20話 発注とダークエルフの島
商業ギルドの応接室に集まってくれた3人の棟梁達と話し合う。
「それで、ワタルさんの要望は3階建ての石造りの建物と、職員たちが住む為の寮の建設。必要な施設は先ほど言われた物で良いんですね」
「そうですね。こちらからの要求はその通りですが、本職の目から見て大人数で暮らすにあたって足りないものはありませんか?」
「大体の物は揃ってると思います。風呂なんて贅沢な位ですな。強いて言えば大勢で暮らすのなら倉庫を別棟で建てておくと便利です」
倉庫か、普通に考えるとあった方が良いよね。建てて貰うか。資金に余裕があるから、気が大きくなっている可能性もあるが……まあ良いか。根っこは貧乏性なので、大きな買い物をするとドキドキする。
「分かりました。倉庫もお願いします。どのぐらいで出来ますか?」
「それは、資金しだいですな。建築費を弾んで貰えるのなら、人を雇えます。専門職は少ないですが、資材を運ぶ人数が増えるだけでもだいぶはやくなります」
話し合いの結果、最速でやって貰う試算で2白金貨50金貨でお願いする事になった。普通なら80金貨ってところらしいが、3倍以上の人を雇って4ヶ月程で作り上げてくれるらしい。
報酬込みなんだけど高いのか安いのかよく分からない。でも4ヶ月で孤児院と寮、倉庫を作ってくれるんだから妥当なのか? でも、人件費も物価も安いのに2白金貨50金貨は疑問だ。
一人で悶々としていたが、イネス、フェリシア、ジラソーレも普通の顔なので、正しいと思って納得しておいた。沢山お金を使った方が良いので問題無いと分かっているんだが、ちょっと気になる。
細かく間取りを話し合い、商業ギルドを出たのは夜だった。
「ワタルさん、良い孤児院が建ちそうですね」
クラレッタさんがニコニコと話しかけて来る。大工さんと一番真剣に話していたのはクラレッタさんだからな。僕だと面倒になってお任せしますで終わりそうだから、良かったな。疲れたけど。
「あはは、そうですね。クラレッタさんが頑張ってくれたおかげです。大工さん達もしっかりと請け負ってくれたので安心ですね」
僕は大工さん達の視線が、熱弁するクラレッタさんのお胸様に集まっていたのは見逃した。その結果大工さん達のやる気も上がったはずだ。おじさんでも男だもんね。
一仕事終えた気分になって、フォートレス号に戻る。
「そう言えばワタルさん、荷下ろしに海軍が来てたんじゃないのかしら? 待機してなくて良かったのかしら」
「アレシアさんの言う通りですね。すっかり忘れていました。明日、海軍の方達が来たら挨拶はしておきましょう」
いかんな。勝手に荷下ろしをしても良いと言ってたけど、挨拶ぐらいはしておかないと駄目だったな。礼儀は大切だ。フォートレス号の駐車場に降りてみると確かに資材が減っている。運び出してくれたんだな。
………………
海軍の人との挨拶を無事に済ませて、5日かけて積み荷を全部下ろす。その間に海軍のお偉いさんに招かれたが、断って孤児院の完成後に船に招待するって事で納得してもらった。
使者と会うだけでも大変なのに、招かれてお偉いさんとの会話は出来るだけ先延ばしにしたい。キャッスル号を開放するのでなければ逃げ出せば良いから、断るのも簡単なんだけどね。
招待はカミーユさん達を連れて来て任せてしまおう。目移りするキャッスル号の中なら、僕に構っている暇は無いだろう。
「ご主人様、孤児院の完成までだいぶ時間が空くけどどうするの? ダークエルフを探しに行く?」
「ダークエルフを探して戻って来るのにだいぶ時間が掛かりそうだから、それはキャッスル号を開放した後だね。今回は南方都市に戻って孤児院で使う家具の仕入れと、カミーユさんを連れて行ってレベル上げかな。マウロさんとドナテッラさんもついでにレベル上げしちゃおうか。長く働いてくれると助かるからね」
「それは良いわね。マウロさんは少しはレベルが高いそうだけど、見た目はいつポックリ逝ってもおかしくなさそうだもの。レベルを上げておくのも良いわね」
