30話 美容関連のフィーバーの予兆とセレモニーまでの1ヶ月
子供達を連れて……クラレッタさんが子供達を連れて、街の中に入る。ボロボロの街を見て泣き出してしまった子供もいたが、素早くドロテアさんが抱っこして慰めながら連れて来てくれる。
ボロボロの街がトラウマを刺激したか。街が綺麗になるまで外に出さない方が良いかもな。
孤児院に到着して門番が鉄の扉を開く、子供達が怯えた声を出す。いたたまれない。鉄の扉を取り換えておくべきだった。大丈夫だとクラレッタさんが落ち着かせて孤児院の中に入る。
孤児院の職員に集まって貰って子供達を紹介する。怖い感じの護衛と門番はちょっと遠くで手を振っている。
10人の孤児の面倒を見る職員と10人の子供達が対面する。職員も慣れていないからぎこちない。これから徐々に打ち解けて行かないといけないんだな。
「ワタルさん、子供達はお腹が空いているみたいです。お昼を食べてないそうなので、遅いですけど昼食を用意しませんか?」
「そうなんですか? それなら昼食を用意しましょう。お腹いっぱい食べられるって、約束しましたからね」
クラレッタさんと職員数名で食事を作る。言葉は悪いけど食べ物で釣ろう。時間が無いので簡単な物だが、野菜スープとパンを用意して食堂に並べ全員で食事を取る。
満腹になって少し落ち着いたのか、笑顔がこぼれだした。少しずつ職員と子供達の会話も増えている。ポツンポツンと会話をしながら休憩して、子供達の部屋を決める。
子供達に聞くと同じ部屋が良いとの事だったので、大部屋に案内してそれぞれのベッドと箪笥を決める。
「ご主人様、そろそろキャッスル号に戻らないと使者様を待たせる事になります」
「ん? そうだね。ありがとうフェリシア。エルモ、僕達は戻らないといけないから、後の事をお願い出来る?」
「畏まりました。お任せください」
子供達にお別れの挨拶をして、急いでルト号に戻り、キャッスル号に向かう。
「ご主人様、子供達は大丈夫でしょうか?」
「うーん、見た感じ古いけどちゃんとした服を着ていたし、ガリガリに痩せてる訳でもなかった。ちゃんとした孤児院にいた子供達だと思うから、初めての場所に緊張していたんだと思うよ。慣れたら怯える事も無くなるんじゃないかな。クラレッタさんはどう思います?」
「そうですね。ちゃんとした孤児院に居たのは間違い無いと思います。辛い経験をした子供達みたいですから落ち着くのは時間が掛かるでしょうが、真剣に向き合えば上手く行くと思います」
ちゃんとしていれば時間が解決してくれるって事だな。
「そう言えばドロテアさんも子供の扱いに慣れてましたね。弟さんか妹さんがいるんですか?」
「いいえ、兄がいるけど弟妹はいないわ。偶にクラレッタに付き合って孤児院に行ってたから、少し慣れているだけよ」
「へー、そうなんですか。僕は子供が泣いてしまったらオタオタして何も出来ませんでした。経験って大事ですね」
「これからいくらでも関わる機会はあるわ。直ぐに慣れるわよ」
正直あんまり経験したくないな。まあ、落ち着いたら全部任せるんだし、最初だけ頑張れば問題無いだろう。
キャッスル号に到着する。使者様は夕食を食べて帰還の予定だから、間に合ったな。視察だから泊まりだと思っていたが、明日の朝早くには出発予定なので、街に戻るそうだ。
……船の視察じゃなくて、買い物が目的な気がするのは、気のせいなんだろうか? 宿泊施設なのに泊まらないって違和感がある。買ったら最速で届けろとか言われてそうだ。
キャッスル号に乗り込み、ロビーで待っていると使者様が戻って来た。やはり泊まらずに戻るそうで、そのままカリャリの街に送って行く。
……使者様を見て思う、何がしたいんだ? ……いや何でそうなるんだ? っと問い詰めたい。無礼になるだろうから言わないけど、カミーユさん達の悪乗りではないと信じたい。
「ワタル殿、魔導士様の船は凄いですね。異世界の船だと思うのですが、どうなんでしょう?」
「私も詳しい事は知らないんです。魔導士様は自分の事を話す事を好まれませんから」
魔導士様が異世界人って事は隠せないだろうから、手を出したら怖いって路線で行くしか無いな。
「そうですか。異世界の関係だと、色々辛い歴史がありますからね。自分の事は話されないのでしょう。しかし、あの船に停泊して頂けるのであれば、この国にとってかなりの国益になります。海軍が孤児院に肩入れしても誰も文句を言う事は無いでしょう。ご安心ください」
「そうですか。ありがとうございます」
