21話 買い物と南方都市出発
村長さんと丘の上の村に到着して、フェリシアはセシリアさんの所に手伝いに行かせる。特にやる事も無いから僕達は村の見学をするか。
「村長さん、大工仕事の音があまりしませんけど、大工仕事も温泉の村に集中しているんですか?」
「はい、新たに移住者が来た際に使用する木材は森の川辺に小屋を建てて保存していますので、大工仕事は森の小屋か温泉の村に集中していますね。あちらが落ち着いたらこの村でも家を増やす予定です」
「そうなんですか。温泉の村が出来上がるのが楽しみですね」
「ええ、宿が出来たのでセシリア達が温泉に行ったのですが、殊の外気に入ったようで温泉の村に住みたがる人が増えました」
「もう、温泉に入りに行ったのですか。はやいですね」
「ええ、せっつかれてしまいまして。ワタルさんが作って下さった大きな湯船がありましたので、かなり助かりました。一日に何度も温泉に浸かったと喜んでいましたよ。
ただ、私と副村長だけがワタルさんのシャンプーでしたかな? それを使った事に文句を言われまして、図々しいお願いですが、鉱山で採掘される金属を担保にシャンプー等を分けて頂けませんか?」
物凄く申し訳なさそうに聞いて来る村長さん。僕と女性陣の間で板挟み状態なんだな。キャッスル号を開放すると売りに出されるんだし、この島に美容関連グッズを卸す事は問題無い。
……美容関連グッズを手に入れたら更に要求は苛烈になるだろうから、温泉の村が完成するのも早そうだな。
「分かりました。フェリシアに話しておきますので、セシリアさんと必要な物を考えると思いますよ」
「助かります」
真剣に頭を下げる村長さん。どれだけプレッシャーを掛けられたのか、想像すると涙が出そうだ。早めに行動して落ち着いてもらおう。
村長さんの家に向かい、セシリアさんとフェリシアに美容関連グッズを渡す事を伝える。セシリアさんの笑顔が眩しいな。
「ご主人様、移住の恩も返せていないのに、図々しいお願いをしてしまって申し訳ありません」
「面倒な事ならともかく、ただ商品を卸すだけなんだからたいした手間でもないよ。フェリシアの方で量を決めて後で卸してあげてね」
「はい、ありがとうございます」
村長さんの悩みを少しだけ解決してシーカー号に戻る。
「フェリシア、どのぐらいの量が必要だって言ってた?」
「個人で所有せずに、この村と温泉の共有スペースに設置する形にするそうです。人数がいますので消費は多そうですが、お試しという事でシャンプー、リンス、ボディソープを10本ずつ卸す事になりましたが、構いませんか?」
「それなら、ストックにあるから今から届けておこうか。温泉の村は完成してから見に行くつもりだから、渡すついでに南方都市に出発するって伝えておいて」
倉庫船を召喚してストックしたシャンプー、リンス、ボディソープを10本ずつ渡す。
「分かりました」
「アッド号を召喚するからイネスが運転してあげて」
「分かったわ。フェリシア、行くわよ」
アッド号に乗って届けに行く2人を見送りシーカー号に入る。イネスがちょっと嬉しそうだったな。アッド号やレンジャー号に乗って陸上を爆走する機会を作るべきだったか? 次に温泉の村に行く時で良いか。
「ワタルさん、南方都市に行ったら、カミーユ達を連れて行くの?」
「んー、直ぐには動けないと思いますから、何時でも大丈夫だと伝えて、カミーユさん達の準備が終わるころに迎えに行く感じですかね? 直ぐに動けるようなら、そのまま連れて行ってレベル上げですね」
「レベル上げね。楽しみだわ」
アレシアさんの目がキラキラしだした。
「ガレット号が効率が良さそうなので、3組に分かれてドンドンレベル上げをお願いします」
「……燃える展開ね。レベル上げ競争とか出来そうじゃない」
うん、そんな競争始めたらマウロさんとかポックリ逝きそうだ。釘を刺しておこう。
「アレシアさん、ドンドンとか言ってすみません。無茶をしないで最初はゆっくりとお願いします」
「そう? 最初はゆっくりの方が良いかしら?」
「はい、あの3人が海に慣れているとも限りませんし、無茶をしないでじっくりとレベル上げする事にしましょう。ルト号で慣らして、ある程度レベルが上がってからガレット号に切り替えましょう」
