16話 ダークエルフの島への帰還
更新が遅れてしまいました。申し訳ありません。
戦争等で酷く傷ついてしまった子供達のメンタルケアについては、枢機卿なんて教会の大物が出現してしまったので、お金だけ大盤振る舞いしてカリャリの街からは撤退することにした。偉い人はとても苦手だ。
「クラレッタ。アレシアはどうですか?」
偉い人はとても苦手だけど、機嫌が悪い美女はもっと苦手だ。アレシアさん、早く機嫌を直してほしい。
「あっ、ワタルさ……ワタル……えーっと、まだあんまり機嫌は良くないようです。かなり引きずっていますね」
機嫌の悪い美女はとっても苦手だけど、いまだに呼び捨てに慣れなくて頬を赤らめる犬ミミ巨乳美女はとても素晴らしいと思う。
僕でも表面上は普通に呼び捨てにできるようになったのに、クラレッタさんはウブだよね。ごちそうさまです。
……いかん、クラレッタさんがあまりにも素晴らしい表情をするものだから、本来の目的からズレてしまった。
「そうですか、まだ駄目ですか。いつ頃吹っ切れそうですか?」
「うーん、そうですね……分からないです。今回はかなり酷く喧嘩をしてしまいましたから。でも、さすがに南方都市に到着する前には普段のアレシアに戻ると思います」
アレシアさんは機嫌が悪くても僕達に当たることなんてないから放置でも問題ないんだけど、ピリピリしているだけで気を使っちゃうんだよね。
南方都市まではまだ時間が掛かるし、ストレス発散をしてもらうか。
「とりあえず、船の周囲に魔物も集まっていますし、魔物討伐でもしましょうか?」
「あぁ、それは良いですね。では、私はアレシア達を呼んできますね」
「お願いします。こちらも準備しておきますね」
クラレッタさんも僕の考えをすぐに理解したようだ。八つ当たりされる魔物達は可哀想だけど、僕達の穏やかな船旅の為に犠牲になってもらおう。
「ふふ、アレシアも家族のことで機嫌を損ねるなんてまだまだね」
……家族に恐怖のどん底に突き落とされるイネスが、なぜか上から目線でアレシアさんを笑っている。
数か月後には確実に立場が逆転するだろうから見ていると哀れだな。ベラさんと合流した時が見ものだ。
でも、アレシアさんの機嫌を取れそうなのは良いんだけど、アレシアさんがガンガンフラグを建てて戻ってきてしまったのは困るよね。
ルッカに迎えに行った時にちょっとした惨劇が広がっていたから、詳しく話を聞いてみたら、フラグとしか思えない喧嘩をしていた。
シスコンのサヴェリオ君は当然のごとくアレシアさんと一緒に行くことを望んで、当然のごとくアレシアさんから断られる。
当然のごとく憤慨するサヴェリオ君は、当然のごとく僕のことを疑い、アレシアさんから怒られる。
当然のごとく納得できないサヴェリオ君は、アレシアさんだけではなく他のジラソーレのメンバーにお願いに行く。
当然のごとくドロテアさん達からも断られて、当然のごとく僕が何か秘密を握ってアレシアさん達を脅していると疑い、当然のごとく僕を非難する。
ここまでは前回と同じようなパターンなんだけど、ここからが違っていた。サヴェリオ君は成長していたのだ。
サヴェリオ君は考えた。前回無理矢理同行しようとして酷く怒られた。今回も同行を断わられたから、無理矢理同行しようとしてもまた怒られるだろう。
ならばどうする? 悩むサヴェリオ君に名案が閃く。そうだ! 一緒に行けないのであれば、アレシアさん達が旅立たなければいいじゃないか! と。
サヴェリオ君は根回しに奔走した。ジラソーレの家族や友人に協力を仰ぎ、冒険者ギルドではジラソーレがお世話になった先生や師匠も駆りだしたそうだ。
まあそれでも本来ならそこまで大きな騒ぎにはならないはずなんだけど、ジラソーレがルッカで英雄扱いされていることが悪い方向に働いてしまう。
そう、英雄は地元に居てほしいという、住民にとっては当然の願いがサヴェリオ君達の追い風になってしまった。
住民達の善意の嘆願といった細々とした引き留めから始まり、婿の斡旋、金品や地位での懐柔等の様々な引き留め工作が展開される。
幸いなことに、ルッカ侯爵や冒険者ギルドの上層部は僕(魔導師様)との関係性を重視していたし、ジラソーレの家族も一部を除いてアレシアさん達の自由を認めてジラソーレの味方だったので、アレシアさん達もなんとか引き留め工作を振り切りルッカを脱出……できれば、めでたしめでたしだったんだけど……。
サヴェリオ君が、ルッカから出ていくジラソーレの前に立ち塞がってしまう。
ここで、せっかくの里帰りを穏やかに過ごせなかったアレシアさんの不満が爆発。
僕がジラソーレを迎えにルッカの港に到着した時には、アレシアさん達にボコボコにされたサヴェリオ君のパーティーがゴミくずのように地面に転がっていた。
プリプリしているアレシアさんを回収し、暗い怒りを目に宿したサヴェリオ君から逃げるように出発したんだけど、あの目はもう手段を選ばないって目だった。
これってもう確実にフラグだよね。シスコン乙って笑い話から、どんな手段をとっても姉さんを取り返す! 的な、サイコな物語に変わるフラグだよね。
それで酷い目に遭うのが僕なんだろう。美女は寿命を縮めるって話を聞いたことがあるけど、本当なのかもしれない。
「ワタル。魔物退治ね! 少し暴れたい気分だからガレット号をお願い!」
恐ろしい話を思い出して恐怖していると、ストレス発散の機会にやる気満々のアレシアさんが現れた。
