14話 和食とちょっとした幸せ
クリス号のスパでマッサージの後のお昼寝の後、いまだに何やら機械をいじくって美容関連の何かをしている女性陣を見て、驚く。
そんなに寝ていなかったかな? 時計を確認すると2時間ほど経過している……周りを見渡すと、リム、ふうちゃん、べにちゃんが集まってプルプルしている。何をしていたのかな? 手招きをするとポヨンポヨンと近づいて来る。可愛い。
「リム達は何をしてたの?」
『おはなし』
「そっか、お話してたんだ。楽しかった?」
『わかんない』
「分かんないかー。時間も経ったからおやつ食べる?」
『たべる』
『……たべる……』
『……たべる……』
嬉しそうにポヨンポヨンしている。可愛いな。食糧庫船を召喚しておやつを取り出すと、リム達の隣にカーラさんが待機している。深く考えないようにしよう。
リム達とカーラさんにドーナツを渡して、缶コーヒーを取り出す。女性陣に声を掛けておくか。
「皆さん、今やっている事にキリがついたら移動しましょう」
呼びかけると、女性陣が返事をしてくる。一番長い人でも20分ぐらいらしい。それぐらいなら問題無いな。
のんびりリム達と戯れながら、カーラさんと話をする。カーラさんは今日の夕食が気になるそうだ。ブレないな。今日の夕食か……僕は和食レストラン&寿司バーに行きたいな。
暫くして女性陣が集まって来る。丁度いいので夕食の相談をしてみる。生魚が苦手な人も居るので、他にもメニューがある事をちゃんと説明しないとね。
女性陣は快く承諾してくれたので夕食は和食レストラン&寿司バーだ。昼食をたらふく食べたけど、もうお腹が空いて来た。
少し時間があるので、カジノに行く。
「夕食まで1時間半です。軽く遊ぶぐらいですので、熱くならないでくださいね。特にアレシアさんとイネスは気を付けてください」
「大丈夫よ。だって勝つもの」
負けてお酒を飲んでやさぐれている姿を何度か見た事があるんだけど……アレシアさんの自信の根拠が知りたい。
「私も大丈夫よ。今度のお休みにたっぷりカジノを楽しむ為に、今日は控えめにしておくわ」
イネスの方は大丈夫そうだ。目的があるぶん、安心できる。
僕はルーレットでちょこちょこかける。リムに選んで貰うと結構当たる事を発見した。運の数値が倍ぐらい違うから、関係がありそうだ。
……これって、豪華客船を開放したら運のステータスが高い人が押し寄せて来たりしないかな? ……創造神様に確認した方が良さそうだな。……あれ? 創造神様ってカジノでボロ負けしてたよね。問題無い気がして来た。
『わたる、ここ』
リムは数字掛けが好きだ。赤か黒か、奇数か偶数かなど、当たりやすい掛け方も教えたんだけど、一点掛けを好む。しかも結構当てる。38分の1のはずなんだけど……ギャンブラーなリム……カッコいいけど、僕は可愛いリムが好きだな。
リムの指定した場所にチップを置くと、リムはルーレットの側に移動して、プルプルしながら見守る。当たったら大喜びで飛び付いて来るから、とても可愛い。
リムと戯れながら時間を過ごしてカジノから出る。気になるのがアレシアさんのテンションが高い事だ。絶好調だったらしい。確実に自信を深めたみたいだ。いつか痛い目に遭わないと良いんだけど。
アレシアさんとイネスを除く女性陣は楽しく遊べる範囲でしかかけないタイプなので、安心できる。
丁度良い時間になったので、和食レストランに向かう。全米ベスト10に選ばれた世界的に有名な日本人が監修しているって書いてあった。もう、期待しかない。
店の中に入り、普通の席には座らずにカウンターに座る。透明なショーケースの中には美味しそうな魚介類が並んでいる。
「ワタルさん、なんでお魚が並んでいるの?」
アレシアさんが難しい事を聞いて来る。
「良いネタ……素材の新鮮さとか、どんな素材があるのかが分かりやすくなっているのだと思います」
たぶん……だってそんな事を気にした事無いもん。
「へー、じゃあ、これが食べたいって言えば調理してくれるの?」
「ええ、今回は料理人がいないので、瞬間的に現れる事になりますね。目の前で調理してもらうのは、クラレッタさんを料理人に任命してからですね」
「ワタルさん、今からでも構いませんよ!」
クラレッタさんが、嬉しそうに言ってくる。どんな料理が作れるのか興味があるんだろうな。
「クラレッタさん、一度食べた後にお願いしますね。今回は知識が無いまま楽しんで下さい」
クラレッタさんにはキャッスル号の和食料理店は任命しなかったからな。和食料理の方は問題が無いんだけど、パフォーマンスが派手な鉄板焼きを最初に知るのは知識が偏りそうで怖い。
そう言えば、フェリーではスタッフ任命を使わなかったな。あそこで任命しておけば平均的な日本の知識が入ったのかもしれないな。
「そうですね、知らない方が新鮮に楽しめますね」
「ええ、ではメニューを見て好きなのを頼んでいきましょう。刺身、寿司と書いてあるのは生のお魚が出て来るので注意してくださいね」
取り合えず注意を伝えてそれぞれ気になるメニューを注文する。僕は何にしようかな……お刺身も普通のと変わった感じのがあるんだな。なんだ? ニュースタイル刺身って?
