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めざせ豪華客船!!  作者: たむたむ
第二章 モーターボートで荒稼ぎ!!
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12話 裁判と判決

 朝だな。全員分の朝食を用意して、お風呂掃除、隣の天幕のジャイアントディアーを和船に乗せて布をかけておく。布をかけておけば、今度こそ入港時に騒ぎは起こらないはずだ。まあ、今更な気もするがやらないよりはマシだろう。


「あっ、みなさんおはようございます」


「おはようございます」


 テントからアレシアさん達が出てきたので挨拶を交わす。


「簡単な物ですが、朝食の用意ができています」


「ワタルさん、いつもありがとうございます」


 アレシアさんが嬉しそうにお礼を言ってくれる。基本的に船での送り迎えが仕事なので、こういうサービスは今までなかったらしく、すごく感謝してくれる。


「いえいえ、気にしないでください。さあ食べましょう」


 でも、15金貨ももらえるのに、食事の準備くらいしないと、僕の方が申し訳ないよな。濡れ手に粟とはこの事なんだから、少しくらい還元しないとな。


 朝食を済ませ、南方都市に向かって出発する。


 ***


「ふう、無事到着しました。みなさんお疲れ様でした」


 順調に南方都市に到着し、アレシアさん達に声をかける。


「ワタルさんもお疲れ様でした。商業ギルドまでお送りしますね」


「ありがとうございます。お手数ですが、よろしくお願いします」


 毎回手間をかけてしまうが、命が懸かっているのでお言葉に甘えてアレシアさん達に商業ギルドまで送ってもらう。まあ、美人集団のジラソーレと一緒に歩けるのは嬉しい事のはずなんだけど、男達の殺気のこもった視線は、和船を手に入れようとする視線じゃなくて、ジラソーレと一緒に歩いている男が気に食わないって視線なんだよね……敵が増えてるな。早く護衛の2人と合流したい。


「みなさん、送って頂いてありがとうございました」


「ふふ、いいのよワタルさん。また島の依頼をお願いすると思うからよろしくね」


「はい」


 アレシアさん達と別れて、商業ギルドに入り手続きをする。


「護衛の呼び出しと、依頼の完了確認をお願いします」


「かしこまりました。……依頼完了ですね。報酬は15金貨になります」


「3金貨を現金で、残りを口座にお願いします」


 依頼完了の報告をしているとカミーユさんが声をかけてきた。なんだか困った表情をしているんだが、厄介ごとなんだろうか? ちょっと嫌な予感がするな。


「ワタルさん、ギルドマスターがお待ちですので、こちらに来て頂けますか?」


「ギルドマスターがですか? ……別にかまいませんが……護衛の2人がくるんですがどうしましょう?」


「来られたら、部屋まで案内するように手配しておきます」


「分かりました」


 ギルドマスターの部屋か……このパターンってテンプレ的には褒められるか厄介ごとかなんだよな。カミーユさんの表情から、厄介ごと確定な気がする。カミーユさんに案内されてギルドマスターの部屋に向かう。


「ワタル、きたか。厄介ごとじゃから心して聞け」


 部屋に入ったとたん、ドキドキする暇もなく厄介ごとが確定した。情緒がないよ、ギルドマスター。


「帰っていいですか?」


 厄介ごとなんて勧誘や襲撃でもう沢山起きてるよ。またなの? 予想はできていても嫌なものは嫌だな。本気で帰りたい。


「まあ話を聞け。ザボと言う商人を知っておるか?」


「ザボですか? うーん、聞いた事が有るような、無いような……分かりません」


 商人とか連続で会い過ぎて誰一人覚えてないよ。


「そうか、分からんか。じゃが、そのザボがワタルの魔導船は盗まれたザボの家の家宝だと言っておる。それでワタルの逮捕と魔導船の返還を要求しておるんじゃ」


「は? 意味が分からないです。身に覚えもありませんし、勘違いしているんじゃないですか?」


「やはり身に覚えはないか。ザボの奴は評判の悪い小悪党だから、言いがかりだろうとは思っておった」


 うーん、評判の悪い小悪党が、和船を狙ってきたって事か?


