17話 20日と新たな人材
キャッスル号での神様方の接待も終わり、クリス号に戻る。
神様方の接待は森の女神様の耳かきと、光の神様、美食神様、森の女神様とのお茶会。他の女神様方のマッサージ談義。美食神様とお話をしながら料理のストックを作って貰うなど、結構幸せな時間を過ごした。
酔っぱらった神様方の面倒や、創造神様のちょっとしたワガママもあったが、概ね神様方には満足して頂けたと思う。
次回の降臨は忙しい時期と重なっていそうなので、未定という事で話を通しておいた。孤児院を作るのって、自分がどれだけ忙しくなるかとかまったく分からないからな。
意外と暇かもしれないけど、どうなるんだろう? まあ、やってみないと分からないか。
クリス号に到着してタラップから中に入る。
「ご主人様、お帰りなさい。何か問題は起こらなかった?」
「ああ、イネス、ただいま。問題は無かったよ」
出迎えてくれた女性陣と挨拶を交わして。飛び付いて来たリムを抱っこして撫でまわす。やっぱりリムが居ると落ち着くな。
「ワタルさん昼食は取ったの?」
アレシアさんが話しかけて来た。
「いえ、どうせならクリス号で食べようかと思って取ってません。皆さんはもう食べましたか?」
「私達も食べてないから行きましょうか。何を食べる?」
「んー、そうですね。お昼ですから堅苦しくない感じで、中庭のカフェで食べましょうか」
女性陣も中庭のお店ではまだ食事を取った事が無かったらしく、満場一致で決定した。中庭の外のテーブルに座り、サポラビからメニューを受け取る。
さて、何を食べようかな。意外とメニューが多くて悩む。結構お腹も空いているから、ステーキサンドとハンバーガーにしよう。多過ぎる気もするが無理だったらリムに食べて貰おう。
サポラビに注文を出すとお皿を持って戻って来る。……予想外だ。ステーキサンドってこんななんだな。食パンからはみ出るステーキがドンとパンの上に乗っている。
ハンバーガーの方も立派なハンバーグがドンっと鎮座している。スライスされたトマトにフライドポテトもついてボリューム満点だな。
ステーキサンドはナイフとフォークで食べるんだろうけど、これだけ大きいのなら大口で噛みつきたいな。全員注文が揃ったので頂きますの声と共に食べ始める。
食パン二枚に分厚いステーキを挟みかぶりつく。うん、これは凄いな。焼き加減はミディアムレアぐらいだな。分厚い肉と食パンをかみちぎり咀嚼する。
これぞお肉って感じだな。分厚いお肉を噛み締めて中から出て来るわずかにレアな肉汁を楽しむ。柔らかいお肉も好きだけど、分厚い噛み応えのあるお肉を豪快に食べるのも美味しい。
「ふー、ステーキサンドって結構ボリュームがありますね」
「おいしいよ?」
カーラさんがどうしたのって首をかしげて聞いて来る。
「ええ、美味しいですね。ただ量が多いと思ったんですよ」
「ん?」
うん、僕がステーキサンドをやっとこさ食べ終わる間に、3つ目のステーキサンドに取り掛かっているカーラさんには分かんないよね。
僕とカーラさんの会話に周りの女性陣も苦笑いしている。大食いカルテット以外は理解してくれているから良いか。
「大丈夫ですよ。沢山食べてください」
「うん」
ニコニコと大きなステーキサンドにかぶりつくカーラさん。見た目はクールな巨乳美人なんだけど、大きなステーキサンドを素早く食べ終える姿に違和感を感じなくなった。慣れって怖いよね。
僕はもう一つのハンバーガーを何とか食べ終わり、お腹いっぱいで休憩する。
「ワタルさん、神様の方は問題無かったのよね。これからはどうするの?」
アレシアさんがお腹をさすりながら聞いて来た。同じく食べ過ぎたらしい。
「キャッスル号で20日ぐらいのんびりして、その後南方都市に集まった資材の積み込みの予定ですね」
「クリス号には乗らないの?」
「キャッスル号を開放したら、自由に楽しめなくなるのでキャッスル号優先ですね。クリス号は偶に楽しむ感じで考えています」
「ああ、そうだったわね。分かったわ開放までに数ヶ月は掛かるでしょうけど、その間にキャッスル号楽しみつくすわね」
そういう訳で大食いカルテットが満足してからキャッスル号に移動する。暫くのんびりだな。
………………
