10話 ダークエルフの島への帰還と南方都市への帰還
ダークエルフが、移住を決断した理由。それは子供が生まれなくなった事が原因だそうだ。もともとダークエルフには子供が出来にくいらしいが、最後に生まれた子供が今ではもう82歳だそうだ。
みんな結構頑張ってみたらしいが、なかなか上手く行かず、いずれこの村は滅ぶか森を出るかの決断をしないといけないと考えていたそうだ。
血が濃くなるのは良くないって聞いた事はあったけど、子供が出来なくなったりはするのかな? 連れてったら他の村人も、子供が出来なくなるとか無いよね? あったらさすがに森の女神様が印を付ける訳無いよね。
現在の村人は36人……移住が決定したら、人数的にちょっとレンジャー号はきついけど、アッド号を3台召喚してジラソーレに乗って貰えば問題無いか。
これだけの話を聞き出すのに更に3日、船を見せたり、フェリシアの話を聞かせたり、美味しい料理を食べさせたり、結構頑張った。
なんとか移住を受け入れてもらう。この村の木材は質が良い物らしく、家を解体してハイダウェイ号に積み込む事になった。地竜も倒すのに苦労する木なんだから、相当丈夫そうだよね。
5日かけてツリーハウスを解体、積み込みを済ませる。構造が単純だったぶん意外と早かったな。合間に徒歩で移動中の避難訓練も実施した。素早くハイダウェイ号に乗り込む訓練だけだけど。
………………
特に何事も無く6日かけて海沿いに出た。ここに到着するまでは、ただ、歩いたり、地竜を倒したり、レンジャー号に乗ったり、ハイダウェイ号に泊まったり(人数が多かったので、一部の男性陣はレンジャー号に泊まった)しただけだった。
一度だけ古竜が出たが……サイズが大きくなって、色の渋みが増したぐらいしか違いが分からず、土魔法を使われてようやく古竜だと気が付いた。
レンジャー号に魔法が使われて横転すると危険なので、ジラソーレがアッド号で周りを走り回り、目を逸らしながら攻撃をして倒してしまった。なんて言うかロマンが無い気がする。
安全なのは良いんだけど、古竜ってラスボスクラスな気がするんだよね。確かに地竜に比べると圧倒的にタフで頭が良く、色々と考えた攻撃をしてくるけど、防御面がほぼ無敵だと、どう頑張っても勝ち目は薄い。
ジラソーレは防御を考えずに突っ込み、大きな体にスキルや魔法を手加減なく叩き込む。……乗船拒否って本当のチートだよね。好き放題に攻撃が出来るもん。
古竜も土魔法を使ったり、1人を集中的に狙ったりと地竜に比べると断然多彩な攻撃を見せてくれたが、3方向から、防御無視で突っ込まれると対応できないようだ。
古竜の頭が良いのは、戦いだして直ぐに撤退を判断した事だ。ジラソーレに回り込まれて逃げられなかったけど、倒されるその時まで色々な作戦を試しながら、逃げる機会を窺っているように見えた。まあ、見知らぬ物に攻撃した時点で駄目な気もする。
ダークエルフ達にとって地竜が簡単に倒されて行く光景は異常に感じるらしく、少し怯えられてしまった。僕はレンジャー号を動かしていただけなんだけどね。
地竜を何匹も送還したが、ギリギリゴムボートを追加で買う事無く地竜の森を脱出できた。
ダークエルフの島に行く船はストロングホールド号に決めた。豪華客船は他の村の人達も乗せてないからな。何となく止めておいた。いずれ、ダークエルフの島が良い感じになったら、豪華客船に招待して騒ぐのも楽しいかもしれない。考えておこう。
取り合えず外海に出て、ダークエルフの島に自動操縦をセットする。あとはのんびりとストロングホールド号を楽しむだけだ。
ダークエルフ達も見た事が無い景色、施設、食べ物に驚き、楽しんでいる。評判が良くて何よりだ。ダークエルフの島の人達も今度招待した方が良いかもな。
女性陣もリム達も久しぶりの冒険が良かったのか、みんなの機嫌も良い。冒険が力になるタイプなんだな。僕はひたすら疲れるタイプだ。
………………
ストロングホールド号からシーカー号に乗り換えて、ダークエルフの島に上陸する。ダークエルフ達も新たに生活する島に興味津々でデッキに集まっている。迎えに来てくれた村長さんに声を掛ける。
「村長さん、こんにちは。ダークエルフの皆さんをお連れしたのですが、大丈夫ですか?」
「ワタルさん、こんにちは。ええ、もちろん大歓迎です。皆、仲間が増える事を喜び、頑張って準備をしていますよ。ただ、家を建てるのが間に合っていないので、暫くテント暮らしをして頂く事になりそうです。まあ、温泉の村に移る者も居るので、そこまで時間は掛からないと思います」
「そうですか、元の村で使っていた木材を持って来たので、少しは早く家を建てられるかもしれませんね」
「おお、それは助かります」
地竜の森の村の村長さんを、ダークエルフの島の村長さんに紹介する。他の人達は下船して、丘の上の村に案内している。
「2人とも、ここで話すのもなんですので、村に行きませんか?」
2つの村の村長は、自分達のルーツや、苦労を話しながら盛り上がっている。初対面から苦労を慰め合うのは、良い方法なのか?
