34話 閑話 プールと耳かき
ドキドキしながらプレゼントを渡そうと美食神様に近づくと、創造神様が現れた。何故自分がカジノで勝てないのかって、前にも僕ではどうしようもないって説明した事で、僕の気合を丸々吹き飛ばす。
「……航君、どうしたの?」
「いえ、何でもないです。ですが、カジノの勝敗はテクニックが無い限り時の運ですから、前にも言ったようにどうにもできません。あっ、もしかしたら図書室にカジノの攻略本とかならあるかもしれませんよ?」
ネットだと色々ゲームのやり方を書いたサイトがあるんだけど、カジノがある豪華客船にカジノの攻略本があるかは疑問だな。
「えー、せっかくの下界なのに、本を読むのは嫌だな。だって面白くないもん」
「それなら、運に任せるか、攻略法を自分で見つけるか、創造神様のお力でイカサマをするかですね」
「うーん、どれも食指が動かないな。他には無いの?」
「僕もカジノに詳しい訳ではないので分かりません。ただ、どう賭けると有利なのか、基本的な賭け方があるとは聞いた事があります。本で調べるのが一番良いとは思いますよ」
「えー……分かった、魔神に読ませるよ。それで魔神に教われば、楽にコツを掴めそうだよね」
魔神様に迷惑を掛けてしまうな。しかし、仲が悪そうなのにどうしてそんな結論に至るんだろう? 僕が魔神様の立場なら全力でウソを教えるけどね。
「あまり魔神様に迷惑を掛けない方が良いと思いますよ」
「大丈夫。僕の頼みなんだもん。迷惑なんて思わないよ。じゃあ行ってくるね」
素晴らしいほどにポジティブシンキングだな。ある意味羨ましい。創造神様を見習って僕もポジティブシンキングで美食神様にチャレンジだ。
「えーっと、美食神様、僕からのプレゼントです」
真面目な表情で美食神様にプレゼントを渡す。正直こういう雰囲気って鳥肌が立つほど苦手だ。
「見ても良い?」
「はい」
美食神様が包装を外し、宝石箱を開ける。ネックレスを見た美食神様の表情は笑顔だ。
「綺麗ね。装飾がシンプルなのを選んでくれたのはどんな理由なの?」
ここで、無難だからって答えるのは駄目なのは分かる。分かるんだが、何と答えたら良いのか分からないから意味が無い。頭を捻れ。何とか正解を導き出すんだ。
「うーん、言葉で表すのは難しいですね。ただ美食神様にはシンプルで、輝きが強いダイヤモンドが似合うと思っただけです」
「そう? ふふ、航さん、そんなに心配そうな顔をしないで。とても嬉しいわ。つけてくれる?」
なんと、こんなイベントが。美食神様の後ろからネックレスをつける。くるりと振り向きネックレスを見せながら似合うか聞いて来る美食神様。
正直、ダイヤより豊かな膨らみに目が奪われそうになるが必死で押し止めて、似合っていると褒める。自分のセンスに自信が無いから、気を使って喜んでくれたフリをしているのでは? とも思うが素直に喜んでくれていると信じた方が幸せになれる。創造神様を見習ってポジティブに行こう。
「そろそろ昼食ですね。美食神様は何が食べたいですか?」
「そうね、今日はグランドガラビュッフェはやっていないのよね?」
「はい、やっていないですね。僕にも何が切っ掛けでグランドガラビュッフェが開かれるのか、分からないんですよね」
「あれはいつか参加したいわね。ワクワクするもの」
「そうですね。開催時期が予想出来るようになれば、それに合わせて降臨して頂けるようにします。それまでは、タイミングがあればって事でお願いします」
グランドガラビュッフェは、普通のクルーズだと日程は決まっているみたいなんだけど、不定期に召喚しているといつ始まるか分からないんだよね。これからはクリス号がホームになるから、開催がランダムでもない限り、タイミングも分かるだろう。
「楽しみね、ありがとうワタルさん」
「いえいえ、それでどこでお昼にしましょうか?」
「そうね、夜は航さんの故郷のお店に行きたいから、昼は……イタリアンにしましょうか」
「分かりました、行きましょう」
店に入り、席に着くとサポラビがメニューを持ってくる。うーん、ランチだけどデートなんだし簡単なコース料理にしよう。
前菜 アヒツナ〇タルタル&子羊のピンクロースト
サラダ カプレーゼサラダ
