22話 スタッフ任命と歓迎会
キャッスル号を取り仕切って貰う3人を乗せて南方都市を出発する。取り敢えず外海に出てキャッスル号に乗り換えて、のんびりレベル上げをしながらカリャリの街を目指すか。
キャッスル号に乗り換え、荷物を整理している3人……年寄りに肉体労働をさせる気か、と言ってイネスが連れて行かれたから4人か……その4人を除いてドーナツショップでお茶を飲む。
カミーユさんとドナテッラさんにも手伝いを申し出たんだけど、必要無いと言われてしまった。ちょっと残念だ。
「うーん、マウロさんはお年寄りですし、補助する人を付けた方が良いですかね?」
「見た感じ元気そうだし、レベルが上がれば体力も増えるし大丈夫なんじゃない? 荷物の整理も、面倒だったからイネスを連れて行ったんだと思うわ」
アレシアさんの言う通りな気もするな。
「お年寄りがレベルを上げたら肉体が若返ったりしますか?」
「どうなのかしら? お金持ちになって寿命を延ばすためにレベルを上げる人はいるけど、限界があるわね。この船みたいに安全を確約する事は難しいし、いくらお金持ちでも高ランクの冒険者を雇い続けるのはお金がいくらあっても足りないわ。年齢よりは若く見られるぐらいの効果はあるらしいけど、その程度じゃないかしら」
見た目が20代になるとか無茶苦茶な効果は無いのか。寿命は延びても若い頃にレベルを上げた方が効率が良いんだろうな。
「王侯貴族の方達はどの位までレベルを上げているんでしょうか?」
「噂位しか聞いた事は無いけど、自領を持っていて、兵士を養っている所は結構レベルを上げているらしいわね。でも自領に都合の良い狩場があるとも限らないから、皆がレベルを上げているって事も無いみたい。王族なんかはレベルによって何か所か狩場を持っているらしいわよ」
みんながみんなレベルを上げまくっている訳でもないのか。パワーレベリングの商売って本気で儲かりそうだな。
「ジラソーレの皆さんに随分付き合って貰ってますが、報酬は幾らぐらい払えば良いんでしょう? 前に渡したお金では少なすぎますよね。商売の神様からの資金で報酬を支払えますから、相場の値段を教えてください」
「うーん、そう言われてもね。正直に言うとワタルさんの船に乗っているだけで、簡単にレベルは上げられるし、美酒に美食に美容に娯楽……あんまり働いてもいないし、私達がお金を払う方が妥当な気がするのよね」
僕的には巨乳美女を独り占めできるだけで、十分に報酬を支払えるんだけど。
「護衛やアドバイスで十分にお役に立って貰ってますよ。時間を拘束しているのは事実なので、報酬は受け取って貰わないと、僕も困ります」
「そう? でも正規の値段は貰い過ぎだから、後でみんなで話し合っておくわ。それで良いかしら?」
「分かりました。決まったら教えてください」
雑談しながら荷物の整理が終わるのを待つ。
「今まで使用していなかったけど、従業員用の区域もあるのよね。見た感じ部屋も豪華だったし凄いわね」
「ええ、豪華客船ですからね。働いている職員の部屋も偉い人ほど豪華になっています」
たぶんだけど、豪華客船の船長ってかなりのエリートだよね。船内の捜査権も持ってるってテレビでやってたし、偉いはずだ。これからはほぼキャッスル号の中に居る事になるんだし、スタッフ任命をしておいた方が良いな。
雑談をしながら待っていると、ある程度のめどがついたのか4人が戻って来た。
「お疲れ様です。問題はありませんでしたか?」
「ええ、素敵なお部屋でした。これからの生活が楽しみです」
「ワシも満足じゃの。自宅も豪邸と言って良い物じゃが貰った部屋の方が快適そうじゃった」
「私の部屋も立派過ぎて戸惑ってしまいます」
3人とも不満は無いみたいだな。さっそく役職を任命しよう。
「それでですね、前にも話しましたがスタッフ任命という能力で、管理してもらいたい部門の知識を得て貰います。まあ、人数が足りませんから、他の部門の仕事も兼任してもらう事になりますから取り敢えずになります。
まずはカミーユさんですね。副船長に任命します。僕が殆どいないので実質的な責任者になります。構いませんか?」
「ええ、望むところです。しっかりやり遂げてみせますね」
うん、やる気は嬉しいけど目が怖い。取り敢えず副船長に任命すると、魔法陣がカミーユさんに吸い込まれる。
「……凄い船ですね。もしかしてと思っていましたが、本当に異世界の船だなんて。ワタルさんも異世界人で良いんですよね?」
話してなかったけどバレるよね。マウロさんもドナテッラさんも大体の予想はついてたみたいで、あんまり驚いてないし、ああ、やっぱりって顔だ。キャッスル号を見て分からない方が不安になるよね。
お客さんも異世界の船だと分かるだろうし、魔導士様が異世界人って広まるんだろうな。全部魔導士様におっかぶせる事が出来れば楽なんだけど、どうなるかな?