「そうですな。では、ご案内します」
丘の上の村に向かい、空き家とテントに振り分けられる。僕達はハイダウェイ号を召喚して村の人達の荷物と木材を降ろす。フェリシアはセシリアさんのお手伝いだ。
一通り木材、荷物、食料を運び出し、僕達の仕事は終了だ。
「村長さん、そう言えば温泉の方はどうなってますか?」
「ああ、副村長がやる気満々です。一度戻って来た後、人員を連れて再び出発しましたよ。村の女性の期待も重いので、進みは早いと思います。申し訳ないのですが、鉱山はその後になりますな」
「そうですか。のんびりしていると、泊まる所も無いのに出発しそうな勢いでしたから。プレッシャーが掛かりますよね。鉱山は後で大丈夫ですから、ゆっくり進めてください」
村の女性陣も温泉に食い付いてたからな、しっかりやらないと後が怖そうだよね。シャンプーとリンス、ボディソープも渡しておいた方が良いだろう。
「ありがとうございます。妻も温泉の事をしきりと口に出すので、大変なんですよ」
セシリアさんも直ぐに旅立とうとしてたからね。一番プレッシャーを掛けられているのは村長さんなのかもしれない。
「あはは、副村長さんに頑張って貰わないと駄目ですね。あっ、村長さん、僕達はそろそろ南方都市に移動しようと思ってます。後はお任せしても良いですか?」
「もちろん構いませんが、お急ぎなのですか?」
「ええ、ちょっとやる事が重なっているので、早めに行動しようと思いまして」
あとは、孤児院の建設と、建設の為の資材と人材集め。孤児院の人材も集めないといけない。それと豪華客船の開放か。こちらの方も人が必要だな。南方都市でも人を集めて行くべきだろうな。
「そうですか、でしたらお引止めも出来ませんね。またいらしてくださいね」
「ええ、連れて来るだけで、お任せして申し訳ありません。落ち着いたらまた、宴会しましょう」
村長さん達のお見送りを辞退して、シーカー号に戻り自動操縦を南方都市にセットする。やる事が多いからな、南方都市に到着する前に整理しておこう。
………………
ルト号に乗り換え、南方都市に入港して、商業ギルドへ向かう。
「カミーユさん、こんにちは」
「あら、ワタルさん、こんにちは。もう準備が整ったのですか?」
「いえ、まだまだ時間が掛かりそうですね。今日は商売の話ですね、カミーユさんに手配をお願いしたくて、来たんです」
「そうですか。では、奥の部屋にご案内します。あと胡椒の代金も集まりましたのでお渡ししますね」
「ありがとうございます」
奥の部屋に案内されてお茶を飲みながらカミーユさんを待つ。
「ワタルさん、お待たせしました。こちらが胡椒の代金の900白金貨です」
胡椒が大量に卸せるのなら、こんなに簡単に大量の白金貨が手に入るのか。しょうがない事とは言え、目立つのを恐れるのが馬鹿らしくなるな。でも、調子に乗ると豪華客船を手に入れる前に詰んでた気もする。今ぐらいが丁度いいか。調子に乗っても良い事は無いだろう。
「ありがとうございます」
「それで、ワタルさん、手配をしてほしい物とは、なんでしょうか?」
「えーっとですね。大きな孤児院をブレシア王国のカリャリに建設したいんですが、ブレシア王国は戦争の影響で資材も人員も不足しているんですよね。そこで、魔導士様の船で大量の資材と人員を運んでもらおうかと思っています。ですので、運ぶ為の資材と人員の手配をお願いしたいです」
「……人員は難しいかもしれません。カリャリの街は王家の直轄領で海軍本部がある街ですから、他国の人員が大量に入って建設をするのは嫌がられると思います」
……そうなんだ。確かに怪しい事はしていません。って言ってもブレシア王国は不安だよね。魔導士様が関係しているし……落ち着くまで待つしか無いのか?