……ふむ……煌めく美貌のアレシアさん。それだけでも目に優しいのに、その美貌に負けず劣らずの美貌のドロテアさん達。後光が差していると言っても過言ではない光景だ。
少しくらい寿命が縮んでもしょうがないのかもしれない。幸いなことにレベルアップで寿命が延びる世界なんだし、減った寿命以上にレベルを上げれば採算は合うだろう。
サヴェリオ君の為にジラソーレから距離を取るなんて、もったいなさすぎてできない相談だよね。
……うん。僕の決意は固まった。フラグは叩き折ろう。
僕のホームグラウンドは外海。サヴェリオ君達がどう努力しようとも簡単にはたどり着けない場所だ。
問題になるのは上陸する時や、アレシアさん達が里帰りする時だけど、そこはまああれだ、孤児院の時と同じように有り余る財力に物を言わせてしまおう。
今回は慈善事業費じゃなくてプライベートな資金だけど、こちらも十分な余裕がある。
あの様子だと、アレシアさんを追って旅立つのは間違いない。僕達が南方都市によく顔を出すのは調べれば分かるだろうし、南方都市の商業ギルドのマスターにお願いするか。
サヴェリオ君達の行動を把握してもらって、僕達とのすれ違い生活を送ってもらおう。
「ワタル。なにか企んだような笑い方をしているけど、どうしたの?」
おっといけない。僕の決意が表情に滲み出してしまったようだ。
「いえ、なんでもないですよ。すぐにガレット号の準備をしますね」
あっ、コソコソとサヴェリオ君との分断を図っていたことがバレたら、後で問題になるかもしれないな。
ふーむ。情報を手に入れてアレシアさんから会いに出向くパターンも考えられるけど、サヴェリオ君が僕達を追って無謀なことをしそうだから、行動を把握するためにも南方都市で手を打ったほうがよさそうだとでも相談しておくか。
サヴェリオ君対策でアレシアさん達に嫌われたら元も子もないもんね。
たぶん、アレシアさんも困った表情で納得してくれるはずだ。
これだけ対策して、ほとんどサヴェリオ君と会う機会が無くなれば、フラグも消滅するよね。
……あれ? これもフラグ?
***
ようやくダークエルフの島に到着した。
魔物討伐の後はアレシアさんの機嫌も元に戻ったし、南方都市でも建築資材は揃っていてことさら問題になるような出来事もなかった。
サヴェリオ君の動向を把握する依頼も、少し変な顔はされたものの、若者特有の無謀なチャレンジをしそうな気配を説明すると、ギルドマスターも納得して手配してくれると約束してくれた。依頼料と手数料はしっかり取られたけどね。
「ワタル様。凄いですね! 四角い石が沢山あります。家が造れます!」
「そうですね。商業ギルドのマスターが品質のいい建築資材を用意してくれたみたいです」
うーん、最近、人を罠にはめるような汚い思考をしていたからか、リムを抱っこしながら大量の建築資材を確認して、無邪気に喜ぶアンネマリー王女を見ると……自分の心の汚さが浮き彫りになったように感じる。
なんだかすべてを告白して懺悔をしたい気分なんだけど、僕がそんな懺悔をしたら創造神様が償いのためだよとか言って、無茶なことをさせられそうな気がするので却下だ。
神様と面識があると、変なところに影響が現れるよね。
「ワタル様。荷下ろしはどうしますか?」
レーアさんが、ストロングホールド号の駐車場に積みあがった建築資材を見ながら僕に質問してきた。
そうなんだよね。それが問題なんだよね。
僕も建築資材を人海戦術で積み込んでいる時にその問題に気がついた。孤児院の時は下ろす時にカリャリの海軍の力を借りたけど、今回はそれが難しい。
建築資材の移動はゴムボートに載せて召喚と送還でなんとかなるが、ゴムボートに載せる時とゴムボートから下ろす時に人手が必要になる。
建築資材の石はかなり大きいのもあるし、人魚の男手も多いとは言えないから地味に大変な作業になりそうだ。
「ダークエルフの皆さんにも、協力をお願いした方が良いかもしれませんね」
「えっ?」
レーアさんが不思議そうな表情で僕を見ている。なんでだ?
「えーっと、建築資材を下ろす時の人手を心配していたのでは?」
「いえ、荷下ろしは私どもが頑張れば良いだけのことですので、ダークエルフの皆様のお手を煩わせる必要はございません」
頑張れば良いだけのことって普通に言えちゃうのは凄いな。僕なんか楽をしようって方向にしか思考が働かないから、ちょっとカッコいいと思ってしまう。
まあ、楽がしたいって気持ちが発明の切っ掛けにもなるから、卑下はしないけどね。
「じゃあ、なんの質問だったんですか?」
「いつ荷下ろしを始めるかの質問だったのですが、言葉足らずで申し訳ありません。村づくりを開始できることに興奮していたようです」
なるほど、村作りって大変そうだけど楽しそうでもあるもんね。ダークエルフの人達も、村を作る時は張り切っていた。レーアさんもそんな気持ちなんだろう。
「僕達は何時でも大丈夫ですが、段取りも大切ですからみんなで話し合ってから荷下ろしを始めましょうか」
「そうですね。明日にでも話し合いをお願いしても構いませんか?」
今からでも構わないんだけど、帰って来たばかりだから遠慮してくれたっぽいな。無理に急ぐ必要もないし、話し合いは明日にするか。
村づくりはダークエルフの時に体験したけど、海中の村は初めてだし、どんなふうになるのか少し楽しみだ。
読んでくださってありがとうございます。