のんびりして20日があっという間に過ぎた。イネスとフェリシアに頻繁に耳かきをして貰い、偶に訓練をして魔物を討伐したり、映画を観たりプールで泳いだり、美味しい物を食べたりとなかなか充実した20日だった。
ジラソーレのメンバーともそれぞれの趣味に合わせて会話をして頑張って仲を深めた。たぶん上手く行っているはずだ。
「ワタルさん、そろそろルト号に移動した方が良いんじゃないの? 魔物も倒しておかないといけないし」
おお、最近の出来事を思い出していたら、外海から出る所だったな。このまま南方都市に突入するには問題が多過ぎる。アレシアさんの言う通り魔物を討伐してルト号に移動するか。
乗船拒否の効果で安全な場所から一方的に魔物を殲滅して、ルト号に乗り換えて南方都市に到着する。取り敢えずカミーユさんのところだな。
商業ギルドに入り、カミーユさんに声を掛ける。
「カミーユさん、こんにちは」
「あらワタルさん、こんにちは。資材の話ですか?」
「ええ、他にも人材の話なんかもありますけど、お時間を貰えますか?」
「ええ、大丈夫ですよ奥にご案内しますね」
いつもの部屋に通されてお茶を飲みながらカミーユさんが来るのを待つ。
「ワタルさん、お待たせしました。まずはこちらが胡椒の代金、169白金貨になります」
ああ、そうだった。最後の胡椒を卸していたんだよね。忘れていたお金が貰えると結構嬉しいよね。
「ありがとうございます。それで資材と人材の方はどうなりましたか?」
「資材の方は概ね集まりました。船に資材を積み込んでいる間に残りも運ばれてくると思いますよ。人材の方は2人ほど会って貰いたいのですが構いませんか?」
おお、良い感じだな。人材は2人で足りるのかな? 管理職を探してもらうように頼んだんだから、そんなに見つからないよね。あんまり人数を増やしてもしょうがないし、後は奴隷を買って賄うか。更に人が必要になったらその時に考えよう。
「資材の方は明日船を港から少し離れた場所に停泊させます。お会いするのはいつでも大丈夫なので、カミーユさんの方で調整してもらえますか?」
「明日、いきなり大きな船を停泊させるのは問題ですので、少し待って貰えますか。マスターを通じて南方伯様には話を通してありますので、直ぐに許可は頂けると思いますがいきなりだと文句を言われてしまいます。2人には直ぐに話せますから、明日の夕方で大丈夫ですか?」
あー、いきなりフェリーを港から見える位置に停泊させると何事かと思われるよね。たぶん南方伯様から魔導士様に使者がっとかのイベントが起きるんだろうな。正直めんどい。
「分かりました。お手数ですが全部カミーユさんにお任せしますのでよろしくお願いします。お2人に会うのは明日の夕方で問題ありません。こちらにお伺いしますね」
「分かりました。呼んでおきます」
ある程度の話を詰めて、少し雑談してからカミーユさんと別れて船に戻る。
「ご主人様。カミーユさんのやる気があって良かったですね」
「はは、そうだね。フェリシアの言う通りカミーユさんのやる気は凄かったね。僕は今でも5金貨で大丈夫なのか疑問に思うよ」
雑談の中で既に船室の値段を考えている事や、料理の持ち出し禁止、船内の品物の契約準備、施設の使用方法の看板製作等の考えを聞かされた。
驚いたのがロイヤルロフトスイートは一泊5金貨だって言っていた事だ。一泊500万円……泊まる人がいるのか聞いてみたが、最高級の部屋にならいくら出しても泊まりたがる裕福な人間は幾らでもいるそうで、たとえ10金貨でも人気が出れば予約が殺到するだろうとの事だ。
特に王侯貴族はメンツの問題もあって、最高級の部屋を押さえたがるそうなので、もっと高値にしても捌く事は可能だそうだ。
うーん、一泊500万円の部屋って頭がおかしいとしか思えないんだけど、この世界の富裕層の権力と財力は地球に比べても凄いみたいだ。
考えてみれば、王侯貴族とか権力が半端じゃないもんね。お金も集まるか。
「そうね。カミーユの値段設定でも問題無いでしょうね。特にあの部屋は一部屋しか無いのだから、5金貨でも望む人が多いでしょうね。あとから更に偉い人がねじ込んで来た場合、カミーユの腕の見せ所ね」
アレシアさんも5金貨でも大丈夫だと判断しているんだな。しかし腕の見せ所ってどういう事だ?
