13話 クリス号とグランドガラビュッフェ
ピザをたっぷり食べた後、話を始める。えーっと何を話すつもりだったんだっけ? ……あぁ、神様の事からだな。
「じゃあ、そろそろ話を始めますね」
「ええ、分かったわ」
アレシアさんが代表して答えてくれる。
「まずは、5日後に神様がキャッスル号に来る事になったので、4日後には船を移ります」
「ふふ、普通に神様が来るって話をするのね。頭では理解していても感情が追いつかないわ」
まあ、アレシアさんの言いたい事も分かる。この世界でも神様が降臨するなんて話は聞いた事が無いからな。日本だと、頭の心配をされるレベルの話だ。
実際に神様関連の契約がある分、受け入れやすいこの世界でも、神様の降臨なんて話は記録にすら殆ど無いみたいだ。困惑するよね。
「まあ、僕もお会いしているのに違和感しか無いですね」
「気持ちは分かるわ。それで、4日後に移動すれば良いのよね。他にも何かあるの?」
「ええ、もう一つあります。豪華客船を買ったので、明日にでもお披露目しようと思うんですが、どうですか?」
「そう、詳しく聞きたいところだけど、明日見せてくれるのなら我慢するわ。何も知らない方が楽しいわよね」
他のメンバーも頷いている。……明日、クリス号を案内しながら説明するか。皆に語りたかったからちょっと残念だ。
「分かりました、楽しみにしていてください」
もっと沢山語るつもりだったけど、あっさり話が終わってしまったな。予想外だ。自分の部屋に戻り、リムの訓練を見学して眠りにつく。
朝、キャッスル号のメインダイニングで朝食を取り、デッキに出てからクリス号を召喚する。光の魔法陣が浮かび上がり、目の前にクリス号が現れる。
「ワタルさん、小型って言ってたわよね?」
「ええ、言ってましたね」
「とっても大きく見えるわよ?」
……アレシアさんの言いたい事も分かる。こんな船でも、豪華客船では小型の部類って事なんだろうな。全長250メートルの船が小型か……豪華客船って凄いよね。
「ええ、豪華客船の中では小型って事ですね、たぶん。……キャッスル号に比べたら小さいですよね?」
「まあ、そうなのかもしれないけど、この大きさが小型っておかしいわよね?」
実際この世界の最大クラスの魔導船よりも倍は大きい。キャッスル号の事を考えても、なぜ海に娯楽の為にこんなに大きな船が必要なのか……ロマンとかそんな感じかな?
「ええ、おかしいと思います。まあ、僕もよく分からないので、そういうものだと思ってください」
「……ワタルさんの世界の船なのよね? 分からないの?」
「分かりません」
正直、豪華客船なんて普通の大学生にはまったく関係ないよね。だいたい船召喚の能力も僕が望んでつけて貰った訳じゃないし、何となく名前が海っぽいからって与えられた能力だもん。そんな事を言われても困る。
だから、えっ? 分かんないの? なんで? って目で見ないで欲しい。
「でも……これだけ凄い船なのに何で知らないの?」
「いや、何と言えば良いのか、存在自体は知っていましたけど。乗る機会が無いとそんなに詳しく知りませんよね? アレシアさん達も魔導車の事を詳しく話せますか?」
「あー、そういう事ね。私も魔導車の事は知っているけど詳しくはないわ」
「そういう事です」
何となく話を終わらせて、クリス号に意識を戻す。取り敢えず乗り込む事にして、再召喚でロビーに移動するように念じて魔法陣に飛び乗る。
「ふあー、キャッスル号と雰囲気が違うのね。なんだか落ち着いたと言うか、煌びやかなのに上品だわ」
アレシアさん口が半開きで、ちょっと間抜けっぽいです。
「この豪華客船はクリス号と名付けました。ここがロビーですね。上品なのは豪華客船の中でも上のクラスの船だからだと思います。取り敢えずはサポラビを配置しながら船内を見て回りましょうか」
キョロキョロとしている女性陣を引き連れ、見学に向かう。
メインダイニング、アジア料理店、イタリア料理店、和食料理店、寿司バー、ビストロ、シアター、テニスコート、プール、ジム、スパ、カフェ、バー、ディスコ、ゴルフ、図書室、様々な所にサポラビを配置しながら見学する。召喚されたサポラビは心なしかキリッとしている。ラグジュアリークラスの影響か?
