31話 約束
海神様のお願いで女王陛下と王女二人を教会に連れて行った。なんとなく関わりたくなかったので、女王陛下達だけを教会に入れて僕はレーアさんとお留守番をしていた……が、お留守番はお留守番で海神様の神託に感極まっているレーアさんが普段と違って大変だった。結局どちらを選んでも大変だったんだろう。
……そして今現在もとても大変だ。
「あぁ、あぁ、あぁ、信じられません。信じられません。まさかこんなことが起こるなんて! あぁ、あぁ、慈愛に満ち溢れ力強く雄々しいお声でした!」
「そうですねお母様。しかも、私達をとても心配してくださいました! 私にまでお声を掛けてくださり、母を支えて頑張るようにと……うぅ……」
「私も! 私もです! ワタル様が大切にしているダークエルフの島に行くのだから、王女として立派に務めを果たし、ワタル様の支えになれるように頑張りなさいとお言葉を頂きました! 頑張ります!」
女王陛下が胸の前で両手を組み、天を仰ぐように言葉を発する。
続いてそんな感極まった女王陛下にすがりつきながら、アダリーシア王女が感動で涙を流す。
更に続いてアンネマリー王女が、両手をムンと握りしめて頑張りますと宣言する。
そして、脇に控えたレーアさんがそっと涙をぬぐっている。
心の底から信仰している海神様からの神託。感極まってしまうのも理解できるし感動的な光景かもしれないけど、もう夕方だよ? 何回同じようなことを繰り返すの?
僕って女性や子供に対してはかなり気が長い方だと思うんだけど、さすがに疲れてきた。なんでこんなことになった?
えーっと……女王陛下達が教会から放心状態で出てきたんだよね。何度か話しかけてみたけど、ボーっとしちゃって反応が返ってこなかった。
幸い手を引くと一緒に歩いてくれたから、僕とレーアさんで部屋まで連れて帰ったんだ。
移動中に豪華客船の観光を始めた人魚達に見つかり、様子がおかしい女王陛下を心配して騒ぎになりかけた。
レーアさんと一緒に必死で問題ないと人魚達を説得し、ようやく部屋に到着したら、これまた待機していた人魚達が騒ぎだして頑張って事情説明。
海神様のことは話せないから、女王陛下達の状態を当たり障りなく説明するのがとても大変だった。
部屋のソファーに座らせて様子をみたが、30分ほど待っても放心状態から抜け出さない女王陛下達。
途中でお昼時になりイネスとフェリシアが昼食はどうするのかと聞きに来たが、放心状態の女王陛下達を連れ出すわけにはいかなくて、アレシアさん達と協力して人魚さん達をメインダイニングでもてなしてもらうことにした。
それからしばらくたってようやく女王陛下達が正気に戻ったので、温かい紅茶をご馳走。
紅茶を飲んでホッと一息ついた女王陛下が、部屋から僕とレーアさんを除いた護衛やメイドの人魚さん達を追い出し、そこから怒涛の海神様賛美が始まった。
美女や少女、幼女に対する表現としてどうかとも思うが、鼻息荒く話す女王陛下と王女二人。
口々に何が素晴らしかったやこんなお言葉を頂いたと、止まらない。そこに興味が天元突破してしまっているレーアさんが質問を重ねるから、もはや無間地獄だった。
途中で食事が終わったと知らせにきたイネスなんか、異様な雰囲気に僕を見捨てて逃げてしまった。だから、今もこの部屋に人間は僕一人だけだ。
今晩、イネスにHなお仕置きすることを誓い、それを支えに女王陛下達の相手をしている。
せめてリムが一緒に居てくれたらと何度も思うが、いっこうに姿を現してくれない。たぶん、カーラさんあたりと、おやつを食べていると思う。
怒涛の如く話された内容は、海神様の賛美を除けばシンプルな内容だった。
海神の神器を奪われたのは人魚のせいではない。
神託はくだせなかったがいつも見守っていた。
女王は人魚達を率いてよく国を治めている。
なんかそんな言葉を頂いたらしい。
たったこれだけの言葉であの長時間? と不思議に思って聞いてみると、他は海神様が女王陛下達に色々と質問していたようだ。
親戚のおじさんが年頃の姪っ子に聞くような内容で、僕の脳ミソが途中から理解を拒んだので詳しくは分からない。
怒涛のような海神様の賛美がようやく終わり、再び紅茶を飲みながらようやく落ち着いたと思ったら、発作のように突然海神様の賛美が繰り返されるようになった。
終わりが見えなくて辛い。
とはいえ、いつまでもハイハイとお付き合いしている訳にもいかない。昼食は無理だったけど、せめて夕食くらいは僕がみんなをもてなすのが人魚さん達に対する礼儀だろう。
決して逃げ出したいから礼儀うんぬんと言っている訳ではない。大人として当然の義務だからだ。だから準備のために部屋から離れるのも当然のことなんだ。
でもその前に、聞いておかなければいけないことがある。
「あの、女王陛下。少しいいですか?」
寸劇が終わったタイミングで声を掛ける。このタイミングを逃すと、下手をしたら更に20分は待たされることになる。
「あっ、はい。ワタル様、なんでしょうか?」
こうやって落ち着いていると、素晴らしく色っぽい女王陛下なんだけどなー。
女王陛下達からの信頼は上限知らずに上昇しているけど、今となっては迂闊にHなことも言えない。
下手をしたらワタル様がお望みならばとか言って、生贄になるのを覚悟した殉教者のごとく身をゆだねられそうだ。
海神様の神託からイメージがガラリと変わってしまった。ニャンニャンとか考えていた昔が懐かしい。過ぎ去ってしまった初恋……それを思い出す時と同じような切なさを感じる。
まあいい、初恋が実らないと言われているように、女王陛下とのアバンチュールなんか実る訳がないんだ。今は夢を見ていないで現実を見よう。
「あの、海神様から人魚に変化する神器を譲渡する許可は頂けたんですよね?」
そろそろ報酬を頂いちゃってもいいですか?