気になるけど、今回はオーソドックスな物から食べよう。えーっと、ん? あー、これだな。これに決めた。銀鱈の西京焼きと味噌汁、白飯だな。
注文すると現れた料理を、サポラビが運んで来る。うーん、そそる。
箸を入れるとスルリと身が離れる。つまんだ銀鱈の身を口に入れると、微かなお酒の風味と白味噌の味、甘みも上品で素晴らしく美味しい。
白飯をいくらでも食べられるな。お酒にも合うんだろうけど、今回は白飯だな。次の機会には日本酒で楽しもう。
ご飯を飲み込み、味噌汁を啜る。しめじの味噌汁か……たまらないな。西京焼きと味噌汁に白いご飯、何時まで経っても飽きないだろう。
僕が美味しそうに食べているのを見て、女性陣も同じ物を注文している。おおむね好評だが、マリーナさんは魚に甘みがある事に違和感があるそうだ。煮つけとかも違和感があるのかな?
全部食べ終えてもう一度西京焼きを頼むか悩む。……一気に味わい尽くすのも勿体ないよね。お寿司を食べよう。
ある程度お腹にも溜まっているし、好きなのだけ食べよう。まずは……ウニだ。口に入れると磯の風味が口いっぱいに広がる。甘みも強い、良いウニなんだろうな。回転寿司とは一線を画した味がする。
「ワタルさん、今食べていたオレンジ色のはなに?」
カーラさんが聞いて来た。ウニ……ウニはウニだよね? あれ? ウニって何なの? 何て生き物なんだ? 魚じゃないのは分かる。貝……有り得る気がする。………………正直分からん。ウニはウニって事で納得しておこう。図書室の本に載っていたら分かるかも。
「ウニって言います。僕の国では高級品なんですが、磯の香りが強いので苦手な人も結構います。試してみますか?」
「うん」
カーラさんはさっそくウニを注文して躊躇なく口に入れる。躊躇わないな。さすがカーラさんだ。納豆も躊躇わなかったぐらいだから、ウニなんて楽勝だろうな。
口の中でモグモグしているカーラさんを観察する。どんな反応なのかな?
「どうですか?」
「んー不思議な味。美味しいけどなんて言ったら良いのか分からない」
首をかしげながらもウニをもう一貫注文するカーラさん。気に入ったのかな? しめ鯖に鯵にイクラ、好きな物を食べて再びメニューを確認する。
リムもお寿司を気に入ったのか、ドンドン消化していく。僕の倍を頼んでいるんだけど、食べる速度は断然リムの方が早い。
うむ、普段は財布の関係でほとんど食べないけど、今なら食べる事が出来る。少々下品だが行っちゃうか。無意味にドキドキしながら大トロを十貫一気に注文する。
サポラビが運んで来た陶器の器に十貫の大トロが……迫力が半端無い。一貫つまんで醤油を付けて食べる。……とろけるな。油が強いが美味しい。
流石に回転寿司で奮発して食べた、高いお皿の大トロより断然美味しい。比較対象が殆ど回転寿司なのが悲しいな。でも、カウンターのお店で大トロを頼む勇気が無いんだよな。
感動して次々に大トロを頬張るが……こう、高級な物を食べ慣れていないせいか、五貫目辺りで飽きて来た。僕にはサーモンの方が合っている気もするな。
何とか食べ終えてもう満腹だ。他にも食べたい物が沢山あったが、今日はこの辺で終了しよう。天ぷらと蕎麦も食べたかったな。熱いお茶を啜りながら、一息つく。
同じく食後の休憩をしている、女性陣に話しかける。
「みなさん、味はどうでした?」
「ええ、美味しかったわ。生のお魚も慣れたら意外と美味しかったし、あの、アナゴだったかしら、あれが特に美味しかったわ」
良かった、アレシアさんも生のお魚を克服したみたいだな。フェリーの時は試して、そこまで好んでいなかったけど、味覚が日本の料理に慣れてきたかな?
