24話 ルッカと人材集め
完成した孤児院を見学して、自分が想像で何となく注文した結果、要塞に類似した孤児院が出来上がった……こんなつもりではなかった事を声を大にして言いたい。
商業ギルドに戻り、僕のセンスが疑われたのか、僕を除いたメンバーで内装の発注がおこなわれた。安全第一を考えたつもりだったがやり過ぎたらしい。
暫く自分の中に籠って言い訳をしていると声を掛けられた。発注が終わったらしい。
「ワタルさん、発注した物が届くのは4日後らしいわ。設置までしておいてもらうから、カギを渡してくれる?」
アレシアさんに言われた通り、カギを取り出す。
「分かりました。職員寮と倉庫のカギも渡しておいた方が良いですよね?」
「ええ、お願いね」
「じゃあ、ルト号に戻りますか」
気分が微妙に盛り下がったままルト号に戻る。
「ワタルさん、4日後になったけど、それまでどうしようかしら?」
「そうですね。孤児院は出来ているんですし、南方都市で仕入れた家具と4日後に届く家具等で生活は出来ますね。奴隷を買いに行きましょうか。孤児院とキャッスル号で奴隷が必要なので大人数を買わないといけません」
「ふむ、奴隷を買うならルッカじゃな。知り合いもおるし、ワシが言えば奴隷を集める事も可能じゃぞ。行くか?」
マウロさんの頼りがいは凄いな。ちょっと面倒な人かもとか思ってすみません。
「それは助かります。奴隷が増えるのならフェリーが必要ですね。孤児院もほぼ完成しましたし、ルッカで侯爵様にキャッスル号のお披露目を済ましてしまいますか。そこで認められれば王太子様に話を通して、孤児院の警備もしてくれるはずですから」
「ん? それなら出発はちょっと待ってくれ。侯爵様が乗るのなら護衛やらなんやらで乗る人数が増える。先に船の品物を契約しておかんと面倒な事になるかもしれん。数があって時間が掛かるから今日の出発は無理じゃの」
キャッスル号の品物を細かく調べていたからな。かなりの数がありそうだ。ここで僕が面倒だなんて言ったらマジ切れされそうだ。
「そうですね。では、もう一度商業ギルドに戻りましょうか。僕も行かないと駄目ですよね?」
「そうじゃの。契約するのはワタルなんじゃから、おらんと話にならんの。ワタルが商会を作っておけばワザワザ出向かんでも商会で契約すれば済むようになるぞ」
「商会って簡単に作れるんですか?」
「んー最低でも商業ギルドランクのDランク、いやEランクで良かったか? と最低限の資金の確認と借家でも構わんから、店を持っている事が条件じゃったかな?」
「Eランクで小さなお店でも大丈夫ですよ。ただし審査もありますし、登録に時間が掛かります。ワタルさんの場合はデメリットの方が大きいかもしれません。
商会同士の会合などの付き合いが増える事になると思います。特にワタルさんだと、繋がりを持とうと会合に頻繁に誘われると思います」
さすがカミーユさん。4ヶ月前まで商業ギルドに勤めていただけあるな。そして商会同士の付き合いとか面倒だ。
「あー、商会を作るのは止めておきます。大人しく契約だけしに行きましょう」
契約に必要な現物や、大き過ぎて持ち出せない物は、その概要を書いたものを用意して、またゾロゾロと商業ギルドに戻る。門番の人も面倒そうだ。
「ん? どうしたワタル。忘れ物か?」
「いえ、忘れ物ではなく、色々契約をしておきたかったのを思い出したんで、また戻って来ました」
僕はそれだけ言って後ろに下がる。あとはカミーユさん、マウロさん、ドナテッラさんにお任せだ。契約して、使用料金は少しお安めにして欲しいとお願いしてあるので、問題無いだろう。
僕は言われるままに契約を結ぶ。食べ物のレシピから娯楽、部屋のインテリア、ブランド物の服や小物をそれぞれ細かく契約を結ぶ。
もっと大雑把でも良いと思うんだが、商人が3人も揃うと細かい所も見逃さないらしい。ネジの形や工具にいたるまで訳が分からなくなるほど契約を繰り返した。
理解出来ない物は契約を省いたそうだが、それまで契約していたら今日中には終わらなかっただろう。疲れたな。全ての契約を終わらせて、外に出るともう真っ暗だ。
「うー、きつかった。もうやっておく事は無いですよね?」
「ええ、問題無いと思います」
カミーユさんもやる事が思いつかないんだ、大丈夫だよな。
「じゃあ、はやく戻って外海に出ましょう。疲れたのでマッサージに行きたいです」
足早にルト号に戻り、外海に向かって出航する。食糧庫船を召喚して簡単に夕食を済ませて、外海に出てからキャッスル号を召喚する。
「ご主人様、私をスタッフに任命してもらえればマッサージをするわよ」
「おっ、いいね。お願いするよ」
スパに向かい、さっそくイネスをスタッフに任命してマッサージをして貰う。まあ、疲れは精神的な物で肉体的な疲れじゃないんだけど、ゆっくりマッサージをして貰いながらウトウトすれば、精神的な疲れも回復する。
「ふーイネス、ありがとう。かなり気分が良くなったよ」
「ふふ、それなら良かったわ。驚くほど疲れた顔をしてたもの。そんなにきつかったの?」
「うーん、何度も何度も同じ事をして、終わりが見えなかったから精神的にきつかった。ああいう仕事は苦手だな」
「私も体を動かす方が好きだから、分からないでもないわね」
僕は体を動かすのもそんなに好きじゃないんだけどね。ベッドでの運動は大好きだっとか言ったらおっさん臭いのだろうか?