イネス、何気に酷い事を言うな。でも間違ってない。人脈も凄いみたいだし、長生きしてもらおう。ジラソーレもOKしてくれたので、商業ギルドに行って、おっさんに暫く戻らない事を伝える。
ついでに孤児院の工事状況の経過を確認してもらうように頼む。しっかりと依頼として処理されて5銀貨を要求された。
まあ、ただで使うつもりも無かったから良いんだけど、流れるような処理作業にムキムキでも商人なんだと再認識した。用事を済ませて、順番にフェリーを外海に運び送還する。
「うーん、フェリシア、取り敢えずダークエルフの島に顔を出しておこうか。カミーユさん達を連れて行くのも違うから、この機会を逃すと次に行けるのがだいぶ先になりそうだからね」
鉱山の関連でカミーユさん達の力を借りる事になるかもしれないけど、ダークエルフの島にいきなり連れて行くのも違うからな。鉱山が稼働したら新しい人を連れて行く可能性がある事を伝えておくか。
「ありがとうございます。人数が増えて少し心配なのでお願い出来ますか?」
「うん、僕も気になるから問題無いよ」
目的地をダークエルフの島近くの外海に設定して出航する。
………………
キャッスル号で数日経過し、僕は映画、アニメ、読書、ゲーム、プール、マッサージ、耳かき、美食、お酒、偶に訓練とスポーツ。充実した生活を送っていた。
普段通りまったりDVDを観てお菓子をつまんでいると、突然アレシアさんが訪ねて来て不思議な事を言い出した。
「ワタルさん、シアターで劇を観ていたんだけど、私達もやってみない?」
何を言ってるんだろう?
「どういう事ですか?」
「あのね、サポラビちゃん達の演技を観てたら私もやってみたいなって思ったの」
思わないでください。
「もう皆に声を掛けたから、ワタルさんも行きましょう」
駄目だ。目が煌めいている。止まらないな。アレシアさんに連れられてシアターに入ると。言葉通り女性陣とふうちゃん、べにちゃんも集合している。皆を見ると何人かの目には諦めの感情がある。
「じゃあ、ワタルさん、スタッフ任命をお願いね」
スタッフ任命はするんだね。自力でやるよりだいぶマシか。
「スタッフ任命は構いませんが、みんなでやって誰が観るんですか?」
「……そうね」
考えてなかったんだな。ただみんなで劇をしたかったのか。
「分かりました。僕が皆さんの劇を撮影しますね。後でみんなで観ましょう」
「でも、それじゃあワタルさんが劇に参加できないわよ?」
いや、そんなの悪いわよって顔をしなくても大丈夫です。僕は劇をやりたいなんて一言も言ってません。
「良いんですよ。僕は皆さんの劇を観られるだけで十分ですよ」
本気で十分です。
「そう? じゃあお願いしても良い?」
「ええ、では、スタッフ任命しますね」
女性陣をスタッフに任命すると「へーこんなのがあるのね」っとか「どれをやる?」っとか意外と楽しそうだ。
着替えに行くと言って控室に行く女性陣。さすがにリム達は演技が難しいので、僕の隣の席で見学だ。まあ、リム達なら遊んでいるだけで最高に見ごたえがある劇になるけどね。
取り合えずビデオをセットして舞台全体を撮れるようにセットしておく。んーどうせならアップで取りたいかも。豊かなお胸様の美女達の劇……なんかやる気も出て来たし、アップも押さえておきたい。
「リム、急いでお買い物に行ってくるからここで待っててね」
『うん』
ダッシュで店に向かう。別なのを選ぶ時間は無いから同じ機種の色違いで良いか。操作方法も慣れてるしな。7銀貨を支払い急いでシアターに戻る。
うん、まだ準備は終わってないみたいだな。リム達に挨拶をしてさっそく箱を開けてビデオをセットアップする。
『おわった?』
「終わったよ。もう直ぐみんなの劇が始まるよ。楽しみだね」
『うん』
準備が終わったので、リム、ふうちゃん、べにちゃんと戯れる。幸せだ。そうこうしていると舞台の幕が上がる。急いでビデオを構え撮影体勢に入る。
おっ、なんだ、体の線がピッチリ出ている全身タイツっぽい衣装だ。お胸様の盛り上がりが素晴らしい。演目は、猫の耳に尻尾。有名なキ〇ッツだな。イネス、イルマさん、カーラさん、クラレッタさんは自分の耳をどうしてるんだ? ちゃんとネコミミがついているように見える。……ネコミミも良いな。
