2話 公爵城潜入
地味に面倒な手順をへて潜水艇を乗り換え、ついに公爵城が見える位置まで到達した。囮にしたクリス号が、上の方でシーサーペントの群れに囲まれているのが少し申し訳ない。
「ところどころ崩れていて少し不気味だけど、海の中のお城ってカッコイイね」
海に沈んだにしては奇跡的なくらいに形が残っている気がする。城壁部分は一部を残して海の底っぽいし、残っている見張り塔らしき物体も崩れている。でも、本体のお城は、結構きれいな形が残っているように見える。
西洋のお城だとノイシュヴァンシュ〇イン城が思い浮かぶけど、形的にはモンサンミッ〇ェルの方が近い。
そういえば、モンサンミッ〇ェルって修道院らしいけど、あれってどう見てもお城にしか見えないよね?
「……ご主人様。私には結構ボロボロに見えます」
「えっ、そうなの?」
「はい。崩れていないのが不思議なくらいです」
どうやら夜目が利くフェリシアには、僕が薄暗くて見えない部分まで見えているらしい。まあ、ずっと昔に海に沈んで、シーサーペントの巣にまでなっているんだから、形が残っているだけでも奇跡なんだろうな。
「お宝とか、期待できない感じかな?」
「どうでしょう? 内部がどうなっているかはここからでは分かりませんし、宝物庫等は頑丈に作られていますので、可能性はあると思います」
それなら問題ない。宝探しなのに宝がまったく期待できないのが問題であって、可能性があるなら十分だ。
「ご主人様。話していないで、早くいきましょうよ」
おっと、イネスが冒険を前にして待ちきれなくなってしまったようだ。クリス号の時間制限もあるし、そろそろ出発した方がいいな。
「分かった。じゃあ出発するね」
エッグ1号を操縦し、ゆっくり慎重に公爵城に向かう。……まあ、ゆっくり慎重にと言っても、全速力なんだけどね。
「フェリシア。エッグ2号と3号は付いてきてる?」
「はい。エッグ1号の左右にいます。無線で連絡しますか?」
そうだった。暗い中で進むから、無線を使うようにしたんだったな。現代機器の存在を僕が忘れていて、フェリシアが覚えているのってどうなんだろう?
「付いてきているのなら今は大丈夫だよ。じゃあこのまま進むね」
おっ、本当だ。薄暗くても注目すればぼんやりとエッグ2号、3号の姿が見えるな。船偽装で外からは黒く見えるようにしたけど、少し明るくなったから黒だと目立つか? でも、黒以外に何色が目立たないのかがよく分からない。船偽装で青を試した時は結構目立っていたし、どうしたものか。
ん? ああ、崩れた壁と同じ色にすれば、シーサーペントからは瓦礫の残骸に見えるか? いや、遠目だと黒の方が目立たない気がする。公爵城の中に入ったら更に暗くなるだろうし、このまま先に進もう。
しばらく進むと、公爵城の敷地に近づいた。ここは、公爵城の前庭になるのか?
「フェリシア。シーサーペントはいる?」
「見える範囲にはいません。城内は分からないです」
外にいるシーサーペントはクリス号に引き付けられたらしい。今から城内に突入するには時間が足りないっぽいから、城の近くまで進んで隠れる場所を探したいな。先に進みながら夜目が利くフェリシアに探してもらうか。
「ご主人様。右奥に壁と建物の隙間があります。あそこなら停泊しても目立たないと思います」
昔は綺麗だったんだろうと思わせる噴水跡や花壇跡、庭を区切っていたであろう壁やアーチの残骸を避けながら進んでいると、フェリシアが隠れられそうな場所を見つけてくれた。
「了解。そこに一時的に隠れるから、誘導をお願いね」
フェリシアの誘導に従って進むと、なんとなく兵舎っぽい武骨で頑丈そうな建物と壁の間に隙間があった。たしかにあそこなら目立たなさそうだ。
「フェリシア。エッグ2号と3号に先に隙間に入るように連絡して」
「分かりました」
無線で連絡した後、エッグ2号と3号に続いて隙間に入り、エッグ1号を停泊させる。
「ご主人様。壁に擦れた跡や、地面に剥がれた鱗が落ちています」
エッグ1号を停めて、ちょっとホッとすると、フェリシアから不吉な報告がもたらされた。
「もしかして、シーサーペントの寝床だったりする?」
「その可能性が高そうです」
……考えてみればシーサーペントって海蛇って意味だよね。蛇ならこういう隙間を好みそうな気がする。
シーサーペントの気配がなかったから油断していたけど、ここにいたシーサーペントがクリス号に引き付けられていなかったら、この場所でご対面ってことになっていたのか? 何気に危機一髪だったようだ。とりあえず、外の様子が確認できる位置にエッグ1号を移動させておこう。
「脱出しますか?」
んー、ここを脱出しても、隠れられそうな場所は寝床の可能性が高い。それならここでクリス号の送還と再召喚をした方が安全だろうな。それに、クリス号が消えてからシーサーペントがどのくらいで戻ってくるのかの時間も知りたい。
「いや、ここでクリス号を送還するよ。ちょっとアレシアさん達と打ち合わせをするね」
『こちらエッグ2号。アレシアよ』
『エッグ3号。ドロテアです。これからどうするんですか?』
僕が無線で連絡すると、アレシアさんとドロテアさんが素早く無線に出た。無線ってオーバーとか用語があるみたいだけど、僕には知識がなくて説明できなかったのが悔やまれるね。