部屋に戻り、リムの特訓を見学しながらのんびりする。最近は自由に飛び回れるようになったので、特訓と言うより、楽しい遊びかもしれない。もうそろそろ外で飛んでも大丈夫かな? うっかり海に落ちたら大変なので、外で飛ぶのは禁止していたからな。
飛び回るリムにお菓子を放り投げると、器用に方向転換をしてお菓子をキャッチする。最近のお気に入りの訓練……遊び? ……だ。
「ご主人様、もう直ぐキャッスル号の開放になるんですよね? この部屋を利用する事も少なくなるんですね」
フェリシアがちょっと残念そうに言う。
「あー、そう言えばそうだね。なんだかんだと時間は掛かりそうだけど、数ヶ月の内には開放する事になると思うよ。まあ、クリス号もあるし、いざとなったら同じような豪華客船を買えば良いんだから大丈夫だよ」
「ふふ、このクラスの船を買ったら、慈善事業をもっと頑張らなきゃいけなくなりますね」
「はは、そうなんだよね。面倒だから今の内にキャッスル号をたっぷり楽しんでおこう。久しぶりにバルコニーのジャ〇ジーに入ろうか」
「はい」
フェリシアの返事と共に僕の言葉を聞いていたリムも飛び付いて来て賛成してくれる。
「ご主人様、ビールも飲んで良い?」
「うん、いいよ。でもこの前も酔い潰れていたから。今日は少な目だよ」
「分かったわ」
イネスが鼻歌を歌いながらお風呂の準備を始める。まあ念じればお湯が張られるので、お酒の準備が殆どなんだけどね。
ジャ〇ジーに入り軽くお酒を飲みながらゆったりとお湯に浸かる。最近は内風呂が多かったから外のお風呂も新鮮な気分で気持ちが良い。しかし雑誌の裏に書いてあるような事が出来るようになるとは。
あとは札束のお風呂もあったな? 紙幣が無いから、白金貨のお風呂……白金貨は無理だ。金貨のお風呂なら出来そうだな。金貨のお風呂、響きは良いんだけど痛そうだ。
ジャ〇ジーから上がり、リムを寝かしつけた後にベッドで運動をして眠りにつく。
………………
「ワタルさん、もう直ぐルッカに到着するけど、このままキャッスル号で乗り込むの?」
アレシアさんの言葉でどうするのか考える。いきなり行くのは論外だな。
「あー、いきなり乗り付けると騒ぎになるでしょうから、ルト号でルッカに入ります。侯爵様達を招待するにしても時間が掛かると思うので、先にお伺いに上がる感じですね」
「分かったわ。魔導士様としては侯爵様に会わないのよね?」
「一応、前回の訪問時に魔導士様は来られないので、会う事は出来ないと話したんですが、またマリーナさんに代役を頼んで、一度ぐらい会っておくべきか悩んでいます」
「そうね、その形で会っておけば、ワタルさんに対する疑いが少しは逸れるわね」
「そうなんですよ。こちらの方達は魔導士様の声を知らないので、適当な声でも良いかと思いますが、南方都市と統一しておいた方が混乱しないので、挨拶だけビデオで撮って直ぐに別れれば何とかなるかと思います」
「面倒だけど、何処でどう繋がるのか分からないから、統一しておいた方が良いかもね。南方伯様もこの船に泊まりに来る可能性もゼロじゃないわ。可能性は少ないけど、この前来ていた使者と侯爵様が変に絡んだりしたらおかしな事になりそうね」
僕の場合、まあ良いやって考えるとしっぺ返しをくらうから、思いついた対策は実行しておかないとな。
「ええ、出来る事はやっておきましょう。マリーナさん、またお願い出来ますか?」
「分かった」
コクンと頷いてくれた。相変わらずスライムと仕事以外は口数が少ないな。
「では、外海を出てもう少しルッカに近づいた後にタラップを下したまま停泊させます。侯爵様達をお迎えする場合はそこまで案内しますね」
