15話 謁見
あけましておめでとうございます。
今年もよろしくお願いいたします。
冒険者ギルドのマスターが鑑定師を連れて公爵城の財宝を確認しに来た。鑑定師のオットマーさんの暴走等の面倒なこともあったが、ちょっと脳筋気味だと思っていたギルマスが意外と理知的だったので、鑑定と献上の打ち合わせはスムーズに終わった。
「でも、ちょっと展開が早すぎる気がする」
「ご主人様。今日呼ばれる可能性があることはギルマスに言われてたでしょ。早く着替えないと、もうすぐ出発の時間になるわよ」
「……分かってる。着替えるよ」
僕がちょっとだけ不満を漏らすと、普段着のイネスがあきらめの悪い子供をたしなめるような顔で注意してきた。
たしかにそう言われていたし準備もしていたんだけど、お城に報告したその日に本当に明日の謁見が決まるとは思ってなかったんだもん。謁見に参加しないイネスは気楽でいいよね。
ふぅ。面倒な事がスムーズに進むのは助かるんだけど、気持ちを整える時間がもう少し欲しかった。沈没都市の公爵城は想像以上にこの国に影響を与えていたらしい。
ギルマスは伝説だなんだって言ってたから、もしかしたら徳川埋蔵金が発掘されたレベルの衝撃なのかな? それなら少しは急ぐ気持ちが理解できるかもしれない。
心の中でブチブチ文句を言っていても仕方がないし、さっさとスーツに着替えて面倒を終わらせるか。
歯医者に行くのと同じで、行く前は嫌だけど終わったらなんてことなかったってことになるはずだ。
「ワタルさん。カッコいいわよ」
「ありがとうございます」
身だしなみを整えてルト号から出ると、冒険者の装備のままのアレシアさん達が出迎えてくれて、スーツ姿を褒めてくれた。単純な僕は、お世辞と分かっていても気分が高揚する。本当に僕って簡単だな。
できれば着飾ったアレシアさん達が見たかったけど、残念ながらアレシアさん達は普段の装備のままだ。
緊急のことだし冒険者だから普段の装備で問題がなく、僕は商人なのでちゃんとした服装がエチケットなんだそうだ。差別を感じないことも無いが、商人と冒険者だから違いがあるのも当然な気もする。
「ワタル殿、こちらにお乗りください」
アレシアさん達のドレス姿を妄想しながら、目をそらしていた騎士の姿をした現実が僕に声を掛けてくる。
「……はい」
お城から派遣された騎士に促されて、オープンスタイルの馬車に乗り込む。そう、オープンスタイルの馬車だ。
ギルマスから報告を受けた国王は、国王としての権力をフル活用して、わずかな時間でパレードの準備を整えてしまった。
報告を受けたのがお昼過ぎなのに、なんで1日でパレードの準備が整うの? 権力者の力って怖すぎるんですけど。
話を聞いた国は即座に人を派遣。献上品の確認と公爵城の探索についての事情聴取が始まり、それが終わるとパレードの打ち合わせが始まった。
魔導師の後ろ盾があったから丁寧に扱われたけど、魔導師についてもかなり質問されて大変だった。
抵抗したはずなのにいつの間にか報酬とパレードのルートまで決定して、打ち合わせが終わった。王都の役人、子爵様だそうだが恐ろしい人だ。
翌朝にはルト号に騎士達が派遣され献上品を運ぶ準備が始まって、僕達には謁見のマナーが教えられる。
そして、今からパレードです! お家に帰りたい。
***
「ワタルさん。さすがにその笑顔はどうかと思うわ。もう少しなんとかならない?」
僕の左隣に座っているアレシアさんが、困った表情で声を掛けてくる。
「ワタルさん。ただ笑顔で座っているだけで良いんです。落ち着いてください」
僕の右隣に座っているドロテアさんが、落ち着けとアドバイスをしてくれる。だが無理だ。
「い、今はこれが精いっぱいです。笑顔が引きつっている自覚はありますが、どうしようもありません。せめてリムが居れば……」
「テイムしているとはいえ、さすがに謁見にリムちゃん達を連れて行くのは無理よ」
「……そうですね」
アレシアさんの言う通りだと僕も思う。でも、リムのモッチモチをモチモチすれば、気持ちが落ち着いたはずなのも事実だ。
精神を安定させる何かがないと、こんな状況で落ち着けとか無理だよ。
港から出発したパレード。お城に続く大通りには沢山の人達が集まり歓声をあげている。そんな中を進むオープンスタイルの馬車。
その馬車の後ろには、お神輿のような状態で運ばれている沈没都市の公爵城のミニチュア。
まあ、公爵城のミニチュアがきらびやかな姿を晒しながら人力で運ばれるのはまだいい。
人力だからスピードが遅く、それに合わせるように馬車がのろのろと進むから、いつまでたっても城に到着しない。
さっさと馬車を急行させてこの地獄から抜け出させてくれって願望はあるけど、ギャラリーの視線を分散させてくれるから、最悪ではない。
最悪なのはパレードの前後左右を固める騎士達だ。
公爵城を攻略した勇者って誰のことですか? いえ、僕はそんなに激しい冒険はしていません。ただ、安全な船の中に居ただけです。罠? そんなものはありませんでした。
数えきれないほどのシーサーペントを薙ぎ倒した英雄? いえ、僕は商人です。薙ぎ倒していません。
偉大なる魔導師の協力者? 魔導師は僕で、単に創造神様からチートをもらった一般人です。話を盛らないでください。そう立ち上がって叫びだしたい。
子爵から、功績を広める時間が無いから騎士が簡単に宣伝しながら進むねって聞いてはいたけど、ほぼウソじゃん。
まあ、国も含めてかなりの人達が公爵城の攻略を諦めていたから、ポッと出の人間に簡単に攻略されましたってのも外聞が悪いのは理解できる。何かしらの政治的な意図もあるんだろう。魔導師様との契約ですと、攻略方法をほとんど秘匿した僕にも非はある気もする。
でも、盛りに盛った功績を大声で発表されながらのパレードとか、罰ゲームを通り越してもはや拷問なんですけど?