***
「ねえ、ご主人様。その無線って便利だけど、他の船にはついてないの?」
この後の行動を軽く打ち合わせしてクリス号の送還が終わると、イネスから痛い質問が飛んできた。
「……ついてるよ」
「なんで今まで使わなかったの?」
心底不思議そうに聞いてくるイネス。別に僕を問い詰めるとかじゃなくて、本当に不思議だから聞いているんだろう。でも、僕もよく理解ができていないから説明が難しい。
「えーっとね、今使っている無線は短い距離で直接使えるやつなんだ。大きな船で使っているやつは、船以外にも必要な物があって、それがないから使えないんだ」
軽く調べたときに衛星無線って分かってから放置していたけど、あれも短距離だったら普通の無線として使える可能性もある。まあ、あんまり使う機会もないし、必要になったらで構わないだろう。
「その必要な物は船のお店に売ってないの? 船で使う物なんでしょ?」
なるほど、その発想はなかった。でも、船で使うものなんだから船で売っていると考えるのは間違ってないよね。まあ、衛星が船で売っていたとしても、どうやって打ち上げたらいいか分からないけど。
「かなり大きなものだから、船では売ってないんだ」
「なかなか都合よくはいかないものなのね」
「うん。世知辛いよね」
購買画面で船以外の物が買えたり、衛星を使わなくても無線が使えたり、インターネットに繋がったりしてくれれば、僕の生活はもっと豊かになるんだけどな。
せめて電子書籍や動画をダウンロードできれば、途中までしか読めていないラノベや漫画の続きが読めるのに……。
「ご主人様。シーサーペントです」
しばらく雑談していると、フェリシアがシーサーペントが戻ってきたことを教えてくれた。クリス号を送還してから20分くらいだな。
5分もかからずに戻ってくると思っていたけど、予想以上に時間がかかったってことは、クリス号が消えた後も、周辺を警戒していた可能性が高い。次も警戒するかは分からないけど、ある程度は時間が稼げそうだ。壁の陰から外を覗くが、僕にはまだシーサーペントが見えない。
おっ、ようやく見えた。あのウジャウジャした影がシーサーペントだな。戦いになる時は単体のパターンが多いけど、巣の近くでは集団行動ができるタイプの魔物のようだ。
巣以外の場所で単独行動なのは、体が大きいから複数だとエサが足りないのかもしれない。おっ、こっちに1匹近づいてきた。あいつの寝床がここのようだ。かち合っても面倒だし、クリス号を召喚しよう。
公爵城の前庭の中心にクリス号を召喚すると、現れた光の魔法陣にシーサーペントが殺到する。
こちらに向かっていたシーサーペントも方向転換して魔法陣に向かっていき、そのまま召喚されたクリス号に攻撃を加えている。
少し心配だったが、まだ囮の効果は抜群のようだ。魚でも釣り人が沢山来る釣り場だと学習するらしいから、あと何回囮に引っかかってくれるのかで今後の展開が変わってきそうだな。
「じゃあ出発するね」
フェリシアに無線でエッグ2号と3号に連絡を取ってもらい、公爵城に向かってエッグ1号を動かす。
公爵城に近づくと、フェリシアが言ったように結構ボロボロで、壁が崩落していたり窓の部分が広がっていたりと防犯がかなり頼りないことになっている。
これだけ壊れているのに、ちゃんとお城って分かる形を保っているのが凄い。公爵様のお城ってことで、かなり頑丈に作られていたんだろうな。
「ご主人様。どこから入りますか?」
「中に入れそうな場所が沢山あるから、これはこれで迷う」
「こういう場合は正式なルートで入った方がいいわよ。崩れて通路がふさがっている可能性もあるけど、それでも奥に進む通路があるのは確実だもの」
なるほどイネスの言う通りだな。別な穴から入っても、先に通路が繋がっていなければ意味がない。まずは正式なルートで探索しよう。
公爵城の正面にある大きな入り口から城内に潜入する。朽ち果てたのかシーサーペントが壊したのか分からないが、扉がないので簡単に潜入できたな。
中に入るとそこは巨大なエントランスホールのようになっていた。普通のお城がどうなのかは分からないが、戦争中のお城だとこんなに無防備なつくりじゃないだろう。平和な時代に建てられた権威としてのお城かもしれないな。
問題は、どこにいけばお宝があるかだ。内部に入ると暗さが増してよく見えないが、目の前にある大階段だけではなく、左右にも通路がありそうだ。
ゲームだとすべての通路を確認するのが僕のスタイルなんだけど、シーサーペントの群れを考えると、そんな時間があるのかは疑問だ。
「ご主人様! 左前方通路よりシーサーペントです!」
すべてのシーサーペントがクリス号に群がってくれれば楽だったんだけど、残念なことにお留守番がいたようだ。あと、左前方通路って言われても、暗くて通路すら見えないよ。
『……りむのでばん』
おうふ。リムがやる気満々だ。どこかシーサーペントが入れない隙間に避難するのもありだけど、一度戦ってみるか。スニーキングミッションからアサルトミッションに変更って感じか?
読んでくださってありがとうございます。