教会も確認したが、創造神様の神像がしっかりと設置されている。今からお祈りすると呼ばれて色々言われそうだから、やめておこう。
僕達が使用する部屋はクリスタル・ペントハウス、これもまた豪華だ。この部屋も高級だが落ち着いた雰囲気の家具でまとめられていて、キングサイズのベッドが目を引く。これは夜が楽しみだよね。
お風呂は普通のバスタブに見えたので少しがっかりしたが、内部には吹き出し口が見えるので、ジャ〇ジーなんだろう。この大きさのジャ〇ジーは初めてなので楽しみだ。
バルコニーやリビング、一通り見てみると、隙が無く快適そうな部屋になっている。
ジラソーレはペントハウス・スイートやペントハウスを利用する。こちらも見学したが、やっぱり良い部屋だよね。
「一通り見終わりましたけど、どうでしたか?」
「そうね、私は好きよ。楽しめるのはキャッスル号かもしれないけど、クリス号はなんだかこう……優雅な気分を味わえるわね」
「アレシアの言う事も分かるわ。キャッスル号ももちろん凄いんだけど、全力で楽しもうって印象だったわね。クリス号は余裕をもって優雅に船旅を楽しむ為の船って印象ね。同じ豪華客船なのにこんなに印象が違うのが面白いわ」
アレシアさん、ドロテアさんの印象も良いようだ。マリーナさんはクリス号の通路の確認に忙しそうだ。素早く移動して場所の確認をしている。斥候の癖なのかな? 頭の上のふうちゃんも素早い動きを楽しんでいるように見える。
イルマさんはスパの施設や美容グッズをみて手をワキワキさせている。なんかやる気満々だよね。あのワキワキした手でマッサージしてもらえるのか。確実に固くなるな。
カーラさんは、クリスタルダイニングでみた、グランドガラビュッフェに意識が飛んでいるようで、船内の記憶は曖昧そうだ。今日の昼食はクリスタルダイニングで取ると約束して、船内の案内に戻ったが、あの様子だとどれだけ食べるのか想像もつかないな。
クラレッタさんは料理にも興味が向いていたが、沢山の習い事が行われる教室にも興味を示していた。ぬいぐるみ以外の創作物にもハマったら、クラレッタさんの部屋が魔窟になりそうだな。
イネスは当然のごとく、クリス号のカジノを見て目を輝かせる。うずうずしているのがまるわかりだな。僕が神様の所に行っている間はお休みだと伝えているが……それまで我慢出来るかな?
船内を案内しているだけで、昼食の時間になったので、約束通りクリスタルダイニングに向かう。目的のグランドガラビュッフェは特別な日に行われる、昼食パーティーみたいな物らしい。
今日は僕がクリス号を購入したお祝いなのかな? よく分からないが、画面でも不定期開催になっているので、僕の意志ではどうにもならないのかもしれない。物凄く豪華だからいつでも食べられるようにして欲しかったな。
中にはいると様々な料理が所狭しと並んでいる。一つ一つの料理が綺麗に飾り付けられていて、とても手間が掛かっているように見える。しかし、3段階になっているお盆に山盛りにロブスターが積み上げられていたりと、豪快な面も見える。
見ただけではどんな料理か想像がつかない物も多く、何気にワクワクする。ローストビーフとロブスターは外せないな。
あと、気になるのは。生のエビと茹でたエビも大量に提供されている。エビ押しが強いな。他にも飾り切りされたフルーツで装飾されたテーブルや、お寿司、テーブルいっぱいのパン、チーズにサラダ。数えきれない……全部の料理を食べるのは無理そうだな。
改めて全体を眺めていると、カーラさんがお預けをくらった犬のような顔で話しかけて来た。
「ワタルさん、はやくいこっ、おなかすいた」
カーラさんって美人なんだけど食べ物の前だと、残念になるよね。まあ、それも可愛いけど。
「そうですね。沢山食べましょう」
「うん」
座るテーブルだけ決めて、それぞれが料理を取りに散らばる。本命は先に食べておかないとな。お腹いっぱいで無理して食べると、本当の美味しさが分からない。
ウロウロしながら料理を取っているとドロテアさんが話しかけて来た。
「ねえ、ワタルさん、あの流れているのはチョコレートよね? どうしてあんな事になってるの?」
ん? あーチョコレートフォンデュか。3段階になっていて滝みたいにチョコレートが流れ落ちる、ホテルとかによくある奴だな。
「あれは、まわりに置いてある果物やお菓子を串で刺して、流れ落ちているチョコレートに浸して食べるデザートですね。楽しくて美味しいので人気がありますよ。デザートに楽しんでみてください」
「ふふ、とっても楽しそうね。料理も美味しそうなのが沢山あるから、ペース配分が難しいわ。それにデザートも食べた事のない、ケーキやドーナツもあるわね。プリンも外せないわ」
いや、そこまで真剣に悩まなくても、べにちゃんが早く食べたいと頭の上で跳ねているが、全然気が付いていない。……ドロテアさんのこういう姿は珍しいな。グランドガラビュッフェに浮かれているのかな?