メイン カネロニのオーブン焼きとシマスズキのソテー
デザート ヌ〇ティーンムース
正直メニューを見てもどんな料理かよく分からないな。辛うじて分かるのはカプレーゼサラダだけだ。
一つ一つ料理が運ばれてくる。美味しい。美味しいんだが、目の前の美食神様が目を閉じて、真剣に味の吟味をしている姿を見ると、デートだとは思えないな。
「美食神様、ここの料理はどうですか?」
「美味しいわ。素材が良いのはもちろんだけど、知らない技巧が使われていてワクワクするわ。航さんにスタッフ任命して貰えるのが楽しみだわ」
「喜んでもらえて良かったですが、美食神様。一応デートなんですから、料理に没頭して僕の事を忘れるのは止めてくださいね」
きょっとんとした顔をした後、ああそうだったわねといった顔で笑顔を向けて来た。完全に忘れてたな。
「ごめんなさい航さん、気を付けるわね」
「はは、お願いします」
取り合えず美味しい料理を堪能して店をでる。美食神様とのデートは料理関係だと喜んでもらえるが、料理に没頭してしまうので難しいな。
食休みに映画を観てから、水着を買いに行こうと誘うと、衝撃の事実が判明した。なんと、美食神様はもう既に水着を持っていたのだ。
「えっ? 美食神様って毎日料理してましたから、泳ぎに行く時間とか無かったんじゃ?」
「そんな事は無いわよ。1日中料理をしている訳でもないんだし、偶に泳ぎにも行ってたし、結構船内を楽しんでいたわよ」
神様方が降臨されている時は、頻繁にプールを巡回していたはずなんだが、タイミングが合わなかったのか。もったいない事をしたな。
「そうだったんですか。ずーっと料理していると思い込んでました」
「ふふ、流石にそんなことは無いわよ。料理をして、船内を巡って料理をするような感じね」
「どんな水着を買ったんですか? 僕的にお勧めを選ばせてもらえると嬉しいんですが」
「うーん、航さんの水着選びって神達の間で話題になってるのよね。遠慮しておくわ」
………………なんで? えっ? なんで神様達の間で僕の水着選びが話題になるの? どうして?
「美食神様、どうして話題になっているんですか? どんな話題なんですか?」
「航さん、本気で言ってるの? ……その顔は本気で分かってなかったのね。はぁ、あのね、航さんが森の女神の水着を選んだ時、物凄い情熱で少しでも露出が高い水着を選ばせようと頑張ってたでしょ?」
確かにそんな事もあった気がする。夢中だったから詳しくは覚えていないけど、熱い時間だったのは覚えている。
「確かにそんな事もありましたね。ですが、それが何か?」
まだ分からないの? って顔で見られる。
「あのね、その時の光景を多数の神達が見ていたの。そこから本気で神にHな水着を着せようと頑張る航さんについて、賛否両論が巻き起こったのよね。特定の男性神は航さんを男と認めたわ。そして特定の女神は引いていたわね。まあ、殆どの神達は面白がっているだけだから気にしないで」
恥ずかしい。穴があったら入りたいとは、こういう時に使う言葉なんだろう。
「えーっと、そろそろプールに行きましょうか。美食神様の水着姿がとても楽しみです」
「気にしないでって言っておいてなんだけど、聞かなかった事にするの?」
「美食神様、男は過去を振り返らない生き物なんです。思い出して悶え苦しむ事はあるかもしれませんが、今は美食神様とのデートに集中します」
過去を振り返らなければ黒歴史を思い出さなくて幸せなんだけど、思い出したくないのに思い出しちゃうんだよな。黒歴史消去とかスキルで出来ないのかな?
「……分かったわ。じゃあ、着替えて来るわね」
使っていない部屋で僕も水着に着替える。と言っても服を脱いでハーフパンツの水着に着替えるだけだ。さっさと着替えて、ワクワクしながら美食神様を待つ。
出来れば紐みたいな水着が良いんだが、そう都合よくはいかないよね。どんな水着か分からないからドキドキするのも楽しい。
「お待たせ」
美食神様がプールサイドに現れた。……うん、こういうのも良いな。南国風の華やかな花がプリントされたパレオ付きのビキニだ。パレオは下半身に巻いていて、歩く度に出るスラリと伸びた美しい脚が眩しい。これがチラリズムという奴なのか?