使者様の言葉が真実なら、後は開放セレモニーで一つの区切りがつくな。落ち着いたらのんびりダークエルフを探すか。
使者様の魔導士様や僕についての探りを何とか躱しながらカリャリの街に到着する。船から出てお見送りをする。使者様が今度はプライベートでキャッスル号に泊りに来たいと言ってくれたのは、ちょっと嬉しい。
そのままルト号に泊まろうかとも思ったが、カミーユさん達に何も言っていないのを思い出し、キャッスル号に戻る。使者様の事も聞きたいからね。
キャッスル号の開放も現実的になって来たからな、身内だけで自由に使える機会も少なくなる。今の内に楽しんでおこう。
キャッスル号に戻りカミーユさんに使者様の様子を聞く。時間が無かったので殆どの施設は確認だけだったそうだが、スパで出来る美容関連は受けられるだけ受けて来るように厳命されていたらしく、あの結果になったそうだ。
ふー、たぶん王太子妃様辺りからの命令なんだろうな。侯爵様はどんな手紙を送ったんだろう。元々この世界に無い物だから、男がやっても違和感を覚えないのかもしれないが、僕としては困る。
まず、スパとビューティーサロンで全身のマッサージとお肌のケア。ムダ毛の処理。ネイルアート……ズボンと靴で見えなかったがフットケアもおこない、すね毛も無くなり脚の爪も美しく飾り立てられているそうだ。
頭も頭皮のケアから、髪に栄養を与え、艶々のサラサラに。まつ毛のエクステもバッチリ決めて、表現を控えたくなるような使者様が出来上がったそうだ。絶対に悪乗りしている気がする。ふつうまつ毛のエクステまではいかないはずだ。
そこに大幅な時間を使ったので、他に使者様が時間を取ったのは酒屋と化粧品店だけだそうだ。使者様とお連れ様の5人で何やらメモを見ながらお酒を選び、カミーユさん達に聞きながら制限いっぱいまで買い物をしたそうだ。
目的はハッキリしたな。使者様の目的は買い物と美容関係の視察だ。あの使者様を確認してどう思うのかは未知数だが、結果次第では王太子妃様まで乗り込んで来そうな気がする。
開放前でこの状態か。本気でカミーユさん、マウロさん、ドナテッラさんを雇っていなかったら投げ出してたな。
「皆さんに聞きたいんですけど、今日の使者様を見てどう思いましたか?」
「そうね、清潔感が増して、良くなったと思うわよ」
アレシアさんには良く見えるのか。
「うーむ、ワシもやってみるかの?」
マウロさんは自分もやってみようかと思ってる。
「うふふ、ワタルさん、私も少しあの店の知識が残っているから聞きたい事は分かるけど、この世界の人達は知らないんだから関係ないわよ」
うう、イルマさんの言う通りか。ビューティーサロンに来る男達か……世界が違うと変な所でギャップが生まれるな。
「分かりました。皆さんありがとうございます。それで、カミーユさん。孤児院も活動しだしましたし、そろそろキャッスル号も開放時期を考えませんか?」
「そうですね。開放時期を決めて商業ギルドに連絡をすれば大丈夫だと思います。それでですね、その間にスタッフを追加したいのですが構いませんか?」
「今回来て貰った料理人と事務員はもう慣れたんですか?」
「はい、知識があるので、反復練習を繰り返して、思ったよりも早く持ち場を熟せるようになりました。今まで来られた方の反応を見ると、酒屋と化粧品店、ジュエリーショップ、美容関連、料理店には専属のスタッフを多めに配置しないと、サポラビちゃんだけでは回しきれないと思います」
うーん、そうなるか。表はサポラビで回せば良いと思ってたんだけどな。
「サポラビなら意味が分からないので誤魔化せそうなんですけど、奴隷に説明や施術をおこなわれて、王侯貴族は怒りませんか?」
「そこは商業ギルドに奴隷がメインである事、獣人の奴隷もいる事に納得されない方はお断りしてもらいます。人間至上主義者が来ても対応は変わりません。そして何より、イルマさんとサポラビちゃんでは実力が全然違います。サポラビちゃんにはサポートに回って貰うのが良いですね」
確かにサポラビに施術してもらうより、イルマさんに施術してもらう方が段違いに気持ちが良いもんな。
「分かりました。では、カミーユさんにお任せしますので、段取りをお願いします」
「分かりました。では一月後の開催を目途に招待状を出して貰うので構いませんか?」
商業ギルド経由で偉い人を招待するんだから、その位の日数は掛かるか。この世界なら速いぐらいかもな。カミーユさん達は人脈を使って、色々力を持っている人に招待状を出すそうだ。思った以上に早くキャッスル号の事は広まりそうだな。
