14話 鑑定
今年最後の更新になります。
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公爵城の財宝を献上する件で冒険者ギルドに向かうと、フローラさんのおかげである程度スムーズにギルドマスターと会うことができた。話もトントン拍子に進み、一時間後にはギルドマスターがお宝を確認しにルト号に来ることになった。トントン拍子に話が進み過ぎな気もする。
「献上する財宝はこれくらいで良いですかね?」
ルト号に戻り船の偽装を済ませて、献上する財宝を並べてアレシアさん達に確認する。
「公爵城のミニチュアに希少金属のインゴットと宝石。あとは、絵や壺などの美術品ね。……ちょっと多すぎじゃないかしら?」
アレシアさんが首をひねっている。
「公爵城で手に入れた財宝に比べたらほんの少しなんですけど、多いですか?」
一応、宝石は特大の宝石は避けてそれなりっぽい宝石を選んだつもりだけど、宝石の質なんかはサッパリだから難しい。前回は龍の鱗だけだったから、ある意味簡単だったな。
「美術品がどれだけ価値があるか分からないのよねー」
アレシアさん達でも分からないなら、僕なんか余計に分からないよね。
「どうしましょう?」
「……ギルマスの反応しだいかしら? たぶん鑑定士も連れてくるから、相談したほうが良いかもしれないわね」
おぉ、自分達で分からないなら、分かる人に聞けばいいってことだよね。それが一番無難な気がする。
フローラさんも居るし、ギルマスは腹芸ができそうにないタイプだから騙される可能性は少ないと思う。たとえ騙されたとしても、ここにある財宝ならなくなって元々の財宝だ。問題ないだろう。
「ご主人様。ギルドマスターがいらっしゃいました」
自分の中で財宝に関しての折り合いをつけていると、外を見張っていてくれたフェリシアがギルドマスターの来訪を知らせてくれた。乗船許可を出さないといけないし、ギルドマスターが相手なら出迎えた方がいいだろう。
キャビンから外に出ると、ちょうどギルマス達がルト号の前に到着したところだった。ギルマスと秘書らしき男性、フローラさんと初めて見る人が一人か。あの人が鑑定士かな?
僕がギルマス達を観察している間に、ギルマスはそのままズンズンと僕に向かって歩いてくるので、急いで乗船許可を出す。
一瞬、コントみたいに結界に弾かれるギルマスを見てみたいとも思ったが、さすがにほぼ初対面のギルマス相手にそれは駄目だろう。
「ようこそルト号へ」
「ああ。なかなか良い船だ。まだ若いのに魔導船とは、ずいぶん稼いでいるようだな」
これは褒められたんだろうか? ちょっと皮肉も入っているような気がするけど、ギルマスは皮肉を言うタイプでもなさそうだし、素直に褒められたってことにしておこう。
「ありがとうございます。えーっと、さっそく献上する品を確認しますか?」
「ああ、頼む。品はこいつに鑑定させるが、構わないな?」
「あっ、はい。構いません」
やっぱりこの人が鑑定士だったのか。痩身で神経質っぽい男性だけど、それが気難しい職人鑑定士っぽくて有能そうだ。
「オットマーと申します。よろしくお願いいたします」
「こちらこそ、よろしくお願いいたします」
サラリーマン同士の会話のようになってしまった。これはこれで、ちょっと懐かしいな。変な郷愁に誘われながらも、ギルマス達を船内に迎え入れる。
「…………」
「…………」
「…………」
「…………」
船内に入ったギルマス達が言葉を失っている。中に入って早々に見えた公爵城のミニチュアに心を奪われているようだ。
ミニチュアと言っても一メートルほどの大きさの公爵城が、希少金属や宝石で精密に装飾されているんだ。
精密に作られた模型やジオラマでも感動するのに、使っている材料が材料だから問答無用の迫力がある。声を失うのも当然だよね。
「あぁー! これは、ヨーゼフ! こちらはバルナバスにエーゴンだと! ま、まさか、いや、これは間違いない。アウレールだ! しかし、しかし、状態が悪い。なぜこれほどの名画をこのような状態に!」
いきなり絵を見て興奮しだしたオットマーさんが、キッと人を殺せそうな視線で僕を見る。どうやら絵の状態に文句があるらしい。
オットマーさんの様子を見るに、かなり有名な画家の作品が保管されていたのは間違いないようだ。何代の公爵かは分からないけど、目利きが凄い人が居たんだろう。
数が多くて出さなかった他の絵や彫刻なんかも、結構な価値のお宝が眠っていそうだな。
残りは全部、キャッスル号のマウロさんに任せよう。あの人なら伝手も広いし、上手に活用してくれるはずだ。
「僕に文句を言われても困ります。その絵は発見した時そのままですから、劣化したのは時間のせいです」
「しかし、このように無造作に置かれていい作品ではございませんぞ!」
無造作にソファーに立て掛けていたのがお気に召さなかったようだ。言われてみたら当然な気もする。
とはいえ、絵の保管方法なんて知らないし、ゴムボートに載せて送還すれば時間が止まるとは説明できない。
「このまま献上するのは駄目ですか?」
状態が悪いのに王様に献上したら、怒られそうで嫌だな。
「いえ、これは献上するべきです。城の一流の修復師に任せ、城で万全の態勢で保管するべき品です」