「言いがかりって分かっているのなら、もう相手にしなければいいんじゃないですか?」


「それがそうもいかんのじゃ。ザボには後ろ盾の貴族がおっての。その貴族があの魔導船はザボの家の物で、その貴族も乗った事があると言っておる。貴族が出てくると面倒なんじゃ、きちんと裁判で結果を出さんといかんのでな」


「なんですかそれ、貴族が僕も乗ったよーって言うだけで魔導船をかっぱらえるんですか? この国は大丈夫なんですか?」


 ガキ大将が貴族とか笑えないんですけど。


「そんな訳あるか。馬鹿な貴族もおるが、まともな貴族もおるよ。しかし貴族が出てきた以上きちんと調べて対応せんといかん。馬鹿な事言うなで無視して終わりにはできんのだ」


「はー、本当に厄介ごとなんですね……帰りたい」


 異世界に落ちて、裁判を経験する事になりました。泣きそう。


「護衛のお2人をお連れしました」


 世の中の理不尽を嘆いていると、カミーユさんが護衛の2人を連れて部屋に入ってきた。


「あのー、ディーノさん、エンリコさん、また厄介ごとに巻き込まれたみたいなので、よろしくお願いします」


 ディーノさんは苦笑いで、エンリコさんはニコニコ顔のまま頷いてくれた。一応今までの流れを説明すると、僕がザボと会ったことがある事が判明した。


「あー、あの一番最初に宿に押しかけてきて、契約だなんだとうるさくてなかなか帰ってくれなかった人がザボなんだ。えっ? あの人、契約しろって押しかけてきて、その後にあの魔導船は盗まれた家の家宝だって言い出したの? それで通るの?」


「まあ、貴族が出てきて証言したからな。ワタルも反論して相手を納得させねばならん。負けたら捕まるぞ」


 ギルドマスターが嫌な事を言う。俺、犯罪者一歩手前って事?


「でも、相手は貴族を後ろ盾に、魔導船を奪おうとしてるんですよね? 何言っても認めないんじゃないんですか?」


「うむ、その可能性は十分にある。だから今回はもっと上の貴族に立ち会ってもらおうと思っておる」


「たかだか低ランクの冒険者兼商人のために、上の貴族が立ち会ってくれるんですか?」


「普通ならそんな事にはならん。だが、ザボの後ろ盾は男爵でな、その力を借りて好き勝手やっておったのだ。しかしこの南方都市に出てきてからは、男爵以上の貴族もいるから、力が通じず店が上手くいかなくなった。それで、あせって後ろ暗い事に手を出しておるようじゃし、この際ザボと男爵も一緒に綺麗にしようかと南方伯様にお願いしておいた」


 社会のゴミをこの機会に掃除したいらしい。


「なるほど、僕はエサなんですね。それでどうするんですか?」


「どうするのかは、ワタルしだいだな」


「えっ? 僕が何とかしないといけないんですか?」


 何その煽るだけ煽って大火になったら、自分だけ手を引くみたいな行動。商人って信用第一なんだよ?


「あたりまえだ。訴えられたのはワタルだから、商業ギルドが参戦する理由がない」


「僕は商業ギルドのギルドカード持ってます。守ってくださいよ」


「ザボも持ってるな。Bランクだ。ワタルはFランクだから、その理屈でいけばワシ等はザボを守らんといかん」


「はー、面倒だ。南方伯様は相手の矛盾を暴けば、きちんと判定してくださる方ですか?」


 賄賂を贈らないと駄目とか言われたら、黄金のまんじゅうを用意しないと。


「うむ、貿易都市を治めている方だ。油断できないところはあるが、馬鹿な悪党の味方をする事等ありえんな」


 賄賂は贈らなくても大丈夫そうだな。南方伯様も男爵を排除したいみたいだし、和船を自分の船だって証明すればいいのか。それなら何とかなりそうだな。


「んー……分かりました。それでいつどこで証明すればいいんですか?」


「うむ、南方伯様の時間が空いたらすぐに城でだな。だからいつ始まるのかは分からんが、ワタルが戻ってきた事は報告してあるから、すぐに返事がくるだろう」


「は? 何でそんなに適当なんですか? 南方伯様ご臨席の裁判なんですよね?」


「ザボや男爵が、ワタルに逃亡の恐れがあるのですぐに拘束しろとねじ込んでくるのだ。拘束なんぞされたら牢屋でサクッと殺されるだろうから、南方伯様に無理を言って時間を空けてもらったのだ」


 何その怖いシステム。牢屋に入ったらサクッと殺されるの?


