11話 前菜
書籍発売記念の特別更新です。
普段の更新とタイミングが違いますので、ご注意ください。
公爵城の宝物庫を発見した。なんやかんやと手間取りながらも、なんとか宝物庫の壁を剣で切断し、財宝を拝むことに成功した。それと同時に、この城の主に悪徳貴族の疑惑が持ち上がったが、もう生きてはいないだろうから時効ってことになるだろう。
「ご主人様。なんで中に入らないの?」
そうだった。イネスとフェリシアのビックリする顔を見ることで満足していたけど、本題は宝物庫の中身だよね。
「そうだった。今から中に入るね」
ハッチから顔を出し、石壁に開けられた入り口に手を掛ける。……地面まで2メートル50ってところか。意外と高い位置に穴が開いていて、日本にいた時の僕なら怪我が心配な高さだ。
でも、今の僕なら余裕なのでヒラリと飛び降り、カッコよく着地を……バランスを崩してちょっとだけ、たたらを踏んでしまった。
運動をほとんどしていないから、肉体のレベルが上がっていても、体の使い方が下手なのかもしれない。豪華客船でもっとスポーツしよう。
僕に続いてイネスとフェリシアがヒラリと飛び降りてくる。着地音もほとんどしないし、羨ましい身軽さだ。
「ワタルさん。大発見よ!」
宝物庫の中を見学していたアレシアさん達が、僕に向かって笑顔全開で走り寄ってくる。なんかちょっとモテているようで嬉しい。僕、大人気。
「ええ、凄い財宝ですね」
「ワタルさん。もっと喜んでよ。これだけの財宝を発見するなんて、冒険者にとって夢の出来事なのよ!」
アレシアさんが不満そうな顔をする。たしかにアレシアの言う通り、目も眩むほどの財宝を発見したんだから大喜びする場面だよね。僕、大人気とかくだらない妄想をしている場合じゃないな。でも……。
「もちろん、大喜びなんですが、凄すぎて現実感が薄いといいますか、夢みたいな気分なんですよね」
これだけ露骨に財宝です!って主張されちゃうと、豪華客船等でセレブ気分を満喫していた僕でも、根っこにある庶民根性が騒ぎだしてしまう。
簡単に言うと、キャパオーバーで思考がフリーズしてしまっている状態だ。
「ふふ。これだけの財宝だもの。気持ちは分かるけど、夢じゃないわ。歴史に残る大発見なのよ!」
興奮したアレシアさんにギュッと抱きしめられた。鎧が硬くて痛いけど、とてもいい匂いだ。あっ……アレシアさんがイネスとフェリシアに抱き着きに行ってしまった。
「ワタルさん、すみません。アレシアはちょっと浮かれているんです」
ドロテアさんが苦笑いしながら、アレシアさんのフォローをしてきた。なるほど、僕は現実感がなかったけど、アレシアさんは浮かれているのか。浮かれて抱擁してくれるのなら、ずっと浮かれていてほしい。普段着の時だとなお嬉しいな。
「構いませんよ。僕も興奮していますから」
キャイキャイと騒いで抱き合っているアレシアさんとイネスとフェリシア。なかなか眼福な光景だ。
「それで、僕には輝いているなとしか分からないのですが、財宝はどんな感じですか?」
「アレシアが浮かれている様子で分かると思いますが、かなり高価な物が揃っています。ただ、魔道具がほとんど無いのが残念ですね」
ん? 魔導具?
「魔導具が無いんですか?」
さすがに魔導船や魔導車は宝物庫まで運べないだろうけど、これだけ沢山の財宝があるなら、魔導具があってもおかしくなさそうだけどな。
「はい。他に発見された遺跡でも往々にあることなのですが、魔導具が豊富な時代では、普通に流通していた魔導具は財宝ではないんです」
なるほど。今の時代では高価でも、昔は一般的なものだったってことか。僕が日本で大金持ちになれたとしても、金庫にテレビや電子レンジを保管したりしないもんな。
「魔導具が無いのはちょっと残念ですね」
過去が現在よりも栄えていた時代の道具。ロストテクノロジーって響きだけでロマンを掻き立てられる。
「ふふ」
ガッカリしていると、ドロテアさんに笑われてしまった。
「どうしたんですか?」
何か笑われる要素でもあったかな?