「まあそういう事です。内緒ですよ」
「ええ、分かっています。契約通りワタルさんの情報を洩らす事はありません」
「ありがとうございます」
「次はドナテッラさんですね。ドナテッラさんにはチーフパーサーをお願いしたいと思っています。ホテル……この船のお客様の歓迎や部屋の管理が主な仕事になりますが、構いませんか?」
ホテルマネージャーでも良いかと思ったけど、統括するのはカミーユさんに任せて、部門毎に集中してもらった方が良さそうだよね。最初の方は何部門か兼任してもらう事になりそうだし。
「分かりました。頑張ります」
ドナテッラさんをチーフパーサーに任命する。
「凄いですね。部屋を管理するのに、PCですか? 使いこなせば凄く便利そうです」
「ええ、慣れるとかなり便利なので頑張って使いこなしてください」
PCの知識まで入るのか。凄いな。
「次はマウロさんですね。マウロさんにはショップマネージャーをお願いします。船内の販売物の管理が主な仕事になりますが、構いませんか?」
「うむ、ワシにピッタリじゃの。任せると良い」
任命すると、こんな商品がっと言って自分の世界に入り込んでしまった。大丈夫か?
「知識を得たので分かると思うのですが、クルーズディレクターやエグゼクティブシェフなど重要な役職が他にもあります。
これは3人で話し合って、兼任または信用が出来る人を見つけて推薦をお願いします。契約を結んでもらう事になりますが、面接の後決めさせてもらいます。
あとは興味がある仕事や、他の仕事に移りたい場合は相談してください。殆ど僕の感覚で決めたので3人でよく話し合って、上手く回る様にしてください」
「分かりました。頂いた知識の中に他の部門の知識や関係性もありますので、3人でしっかり考えてみます」
カミーユさんが楽しそうに答えてくれた。キャッスル号に関する知識を得て、面白そうだと思ってくれたみたいだな。
「ワタル、ちょっと良いかの?」
考え込んでいたマウロさんが話しかけて来た。
「マウロさん、どうしました?」
「うむ、商品の売り方じゃが、外にドンドン商品を輸出すれば、出した分だけ売れるじゃろうが、最初はこの船に客を寄せる為に購入制限をしたいのじゃが良いかの?」
ん? 商品をばら撒くのと、船に来て貰うのとどっちが良いのかな? 僕には商売なんてサッパリだから聞かれても困る。
「どうしてですか?」
「購入制限をした方が、手に入らん商品を求めて大陸中から人が集まる。特にスパ等を体験させれば商品を手に入れても度々訪れるようになるじゃろう。制限をなくす前にこの船を忘れられんようにしておきたい」
あー、僕がジラソーレにやっている事を大陸中でやろうとしているのか。スパの器具なんてこの世界で何年たてば作れるのか想像も出来ない。
美容関係に効果があると浸透すれば、裕福なご婦人方が何度も何度も来てくれそうだ。男も美酒美食やカジノにハマれば、大儲けだな。
「分かりました。マウロさんにお任せしますが、カミーユさんとドナテッラさんともしっかり話し合って決めてください」
「うむ、息子を呼びつけて大陸中に売りまくりたい商品ばかりじゃ。強気でガンガン攻められるの。面白くなって来た」
「息子さんに商品を卸すなとは言いませんが、独占とかは駄目ですよ」
「分かっておる。これだけの商品を独り占めしておったら、命がいくらあっても足りんわい。きちんと分配するから安心しておけ」
「分かりました。では、今後この船で必要な人員や物資等は3人で考えて決めてください。人員は奴隷を考えていますが、サポラビもいるのでそれを含めて考えてください」
「サポラビってこの子ですよね? とても可愛いですが……どういった生き物なんですか?」
カミーユさんが優しくサポラビを撫でながら聞いて来る。サポラビの情報は副船長の知識に入っていないのか?