「えっ? ……いえ、そのような話は海神様からは……」
言葉に詰まる女王陛下。とてつもなく嫌な予感がする。
「もしかしてなのですが、そういった話が海神様からいっさい出てこなかったとか?」
「……はい……」
どういうこと? どういうことですか海神様!
言ったよね? 海神様、言ったよね? 女王陛下達を連れてくれば私から許可を出そうって言ったよね?
僕頑張ったよ?
その結果、海神様の賛美を延々と聞かされる苦行を味わうことになったのに、許可を出していない?
……この気持ちをどう表現すればいいんだろう。
あぁ、何かの漫画の主人公が言っていた表現がピッタリかもしれない。プツンときた……そんな感じだ。
「海神様。出禁です!」
僕は天井を見上げながら大声で叫ぶ。どうせ見ているんだろ? ニヤニヤしながら女王陛下達が自分を賛美している姿を見ているんだろ?
許さない。乗船拒否してやる!
他の神々が異世界の娯楽やグルメを堪能している間、神界でお留守番していればいいんだ。
「あの……ワタル様、海神様が出禁とは?」
突然叫びだした僕に引きながらも、海神様のことだからか不安そうに質問してくる女王陛下。出禁って言葉が理解できなかったようだ。
……感情が高ぶって思わず叫んじゃったけど、理解されていなくて助かった。理解されていたら神様が遊びに来ていることがバレる可能性があったもんね。
「いえ、たいしたことではありません。突然叫んだりして申し訳ありませんでした」
「たいしたことがない行動には見えませんでしたが?」
女王陛下がジッと僕を見つめる。基本は僕を優先してくれるんだけど、海神様のこととなると確かめずにはいられないようだ。
このまま僕の印象が下がっても困るし、約束のことをある程度説明しておくか。
海神様のイメージを考えて黙っていたけど、こうなったらワガママ全開だったことも女王陛下にチクってやる。
「まあ、創造神様に訴えてまで……海神様はそれほど強いお気持ちで神託を授けてくださったのですね」
あれ? なんで感動しているの? 海神様がワガママを言って色々と迷惑をかけた話だよ?
「いえ、あのですね、海神様が約束を守らなかったって話なのですが?」
約束はちゃんと守りましょう。子供の頃に習う基本だよね。
女王陛下がそっと僕から目を逸らした。なるほど、そこらへんは海神様が悪いって理解はしているんだな。
でも、海神様に対する文句に同調はできないから、別のところに焦点を合わせたってことか。
まあ、神が言うことはすべて正しいとか言いださなくて、安心はできた。狂信者って怖いもんね。
……でも、安心したら、頭が冷えて少し冷静になってきたな。
ほんのちょっと前までなら、怒りに任せて神器の受取拒否なんてこともできなくはなかったんだけど、正直、僕の怒りもすでに収まってきてしまっている。
そうなると、とたんに後悔の念が押し寄せてくるから不思議だ。海神様との落としどころ、どうしたらいいんだろう?
冷静に考えたら美女に半日振り回されたくらいで神器を諦めて、海神様に喧嘩を売るとか割に合わないにも程がある。
なんであの時あんなに怒っちゃったんだろう? って失敗は誰にでもあるとは思うんだけど、神様相手にやっちゃったのは不味いよね? 出禁とか言っちゃったよ。
僕が出禁って叫んだ時、海神様がちょうど見ていなかったなんてことは無いかな?
……僕の運のステータス、しょぼいんだよね。
……よし、謝りに行こう。人間の分際で怒ったりして申し訳ありませんでしたって土下座も辞さない覚悟で謝りに行こう。
長い物には巻かれるのが基本。神様に喧嘩を売るなんてとんでもない話だ。
だいたい、生活の大部分が船なのに、海神様を出禁とかバカの所業だ。
「えーっと、女王陛下。僕は今夜の晩餐の準備がありますから、そろそろ失礼しますね。色々ありましたから、少し休憩していてください。では、失礼します」
「えっ、ワタル様?」
戸惑う女王陛下の声を背中で受け、ちょっと慌てているレーアさんに黙礼して素早く部屋を出る。さあ、ダッシュだ。お願いします。神界に呼んでください。
***
「あはは、航君、よく言った。海神、人間に出禁にされるとか、ちょーウケるんですけどー。あははははー」
教会でお祈りして、すぐに神界に呼んでもらえたのは良かったんだけど、なぜか昔の女子高生みたいなノリで海神様を煽る創造神様が最悪だ。
この状況、なんとか乗り切ることができるのか?
十二章は次回が最後で、おそらく閑話を1話挟んで新章に突入といった流れになると思います。
よろしくお願いいたします。
読んでくださってありがとうございます。




