表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
めざせ豪華客船!!  作者: たむたむ
第十章
224/572

13話 観光

 昨日はイネスを実家に預けたあと、商業ギルドで沈没都市に船を出すための講習を受け、無事に舟を出す許可をもらえた。朝食を食べたら沈没都市観光だし楽しみだ。


 部屋から朝日が昇るオーシャンビューを楽しみつつ、缶コーヒーを味わう。うん、早起きしてよかった。凄くリッチな気分だ。


 そういえばイネスはどうしているかな? 昨晩はイネスが居なくて、なんか不思議な感じだった。飲みに行っていたり遊びに行っていたりで、部屋に居ないことはあったけど、イネスが別の場所に泊まるのは地味に珍しい。


 フェリシアだとダークエルフの島に行った時なんかは、実家に泊まるから変じゃないんだけどね。まあ、イネスが居ない分、フェリシアと沢山話しをしたし、これはこれで楽しい時間だった。


「フェリシア。イネスはどうしていると思う?」


 久しぶりの実家なんだし、お母さんの手料理でも食べて、リラックスできていたらいいんだけど……。


「おそらくですが、大変な目に遭っていると思います」


 だよね。イネスなら父親と弟は上手にあしらってそうだけど、母親はかなり手強そうな感じだった。僕達が滞在する時間はそれほど長くないし、スパルタで教育されているんだろうな。


「顔を出した方がいいと思うんだけど、タイミングが難しいよね」


 下手に顔を出したら、イネスの不満をモロに受けそうだ。ある程度イネスとイネスのお母さんが落ち着いてから顔を出したいけど、あんまり長い間放置していたら、それはそれで深く恨まれる気がする。


「今日はまだあちらも落ち着いていないでしょうし、明日くらいに少し様子を見に行った方がいいかもしれませんね」


 明日でもまだ早い気がするけど、家族なんだし意外と早く落ち着くかもな。


「じゃあ、明日、行ってみようか」


「それがいいと思います」


 そういえば今度こそ手土産を用意しないとな。何を持って行くかだけど、間違いなくあの家の権力者はイネスのお母さんだ。お母さんが喜ぶものを用意したほうがいいだろう。


 そうなると、お酒よりもお菓子とかの方が喜ばれるかな? あと、豪華客船でご婦人方に大人気の、化粧品の詰め合わせも持って行こう。いきなり化粧品を渡すのも変な感じだし、商人としてこういう物を扱っています。よろしければお使いくださいって感じでいいか。


「ご主人様。そろそろ朝食の時間です」


 おっと、もうそんな時間か。昨晩のこの宿の料理は美味しかった。調味料では日本の方に分があるけど、魔物の魚と人魚達が苦手とする貝の魔物。それを使った魚介たっぷりの煮込み料理は、濃厚な貝と魚の出汁が強烈で、僕達もリム達も大満足な一品だった。


 それを考えると、昨日の朝食のあっさりスープは計算で作られていたんだろう。だから、たぶん今朝の朝食もあっさりなんだろうな。今度から夜だけこの宿でご飯を食べて、朝は自前の朝食を食べるのがいいかもしれない。


「ご主人様。どうかしましたか?」


「ちょっと考えごとしていただけ。じゃあ行こうか」


 食堂に到着すると、すでにジラソーレが集まって席に座っていた。装備も身に着けているし、準備万端って感じだな。この様子だと、朝食が終わってすぐに観光かな?


 ***


 朝食は予想通りあっさりしたメニューが中心だった。うん、色々と理由があったり、この国では普通のことだったりするのかもしれないけど、やっぱり物足りないな。朝は自前のご飯で、昼と夜はこの国の料理を楽しむのがベターだな。


 

「ワタルさん、お菓子が食べたい」


 朝食を済ませてルト号に到着したとたん、カーラさんが真剣な顔をしておねだりしてきた。どうやら甘いものに飢えているようだ。


「お菓子、買いだめしていませんでした?」


「持ってきたのは全部食べた。駄目?」


 シュンとした表情で俺を見つめるカーラさん。視線がお菓子ちょうだいって訴えかけてくる。こんな表情をされたら、お菓子くらいいくらでも貢ぎたくなってくるんだけど、カーラさんの場合は難しいんだよな。


 お菓子を持ってくる量が少なかったのなら問題ないんだけど、沢山持ってきていたのに全部食べて足りなくなったのでは状況がまったく違う。カーラさんが糖尿にでもなってしまったら洒落にならないよ。


「えーっと、じゃあ一つだけですよ」


 結局、視線に負けてお菓子を貢いでしまった。まあ、沢山運動する冒険者だし、一つくらいなら大丈夫だよね。


「何がいいですか?」


「チョコ! あっ、これ!」


 食糧庫船を召喚して何を食べたいのか聞くと、有名メーカーのタケノコな感じのチョコを指さした。カーラさんはタケノコ党のようだ。


 チョコを渡すと、さっそく箱を開けて嬉しそうにチョコを食べるカーラさん。耳をピコピコさせてとてもご機嫌だ。グラマラスな美女なんだけど、こういう部分がとても子供っぽい。でも、なんか癒されるんだよな。


