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めざせ豪華客船!!  作者: たむたむ
第十三章 ダークエルフの島の発展
313/572

26話 普通

 光の神様達からの手紙をクラレッタさん、カーラさん、フェリシアに渡した。カーラさんは美食神様からグルメレポート風の手紙をもらい、実際にその料理を食べてご満悦だけど、他の二人は……まあ、予想通り、感極まって落涙している。


 目の前に涙を流している美女が二人……アーデルハイト女王陛下の時も思ったけど、神様に対する信仰心が凄いよね。


 あまり宗教に深く関わっていない現代日本人からしたら異様な気がするけど、実際に神様の存在を身近に感じることができるこの世界では、普通のことなんだろう。


 僕も実際に神様に会っているから強い信仰心に目覚めてもおかしくないんだけど、初めて会ったのが創造神様で、下界の神像とのあまりの違いに信仰心よりも疑惑が目覚めたからそうはならなかった。


 光の神様と最初に会っていたら、少なくとももっと教会に通っていたと思う。


「それで、どんなことが書かれていたのか聞いてもいいですか?」


 クラレッタさんとフェリシアが落ち着いた頃合いを見計らって質問する。


 手紙の内容を聞くのは悪趣味な気もするけど、そこまで感動されると僕の好奇心が疼いてしまうよね。


「もちろんです! 聞いてくださいワタルさん!」


 疼いていた好奇心が、クラレッタさんの強い視線に押されて萎んでいく。


 あの目はあれだ、コアなマニアが自分の趣味を全開で語れる機会を得た時の目だ。どうやら地雷を踏んでしまったらしい。


「まずですね、光の神様は私の日頃の何気ない信仰を褒めてくださいました!」


 こまめに教会の掃除やお祈りをしていることを褒めたってことかな?


 でも、日頃の細かい努力を知ってもらえていると、たしかに嬉しいよね。


「次に、冒険者としての活動もお褒めいただきました! 私達ジラソーレの行動は、人のいとなみを助け、むやみに破壊をもたらさないバランスが取れた行動なんだそうです!」


 ……角兎としか真っ当に戦った覚えが無いから冒険者のことはあまり理解できないが、危ない魔物を倒して無茶をしてないってことを褒めたのかな?


「そして、ワタルさんに協力していることが、神の意に沿うことだと教えてくださいました。これからもワタルさんのお力になれるように頑張りますね!」


 おぉ、これは嬉しい。たぶん僕がジラソーレの皆が居なくなると困るって分かっているから、少し口添えをしてくれたんだな。光の神様、ありがとうございます。




 ……クラレッタさんの興奮は続き、今は手紙の内容から逸れて光の神様の偉業や素晴らしさを語っているので、僕としては、うんうんと頷くことしかできない。


 クラレッタさんから光の神様の手紙の内容を聞いて僕が思ったことは、普通のことしか書いてなくね? ということだ。


 神様が神として信者を褒めるというよりも、学校の先生が通知表で生徒を褒めるような、そんなありふれた内容な気がする。


 毎日コツコツと努力して偉いですねとか、小学生の通知表の内容そのものだよね。


 ……あっ、普通でいいのか。


 光の神様達と話している時に、クラレッタさんが深い信仰に進まないように注意してくれるって言っていたもんな。


 通知表みたいな内容の手紙でもこの反応なんだし、もしも光の神様が信仰に身を捧げるようにとか書いていたら、本気ですべてを捨てて信仰のみに生きかねない危うさが、クラレッタさんには間違いなくある。


 光の神様、グッジョブです。会わせようとした時に注意してくれてありがとうございます。 


「それでワタル……」


「なんですか?」


 クラレッタさんの様子が変わった。敬称も取れているし、話している間に冷静になったようだ。


 なぜか頬を赤らめてモジモジしているけど……。


 もしかして、光の神様が僕に協力していることを褒めたから、更に協力の度合いをアップして、身も心も捧げて協力してくれるつもりとかですか? もしそうなら大歓迎ですよ! 


「光の神様から頂いたこの手紙なのですが、ワタルさんの船の紙ですよね?」


「はい、そうですけど?」


 だからなんなんだろう?


「どのように保存すれば、少しの劣化もなく保存できますか? この手紙は私の、いえ、人類の宝なんです!」


 この世界にない紙の保存方法が聞きたかったのか。恥ずかしがる必要がどこにあったのかは疑問だけど、僕に方法を聞くのは間違っていないな。


 書類を保存するのはクリアケースなんかに入れたりするけど、少しの劣化もさせずにとなると、クリアケースでは難しいよね。


 和紙と墨汁なら千年以上もつと聞いたことがあるけど、劣化はするだろうし……。


「大切に保存しても劣化を防ぐのは難しいと思います。僕の船召喚で収納するか、古代文明の遺産で時折発見されるように、状態保存の魔術を掛けるのが一番じゃないですか?」


 魔導船が今でも使えるのは、状態保存の魔術が掛かっているからだと聞いた覚えがある。


「うぅ……状態保存の魔術なんてすでに失われています。部屋に祭壇を作ってお祭りしたいのですが、ワタルさんに預かって頂くのが一番なのでしょうか? 教会に奉納すると騒ぎになってしまいますし……」