「ワタルさん、ブレシア王国の資材不足は南方都市でも噂になっています。ですが重い資材を大量に運ぶのは大変で隣国ぐらいしか採算が合わないので、ブレシア王国でも苦労しているようです。
魔導士様のお力が借りられるのなら、大量の資材を運んで、見返りに人材を借りれば上手く行くかもしれません。人材を借りられなくても、資材は倍の値段で売れますよ」
そんな方法があるんだな。最低でも倍で売れるし、資材不足のブレシア王国にも貸しが作れるかもしれない。海軍本部に資材を流せば喜ばれるだろう。フェリー2隻分満杯にしてから向かうか。
しかし、魔導士様が僕って教えているのに、お互い白々しく魔導士様とか言うの恥ずかしいな。
「では、その方向で、お願いします。魔導士様の依頼で作る孤児院ですから、ルッカに現れた巨大な船2隻はお願い出来るでしょう。かなりの資材を乗せる事が出来ますが、どのぐらい時間が掛かりますか?」
「孤児院は石造りですよね?」
「はい、丈夫で大きな孤児院を作るつもりです」
「船にはどの位積めるんですか?」
どのぐらいって言われても、船が転覆する事も無いんだから、過重積載も問題無いんだよね。日本だとかなりの罪になるだろうけど。
「うーん、僕では分からないので、20白金貨分の資材を集めて貰えますか?」
「20白金貨ですか? 資材はそこまで高い物ではないので、かなりの量になりますよ。高級な資材を集めますか?」
うーん、高級なのは必要無いよね。多ければ多いほど恩は売れる。あれ? 高級品を確保した方が偉い人に恩が売れて良いのか?
「高級品を集めた方が、偉い人に恩が売れますか?」
「高級な資材も需要はあると思いますが、カリャリの街なら使い勝手の良い、一般的な資材の方が喜ばれると思います」
そうなのか。ブレシア王国の海軍本部だから高級な物を使ってもおかしくなさそうだけど、一般的な物の方が周りにも恨まれないとかそんな理由かな?
「では、一般的な資材でお願いします。運びきれなかったら往復しますから問題ありません。20白金貨分の資材があれば、大きな孤児院を建てる資材と、売り払う資材を集められますよね?」
「孤児院がお城みたいな物でない限り、十分だと思います」
お城みたいな孤児院か。ある意味安全そうだけど、確実に文句を言われるな。
「分かりました。ではそれでお願いします。ある程度資材が集まったら取りに行きます。巨大な船なので、港から離れた場所にしか停泊出来ません。船で運んでもらえますか?」
「費用が掛かりますが、よろしいですか?」
「はい、ですが資材は20白金貨分欲しいので、別途費用は請求してください」
細々とした事を話し合い、大体1ヶ月あれば20白金貨分の資材が集まるそうだ。ついでに残っている胡椒も引き取って貰う事にした。明日の朝にゴムボート45艘分の胡椒を卸したら、残りの胡椒もゼロになる。 また、南の大陸に胡椒を仕入れに行くか?
……新しい豪華客船の値段しだいだな。十分にお金が余れば暇な時でも良いだろう。今晩から新しい豪華客船を選ぼう。
カミーユさんに人材の事を話しておく。豪華客船を開放したら基本的に表はサポラビで回して、料理店とスパは腕が奴隷の方が上手になるから、奴隷に働いてもらうつもりだ。あとの問題はチケットの販売だ。
お偉いさんが来るようになったら、どうせワガママを言うだろうし、それを捌ける人員が欲しい。その事をカミーユさんに伝えると、心当たりがあるそうなので引っ張って来て貰う事にした。
契約を結ばないといけないので説得が難しいかもとは言っていたが、カミーユさんなら大丈夫だと期待しておこう。軽く雑談をして、ルト号に戻る。取り敢えず明日の取引を終えたら1ヶ月の空きが出来る。
豪華客船を買って楽しむか、ダークエルフを移住してもらいに行くか……連続でダークエルフを連れて行ってもダークエルフの島が大変だろう。のんびり豪華客船を楽しむか。
資金 手持ち 34金貨 68銀貨 51銅貨
ギルド口座 0白金貨 70金貨
貯金船 1089白金貨 胡椒船 45艘
慈善事業費 95白金貨 70金貨
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読んで頂いてありがとうございます。