8話 地竜の森と地竜
地竜の森の中に入る。暫く進むが、森や茂みが深く、アッド号には乗れそうにない。
「茂みが深いですね。歩いて行かないと無理そうです」
「そうね、でも茂みや木々が茂っている方が、地竜が通っていない証拠だからこの森では安全な場所なのよ」
? ……ああ、そういう事か。アレシアさんが言いたいのは、地竜が通る場所は木々がなぎ倒されているから、道が広いし茂みも踏み荒されるか。地竜って相当大きいらしい。
「それなら、広い道に出たらアッド号に乗るか、外れて茂みを歩くか迷いますね」
「私はアッド号に乗った方が良いと思うわ。見つかったら木があろうが無かろうが襲い掛かって来るのだから、襲い掛かって来たら倒せば良いわ。ただ注意するのが古竜ね。
普通の地竜は大きな体を生かした突進と噛みつきが基本で偶に土砂のブレスを吐くらしいのだけど、長年生きた地竜は地面を操るらしいわ。その場合アッド号だと不安が残るわね」
「パリスがやったみたいに海水ごと、この場合は地面ごと持ち上げられるって事ですか。それだとアッド号では危険ですね」
地面に接している部分を地面ごと持ち上げられると危険なんだよね。地面が隆起してアッド号がゴロン、結界から放り出されてパクリか……可能性はゼロでは無いけど、そんな事になるかな?
僕でもハンドルから手を離さないぐらい出来ると思うんだが。攻撃中とか不意打ちをくらったら可能性はゼロではないか。
「地竜の攻撃ってフェリシアの結界で防げるかな?」
「そうですね。レベルも結界術のレベルも上がってますから、地竜の攻撃でも問題は無いと思います。ただ、何度も攻撃を受け続けると、綻びが出ますから気を付けてください」
……時間が稼げれば大丈夫そうだな。道が広がれば水陸両用バスならシートベルトをしておけば、投げ出される事はない。バスを買うかな? 一ヶ所に固まる事になるのが不安だけど、運転手の僕以外は自由に攻撃出来るのが強みだな。駄目だったらアッド号に乗れば良い。買っておいても損はないだろう。
「分かった。ありがとう、フェリシア。少し考えてみるよ」
「何かされるんですか?」
「うん、新しい船? を買おうと思ってるんだ。ちょっと画面を見ながら歩くから、守ってね」
来る前に買っておけば良かったんだけど、森の中でバスって発想は無かったよ。
「ご主人様、休憩の時に買われた方が良いですよ。転んでも怪我はしませんが、恥ずかしいです」
「……そうだね。休憩の時に探すよ」
地竜の森って名前でも、当然、地竜だけしかいない訳じゃない。普通に魔物が出て来るが。ジラソーレどころか、リム、ふうちゃん、べにちゃんに倒されていく。
凄いなリム達。べにちゃんもそこそこレベルが上がって、ゴブリン、オーク、定番の弱い魔物なら一撃で倒す。何気に僕もオークを初めて倒した。これはこれで凄い事な気がするな。カッコ良くはないけど。
襲ってくる魔物は倒して進む。森だからやっぱり虫の魔物も出て来る。相変わらず虫は苦手だ。何でだろう、見たら鳥肌が立つ。特に足の付け根とかお腹が見えるとゾッとする。
昼食休息を取りながら購入画面を見る。5人乗りの水上タクシーもあるけど2台に分乗か、僕しか運転できないからな。選ぶとしたら20人乗りの中型か40人乗りの大型の水陸両用バスだな。
ダークエルフを乗せて戻るとしたら大型を買った方が良いんだけど……大型バスは流石に運転し辛そうだ。そもそも普通免許しか持ってないんだけど、中型、大型バスって運転できるんだろうか? ああ、召喚した物は操縦できるんだった。アッド号でも分かったから、水陸両用バスでも大丈夫だよな。
あとは地竜が通った道を見つけたら、選択しよう。大型の全幅が2.5メートルだから、余裕がありそうなら大型だな。一通り調べ終え、満足して缶コーヒーを飲む。
「ご主人様、終わったの?」
イネスが興味津々で聞いて来る。
「うん、2つ見つけたよ。地竜の通り道を見て、どっちを買うか決めるね」
「へー、どんな船なの?」
船……水陸両用バスを船って呼んで良いのか、いまだに疑問に思うが、船舶免許が必要なんだから良いんだと思おう。
「そうだね、アッド号みたいに陸上も走れる、大型の箱みたいな船だね」
イネスも、フェリシアも周りで聞いていたジラソーレも1人を除いてキョトンとしている。普段と変わらないのは、昼食継続中のカーラさんとスライムトリオだ。
そう言えば、べにちゃんが加わったから、大食いトリオが大食いカルテットになったんだな。稼げてなかったら食費に殺されそうな勢いだ。
「ワタルさん、よく分からないけど、速い? 私も操縦できる?」
アレシアさん、よく分からないけど速いのなら乗りたいらしい。たしか運転はマニュアルだったから、いきなりは無理だな。
「うーん、速度はアッド号より出ますけど、今度のは操作が複雑なので、いきなりは無理ですね。練習が必要になります」
「練習? アッド号より速いのなら乗ってみたいわね。時間がある時に教えてくれる?」
「ええ、良いですよ。タイミングが合えば練習しましょう」
いつの間にかアレシアさんの両隣でイネスとマリーナさんが頷いている。3人に教えるのか、結構大変な気がして来た。
大食いカルテットがしっかり昼食を食べて満足したので、再び出発する。偶に襲って来る魔物を撃退しながら印に向かって真っすぐ進む。
日が沈む頃、森が開け大きな道に出た。ここからが地竜のテリトリーか、緊張して来た。しかし、これが地竜の道か……デカくね?
