6話 弟君の交渉と土地の範囲決め
単語の登録と言う機能を見つけました。なんて便利な機能なんでしょう。ストロングホールド号とか、もっと短い名前にすればよかったと後悔していたんですが、これがあれば凄い楽です。凄い発見をしたと思ったら、常識みたいでちょっとショックです。
侯爵様との話し合いを終えて翌日。僕の部屋に集まって朝食を取りながら昨日の事を話し合う。昨日、お留守番だったイネス、フェリシアにも大体の事を説明する。
「それで、昨日の話に問題はありましたか?」
「うーん、魔導士様押しが強すぎた気もするけど、概ね問題は無いと思うわよ。豪華客船の事をいきなり話したのは驚いたけど、国の警護を引っ張り出せるのなら、悪くないわ」
国の警護は孤児院がヤバいって言われたから、成り行きでそうなっただけなんだけどね。
「豪華客船を開放したら国が守りたくなるって大ぼらを吹いたんですが、大丈夫でしょうか?」
「うーん、私なら守ると思うけど、王侯貴族がどう判断するか分からないわ」
そうか、偉い人は考え方が違う可能性もあるのか。勝手に豪華客船の為に孤児院を守ろうと、思ってくれたら楽なのに。どんな判断になるのか心配になって来た。
「……まあ、どうなるかは、船を見せた後なので、まずはカリャリの街に孤児院を作る事にしましょうか」
「そうね……直ぐに出発する?」
「僕は構いませんが、ジラソーレの皆さんはルッカでやり残した事はありませんか? 2~3日なら滞在しても問題ありませんよ?」
ジラソーレが顔を見合わせ話し合う。
「大丈夫よ。家族とも会えたから。他のやりたい事は、注目が落ち着いてからにするわ」
あぁ、そうだよね。あんな騒ぎだと、迂闊に街を歩けないよね。
「では、少し休憩してからカリャリの街に向かいましょうか」
朝食を済ませ、少しまったりとする。……ノックがされてイネスが出ると、微妙な顔をして戻って来た。
「イネス、どうかしたの?」
「アレシアの弟とその仲間達が来たわ。どうする?」
「……どうするって、昨日の今日なんだけど。アレシアさん、どうしますか?」
「ごめんなさい。ちょっと会って来るわね」
「はい」
早く出発しておけば良かったな。扉の所から話し声が聞こえる。あっ、罰の1ヶ月延長が宣言された。少ししたら罰の解除を申し出るつもりなのに、増やさないで欲しい。アレシアさんも納得してくれなくなるよ。あっ、アレシアさんが戻って来た。
「アレシアさん、何かありましたか?」
「いいえ、何でもないわ。一緒に依頼を受けたいとか、昨日の事を全然反省していないから、追い返しただけよ。ワタルさん、ごめんなさい。しっかり躾けるわね」
「いえ、考えてみると、やり過ぎた気もするので、お手柔らかにお願いします」
「ありがとう、ワタルさん。でも良い機会だからビシビシ行くわ。甘やかしていたから丁度良いわよね」
「アレシア、違うわよ。リーダーなんだからもっと、慎重に考えなさい」
「イルマ、何が違うの?」
「罰を与えたのはワタルさんなのよ。あなたがビシビシと行ったら、甘ったれたサヴェリオが恨むのはワタルさんでしょ。躾けるのは構わないけど、他に迷惑を掛けない時にビシビシやりなさい」
おお、助かる。イルマさん、ナイスです。
「うーん、それもそうね。サヴェリオは身内に甘いから、ワタルさんを変に恨むかもしれないわ。ありがとう、イルマ。ごめんなさいね、ワタルさん」
「いえ、まあ、僕もカッとしちゃって、言い過ぎたと思ってますので、アレシアさんが良いと思ったら罰を解除してあげてください」
アレシアさんと罰の解除時期等を話す。少しのんびりし過ぎたな。さっさと出発しよう。宿を出ると、向かってくる集団が……頭が痛い。
「ワタルさん、ちょっと、アレシアさんと話したいので、お時間を頂いて良いですか?」