「はい、それでお願いします。そうだ、どうせならジラソーレの皆さんも家族をお招きしますか?」
僕が聞いてみると、アレシアさんが首を横に振りながら断って来た。
「嬉しいけど駄目よ。偉い人が沢山来るんだもの。たぶん萎縮して楽しめないわ」
「あー、そうですね。では、キャッスル号が落ち着いた時にでも招待してあげてください」
「ふふ、ワタルさんありがとう。お言葉に甘えさせてもらうわね」
「お世話になっているんですから、気にしないでください」
細々した事を取り決めて、自室に戻る。
………………
明日はいよいよキャッスル号の開放セレモニーだ。カミーユさんに丸投げして、のんびりと過ごす予定だったが、実際にはそうもいかない。
商業ギルドにカミーユさんが話を通すと、急に周りが忙しくなる。孤児院には時間がある時に顔を出してはおやつを持って行く。物で釣るのはどうかと思うが、仮にも孤児院の院長だからな。子供達に怯えられているのは問題だろう。
1ヶ月近く経った現在では、美味しいお菓子を持って来てくれるおじさんとして、一定の人気を保っている。言葉では僕が院長だと分かっているが、孤児院に泊まる事も無いので身内だとは思われていないようだ。
どちらかと言うと、リム、ふうちゃん、べにちゃんの方が人気がある。外で遊んでいる時などリム達は高レベルの実力を遺憾なく発揮して子供達を翻弄。尊敬と畏怖を勝ち取っている。
子供達は孤児院での生活にも慣れて来て、毎日お腹いっぱいのご飯を食べて、農作業の手伝い、勉強、遊び、規則正しい生活で、明るく生活を出来ているようだ。
まあ、エルモさんに聞くと、夜に泣き出す子もいて表面上は元気でも、やっぱり辛い記憶は無くなっていないそうだ。たかだか1ヶ月でそんなに上手く回復はしないか。時間を掛ける必要があるんだろうな。
人員の補充でルッカに行き、料理人、美容関連、ショップ店員、警備員、孤児院の人員を購入して契約する。警備員は必要無いと思っていたが、口論等が起こった場合に必要だと言われた。偉い人がカッとして、海にポイってなったら不味いらしい。ついでにと言っては駄目なんだろうが、再び10人の孤児を預かり孤児院に連れて帰る。
ルッカ侯爵様にもセレモニーの招待状が届けてあったが、ルッカに居る事がバレて質問が来てしまった。アレシアさんに行って説明してもらったが、侯爵様も参加してくださるそうだ。
何名か招待したい人がいるので、枠が欲しいと言われたらしいが、魔導士様の取り決めで商業ギルドに申し込んで貰うのが条件だと伝えたらしい。
いきなり権力で横紙破りをされると困るからな。納得して貰えて良かったよ。何かいちゃもんをつけられたら、船の移動をほのめかして良い事になっているが、揉めない方がいいのは間違い無いよね。
他国から来た人にはどうするのかと聞いたら、問題を起こした人の名前をだして、その国の人丸ごと出入り禁止にするらしい。
自分達が圧倒的に有利な商売だけど、ここまで強気で良いんだろうか。そして問題を起こした人は、周りに酷い目にあわされるんだろうな。
奴隷を購入してカリャリの街に戻ると、王太子夫妻の使者がセレモニーの参加を伝えに来たそうだ。取り巻きの貴族様達とその奥方様達も連れて来るらしく、商業ギルドで大量に部屋を予約していったらしい。
しかも3日間の滞在だそうだ。王太子様が3日間も王都を離れて遊んでいて良いのだろうか。
ちなみに前回の使者様の変身は好意的に受け入れられ、王太子妃様のサロンに呼ばれ、そこに集まった奥方様方、貴族令嬢達に隅々までチェックされたらしい。ご褒美か辱めか判断が難しい所だ。
王太子様の参加と奥方様の噂が流れ、招待を受けていない貴族の申し込みも相次ぎ、希少価値を高めるために断るなど、僕には判断できない所で戦場みたいになっていた。
カリャリの街の商業ギルドもカミーユさんが話を通した後、おっさんが大増員を決断したので何とか回せているらしい。
なんかこの1ヶ月を思い出すと明日のセレモニーが不安になるな。僕は脇役だけど、カミーユさん、マウロさん、ドナテッラさん頑張ってください。
ちなみに商業ギルドのおっさんは、復旧していないカリャリの街で王侯貴族、豪商を泊めるための施設が無く、大変な思いをしたそうだ。ごめんなさい。
誤字脱字、文面におかしな所があればアドバイスを頂ければ大変助かります。
読んで頂いてありがとうございます。