スタッフ任命って凄い。舞台を見た事が無い僕にとっては完璧な劇に見える。激しい踊りと歌。お胸様が気になるが見応えのある演技と歌だ。
特に踊りが素晴らしい。お胸様を固定しているのかそこまで揺れてはいないが、少しの揺れと膨らみに目が引き付けられる。
約2時間の劇が終わる。皆素晴らしい演技だったが、イルマさんの猫姿が最高に素晴らしい。妖艶な猫姿のイルマさん、とても魅力的で役柄ともピッタリだ。
欠点と言えばデフォルメされたぬいぐるみみたいなサポラビだな。スラッとした猫の演技には激しく向いていない。
今まで興味が無かったけど劇も良いな。まあ、巨乳美女の演技って事もかなりのプラスなんだろうな。
キャッスル号を開放したら、劇にも力を入れると楽しいかも。カミーユさんにも伝えておこう。いや、カミーユさんとドナテッラさんにも参加してもらって劇をやって貰おう。楽しみになって来た。アレシアさん面倒だと思ってごめんなさい。
「ふー、結構疲れたわ。ワタルさん劇はどうだった?」
アレシアさんが笑顔で汗をぬぐいながら聞いて来る。なんかスッキリした顔をしているな。諦めの感情を浮かべていた女性陣も笑顔だし、ストレス発散みたいな効果もあるのかな? 大声で歌って踊る……効果がありそうだ。
「とても見応えがあって面白かったです。夕食の時に見ましょうか」
「いいわね、楽しみだわ。じゃあ着替えて来るわね」
夕食の際の鑑賞会も高評価で、自分の演技を真剣に見ながら他のメンバーの演技を確認して楽しんでいる。もう劇は嫌だって人もいないみたいだから、頼んだらやってくれそうだな。楽しみが増えた。
………………
なかなか楽しい航海を終えて、ダークエルフの島付近の外海に到着し、シーカー号に乗り換えてダークエルフの島のいつもの場所に停泊する。
「村長さん、こんにちは」
「ワタルさん、こんにちは、お久しぶりです」
出迎えてくれた村長さんと挨拶をして、お土産の食料とお酒を渡す。
「ワタルさん、いつもありがとうございます」
「いえいえ、僕が移住者を連れて来てますから、これ位は当然ですよ。村はどうですか? 食料が足りなければ、また買って来ますよ」
「十分です。まだ土が出来ていないので豊作とは言えませんが、ある程度の小麦や野菜も採れるようになりました。家畜も増えて来ましたので、問題無く生活出来ます」
へー、小麦や野菜が採れるようになったのなら、よっぽどの不作でもなければ生き残れるよね。家畜も潰せば食料になるし、順調と言って良い。
「取り敢えず丘の上の村に行きましょうか。どうなったのか、とても楽しみです」
「あはは、そこまで変わっていませんよ。ガッカリしないでくださいね」
荷物を運びながら村長さんと一緒に村に向かう。
「前回、この島に来てから3ヶ月ぐらいですから、分かってますよ。新しく来た方達は村に馴染みましたか?」
「ええ、戸惑いもあるでしょうが、みんなの家が出来上がり、落ち着いていると思います。副村長も温泉周りに宿を建て、いくつかの家も建てたので、もう少し整備すれば十分に村と言えるようになると思いますので、順調ですね」
温泉の村も順調らしい。徐々に発展しているし、これからも人数が増える予定だ。人数が増えて防衛網を整えれば安心できるようになりそうだ。
「順調なら良かったです。この島もドンドン賑やかになりますね」
「はい、先が楽しみでしょうがありません。ワタルさんのおかげです、ありがとうございます」
「あはは、僕は成り行きですので、祭神の森の女神様とフェリシアに感謝してください」
実際、フェリシアと森の女神様に頼まれなかったら、僕の中では終わった事になってたからな。
「はい、しっかりと感謝したいと思います」
丘の上の村に到着する。家が増えたかな? あんまり変わってないけど、温泉の村に力を入れているみたいだし劇的に変わったりしないか。温泉の村はどうなってるのかな? 様子を見に行くか悩むところだな。
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