表面上は笑顔だけど、不愉快なのか口元は引きつっている。頑張ってるんだな。
「ええ、構いませんよ。ですが、人が集まってきています。申し訳ないですが、早めにお願いしますね」
僕の言葉が気に入らなかったのか、顔の引きつりが一段階上がった。早くしてねって所が駄目だったか? 挨拶を終えて、アレシアさんの所に足取りも軽く向かって行く弟君達。
「サヴェリオ、さっきも言ったけど私達は出かけるから、依頼には付き合えないわよ」
「はい、アレシアさん、俺達も話し合ったのですが、ジラソーレの皆さんのお手伝いをしながら、勉強させて頂きたいと思いまして。下働きでも何でもします。それがワタルさんに対するお詫びにもなると思うんです」
おおう、弟君は二重人格か? 素晴らしい好青年に見える。さっきの引きつった笑顔とはまるで別人。キラキラした笑顔だ。仲間になるんじゃなくて、下働きとして側に居る作戦か……下働きなら仲間じゃないとか苦しいと思うんだが。
「うーん、サヴェリオの気持ちは嬉しいんだけど……ワタルさん、下働きをするって言っているんだけど、どうする?」
あー、うん、断り辛いけど、連れて行くのも無理だ。表面上は笑顔だけど、弟君は何か隙があれば躊躇いなく僕を排除するだろう。怖すぎる。
「そうですね……お気持ちは嬉しいですが、色々と特殊な商売をしていますので、連れて行く事は出来ません」
「秘密は守ります。何とかお願い出来ませんか? 契約をしても構いません」
下手に出て来られると、困るよね。さらに契約とか持ち出されると、信用できないとは言い辛い。でもストレスを抱えるのは嫌だ。それに確実にジラソーレと話し辛くなる。何とか断らないと。なんて言おう?
「申し訳ありません。契約を結んだとしても狭い船内で、あなた達と行動を共にするのは辛いです。ご理解いただけませんか?」
苦しいか? でも男5人が増えたら辛いのも確かだ。
「……それは……」
必死で何かを考えているな。これ以上何も言わないで欲しい。従業員君やロマーノ君は関係が薄いから何とかなったけど、アレシアさんの弟だからな。
「アレシアさんそういう事なんですが、構いませんか?」
「ワタルさんが決める事だから私は何の問題も無いわ。それに私もルト号に5人も増えると辛いと思うわね」
「では、サヴェリオさん、僕達はもう行きますね。失礼します」
言うだけ言って、足早に立ち去る。なんか変なオーラが出てたように見えたんだけど……刺されないように気を付けよう。
街の人にキャーキャー言われながら門から外に出てルト号に乗り込む。港を出て自動操縦を設定する。夜中に到着かな? 外海に出て船を乗り換えるのも面倒だ無駄だな。そのまま行こう。
………………
朝食を終えて、デッキに出てみると遠目にカリャリの街が見える。
「前に見た時は、ボロボロでしたが、修復が進んでいるみたいですね」
「ブレシア王国の海軍本部ですもの、修復は急務よね。その分、街の整備が遅れているって言っていたわね」
アレシアさんの言葉で、まだまだ難題がある事を思い出す。
「そういえば、資材や建築に関わる人材が不足しているんでしたね。その辺を含めて商業ギルドで相談ですね。取り敢えず港に入りましょうか」
港の中に入って行くと、軍船のエリアには侵入できないようになっている。一般の船は端っこに泊めるみたいだ、海軍本部の街ならしょうがないか。ルッカが貿易、カリャリが防衛って役割なんだろうな。
入港料を払って船を泊める。海軍の街だけあって入港や街の中に入る手続きが大変だ。孤児院の安全は増すけど、豪華客船は似合わない気がする。豪華客船に入り浸る海軍のお偉いさんとか、国で問題になりそうだ。
