3話 商業ギルド加入とモーターボート
あ゛ーー、よく寝たな。昨日はほぼ徹夜だったし、日が沈む前から朝までぐっすり眠ってしまったようだ。とりあえず食堂に行ってみるか。
「おはようございます、朝食は食べられますか? あと、顔を洗いたいのですが井戸はどこにありますか?」
「おはよう。朝食は今からでも食べられるよ。井戸はそこの裏口からでてすぐだよ」
「ありがとうございます」
さくっとトイレを済ませて、顔を洗い朝食を取る。朝食は魚のソテーとパンとスープだった。魚を食べると米がほしくなるな。魚とパン……合わない事もないんだけど、やっぱり米だよな。米の事を考えながらギルドに向かう。貿易都市って言うくらいだし、お米がみつかれば嬉しいな。
ギルドに到着してクエストボードを確認する。海の側の貿易都市らしい依頼が結構あるな。荷運びや魚の仕分け、港の清掃なんかもある。場所が変われば依頼も変わるって事か。
海でのランクが低い討伐依頼は、海岸に現れるビッグクラブやダーツフィッシュ。海の魔物の依頼があるが、どんな魔物なのか想像がつかない。ビッグクラブ……でっかいカニか? 食べられるのかな?
うーん、よく分からないな。荷運びや魚の仕分けは報酬が安いし、ゴブリン討伐が自分の実力的には無難っぽい。でも、ゴブリン討伐でも報酬が厳しい。とりあえず資料室に行くか。受付カウンターで資料室の場所を聞き移動する。
資料室の雰囲気は西方都市と変わらないな。司書さんに許可をもらい本を探す。必要そうなのは南方都市の周辺の魔物の資料くらいだな。陸地はゴブリンにオーク、狼くらいで、草原が少ない影響で角兎がほとんど狩れないのが辛い。南方都市で角兎の錬金術は不可能なようだ。
海の魔物は沢山の種類がいて、覚えられそうにない。とりあえず、海竜とか怖いんですけど。
ビッグクラブは名前の通り大きなカニで美味しいらしい。1度は挑戦したいと思う。
ダーツフィッシュは30センチくらいの鋭い角をもった魚で、群れで船に飛び込んでくる。盾でダーツフィッシュを防ぐのが冒険者の役目だ。次は港の船を見てから商業ギルドにいってみるか。
***
うーん、港の船は木造がほとんどで、帆船やガレー船、稀に自走船がある。船と陸地を行き交う小舟は意外と自走船があるな。これなら木製のモーターボートなら目立たないっぽい。商業ギルドで詳しく話を聞いてみよう。港で場所を聞き商業ギルドに向かう。
やっぱり冒険者ギルドとは雰囲気が違うな。僕と同じような格好をした行商人のような人もいるが、身なりがいい人の方が多い。
受付カウンターを見ると、ここにもキツネミミの綺麗なお姉さんがいる。そういえば西方都市のキツネミミの綺麗なお姉さんの名前、結局聞いてないな……しかしキツネミミの綺麗なお姉さんを見るとドキドキする。好きなのかなキツネミミ。
「こんにちは。聞きたい事が沢山あるんですが、このカウンターで大丈夫ですか?」
「こんにちは。こちらで大丈夫ですよ」
「ありがとうございます。まずは冒険者ギルドに加入していても、商業ギルドに加入ができるのかと、加入できるのなら、加入条件が知りたいです」
「はい、冒険者ギルドと商業ギルドは同時に加入できます。あと商業ギルドの加入条件は、冒険者ギルドと同じくランクがあり、Fランクは行商人登録で年会費5銀貨で登録できます。そこからランクを上げていくにはそのランク毎の年会費を納める事と、そのランクに相応しい実績があるかで判断されます」
「ランクを上げるメリットは何がありますか?」
「メリットはギルドにきた大型依頼等を優先的に受けられる事。ギルドに集まった情報をいち早く手に入れられる事。荷下ろしの場所、人材の紹介など商業ギルドに関わる事は、高ランクの方が優先されます。ですので、みなさん1つでも上のランクを目指されますね」
うーん、情報が気になるが、それ以外は今の僕にはあんまり関係なさそうだな。
「ありがとうございます。よく分かりました。あと船を手に入れられる当てがあるのですが、どのような仕事があるんでしょうか?」
「どのような船かによって異なります。小舟、帆船、ガレー船、魔導船、どの船になりますか?」
魔導船? あの自走船は魔導船って言うのか?