悩むドロテアさんを残して料理を取る。僕とリムの分だからかなりの量だ。席に戻りリムと一緒に食べ始める。
半分に切られたロブスターにフォークを突き刺し、ブルンと殻から身を取り外す。下品かもしれないが、そのまま大きな身にかぶりつく……美味いな。ロブスターは甘みが強くジューシーで幾らでも食べられそうだ。これが食べ放題って信じられないよね。日本だったら何とか持ち帰れないか悩みに悩んでいただろう。
次はローストビーフだな。毎回思うんだけど、こんだけ赤いお肉なのに火が入っているのか、疑いたくなる。まあ、レアも好きだから問題無いけど。これもジューシーって言って良いのかな?
ローストビーフ自体は味が薄いが、赤ワインが入っていると思しきソースとの相性は抜群だ。料理に力を入れている船だけあって美味しい。でも……ドンブリご飯に、このローストビーフを溢れるほどのっけて、わさび醤油をかけて食べたい。
……せっかくの上品な雰囲気がぶち壊しになりそうだな。クリス号に慣れるまでは我慢するか。今日は船の雰囲気を堪能しよう。
『おかわり』
美味しい料理の余韻に浸っていると、全部食べ終わったリムに催促されてしまった。相変わらず食べるのが早い。ロブスターとローストビーフをもっと食べたいそうだ。お皿に山盛りにして、更にオムレツ、裏巻きで作られた巻き寿司や、サラダ、小鉢の料理も取っていく。
「あっ、クラレッタさん、料理はどうですか?」
「うふふふふふ、素晴らしいですね。フェリーでもキャッスル号でも驚きましたけど、まだまだ知らない料理が沢山でドキドキします。お店に任命してもらうのが楽しみです。ワタルさん、よろしくお願いしますね」
「喜んでもらえて何よりです。美味しい料理を期待してますね」
「任せてください。必ず美味しい料理を作り上げて見せます」
クラレッタさんって料理とぬいぐるみの時は、普段の控えめな性格が変わって積極的になるな。
限界まで食事を詰め込み、苦しいお腹をさすりながら、大食いカルテットの様子を見る。普段と違う場所、普段と違う料理、まったくペースが衰えない。
まだ暫くかかりそうなので、残りのメンバーで、料理について話し合う。ジラソーレもイネス、フェリシアも料理についてはかなり満足して貰えたみたいで、食べ過ぎて少し苦しそうだ。
グランドガラビュッフェか、特別な日には開催されそうだから、チャンスを逃さないようにしたいな。まあ、クリス号を召喚しておけばカーラさんが勝手にチェックしてくれるだろう。問題無いか。
大食いカルテットが満足するまで食事に付き合い、クリスタルダイニングを出る。次はテニスでもしてみるかと思っていたが、全員お腹が苦しいのでそれぞれの部屋に戻って休む事になった。
2時間後、お腹もこなれたので再び集合して、テニスを楽しむ。僕もレベルアップの効果である程度女性陣と打ち合えた。しかし、ただでさえ相手の方が動きが良いのに、僕のレベルが上がって強化された動体視力が揺れて弾むお胸様に集中してしまい全敗だった。一生勝てる気がしないな。
運動で汗を掻いたのでシャワーを浴びてスパに向かう。中に入りイルマさんとクラレッタさんをスタッフに任命してマッサージを受ける。相変わらず固くなってしまったがイルマさんは優しく流してくれた。
クラレッタさんのマッサージも気になったが。その場合はクラレッタさんがあたふたして僕も更に恥ずかしかっただろうから、イルマさんにお願いした事は間違い無かったはずだ。
イルマさんの心地良いマッサージを終えて少しの間お昼寝をする。女性陣は新しい美容グッズのチェックに余念がないから暫くはゆっくり休めるだろう。お休みなさい。
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読んで頂いてありがとうございます。