最初っからガレット号に乗せたら操船大好き組の餌食になるだけだ。暴走にハマっても恐怖しても、どっちにしろ良いことは無い。
「それが、無難なのかしら? まあ、分かったわ。お楽しみは後に取っておきましょう」
「はは、そういう事でお願いします」
カミーユさん、マウロさん、ドナテッラさん、ごめんなさい。
イネスとフェリシアが戻って来たのでシーカー号を出発させる。途中でキャッスル号に乗り換えて南方都市に向かう。
………………
ルト号に乗り換え南方都市に到着して商業ギルドに入る。何度も来ているとこの行動も慣れたな。最近は街の人達もジラソーレだけ見て、僕の事をスルーする技術を身に着けている気がする。なんか寂しい。商業ギルドに入り、カミーユさんに声を掛ける。
「カミーユさん、お話良いですか?」
「あらワタルさん、構いませんよ、奥に行きましょうか」
カミーユさんに案内されて何時もの部屋に向かう。カミーユさんを引き抜いたら、ここに来るのも少なくなるのかな? カリャリの街が本拠地になって、ダークエルフの島に寄ったついでに此処に来るって感じになりそうだ。
「それでワタルさん、今日はどうしました?」
「孤児院の発注が終わりましたので、そろそろカミーユさん達に来て貰おうと思いまして。いつ頃なら大丈夫ですか?」
「ふふ、待っていましたよ。ですが、私も月が切り替わる10日後までは此処で働かないといけません。ドナテッラも同じだと思います。マウロさんはご隠居さんなので、いつでも大丈夫だと思いますがどうしますか? マウロさんもやる気満々だったので飛んで来ると思いますよ」
やる気満々のお爺さんが先乗りしてくるのか……なんか疲れそうで嫌だな。
「いえ、何度も説明するのが面倒なので、3人一緒でお願いします。日にちはカミーユさんの方で調整してもらえますか? あと荷物はどれだけあっても大丈夫ですから、必要な物は港に運んでおいてください」
「分かりました。明日までには調整できると思いますので、また明日いらして頂けますか?」
だいたい10日以降か。あっ、孤児院で使う家具も頼んでおきたかったんだ。
「分かりました。明日の夕方にでもお伺いしますね。あとカミーユさん、忙しいとは思うのですが、孤児院で使う家具を集めて貰いたいんですが、可能ですか?」
「家具と言うと、何が必要ですか?」
「そうですね、ベッド、タンス、机、椅子、後は食堂で使う大きなテーブルですね。あっ、あとは中古で構いませんので、子供用の様々な大きさの服もお願いします。
それに日持ちする食料もあれば助かりますね。食料は5金貨分で、他は無理なく集められる程度で結構ですので、よろしくお願いします」
ブレシア王国は全体的に物資が不足しているだろうから、南方都市で買えるだけ買っておこう。余分が出ても倉庫船に送還しておけば問題無いし、孤児院自体にも倉庫が作ってある。困る事は無いだろう。
「分かりました、集められるだけ集めておきますね」
苦笑いしながら頷いてくれた。家具とか言いながら服に食料まで頼んじゃったからな。忙しい所に更に仕事を振ったら苦笑いもされるよね。軽く雑談して商業ギルドを出る。
「ご主人様、このまま船に戻りますか?」
「いや、リバーシとジェ〇ガをある程度手に入れておきたいから、久しぶりにドニーノさんの所に寄って帰るよ」
「分かりました」
久しぶりに造船所まで歩き、目の前を歩いていたお兄さんに声を掛けて、ドニーノさんを呼んでもらう。
「おお、久しぶりだな」
ドニーノさんがやって来たが、目線が僕の手元に集中している。
「酒は?」
僕の挨拶より先に、続けて酒の要求か……欲望に正直で、ある意味好感が持てる。
「ありません」
「何しに来たんだ?」
露骨にガッカリしたな。今度来る時は船のお酒でも持ってくるか?
「リバーシとジェ〇ガを卸して貰おうと思いまして。10個ずつ貰えますか?」
「そうか、在庫はあるから構わん。ただで持って行け」
「いえ、払いますよ」
「構わん、儲けさせてもらっているのに、お前から金は取れん。悪いと思うのなら次からは酒を持ってこい」
「はあ、では頂いておきます。次は美味しいお酒を持って来ますので期待していてください」
急に笑顔になったな。そう言えばリバーシとか契約した商品のお金も入っているんだよな。最近は商業ギルドでギルドカードを更新していなかったから忘れてたよ。いくらぐらい入っているんだろう?