 クラレッタさんが思考の海に沈んでしまったようだ。


 部屋に祭壇って言葉が少し引っかかるが、まあクラレッタさんのさせたいようにさせておこう。でないと暴走しそうな気がする。


「あー、フェリシアの手紙にはどんなことが書かれていたの?」


「いつもダークエルフのことを見守ってくださっていることと、ご主人様にお仕えすることの意義、辛い立場にいる同胞への心配と力になれないことに対する謝罪、ダークエルフの島の発展を喜んでくださっている内容が書かれていました」


 フェリシアが手紙の内容を端的にまとめて教えてくれた。あれだけ感涙していたのに急に冷静になったな。


 僕の疑問を感じ取ったのか、フェリシアがクラレッタさんを見て苦笑いをした。なるほど、クラレッタさんの暴走を見て冷静になったんだな。


「ご主人様。森の女神様の手紙を預かって頂けますか?」


「うん。それは構わないけど、ダークエルフの島の人達に見せなくてもいいの?」


 森の女神様から秘匿するようには言われていないし、ダークエルフの皆のことが書かれているのなら、見せてあげた方が喜ぶんじゃないかな?


 色々と秘密があるのは確かだけど、ダークエルフの島は隔離されているしクリス号にも招待するんだから、秘密にするメリットよりも公開する方が士気的な面でもメリットが大きい気がする。


 なにせダークエルフ達が信仰する森の女神様から、証拠付きで見守っていることを知れるんだもんね。みんなのやる気がマックスになるのは間違いないだろう。


「お手紙は島の皆がクリス号に来た時に公開したいと思います。その時に恐れ多いことですが、お手紙を写真に撮らせていただくつもりです。以後は再びご主人様に手紙を預かって頂いて、写真をダークエルフの島の祭壇に祭ろうかと思います」


 あっ、クラレッタさんもフェリシアも祭壇に祭る考えなんだな。


 神様の言葉が書かれたありがたい石板なら理解できるけど、日常的な文章を祭るのはどうなんだろう? 美食神様の手紙なんてグルメレポートだよ?


「写真! それは思いつきませんでした! それであれば、ワタルに光の神様からの手紙を預かってもらいつつも、身近に光の神様の慈悲を感じることができますね。フェリシア、素晴らしい考えです!」


 話の内容は理解し辛いが、美女二人が手を取り合いながらキャッキャしている様子は素晴らしいと思う。


 でも、神の慈悲とか、そういう強い言葉は怖くなるから止めてほしい。


「えーっと、カーラの手紙はどうします?」


 食べ終わってしまった料理のお皿を、残念そうに見つめているカーラさんに声を掛ける。


「んー。ワタルが預かってて」


「分かりました」


 カーラさんは淡白な反応だな。地球と一緒で人によって信仰の度合いはマチマチってことのようだ。


「こうしてはいられません。まずはデジカメ? でしたか、あれを購入しなければいけません。一番いいのを探さなければ! ワタル、アドバイスをお願いします。いえ、その前に教会で感謝の祈りを捧げなくてはいけませんでした! ワタル、失礼しますね」


「……フェリシアも行ってきていいよ」


「ありがとうございます」


 駆けながら部屋を出ていくクラレッタさんを見送り、ちょっと羨ましそうにクラレッタさんを見送っているフェリシアに許可を出すと、フェリシアも早足で部屋を出ていった。


「……あの二人、大丈夫だと思いますか?」


 なんだか心配になって、置いて行かれたカーラさんに声を掛ける。普段のクラレッタさんならカーラさんを忘れるなんてありえないから、少なくとも正常ではないよね。


「たぶん、今日は教会から出てこないと思う」


 フェリシアも出てこないんだろうか? 光の神様達との四日間と、創造神様&神々の接待の四日間。あわせて八日間もご無沙汰だったから、フェリシアが居ないのはちょっと悲しい。


「……そうですか。……ではとりあえずアレシアさん達とイネスと合流しましょうか」


「うん」


 悲しいけど、本当に祈りが神々に届いていることを知っているから止めづらい。


 合流した後は、久しぶりだしリムとペントとたっぷり遊ぼう。それで夜にはイネスとシッポリと……。


 ***


「光の神。ちょっと刺激が強すぎたんじゃない?」


「信仰している神から手紙を受け取れば、あれくらいの反応は普通です。それよりも美食神、あなたの手紙の方が微妙でしょう。なぜ下界の民とグルメレポートを交換する形になっているのですか? 神としての威厳が心配ですよ」


「別に神託を出す訳でもないんだから、あれくらいがちょうどいいのよ」


「うちの子は比較的冷静でした」


「森の女神の信者の子は、感情が表に出にくいだけじゃないの? あっ、光の神、そういえば聞きたいことがあったんだけど、いいかしら?」


「なんですか?」


「創造神様を見た時、一瞬で纏っていた光が消えたでしょ?」


「……はい、消えましたね」


「あれって、勝手に消えたのか、光の神の意思で消したのか、どっちなの?」




「見られたら面倒だと思ったのです……」


読んでくださってありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
[一言] 前話のカーラの拳について、神達スルー(笑)
[一言] ああ、よかった。 光の神様はストレスで光が消えたんじゃ無くて、 意図的に消したんですね。
[良い点] 主人公の存在が、下界のみならず神界の調和や新しい風(考え方)を齎しているところ。 今迄、多分手紙を送ろうなんて考えすら無かったのだろうから、その点誰からも捏造し得ない手紙という方法は、場合…
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