?」


 ドロテアさんがなんで奥が先なのと首を傾げて質問してくる。港が重要だと理解しているならなぜ? といった感じだな。その気持ちは十分に理解できるが、なかなか判断が難しいんだよね。


「それも考えたんですが、港の場所が決めきれません。森を切り開いて森の中に港を作るのと、小川から水路を引いて平地に港を作るのって、どっちが楽で便利なんでしょう?」


 素人には手に余る問題です。 


「ご主人様。森の中だと港を拡張するのも難しいですし、道を通すのも大変です。それなら水路の方が楽ではないでしょうか? なにより、森の女神様の信徒としては、森はできるだけ元の姿のままにしておきたいです」


 フェリシアは水路派か。森の女神様に嫌われたくない僕としてもそっちよりの意見だ。


「水路は作るのが難しいし、管理が大変よ?」


 そうなんだよな。イルマさんが言う通り、傾斜やら水の維持やら色々と手間が掛かる。


「……どちらが良いか決めきれないので、先に奥の村から作ってみようって考えています」


 僕の先延ばしの意見に、全員が納得してくれた。


 ……納得してくれたというよりも、僕が難しい決定を先延ばしにすることに慣れて、ワタルならそうするわよねって感じなのが、少しだけ悲しい。優柔不断でごめんなさい。


 とりあえず、自分では決めきれそうにないので、王都に戻った時にでもフローラさんに専門家の意見を集めてもらおう。


「……じゃあ、とりあえず目的地を確認しに行きましょうか。現地に行ったら不都合があるかもしれませんからね」


 ここで話していても机上の空論だよね。なにより、この微妙な雰囲気から脱出したい。


 ルト号を陸地に寄せ、上陸する。


 さて、目的地までの移動は……天気もいいしアッド号で風を感じるのも良さそうなんだけど……船の召喚枠がルト号を送還しても三つしか残っていないから、二人乗りの水陸両用バギーだと全員が乗れない。


 アッド号の出番は目的地の周辺探索まで待つとして、ここはレンジャー号の出番だな。


 水陸両用バス、カッコいいんだけどほとんど出番が無いから、こういう時に活躍してもらいたい。


「あら、久しぶりね。地竜の時以来かしら?」


 アレシアさんが懐かしそうに目を細める。たしかに久しぶりだけど、そこまで昔の事じゃないよ?


「地竜の攻撃にも耐える強くて良い子」


 カーラさんがレンジャー号を褒めるように撫でる。盾職として、なにか感じるものがあるのかもしれない。


 でも、頑丈なのは不壊スキルのおかげで、普通のバスなら地竜の突撃で凹むと思います。まあ、言わないけど……。


「では、出発しますのでレンジャー号に乗り込んでください」


 久しぶりの運転だからちょっと楽しみだ。歩いて半日程度なら、バスならわりとすぐに到着するかな?


読んでくださってありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
今回は優柔不断と言うより、確実に手を付けられる所から手を付けてるだけだからなあ。やってみて気付く事もあるし、あまり悪口にしてやるのは今回は可哀想だなと。今回は。
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