キャッスル号を木造に船偽装してだいたいの事を決めて、ルト号に乗り換えてルッカに向かう。
「そう言えばカミーユさん。カリャリの街で発注したもの以外で必要な物はありますか? ルッカで買って行けば早く済みますよね?」
「いいえ、大体の注文は済ませましたので、生活してもらってから、足りない物を注文する方が良いと思います」
「そうですか。でしたら、ルッカに着いた後はカミーユさん、マウロさん、ドナテッラさんに奴隷を集めて貰って、僕達は侯爵様に面会を申し込みましょうか。
あっ、あと、侯爵様がキャッスル号に来られる時は、カミーユさん達が代表として侯爵様をお出迎えして貰いますので、その準備もお願いしますね」
「分かっています。魔導士様の格好をしたマリーナさんとの打ち合わせ以外は、準備が整っていますので問題ありません」
おうふ、分かっていたけど優秀な人達だな。僕なんて行き当たりばったりで、先の事を考えても、予想と違う事になってアタフタするのに。魔導士様の事も突然の話だったのにまったくアタフタしていない。憧れるな。
ルッカの港に到着して商人組の3人と護衛にイルマさん、カーラさんが奴隷の事で商業ギルドに向かい。
アレシアさんとドロテアさんには、時間が出来たらキャッスル号に招待する事を、侯爵様に伝えに行ってもらう。会いに行くのも面倒なので、招待を受けて貰えると有難いな。
暫く経つと、アレシアさん達が先に戻って来た。
「アレシアさん、ドロテアさん、お疲れ様でした。どうなりましたか?」
「ただいま。魔導士様の船とは言え、いきなり侯爵様を見知らぬ船に乗せる事は出来ないと言われたわ。先に何名かの騎士と文官を乗船させて確認したいそうよ」
……当然の要求なんだろうな。僕的には一回で済ませたかったんだけどしょうがないか。
「分かりました。先に招待するのは構いませんが、いつ頃なら大丈夫ですか?」
「先に招待してもらえるのなら、明日でも明後日でも構わないって言ってたわ。ワタルさんの自由で良いんじゃない?」
「うーん、では、明日でお願いします。面倒なのは早めに済ませましょう」
「分かったわ。もう一度伝えに行ってくるわ」
出て行ったアレシアさん、ドロテアさんと入れ替わりで商人組が戻って来た。
「皆さんお帰りなさい。どうでしたか?」
「ただいま、ワタルさん。マウロさんのおかげでスムーズに話が進みました」
「ワシの人脈は凄いからの。任せておけば安心じゃな」
「あはは、頼りにしてます。それで詳しく聞かせて貰えますか?」
マウロさんの自分をアピールする感じは、学ぶべきなんだろうか。日本人はアピールが足りないって言われるけど、マウロさんみたいに露骨にアピールするのはちょっと恥ずかしい。
「はい、孤児院とキャッスル号の両方の人材を求めました。孤児の世話に10人の男女を。学問を教える事が出来る人材を5人。腕の立つ護衛を10人。キャッスル号と孤児院での料理の為に10人。計算の出来るスタッフを5人。お願いして来ました。
人数的には全然足りないと思うのですが、最初ですのでこの位ですね。素行が良く、威圧感の無い人物をお願いして来たので、王都まで探しに行ってもらう事になりましたので、時間が掛かるそうですが構いませんか? 駄目だった場合はそれに近い人材をルッカで集められるだけ集めていく事になります」
合わせて40人。これでも少ないんだよな。あの規模の孤児院だともっと面倒を見る人が必要になるだろうし。まあ、コツコツと集めて行くしかないな。頑張ろう。
誤字脱字、文面におかしな所があればアドバイスを頂ければ大変助かります。
読んで頂いてありがとうございます。