道幅は3メートルはある。こうなると、地竜の全長、全高が気になるな。道は平らとは言えないが、十分走れそうだ。
「この位の広さがあれば買う船で進めますが、日が沈みそうなので今日は、ここに泊まりましょう。ハイダウェイ号を召喚するので、地均しをお願いします」
「分かったわ。じゃあいつも通りにね」
アレシアさんの号令で、ジラソーレが散って行く、もう慣れたものだな。イネスとフェリシアは僕の周りで護衛だ。 サクサクと木を吹き飛ばし、音に引かれて集まって来た魔物を討伐する。
「ねえ、イネス、フェリシア、遠くから地響きが聞こえない?」
「ええ、聞こえますね。ジラソーレも戻って来ました」
気のせいじゃなかったか。地竜の森なんだから、地竜が出て来るんだろうな。
「ワタルさん、地竜が来るわ、ハイダウェイ号をお願い」
「分かりました」
広くなったスペースにハイダウェイ号を召喚して乗り込む。デッキから地響きがする方向を見ると、大きな地竜が見える。
でっかいな。とてもでっかい。でも、竜なのか? ぶっとい胴体、太い4本の脚、角があればトリケラトプスになりそうだ。顔はアニメで見る竜に近い気もする。地肌が茶色いのは地面に合わせているのかも。森の木よりも上に背中が見える。3~4メートルはありそうだな。
「大きいですね。あの地竜は古竜ですか?」
「うーん、私も地竜を見るのは初めてだから、分からないわね」
あっ、目が合った。何となく地竜と目が合った気がすると、地竜のスピードが急上昇した。ドドドドドドドっと、土煙をあげながら突撃してくる地竜。叫び声も怪獣そのものだ。ギャオー……なんか違うグギャオーって感じか? 重低音が迫力がある。
「凄い迫力ですね。ハイダウェイ号に乗っていなければ全力で逃げます」
「迫力は凄いわね。カーラならなんとかなるかしら? どう?」
アレシアさんが意味が分からない事を言い出した。
「わかんない。耐えられるとは思うけど、押し込まれる気がする」
カーラさんはあの迫力でも耐えられるか分かんないで済むのか。トラックが突っ込んで来るようなもんだよ。更に異世界転生しそうな勢いだ。
「そう、見た感じ私達でも勝てそうだけど、数が増えたら無理そうね。いえ、後の事を考えなければ数匹なら大丈夫かしら?」
「大丈夫だと思うわ。逃げに回ればこの森も探索出来ない事も無いのかしら?」
ドロテアさんも会話に加わった。目前に地竜が迫っているのに余裕だ。それだけ船召喚を信頼してくれているんだろう。ここで地竜に乗船許可を出したら、みんな驚くだろうな……やめておこう。笑ってくれるとは思えない。呆れられるか、怒られるか……どっちにしろ分が悪い。
地竜がハイダウェイ号にぶつかった。何だか映画を観ているみたいだな。自分の突進の勢いを殺しきれず弾き飛ばされる地竜。轟音と共に、驚いたような微妙に情けない叫び声をあげて倒れ込む。
「ワタルさん、地竜の攻撃を確認したいから、見ても良い?」
「ええ、問題ありません」
アレシアさんの問いに答えると女性陣がデッキの端によって、地竜を挑発する。怒り狂った地竜が大きく口を開き噛みついて来る。映画よりも凄い迫力だ。あれだな安全だと確信していなかったら漏らすレベルの迫力だ。
たぶんリム、ふうちゃん、べにちゃんが目の前で並んで呑気にぷるぷるしているのが、気に入らないのかもしれない。なんか猫がリードにつながっている犬を挑発しているみたいだ。リム、どこでそんなこと覚えたの?