「あー、予約した順番とかでは駄目なんですかね?」
「やっぱり子爵が一番いい部屋で侯爵がランクが下の部屋だと、子爵の方も気まずいでしょ? 何かしらの対策が必要よね」
聞くだけで頭が痛い。2ヶ国の同ランクの爵位が被ったらどうするんだ? カミーユさんがいなかったら挫けているな。
「色々問題がありそうです。最初に宿泊条件をきちんと決めておいた方が良いですね」
「そうね。どうしたってワガママを言う人は出て来るでしょうから、カミーユにはちゃんと対処できるだけの権限を与えておいた方が良いわね」
アレシアさんの言う通りだな。まあ、元々副船長に任命する予定だから権限的には十分だと思う。船長でも良いかと思うが、カミーユさんが優秀過ぎると、同じ船長としてへこみそうだから副船長にしておこう。僕って小さいよね。
「ええ、カミーユさんには大きな権限を委譲する予定ですので、大丈夫だと思います」
まあ、ある意味独占市場みたいなものなんだし、暴力に関しても船の内部なら大丈夫なんだから何とかなるだろう。
………………
翌日夕方、カミーユさんが紹介してくれる2人に会いに商業ギルドに向かう。
「あっカミーユさん、こんにちは。お2人はいらしてますか?」
「ワタルさん、こんにちは。いらしてますよ。ご案内しますね」
カミーユさんに連れられて部屋に入ると2人の人物が立ち上がって出迎えてくれた。
「ワタルさん、ご紹介しますね。こちらのお2人が私が協力をお願いしたマウロさんとドナテッラさんです」
「マウロさん、ドナテッラさん。こちらが私の雇い主になるワタルさんです」
マウロさんとドナテッラさんと挨拶を交わし席に着く。
……しかし予想外だな。マウロさんはもうお爺さんに見えるんだが。白髪で白ヒゲを蓄えている……諸国を漫遊する御隠居様にそっくりだ。
ドナテッラさんは優秀そうな秘書さんタイプで、しっかりと船を回してくれそうだ。
「あのー、失礼ですがマウロさんはかなりのお歳に見えます。大丈夫なんですか?」
「ええ、大丈夫ですよ。マウロさんはある程度レベルも高く驚くほど元気です」
いや、確かに矍鑠としてらっしゃるけど……良いのか? カミーユさんは全然気にしてないから問題はないんだろうが不安だ。
「そうなんですか……マウロさんはどのようなお仕事をされているんですか?」
「ワシはあれじゃな、王都と南方都市に大きな店を構え、大陸中に根を張る大商人じゃな」
……見た目は好々爺な感じなのに、話しかけたらいきなり自慢が飛んで来た。不安になってカミーユさんを見る。
「ワタルさん、マウロさんはもと大商人です。現在は引退されています」
「ワシは生涯現役じゃ。店を息子に譲っただけで商人として引退したわけじゃないわい」
なんか面倒な人っぽいな。カミーユさんは本当にこの人で良いのか?
「えーっと、カミーユさんはマウロさんで大丈夫なんですか?」
「ええ、元々マウロさんとは家族ぐるみのお付き合いですし、引退されていても人脈や経験は素晴らしいです。これからのお仕事は、初めての試みですからマウロさんのお力があれば心強いです」
「むふ、カミーユ嬢ちゃんにそうまで言われては張り切るしかないの。ワタル、噂は聞いておる。そこら辺も上手く捌いてやるから安心しておけ」
なんか頼りにはなりそうなんだけど、面倒も起こしそうな人柄に見える。店も無理やり息子に譲らされたんじゃないのか?
「なんじゃその目は」
「いえ、何でもないです。よろしくお願いします」
人脈と経験が有るのなら、アドバイザーとしては満点なんだろうな。一抹の不安はあるが、家族ぐるみのお付き合いらしいし信用しよう。
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