気になるけど、お金に余裕があるしギリギリまで我慢するか。これからも契約が増える予定だし、我慢して更新したら、凄いお金が入ってそうだ。
「おう、楽しみにしてるぞ。なるべく早くな」
「はは、分かりました」
ルト号に戻ったらストックのウイスキーを届けてもらうか。後々に価値を持たせるために、高級品ではなく、年数表記の無い一般的なウイスキーにしておこう。ここぞと言う時に高級酒は取っておけば何かあった時にご機嫌が取れる。
リバーシとジェ〇ガを受け取り、ルト号に戻る。
「イネス、フェリシア、ドニーノさんにこのウイスキーを届けてくれる?」
「分かったわ。でもフェリーの商品を渡しても大丈夫なの?」
「うん、お世話になってるし、もう直ぐキャッスル号を開放するから大丈夫だよ。それにここで騒ぎになっても戻って来るのは数か月先だからね」
「それなら出発直前に渡した方が良いんじゃない? ドニーノさんがウイスキーを飲んだら押し掛けて来るわよ?」
確かに、寝かしていない蒸留酒でもかなり喜んでたから、ウイスキーを気に入ったら押し掛けてくる可能性もあるな。
「イネス、フェリシア、今度の出発前に届けて貰える?」
「ええ、分かったわ」
久しぶりにルト号に泊まり、翌日の夕方にはカミーユさんを訪ね、12日後に出発する事になった。少しずつ準備をしていたらしく結構早く出発できるそうだ。
僕が注文した荷物と、カミーユさん、マウロさん、ドナテッラさんの荷物を毎日受け取る事になった。キャッスル号で遊んで待っていようかと思っていたけど、久しぶりにルト号での生活だ。
なんか懐かしいな。広い船だとバラバラになっちゃうけど、ルト号だと身近にジラソーレがいて嬉しい。ノーブラTシャツ姿をじっくり間近で見れて、とても幸せです。
出発日まで、届けられる荷物を送還しながら、クラレッタさんとカーラさんと一緒に料理をする。皆でリバーシ、ジェ〇ガをしたり、お酒を飲んだりと、楽しく過ごせた。
広い船で生活して忘れていた、小さな船での利点をしっかりと再確認できたな。ラッキースケベも起こりやすいし、娯楽施設が無いから会話が弾む。
キャッスル号では個別にお風呂に入って休んでいたけど、ルト号だと湯上りの女性陣をしっかりと堪能できる。特にルト号で湯上りからの飲み会の流れは僕の中でトップ3に入る幸運イベントだな。嬉しい事が沢山起きる。
これからもルト号で生活する時間を取れるように行動しよう。豪華で広い部屋も良いけど、身近に女性陣がいる方が僕にとって価値がある。
日々、狭い船内での利点を再確認していると、あっという間に出発日になってしまった。ちょっと残念だな。
イネス、フェリシアにはドニーノさんにウイスキーを届けに行ってもらい。僕は3人を出迎える。
「ワタルさん、これからよろしくお願いします」
「こちらこそ、皆さんよろしくお願いします」
お互いに挨拶をして、ルト号に招き入れる。イネスとフェリシアが戻って来たので、さっそく出発だ。
「それで、ワタルさん、このままカリャリの街に行って、キャッスル号を開放するんですか?」
「いえ、孤児院が出来上がってからキャッスル号を開放する予定ですから、3ヶ月ほど先になります。それまでは、昼間はレベル上げをしてもらって、夜はキャッスル号の設備の確認をしてください。カリャリの街で色々契約を結ばないと駄目なんですよね?」
僕の言葉に3人が反応する。
「ほほ、それはワシのレベルも上げてくれるのかの?」
「ええ、カミーユさん、マウロさん、ドナテッラさんを含めて、孤児院の完成までに上げられるだけレベルを上げて貰います。断っても構いませんが、出来ればレベル上げをして貰って、末永く働いてもらえたら嬉しいです」
「それは、助かるの、この歳になって寿命が延びるとは思わんかった」
「ワタルさん、良いんですか? レベル上げはかなりの価値がある行為ですよ?」
ドナテッラさんが本当に良いんですかって顔で聞いて来る。チートのおかげで僕の場合はパワーレベリングが容易なんだよね。お金に困ったらパワーレベリング業者とかしても儲かる気がする。
「ええ、気にしないでください。沢山レベルを上げて、長くしっかり働いてもらえる方が僕も嬉しいですから。ジラソーレとイネス、フェリシアがしっかりと手伝いますので期待していてください」
大見得を切って外海に向かう。ポコポコレベルが上がって、驚く3人の顔が楽しみだ。
誤字脱字、文面におかしな所があればアドバイスを頂ければ大変助かります。
読んで頂いてありがとうございます。