「あの、小舟の魔導船です。あとお金が貯まれば、小型の魔導船も手に入れられそうです」
「まあ、魔導船はほしいと思っても、なかなか手に入れられる物ではないんですよ。いい伝手をお持ちなんですね」
はは、いい伝手……僕の場合、伝手は神様って事になるのか? ある意味すごい伝手だな。暇つぶしに観察されているみたいだけど……。
「はい、とても助かっています。ですので、冒険者よりも商人の方が、船を活かせるのではないかと思っているんです」
「小型の魔導船ですが、手に入れたい方がいらっしゃいますので仲介も可能です。紹介料もお支払い致しますが、いかがですか?」
売れって事? 船召喚の船って売れるのか? ……売れたらすごい事になりそうだが、そんなに船を売りまくってたら確実に目を付けられるだろうな。
「できれば自分で手に入れたいので、申し訳ありません」
「いえ、当然の事ですので、お気になさらないでくださいね」
キツネミミのお姉さんが優しく笑う。なんだか癒されるな。
「では小舟の魔導船の仕事を説明しますね。小舟の魔導船の仕事は、王都等に人を乗せる事が多いですね。あとは魔導船の能力しだいですが、南東の島に冒険者を運ぶ事ができれば、報酬がとてもいいです」
「島に人を運ぶだけで、そんなに報酬がいいんですか?」
「はい、南東の島は貴重な薬草や、強い魔物が生息しています。貴重な素材が手に入るんですが、浅瀬や岩が多く小舟以外は通れるルートがないんです。そのうえ潮の流れが速く複雑で、普通の小舟の魔導船では島までたどり着けません。今のところ、島までたどり着ける小舟の魔導船は4艘のみです」
……たどり着けたらボーナスステージって感じなのかな? とりあえず冒険者を運ぶだけで儲かるのなら、ぜひとも5艘めになりたい。
「島にたどり着ければ仕事には困らなそうですね。魔導船での王都までの報酬と、もし島にたどり着けたらどのくらいの報酬がもらえるのか、教えてもらえますか?」
「王都までは1人片道3銀貨が基本ですね。帰りは下りなので1人2銀貨です。島にたどり着ける場合は、1日で1人10銀貨です」
「1日1人10銀貨ですか? そんな大金で冒険者は利益が出るんですか?」
なにそのバブル。はじけないの?
「島の素材は高価なので、討伐や採取ができる冒険者なら十分な利益を得られます」
はじけないようだ。
「小型の魔導船が手に入った場合は、どんな仕事がありますか?」
「大抵の船は安全な陸地の近くをたどり、商品を大量に運んで利益を得ています。稀に魔導船でも1ヶ月以上かかる南の大陸を目指す方もいらっしゃいます。普通の船なら30艘に1艘往復できればいいほど厳しい航路ですが、胡椒を持ち帰れば莫大な利益があがるので挑戦者は後を絶ちません」
おお、ファンタジーで定番の、胡椒の錬金術ができるのか。チート万歳。
「魔導船で胡椒貿易をする商人はいないんですか?」
「確かに普通の船より生還率はあがると思いますが、高価な魔導船で海竜などの強力な魔物に襲われやすい外海に出るリスクはおかしませんね。魔導船と言えども海竜からは逃げられませんし、一撃で沈んでしまいますから」
魔導船があれば安全に儲ける事ができるのに、わざわざすべてを失う覚悟で外海に出ないか。
「なるほど、外海は危険なんですね」
「はい。とても危険です」
真剣な顔でキツネミミのお姉さんが言う。そうとう命が失われているんだろうな。
「よく分かりました。それと、明日小舟の魔導船が手に入るのですが、どこに係留すればいいですか?」
「商業ギルドに加入されるのであれば、小舟サイズなら月1銀貨で係留スペースをお貸ししております」
商売の方が僕には合ってそうだし、商業ギルドには加入しておいた方がいいな。
「では、ギルド加入と係留スペースをお願いします。6銀貨ですね」