「普通ならこんな事ありえん。今回は無能な男爵の処罰目的で協力してくださるから、無理を聞いてくださったのだ」


 なるほどね。要するに、南方伯様の期待も背負わないと駄目って事か。うっとうしい話だな。


「はあ、分かりました。何とかします」


「まあ、ザボも男爵も南方伯様が裁判にご臨席されると知ってあせっておるようだ。ワタルに付けておいた影も、ワタルを襲おうと付け狙っておるゴロツキがおったと報告してきた。ジラソーレがおったから襲撃は諦めたようだがな」


 南方伯様の予定外の行動で、僕を殺したくてしょうがないらしい。


「ギルドマスター。南方伯様から2時間後に城にくるようにとの事です」


 秘書さんらしき人が、南方伯様からの伝言を伝えにきた。残り2時間とか準備する暇がほとんどないな。完全に出たとこ勝負だ。


「分かった。そういう事だワタル、できる限り準備をしておけ」


「了解です」


 はー、裁判なんか受ける事になるとは……目立つと本当にろくな事がないな。いざとなったら船召喚で船に引き籠ってやる。とりあえず、自分の潔白を証明するには……船召喚の能力に頼るのが一番だろうな。まずはギルドマスターに相談してみよう。


 ***


 自分の無実を証明するために魔導船が必要だと言ったら、ギルドマスターが部下に言って運んでくれる事になった。乗船許可を出さないと触れられないので、理由をつけて一緒に行くのが面倒だな。船においてある荷物を降ろし城に向かう。


 約束の時間の少し前にギルドマスターと共に城に着くと、大きな部屋に通された。城の兵士が和船を調べるので、またこっそりと乗船許可をだしまくる。こういう時に乗船許可って面倒だよな。まあ、セキュリティが万全な事はいい事なんだし、少しの手間ぐらい許容しよう。


 柵に囲まれた場所に連れていかれ、跪いて待つように言われた。和船は部屋の真ん中に置かれている。柵の向こうの大きな机に裁判官が座るのかな? ギルドマスターは後方の離れた場所に座っている。雰囲気的には日本の裁判所と似ているっぽい。まあ、裁判所なんてドラマとかでしか見た事ないけど。


 しばらく跪いて待っていると、10人以上の騎士が入ってきて壁際に並んだ。そのあとをザボと太ったおっさんが入ってくる。あのおっさんが男爵なのかな?


 次に奥の扉が開き、3人の上等そうな服をきた男達が入ってきた。ザボや男爵も跪いたので、三人の中に南方伯様もいるんだろう。


 跪いたまま様子をうかがっていると、1人だけ椅子に座り、あとの2人は左右に立っている。真ん中が南方伯様か。表情が変わらない真面目そうなおじさんだな。南方伯様の左隣にいる人がしゃべりだした。


「これより商人ザボが訴えを起こした、魔導船の盗難について審議する。なお南方伯様がご臨席であるので不敬は許さぬ」


 いよいよ裁判の始まりか。


「ワタルよ。ザボの訴えに反論はあるか」


「はい、この魔導船は盗んだ物ではございません。きちんと対価を払い購入しました」


「嘘でございます裁判官様。あの魔導船は我が家の家宝でございます。こちらのベンヴェヌート男爵様にもご乗船頂いた事がある大切な魔導船なのです」


 悲痛な表情でザボが裁判官に訴える。僕もあれくらい感情をあらわにした方がいいんだろうか?


「ベンヴェヌート男爵。ザボの言葉違いないか」


「はい、私が乗った魔導船に違いありません」


「ワタルよ、反論はあるか」


「はい。言葉で説明しても水掛け論になりますので、魔導船を使って審議して頂きたいのですが、よろしいですか?」


「うむ、構わぬ」


 おう、はじめて南方伯様がしゃべった。もう面倒だからいきなりクライマックスでいいよね?