「これだけの財宝を目の前にしているのに、ガッカリするなんてと思ったら、面白くなってしまっただけです」
「たしかに贅沢なことをしていますね」
尽きない金脈を発見したのに、ダイヤの原石が含まれていないことにガッカリするようなものだよね。
「はい。とても贅沢です。そういえばワタルさんはまだ財宝を見ていませんよね。説明しますので見て回りませんか?」
財宝を見せられても綺麗だな、くらいしか分からない僕としては、かなり助かる申し出だ。もちろんお願いして、ドロテアさんの案内で宝物庫の見学ツアーが始まった。
渦巻のように、外側から中心に回りながら見ていくらしい。中心部分にあるのは、かなりのお宝だそうなので、とてもワクワクする。
「まず、こちら側には、貨幣、希少金属のインゴットが収められています。現在でも希少な物ですが、流通はしていますのでそこまで珍しい物ではないですね」
「昔のお金だったら、希少価値としての値段が付いたりしないんですか?」
古銭とか、本体が持つ金属の価値以上に高値が付いたりするよね。
「突然滅んだ文明の貨幣ですから、発掘されたら結構見つかるんです。地金としての価値しかないですね」
ああ、文明が続くと昔のお金が回収されたりして、作り直されることで貨幣に希少価値が生まれる。
でも、突然文明が滅んだ場合は、作り直されたりせずに沢山の貨幣が眠っているから、沢山発見されているんだな。でも、壁一面に貨幣やインゴットが収められているんだから、地金だけでも相当な価値があるだろう。
次は宝石関連の装飾品か。これも普通に流通している物だから、現在とほとんど価値が変わらないようだ。
「ん? ドロテアさん。これって真珠の首飾りですよね? 真珠は時間が経つと劣化するはずなんですが、なんでこんなに綺麗なんですか?」
体が小さくなった名探偵のアニメで、自慢げに説明をしていたから間違いないはずだ。
「マリーナが言うには、この宝物庫は財宝の状態を保護する魔法が掛けられているんだそうです。ですから、劣化していないんですね」
そういえば宝物庫に入る前に、保護されているんじゃないかって考えていたな。財宝に気を取られてすっかり忘れていたよ。
「じゃあ、この宝物庫の中身は、かなり状態がいいんですね」
「はい。宝物庫に収められた時と変わらない状態のはずです」
骨董品なんかは時間経過で価値が上がったりするけど、そういう付加価値は付きそうにないな。でも、壊れたり価値が無くなったりするものもあるんだから、トントン……いや、海水が侵入していたら被害も大きかっただろうから、大幅なプラスだろう。
「ん? ……リム。何をしているの?」
リムが小粒から大粒までの宝石を体内に取り込んで、キラキラしている。あれ? なんか懐かしい気がする。なんでだ?
……あぁ、あれだ。大きさは違うけど、スー〇ーボールの中がキラキラしているやつにそっくりなんだ。あれはゴムの塊のはずなのに、ビックリするくらい跳ねるんだよな。懐かしい……って違う。
『たのしい』
僕が焦っていると、リムの物凄く満足気な意思が届く。満足しているのは分かるけど、そういう問題じゃないよ。えーっと、僕はどう反応すればいいんだ?
うわー。リム、とっても綺麗だねーとべた褒めするか、そんなの食べちゃ駄目。ペッしなさいって注意するか。っていうか、リムって宝石も消化できるの?
「……リム。とっても綺麗だけど、気分が悪くなったりしてない? あと、食べちゃ駄目だよ」
『たべない……だいじょうぶ』
よかった。宝石を消化するつもりはないようだ。さすがに食べるつもりだったら、メッてしないといけなくなるところだった。あれ?
「……ドロテアさん。この場合ってどう考えたらいいんでしょうか? 宝石で遊ぶのは間違っていますけど、宝石は装飾品でもあるので、着飾っていると考えると間違っていませんよね?」
ネックレスや指輪を身に着ける代わりに、体の中に宝石を取り込んでのオシャレ。ナウいのかもしれない。
僕の質問に、ドロテアさんがとても困惑している。
「……綺麗だから、いいのではないでしょうか? あっ、べにちゃん!」
しばらく悩んだ後、じゃっかん投げやりにドロテアさんが答えてくれた。その答えを聞いて大丈夫だと思ったのか、ドロテアさんの肩に乗っていたべにちゃんが、宝石の棚にジャンプして、宝石を取り込み始めた。
「べ、べにちゃん……」
おお、普段はキリッとしているドロテアさんが、おろおろしている。迂闊に許可を出したがゆえに、べにちゃんを止められないんだな。べにちゃんって意外と頭脳派?
リム、べにちゃんときたら、ふうちゃんも参戦しそうだ。マリーナさんを探すと、ふうちゃんを頭にのせて財宝の鑑定をしている。ふうちゃんはこっちに気が付いていないみたいだな。あとで合流した時にどうなるかが少し楽しみだ。
「ドロテアさん。リムとべにちゃんはもう少し遊びたいみたいですから、僕達は先に進みましょうか」
「あっ、はい。そうですね」
べにちゃんを置いていくのが心配なんだな。おろおろするドロテアさん、可愛い。僕は……リムがいろんなところに遊びに行っちゃうから、慣れちゃったよ。それはそれで、少し寂しい。気を取り直して宝物庫見学を再開するか。
うーん。キラキラしている宝石や貴金属は高そうだって理解できるけど、壺とか絵や彫刻はサッパリだ。武器や防具もあったけど、実践的というよりも儀礼的な物だったから、冒険には役に立たないんだろうな。
「ドロテアさん。宝物庫に入っているので貴重な物だというのは分かるんですが、この美術品の価値はどうなんですか?」
「美術品の価値は私も分からないです。王侯貴族に人気がある作品なら高いんじゃないでしょうか?」
美術品に関しては、僕とドロテアさんは同レベルみたいだな。ここら辺は持って帰って、目利きの人に見せよう。あっ、マウロさんなら人脈もあるし、キャッスル号で見てもらえばいいか。ショップマネージャーの仕事なら、目利きの人も沢山知っているよね。
さて、宝物庫の前菜部分は堪能した。次はいよいよメインディッシュだな。沢山のお宝の中から選ばれたお宝の中のお宝。僕を満足させる物だと信じているよ。
カッコつけてみたけど、僕でも分かるような、分かりやすいお宝だと嬉しいです。
読んでくださってありがとうございます。