「分かりました。冒険者ギルドカードと統合いたしますので、ギルドカードをお願いします」
「はい」
「統合が完了しました。係留スペースは115番になります」
これで一通り聞きたい事は聞いたな。
「長々とご迷惑おかけしました。僕はワタルと言います。これからもよろしくお願いします」
「いえ、当然の事ですので気にしないでください。私はカミーユと申します。こちらこそよろしくお願いします」
頑張って自己紹介してよかった。最初のチャンス逃すといつ自己紹介したらいいのか、分からなくなるからな。
カミーユさんって言うのか、しっかり覚えたぞ。商業ギルドではできるだけカミーユさんのところにこよう。でも、ウザがられないようにはしないとね。だいたい目的は達成したし、宿に戻って木製のモーターボートを選ぼう。
***
「おや、お帰り。夕食はどうするね?」
宿に戻ると女将さんが出迎えてくれた。夕食か、海の幸なんだろうけど、どんな料理が出てくるか楽しみだ。
「ただいま戻りました。食堂でお願いしたいです」
「あいよ、6の鐘から大丈夫だからね」
「はい」
部屋に戻ってさっそく船購入画面を呼びだす。どれにしようか結構悩むな。木製のモーターボートは……なんだか洒落にならないくらい高級なボートもあるが、これは除外して手頃な値段のを探そう。
うーん、難しい。船の事なんて全然分かんないよ。モーターボートの安いのは、潮の流れが速いところは無理そうだし、いいやつは高いんだよなー。
王都を往復するだけでも稼げそうだけど、どうせなら島にも行けるやつの方がいい。そうなると和船がいい気がするんだけど、材質が木製じゃないし2金貨するんだよね。
島に行ければ相当稼げそうだから、2金貨はすぐに取り戻せるだろうけど、木製じゃないのが気になる。
創造神様が船召喚のレベルは、船を買ってたらすぐに上がるって言ってたよね。レベルが上がれば何とでもなるって言ってたし、この船を買ったらレベルが上がるのなら、問題ないんだけど……。
レベルが上がる条件ってなんなんだ? 船を買ってたら上がるって事は、何艘船を買ったか、もしくは幾ら使ったかだと思う。
うーん、買っちゃおうかな。細心の注意を払ってきたけど、今まで通りに細々とやってたら豪華客船を買う前に死んじゃいそうだ。
大騒ぎになったら逃げればいい。水面で船召喚さえできれば捕まりそうにないし買っちゃうか。買ってレベルが上がれば気にしなくて済むかもしれないしね。
購入画面を開き、和船を選択して2金貨投入する。
船召喚 レベル 2
購入した船を召喚することができる。+1(NEW)
購入した船に限り最善の状態に保ち、自由に操船することができる。
購入画面から新しく船を購入することができる。
地図作成 (NEW)
自分が行った事の有る場所がオートマッピングされる。
船偽装 (NEW)
性能を変えずに船の姿を質感も再現して思った通りに変更できる。
初期 手漕ぎボート(木製) 人数制限2
特性 不沈・不壊 乗船拒否
購入 ビッグ フィッシング ゴム ボート(深緑) 人数制限4~5
特性 不沈・不壊 乗船拒否
購入 ビッグ フィッシング ゴム ボート(青) 人数制限4~5
特性 不沈・不壊 乗船拒否
購入 和船 人数制限12
特性 不沈・不壊 乗船拒否
おー、御都合主義バンザイ。船召喚がレベル上がってるし、船偽装って欲しかった能力だよね。教会に行ったら創造神様にお礼を言わないと。
地図作成はそのままだろう。+1は何だ? 船を更に1艘召喚できるとか? ご飯食べたら外で試して見よう。
残高 1金貨 53銀貨 35銅貨
誤字脱字、文面におかしな所があればアドバイスを頂ければ大変助かります。
読んで頂いてありがとうございます。