子供達のキラキラした瞳や憧れの声に、心が申し訳なさでいっぱいになる。美人のお姉さん達からの歓声が無ければ確実に心が折れているぞ。一刻も早くこの地獄が過ぎ去ってほしい。
歯医者に行くのと同じとか思っていたけど、歯医者に向かう途中にこんな試練があるとか、割に合わないにもほどがあるよ。
***
「うむ。素晴らしい。ワタルと言ったな。沈没都市の公爵城攻略、見事である!」
「……ありがとうございます」
貴族達が集まる謁見の間で、公爵城のミニチュアを見て満足そうに頷く怨敵、いや、国王に対して憎しみを込めないように頑張って返事をする。
僕の精神を削り取ったパレードの元凶とはいえ、国王自らが細かい指示を出すわけではない。
部下の責任を取るのが上司の役目とはいえ、パレードが地獄だったからと喧嘩を売るのは間違った行為だろう。
やりきった様子で貴族の集団に交ざって居た子爵を見て、豪華客船やフェリーをこの場で船召喚したい気持ちが芽生えるが、イネスの故郷でもあるから僕は我慢する。
やっとのことでお城に到着して、早く財宝が見たかったからか、ほとんど休憩も無しに謁見の間に連れていかれたことも許そう。早く終わるのは大歓迎だ。
だから、お願いします。ゆったりとミニチュアや絵を鑑賞していないで、早く謁見を終わらせてください。
「これほどの財宝を献上されて、なんの褒美も無いとは言えまい。よかろうワタルよ、王国東部の未開地の開発許可を与える。だが、本当に開発許可だけでいいのか? 土地付きの爵位も与えられるのだぞ?」
前もって子爵に伝えておいた報酬だけど、国王としては不満があるようだ。だが、ひも付きになるのは勘弁なんです。
「はい。私は商人ですので、開発許可を頂けるだけで十分です」
「……そうか。ではそのようにしよう」
国王が少し残念そうにしているが、問題なく報酬の話も終わった。打ち合わせに来た子爵には爵位を勧められたけど、あらかじめ爵位を断わっておいた僕、グッジョブ。こんなパレードを体験した国で貴族とか無理だ。恥ずかしくて死んでしまう自信がある。
未開地の開発許可をもらったのは苦肉の策だ。財宝を献上してお金をもらうのも変だし、爵位も土地も必要ない。むしろ、国に縛られてしまうのは迷惑だ。
でも、国としても褒美を渡さない訳にもいかない。打ち合わせに来た子爵と膠着状態に陥った。だがその時に、僕は閃いた。
これは商売の神様との約束を果たすチャンスじゃないのか? と……。
未開地を開発する権利は貰えるのかと聞くと、変な顔をして未開地ではなく普通の土地も貰えますと言われてしまったが、土地は必要ない。開発する権利だけで十分だと頑張って交渉した。
慈善事業にしか使えない有り余る白金貨。このチャンスにバラまいてしまいたい。
この国は獣人や魚人と共存していて人種差別が少ない。差別が少ない場所に無償で新しい町を作るのは立派な慈善事業だろう。困っている獣人を工事に雇えば、それも慈善事業になる。
まあ、商売の神様に許可をもらわないといけないし、他国の獣人を雇った場合に審査なんかもあるだろうから、すぐにとはいかないだろう。
でも、開発許可はあるんだから、お金をバラまけばいずれはなんとかなるはずだ。商売の神様に駄目と言われてしまえばおしまいだが、その場合は開発許可をもらったのが無駄になるだけだ。
絶対に開発をするって約束した訳でもないし、国王から褒美をもらいたかった訳でもないので、なくなって元々の話だ。
商売の神様がOKなら、お金を出して口を出さない雇用主になれば負担も少ない。開発計画は……誰か有能な人を探して任せてしまえばいい。思い付きだから穴はあるだろうけど、大抵のことはお金で何とかなる。
開発にかかった費用分の回収を迫られたり、開発した町を貴族になって治めろって言われたりしなければ問題ない。
僕は商売の神様との約束が果たせて幸せ。アクアマリン王国は無償で町が出来て幸せ。安全な国で暮らせる獣人達も幸せ。みんなが幸せになれる天才的な計画だ。
「これにて、謁見を終わる。ワタルよ、晩餐でまた会おう。ああ、そうだ、子爵をそちらによこすゆえ、ブレシアにある魔導師の船について教えてやってくれ。ではな」
自分が天才かもと悦に入っていると、国王が子爵をよこすと言ってさっさと出て行ってしまった。
晩餐は聞いていたから納得できるけど、子爵については聞いてないよ。少しは休ませてほしい。
読んでくださってありがとうございます。