「ワタルさん、和食って繊細な料理なんですね。お寿司もただ、生のお魚を乗せているだけでなく、お魚の切り方ご飯の大きさ、色々な所にこだわりを感じました」
クラレッタさん、何処の料理評論家なんだろう。このまま知識を蓄えて行って、美食〇楽部の主みたいな事を言い出したらどうしよう。
「和食は繊細な作りが多いらしいですね。今度は此処にスタッフ任命しますから、沢山料理を作ってください。沢山送還して保存しておきましょう」
「ふふ、いくらでも料理を作って良いのは、とても勉強になるので助かります。明日にでも任命して頂けますか?」
「あー、どうしましょうか? 開放したら暫くキャッスル号が使えなくなるので、明日からはキャッスル号で必要な物を買い物をして、楽しんだ方が良いと思うんですが。それとクラレッタさんにはキャッスル号の料理を沢山作りだめして貰えれば助かります」
美食神様にも沢山作って貰うんだけど3日間しか時間が無いから量が稼げない。クラレッタさんにも協力してもらえると助かる。
「そう言えば、孤児院が出来たら、豪華客船を開放する予定でしたね。分かりました。キャッスル号の料理を沢山作りますね」
美食神様との約束だけならこの豪華客船を買ったから、直ぐに開放する事も出来るんだけど。魔導士様として、孤児院が出来た後に開放するって言っちゃったからな。もう少し時間を貰おう。
クラレッタさんの協力も取り付けられたし、今日はクリス号に泊まって明日からはキャッスル号を楽しみまくろう。まあ、時間は材料集めの1ヶ月と孤児院が出来るまであるから、大量の料理がストックできるだろう。
大食いカルテットが満足するまで、今後の予定を話し合いながら待つ。今日は食べまくってるけど大丈夫なんだろうか? 一応節制はしてくれているんだけど、今日の食べっぷりはちょっと気になるな。
まあ、偶にの事だし、今日ぐらいは良いか。また生活が崩れ出したら言えばいい。
大食いカルテットが満足したので、店を出る。次に来るのが楽しみだな。
「ふー、僕はお腹いっぱいで動きたくないので、部屋に戻りますが、皆さんはどうしますか?」
「そうね……ワタルさん、バーでお酒を飲んでも良い?」
「ええ、構いませんよ。イネスとフェリシアも一緒に行ってくると良いよ」
「んー、魅力的だけどやめておくわ。せっかくの新しい部屋だし、ご主人様と楽しみたいわ。フェリシアはどうする?」
「そうですね。私もご一緒します」
………………あれ? 初めてお酒に勝った気がする。いつもは普通に飲みに行くのに……何だか凄く嬉しい。ちょっと涙が出そうだ。
上がったテンションを隠しながら、ジラソーレと別れて部屋に戻る。なんか気分が良いからルームサービスでお酒を頼もう。
まずはジャ〇ジーに入ろう。少し小さめのジャ〇ジーにみんなで入り、イチャつく。上がってリムの練習を見学した後は、大人の時間だ。夕食は和食だったし、日本酒かなって思ったけど、日本酒は銀鱈の西京焼きに取っておこう。今回はワインとチーズだな。
「あら、部屋でお酒を飲むのは久しぶりね。いつもは飲まないのにどうしたの?」
そう言えばそうだな。日本に居た頃も友人は部屋で1人でも飲んでたらしいけど。僕は店か友人で集まった時にしか飲まなかったな。あんまりお酒の味が分からなかったからかもしれない。飲み会の雰囲気は好きなんだけどね。
「うん、料理も美味しかったし、気分が良いから少し飲みたくなったんだ」
「ふふ、そうなの」
イネスとフェリシアと豪華な部屋でチーズをつまみながらワインを飲む。……ゴージャスだな。似合っているかは別だけど。
ゆっくりワインを飲んで、まったりとした時間を過ごす。なんか凄く幸せな気分だ。そのままベッドになだれ込み更に大人な時間を過ごす。
誤字脱字、文面におかしな所があればアドバイスを頂ければ大変助かります。
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