「リム、どうしてそんな事をするの?」
おそるおそる聞いてみた。リムに僕の性格の悪さがうつったとしたら、洒落にならない。
『? おっきい』
「うん、おっきいね。どう思ってるの」
『かっこいい』
……良かった。挑発している訳じゃなかったんだ。カッコいいからかぶりつきで見ていたんだな。ホッとしたよ。僕もリムの前では少しは立派な人間を演じないと。大抵、頭の上に乗ってるからいつも立派に振舞う必要がある……少しでも頑張ろう。
心を入れ替えようと考えている間も、我武者羅に突っ込んできて滅茶苦茶に暴れ回る地竜。あんまり頭が良くないみたいだ古竜って感じじゃないな。
「ブレスを吐きませんね。どうせなら見てみたいんですが」
「うーん、危機感を与えないと、ブレスを吐かないのかも。逃げてしまうかもしれないけど、そろそろ攻撃してみましょうか」
僕の問いかけに、アレシアさんが答えてくれた。様子見の為に、一斉攻撃ではなくアレシアさんが剣で攻撃するそうだ。
地竜が噛みついて来た瞬間、アレシアさんの姿が消える。気が付いたら地竜の顔が切り裂かれている。速いな、僕の目から見たらパリスの動きと変わらない。
「あら、思ったより柔らかいわね。意外と簡単に倒せそうよ」
柔らかいって、ゴツゴツした皮膚にしか見えないよ?
初めて攻撃を受けた地竜は少し距離を取って警戒している。ブレスが来るかも。しかし再び突っ込んで来た。何度も突撃をしてはアレシアさんに顔を斬られている。なんかエゲツナイな。
何度目かの攻撃の後、距離を取ったまま、地竜が大きく口を開けた。それと同時に大量の土砂が激しく飛んで来る。目の前が飛んで来る土砂で遮られる。
ブレスが止まる。地竜は少し疲れているように見える。やっぱり地竜にとってブレスは切り札っぽいな。飛び散った土砂が地面に溜まっている。
「この土砂って魔法で生み出しているんですかね?」
「うーん、魔法で生み出しているのなら、木の枝とか混じっていないと思うわ。土砂を飲み込んでいる可能性が高いわね」
確かに木の枝なんかが混じっているな。土砂を飲み込んでいるとしたら、汚い話、あれはゲロなのか。それなら何回もブレスを吐けないよね。ブレスをなかなか吐かない気持ちも分かる。吐くのって辛いよね。
「かなり疲れてますよね。あの地竜をテイムしたり出来ますかね?」
「……考えた事無かったけど、竜ってテイム出来るのかしら? そもそもワタルさん、地竜をテイムしてちゃんと面倒みられるの?」
お母さんみたいな事をアレシアさんに言われてしまった。確かに無理っぽいな。豪華客船なら飼う事ぐらいは出来るかもしれないけど、それだけだよね。テイムして孤児院に住まわせるか?
物凄く安全になりそうだけど、地竜を狙って面倒なのも来そうだな。そもそもカリャリの中に入れるのかすら分からない。これは街のお偉いさんと相談してからだな。
でも地竜がいる孤児院。バックが魔導士様で海軍も警護しています……だったら化け物クラス以外は手を出しては来ない気がするな。
「うーん、孤児院に住まわせればってのは駄目ですかね? 強力な守護竜になりますよ」
「……命令すれば、孤児院を守るでしょうけど、どうなのかしら? 暴走したら大変よ?」
踏みつぶされる孤児達、再興した街並みを破壊する地竜……悪夢だな。
「……やめておきます」
「それが良いと思うわ。もう見るべきものは無さそうだし、地竜を倒しちゃいましょうか」
全員で武器を構えて、地竜を見ると。地竜はくるりと方向を変えて走り去っていった。
「逃げちゃったわね」
「逃げちゃいましたね」
逃げて行く地竜を見て、拍子抜けする。微妙な空気が流れたので、ハイダウェイ号の中に入り、休憩してお茶を飲む。
「たぶん、あの地竜みたいなのが沢山襲って来ると思うんですが、問題ありませんか?」
「問題無いわ。地竜が逃げなければ倒せるわ。攻撃も通りやすかったから、私達なら問題無く進めるわね」
地竜は問題無いそうなので、明日からはガンガン進む事になった。地竜の通り道も広かったから、大型の水陸両用バスでも問題無さそうだ。意外と早くダークエルフの移住を済ませる事が出来そうだ。
久しぶりのハイダウェイ号なので、温泉を入れてジャ〇ジーに入った。やっぱり良いよね。皆とのお風呂。いつまで経っても興奮する。じっくりと堪能した後、夕食を取り部屋に戻る。
誤字脱字、文面におかしな所があればアドバイスを頂ければ大変助かります。
読んで頂いてありがとうございます。