『りむもおかし……』


 リムからもお菓子のリクエストをされてしまった。とりあえず、カーラさんはお菓子に夢中だし、沈没都市は逃げないんだから、出発前にお茶にするか。




 お茶が終わったあと、人目を気にしながら和船を召喚してみんなで乗り込む。


「ふふ、この船に乗るのも久しぶりね」


 楽しそうにアレシアさんがつぶやく。南方都市で南東の島に向かう時は結構な頻度で乗っていたけど、途中からあまり召喚していなかったな。


 木製ボートとかも使用頻度が極端に減っているし、なんとなく可哀相な気がしてきた。木製ボートには木製ボートの良さがあるし、使えそうな機会があったら積極的に召喚しよう。


 他のジラソーレのメンバーも懐かしくなったのか、南東の島での事を話しだした。そんなに時間は経ってないはずなんだけど、なんだか懐かしいよね。僕も会話に参加したいけど、今回は沈没都市が目的だし船を出すか。


「うわー、綺麗ねー」


 1分も経たずに沈没都市の海域に到着する。目の前が沈没都市なんだから泳いでも行ける距離だよね。でも、たしかに綺麗だ。


 それに、和船は海面が触れるくらいに海に近いからか、ルト号で見た時よりも海に沈んだ街並みをハッキリと確認できて面白い。


 ゆっくりと沈没都市の道に沿って和船を走らせる。海に沈んだ街なので船で移動するなら道とか関係ないんだけど、講習の時に先生にそうすると楽しいって教えてもらったんだよね。


 道に沿って移動する事で、昔の人達がどういう経路で移動していたかとか、どういう場所にお店が集まっているのかとか、今と昔の違いを感じ取りやすくて楽しいんだそうだ。


 正直に言うと、今も昔の生活を疑似体験している気分だから、僕に理解できるのかなって思っていたけど、この世界に落ちてきて、それほど時間が経っていない僕にでも結構違いが分かって楽しい。


「あの家の前の海藻が密集している場所って、花壇だったのかしら?」


「うふふ、たしかに花壇だったように見えるわね。花を育てていた場所は、海藻にとっても居心地がいいのかしら?」


 ドロテアさんとイルマさんが、興味深い事を言っている。僕も2人の目線を追って見てみると、たしかに花壇っぽい場所に海藻が密集している。


 花壇だけあって土の栄養が豊富なのかな? 何より、多少崩れてはいるものの、いまだにあそこが花壇だったと分かる状態なのが凄い。かなり丈夫に作ってあったのか、海への沈み方が緩やかだったのかどっちなんだろう?


 他の建物も、海藻などの浸食を除けば、結構綺麗な形で残っているのも多いし、ゆっくり海に沈んでいったってのが正解な気がする。 


「あっ、リム、ふうちゃん、べにちゃん、落ちないように注意してね」


 気がついたら、僕の頭の上に陣取っていたはずのリムが、ふうちゃん、べにちゃんと並んで船縁にくっつき、興味深そうに沈没都市を観察している。リムは飛べるから問題ないにしても、ふうちゃんとべにちゃんは少し心配だな。いや、お風呂の時はプカプカとお湯に浮いているし、別に大丈夫かな?


『だいじょうぶ』


 落ちない自信があるのか、なんとなく自信に満ちたリムの思念が届く。まあ、壁に張り付いて垂直移動ができるリム達だし、船縁から落ちる事もないか。それにしても……3人が並んで船縁に寄り添っていると、3色団子に見えてしょうがないな。


 なんだか3色団子が食べたくなってきたが、フェリーにも豪華客船にも3色団子は売っていなかったし。もう食べられないのかもしれない。


 他のフェリーを購入すれば売店の品揃えも変わるから、まだチャンスはあるんだけど、3色団子を食べるためにフェリーを買うってのも無駄遣いが過ぎるから悩みどころだ。


 面白そうな機能が付いたフェリーを探してみるのもいいかもしれないな。そうすれば3色団子が売店に売ってなくても、まったくの無駄にはならないだろう。


 おっと、せっかく珍しくてロマンあふれる沈没都市を観光しているのに、3色団子の事を考えている場合じゃないな。しっかりと海に沈んだ街並みを堪能しよう。


「あれ? 何かが向かってくるよ?」


 気分を切り替えてデジカメで動画や写真を撮りながら沈没都市を観光していると、1軒の家の窓からひょろ長い物体が出てきて、こっちに向かってくる。動きはそんなに早くないようだ。


「ご主人様、あれはたぶん、講習の先生が言っていたグロスワームです。弱いそうなので、すぐに倒せると思いますが倒しますか?」


 ああ、あれだよね。とっても気持ち悪いって言っていたやつだよね。粘液ヌメヌメで、武器に付いたらなかなか取れないって言っていた……。フェリシアもそこはかとなく嫌そうな顔をしている。


「あら、初めて聞く魔物ね。面白そうだし私が倒すわ」


 アレシアさんが会話に参加してきた。この場合、どんな魔物か知っているのに、アレシアさんに倒させるのも気まずい。でも、フェリシアに倒させるのも嫌だ。


「いえ、ちょっとスピードを出せば振り切れますので、今回は倒しません」


 そう言って和船のスピードを少し上げる。


「えっ? ちょっとワタルさん。一度戦ってみたいんだけど……」


「理由をマリーナさんかクラレッタさんに聞いて、その後で戦うかを決めてください」




「戦うのは止めておくわ。今日は観光だものね」


 グロスワームを振り切ったあと、マリーナさんとクラレッタさんに話を聞いたアレシアさんがそう言ってきた。バッチリと装備を整えておいて、その言い訳はどうかとも思うが、気持ち悪い魔物と戦う必要はないよね。さて、観光を続けるか。


読んでくださってありがとうございます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