オットマーさんが熱く語る。冷静な人柄に見えていたんだけど、意外と熱い人物だったらしい。
神経質な人が、あまりの作品の状況にキレた可能性もあるけど、まあ、どちらでも僕には関係ないか。
「オットマー。少し落ち着け」
僕が他人事で済ませようとしていると、ギルマスが会話に入ってきた。
「しかし!」
「こいつらは献上するって言っているんだ。それで良いだろう。それよりも、これらの献上品が沈没都市の公爵城の品で間違いないのか?」
ギルマスが本題に触れた。そうだよね、オットマーさんが美術品に目を奪われて忘れていたけど、本来の目的はそれを調べに来たんだもんね。
「公爵城のミニチュアの特徴は、公爵城を見たことがある冒険者や人魚から得た情報と一致しています。それに、これだけの名画がそろっていることを考えれば、公爵城の宝物庫の品だと考えるのが妥当でしょう」
ギルマスの言葉で冷静になったオットマーさんが本物だと答える。発狂したように見えていたけど、冷静にミニチュアの鑑定も終わらせていたんだな。仕事ができる人なのは間違いないようだ。
「そうか、本物なのか……ワタルといったな。詳しく話を聞かせてくれ。Aランクの冒険者達とは言え、魚人も人魚も居ないのにどうやって公爵城を攻略した? シーサーペントの群れはどうした?」
どうやら公爵城を攻略したと納得してくれたらしい。ただ、ギルマスの視線がギラギラして怖い。
「このまま立ち話もなんですから、座って話しましょうか」
ソファーに移動して、フェリシアに紅茶を淹れてもらう。紅茶を飲んで少しは落ち着いてほしい。
「それで、どうやったんだ? 公爵城はこの国でも伝説扱いの城だ。多くの冒険者が挑み、諦めた城。俺も挑戦したが無様にも逃げ出した。どうやって攻略した?」
あっ、ギルマスがギラギラしていたのって、自分も失敗していたからなんだな。そんな人に、チートで攻略したって言うのは、ちょっと申し訳ない。なんとかそれなりに納得してもらえそうな話にしないとな。
「ギルドマスターは今、世間を騒がせている魔導師様の存在を知っていますか?」
「ブレシア王国に巨大な船を運んだという魔導師のことか?」
この国にまで情報は広まっているらしい。派手にやったもんな。まあ、僕達のことはまだ気がついていないようだけど、それは携帯もネットも無い世界だからしょうがないだろう。
「その魔導士様と関係がありまして、詳しくは話せないのですが、公爵城を攻略できる船をお借りしました」
「何! 身分の高い女どもの間で噂になっているあの魔導師と繋がりがあるのか! 俺の妻も化粧品だなんだと煩いくらいなんだぞ!」
……魔導師じゃなくて化粧品に食いつくのか。どれだけ奥さんに強請られているんだ? あっ、フローラさんが背後で満面の笑みで頷いている。フローラさんのあの熱意を考えると、ギルマスの気持ちも少しだけ理解できる。
「いくつか化粧品等は確保していますので、あとでお土産としてお持ち帰りください」
「ありがたい! むっ、しかし、冒険者ギルドのマスターが、商人から物を受け取るのも……」
ギルマスが悩まし気に考え込んでしまった。結構職業的倫理感がしっかりした人のようだ。ちょっと好感が持てるので、帰り際にお土産として無理矢理渡しておこう。
ベラさんに渡したお土産セットなら喜ばれるだろう。ついでにお酒も付けてあげるぞ。
「まあ、そのことは後にして、献上についての話を進めませんか?」
「むっ、そういえばそうだったな。話をそらせて悪かった」
ギルマスも本来の目的を思い出したのか、真剣な表情に戻った。化粧品に負ける真剣さもどうかとは思うが、そこは突っ込まないのが優しさなんだろう。
***
「ふー。ようやく終わった。早ければ明日の午後に謁見の可能性があるらしいけど、謁見がそんなに早い可能性があるのかな?」
僕のイメージだと、王様はもったいぶってなんぼって感じなんだけどね。
「ご主人様。その可能性は結構高いと思うわよ。王族が指揮して公爵城の攻略に失敗したこともあるもの。早く会いたがってもおかしくはないわ」
「そうなんだ」
地元民の言葉だから信憑性がある。明日の可能性も考えて準備したほうがよさそうだな。
しかし大変だった。ギルマスとの話し合いは、商売の神様の契約で話せない部分が多いと誤魔化しがきいたから、結構スムーズに終わった。
献上品も、絵がかなり高価なこともあって、宝石やインゴットは献上しないことで落ち着いた。
強敵だったのはオットマーさんだ。献上する品以外にも美術品を抱えているのが当然だから、他の美術品も見せてくれと粘られた。
嫌だと言っても、美術品の損失は人類の損失だとか、保管方法の大切さを切々と訴えて諦めない。
気持ちは理解できるし、見せて楽になりたい気持ちもあったんだけど、船召喚が必要だから頷けない。それを説明もできないので、結果的に嫌だで押し通した。オットマーさんの恨めしそうな目が心底怖かった。
まあ、オットマーさん以外はお土産も受け取らせたし、悪くない話し合いだったと思う。遠慮する振りをしてお土産を受け取るフローラさんが少し面白かったな。
あっ、そういえばレーアさんに、早く謁見ができそうだってことを伝えておかないとな。結構忙しい。
読んでくださってありがとうございます。
来年もよろしくお願いいたします。