そして何より、大きなお胸様とそれにより作られる谷間が僕の理性を削る。ちゃんと心に刻み込んでおかないと暴走しそうだ。
相手は女神様。調子に乗ってセクハラまがいの事をしたら洒落にならない。調子に乗るなよ僕。
「美食神様、とてもお似合いです」
「ふふ、ありがとう。航さんは普通のズボンタイプなのね? ああいうのは着ないの?」
美食神様が指をさす方向を見ると、際どいぐらいに鋭角に切れ上がったブーメランタイプの物体が……
「美食神様。僕には何も見えません」
「? 見えないって、そこにいるじゃない」
僕は絶対にあんな存在を認めない。せっかく異世界に来たんだ。僕は美しいもの以外は見ない。
「早速泳ぎますか? それとも何か飲みましょうか?」
「じゃあ泳ぎましょうか」
キャッスル号と違ってプールとジャ〇ジーが2つだけだから少し寂しいけど、美食神様と遊ぶのなら何の問題も無く楽しめる。
普通に泳いだり、追いかけっこしたり、水を掛け合ったりとただただ普通にプールを楽しむ。疲れたら飲み物を調達して、ジャ〇ジーに浸かりながら、のんびりと談笑する。
「美食神様、神界の料理ってどんなのですか?」
「そうね、今までこの世界で作られた料理の全てが記録されているわ。だから今までこの世界に来た異世界人の世界の料理も作れるわね」
「あれ? でしたら別に、この船の料理も珍しくないんじゃ? 地球の人もこの世界に来ているんですよね?」
「それが、そう簡単にいかないのよね。前に話したけど、戦闘関連のスキルが与えられていたでしょ。料理に詳しい人もわずかにいたけど、調味料がネックなのよ。航さんの故郷から来た人も、醤油、味噌の作成に情熱を燃やしてたけど、満足いくものが作れなかったのよ。そういう訳で航さんの船は知識の山ね。魔神も同じような理由で本をむさぼり読んでいると思うわよ」
「あぁ、なるほど。僕も醤油と味噌の作り方なんて何となくしか分かりませんし、作れと言われても作れる自信はありませんね」
醤油、味噌が奇跡的に作れたとしても、味醂や料理酒、ソース、料理に使う色々な調味料なんて再現できる自信は無い。船召喚が無ければどうしていたんだろう? 攻撃的な力は貰えると思うんだけど……食欲を諦めて性欲に全てを傾けてそうだな。
「私も何で船召喚なのか疑問だったけど、フェリーを見た時から考え方が変わったわ。他の神達も認識を改めているわよ、いい能力を貰ったわね」
「はい、僕もそう思います。認められたのなら創造神様も安心ですね。文句を言われて困っていたみたいですから」
「うーん、文句は言われなくなるでしょうけど、今までが今までだから、結局あんまり変わらないんじゃないかしら?」
そう言えば、創造神様は色々とやらかしてたんだよな。船召喚が認められても今までの悪行を拭い去る事は出来ないって感じなのか。僕にとっては良い能力を貰えたし、ちょっと困る事もあるけど、良い神様なんだけどな。
「そうですか。あっ、そろそろ耳かきをお願い出来ますか?」
「そうね、もう直ぐ日も暮れそうだし着替えて部屋に行きましょうか」
……今回も水着のままでの耳かきは無理か。何十回も繰り返せばいつか奇跡が起こらないかな?
それぞれの部屋に戻り、楽な服装に着替えて美食神様の部屋に行く。ノックをして中に入ると美食神様が浴衣姿で出迎えてくれた……浴衣で耳かき……これは素晴らしい。
「じゃあ、航さん、耳かきをするわよ」
「お願いします」
美食神様の太ももの上に頭を乗せる……いい匂いがする。柔らかい。幸せだ。
「航さん耳かきは初めてだから、上手く出来なかったらごめんね」
スリルが増したな。
「鼓膜を破らないでもらえたら大丈夫です。でも優しくしてくださいね。あと慣れたらギリギリまで攻めて貰えたら嬉しいです」
「難しい事を言うわね。まあ、約束なんだしじっくりしっかり綺麗にするわ」
「お願いします」
初めてだからか慎重な耳かきが始まる。なんか森の女神様と比べるともどかしいが、大丈夫? これ以上入れても良いの? 痛くない? 美食神様の普段の様子からは考えられない、可愛い様子に胸がキュンキュンする。
膝枕をして貰っていると、お尻とか触りたくなるけど、この状態でそんな事をしたら、反対側の耳から耳かき棒の先端が飛び出しそうだから、止めておこう。
じっくりたっぷりと耳かきをして貰い、日本料理店で夕食を取って、デートが終わった。この後までデートが続く事はあるのかな? 今度は時間を延ばすためにバーにでも誘ってみよう。
今日で閑話は終わり、新章に突入します。今回の話に出た料理ですが、写真で見ただけで想像で味を書いてみたのですが、不味そうになってしまったのでカットしました。タグにグルメとかつけて申し訳ありません。
あとクリス号で浴衣姿に違和感があると思いますが、クリス号の本物の船にも浴衣が設置されていますので登場させました。
誤字脱字、文面におかしな所があればアドバイスを頂ければ大変助かります。
読んで頂いてありがとうございます。