地球の副船長の知識にサポラビなんて入っている訳ないか。でも、僕が虐殺した角兎達ですとは言い辛い。
「生き物と言うか、僕の能力によって生まれた生物みたいなものですね。角兎をベースにしているみたいです。最低限の仕事しか熟せませんが、役に立つと思うので使ってください」
「いるだけで癒されますね」
カミーユさんとドナテッラさんは気に入ったようで、優しくサポラビを撫でている。僕はスライムの方が可愛いと思います。
「でしたら、専属のサポラビを召喚しましょうか? 難しい事は出来ないと思いますが、簡単な手伝いをしてくれますよ」
「「ぜひ、お願いします」」
「ワシも手伝いは欲しいの」
了解してそれぞれに専属のサポラビを召喚する。カミーユさん専属のサポラビは、副船長付きの肩書の影響かしっかり帽子まで被った男物の船の制服を着ている。
ドナテッラさん専属のサポラビは、受付カウンターの女物の制服かな? マウロさん専属のサポラビはショップ関係だからかビシッとした男物のスーツっぽい格好だ。
「この子達は、命令しない限り常に付き添ってお手伝いしてくれますので、お役に立ててください」
「ありがとうございます。名前を付けても構いませんか?」
「ええ、カミーユさんの自由にして貰って結構です」
ふふ、何て名前にしようかなーっとご機嫌だ。ドナテッラさんも優しく撫でているので問題無いだろう。マウロさんは撫でてはいないが、話しかけて出来る事を確認している。
大まかな話し合いを終えて、歓迎会を兼ねて150セ〇トラルパークで豪華な夕食を取る事に決めた。
カミーユさん、マウロさん、ドナテッラさんもお酒はいける口で、美味しそうにお酒を飲みながら料理を食べている。
話す内容はレベル上げやキャッスル号の運営方法だ。ジラソーレのメンバーとイネス、フェリシアもこの船での生活を元にアドバイスをしている。
「ワタルさん。質問しても良いですか?」
「良いですよ、ドナテッラさん」
「そちらに3匹のスライムがいるんですが、ワタルさんの従魔なんですか?」
「この子が僕の従魔のリムですね。それでこの子がふうちゃん、マリーナさんの従魔で、この子がべにちゃん、ドロテアさんの従魔ですね。可愛いでしょ?」
「まじまじとスライムを見るのは初めてなので、何とも言えませんが綺麗な光だと思います」
リム達の美しさが分かるのなら、信頼できるな。いずれは立派なスライム好きになるだろう。ちょっと熱くリム達の素晴らしさを説いたらイネスに止められてしまった。
ドナテッラさんが軽く引いた表情でこっちを見ている。……落ち着こう。押し付けると逃げられる。ゆっくりとスライムの素晴らしさを伝えて行こう。それからは楽しく飲んで騒いで宴会を楽しんだ。
「ふー、ちょっと飲み過ぎたかな?」
「そうですね。今日のご主人様は普段より飲むペースが早かったです。珍しいですね」
酔い潰れてしまったイネスをベッドに寝かせる。
「んー、色々やる事が多いけど、キャッスル号の事を任せられる人が来たから、気が楽になったよ」
「心強い方達が来て下さって良かったですね」
「うん、あとは孤児院もカミーユさん達に任せるつもりなんだけどどう思う?」
「そうですね。私としては孤児院とキャッスル号は切り離しておいた方が良いと思います。関係性はバレると思いますが、責任者が同じだと利用しようとする者が増えます」
「あー、そうだね。取り敢えず職員を集めて僕が責任者になるよ。信頼できる人が見つかったらその人に任せようか」
「その事もカミーユさん達に相談しておいた方が良いかもしれません。私も世間知らずですから」
フェリシアも殆ど森の中で生活していたんだから、世間知らずだよね。孤児院の事も相談しておこう。
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