「ありがとうございます。では、ザボさんあの魔導船を起動させてください」


「はあ? なにをいきなり」


 ザボが憎々しげな表情を僕に向ける。厄介ごとに巻き込んでおいてこの態度。さすがにムカッとするな。


「ですから、あの魔導船が家宝だったのなら、あの魔導船の起動のしかたは当然分かりますよね? ですから起動して証明してください」


「簡単な事です」


 自信満々にザボが和船に近づく。ギルドマスターに聞いたところ、魔導船はいくつかパターンがある物の、所有者権限が付いていない物は、ある程度簡単に起動できるそうだ。和船は魔導船じゃないけど。


 はあ、もう帰りたい、こんなくだらない茶番に参加しているのが恥ずかしい。推理とか、証拠とか、そんなハラハラドキドキな展開ならまだ張り合いがあるんだけど、ただ魔導船を起動させるだけとか裁判としてどうなんだろう?


 しかもとても偉い南方伯様ご臨席の裁判。ましてや鍵を抜いてるから和船は絶対動かないできレース。虚しさすら込み上げてくるよ。


 ……ザボ、頑張るな。しかし、いつまで待てばいいんだろう?


「もうよい。ザボの訴えは偽りであると判断する」


「お、お待ちください裁判官様。これはあの者が何か細工をしたに違いありません。この魔導船は私のもので間違いないのです」


 あきらめないザボ。今度は僕が細工をしたと言い出した。


「魔導船ってそんなに簡単に細工ができる物なのでしょうか?」


 裁判官に聞いてみる。


「魔導船はいまだ解明されておらぬ技術の塊である。細工できる者なら高禄で召し抱えられるであろうな」


 どこか投げやりに答える裁判官。たぶんあの人もさっさと帰りたいんだろう。


「で、では、あの者が魔導船を壊してしまったのです」


「魔導船の起動をした方がいいですか?」


「うむ、魔導船を起動させてみよ」


「分かりました」


 懇願するような表情で僕を見るザボ。いや、さすがにこの状況で同情して起動させないとかありえないからね。全員の目の前でサックリエンジンを起動させて証明終了。


「ザボの訴えは偽りであると判断する。ザボ、ベンヴェヌート男爵、偽りの訴えで民から魔導船を奪い取ろうなど、その罪軽くはないぞ覚悟しておけ」


「い、いえ、私もザボに騙されただけでして」


 ベンヴェヌート男爵が汗を拭きながら、言い訳をしだした。  


「この裁判の前に、ザボとベンヴェヌート男爵の今までの訴えも確認しておる。後日再調査するゆえ見苦しい言い訳をするな」


 裁判官が言い訳をする男爵を一刀両断で黙らせる。ようやく茶番が終わったな。


 ***


 城から出るともう真っ暗になっている。ギルドマスターも係留所まで付き合ってくれるそうなので、和船を戻してさっさと寝よう。


「ギルドマスター、あんな裁判でザボと男爵はどうにかなるんですか?」


 係留所に向かう途中に、気になった事を聞いてみる。


「今回の裁判だけでも南方伯様の前であれだけの醜態をさらした。それにザボは裁判の私的利用で罪に問われるし、男爵は貴族社会では肩身が狭い思いをするだろうな。その上で今までの訴えの再調査だ。もうどうにもならんだろうな」


 色々やらかしていたから、もう貴族でも逃れられないところまで追いつめられてしまったって事らしい。


「そうですか。まあ、二度と関わり合いになりたくないので助かりますね。しかしあんな適当な訴えで今まで勝ってきたんですよね? よく勝ち続けられましたね」


「普通あの程度の裁判は簡易裁判所で裁かれる。身分も男爵より下の者ばかりだ。身分を笠に好き勝手していたのだろうが、南方伯様のご臨席だ。裁判所の格も上がり、裁判官も男爵より下の者などいない。捏造も脅しも賄賂も何もかも通用しなくてあのざまなんだろうな」


 ザボ達にとっては、予定外の事が積み重なって、対応できなくなったって事らしい。まあ、いい気味だよね。これで少しは平和になるといいな。


 残高 3金貨 21銀貨 70銅貨 ギルド口座 24金貨 40銀貨

誤字脱字、文面におかしな所があればアドバイスを頂ければ大変助かります。

読んで頂いてありがとうございます。

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