壊れた家もあるが、瓦礫なんかは撤去が済んでいるみたいだ。住民も少なく、ダークエルフが村を作っている時のような活気が無い。海軍本部は騒がしかったから、建設は海軍本部に集中しているんだな。
門番さんに聞いた商業ギルドに向かう……元は立派な建物だったんだろうけど、応急処置がしてあるだけでみすぼらしい。普通は力を持っている各ギルドに攻撃とかしないと思うんだが。
「商業ギルドでこの状態だと、孤児院の建設はかなり難しそうですね。しかし……占領した街を何でこんなに壊すんですか? 普通なら利用するために極力壊しませんよね?」
「普通ならそうよね。でも相手が帝国なの。街中で盛大に奴隷狩りをしたんでしょうね。住人も捕まる位なら精一杯の抵抗をするから被害が大きくなるのね」
アレシアさんが説明してくれる。捕まったら奴隷だもんね、特に獣人達は酷い目に遭うから命がけだ。そんなに奴隷は役に立つのか? 街を利用した方がお得な気がするんだが。……主義主張は利益で動かないのかもな。しかし帝国は碌な事をしないな。
商業ギルドの中に入ると閑散としている。受付も2人しかいない。しかも1人はおっさんだ。西方都市のおっさんを思い出すな。絡まれたくない。
まあ、あっちはムキムキで、こっちは……こっちもムキムキだ。西方都市のおっさんは冒険者ギルドの職員だったから納得は出来るけど、こっちは商業ギルドだよ。間違ってない?
閑散とした商業ギルド、活気があるのは海軍本部ぐらいだから商人も少ないか。帝国の攻撃でかなりの人が犠牲になったんだろうな。
カウンターに近づき受付嬢に声を掛ける。すると隣に座っているおっさんも席をずらして話を聞く体勢だ。おっさんとは関わりたくないんだけどね。
「いらっしゃいませ。どのような御用ですか?」
受付嬢の人族のお姉さんはとっても美人さんだ。こんな状況でも受付嬢に美人さんを配置する商業ギルドに強いこだわりを感じる。一人はおっさんだけど。
「はい、カリャリの街なら広い土地が購入できると聞いたので来ました。海軍本部の近くで広い土地を確保したいのですが可能ですか?」
「……海軍本部の近くは争いが激しかったので、大きな土地の確保は出来ますが、この街の土地の使用権を買うには紹介状が必要なんです。お持ちですか?」
「はい。こちらになります」
紹介状を渡すと、名前を確認した後、隣のおっさんに手紙を渡す。……この流れはテンプレだとギルドマスターだな。分かるぞ、突然、俺は商業ギルドのマスターだが? とか言って相手をからかって遊ぶパターンだな。僕からは絶対に突っ込まないようにしよう。
「おっ、ルッカ侯爵様からの紹介状か。良い伝手を持ってるな。中を確かめるからちょっと待ってろ」
「はい」
「あの、聞いても良いですか?」
紹介状を読み終わるのを待っていると、受付嬢さんに話しかけられた。
「良いですよ。なんですか?」
微妙に聞き辛そうだ。どうしてだろう?
「あの、何故、頭にスライムを乗せているんでしょうか? 他のお二方も頭の上に乗せていますし、流行っているんですか?」
ストレートに聞かれたな。流行りとか言われるとは思わなかったよ。
「流行ってませんよ。この子達は僕達がテイムしたスライム達です。可愛いんですよ」
「そうなんですか? スライムが可愛いってよく分からないです」
……これは布教するべきだよね。
「おう、スライムの話は後にしろ。噂の魔導士様の手伝いとは、侯爵様と言い、良いコネを持ってるな。土地は海軍本部から見える場所で、駆けつけやすいように門の近くが良いと書いてあったが、それで良いか?」
いきなりだな。でも、孤児院に海軍が駆けつけやすいのは助かるな。侯爵様、警護は船を見てからだって言ってたのに、しっかり警護の事まで考えて紹介状を書いてくれたのか……ツンデレだな。
「はい、広い場所をお願いします」
「広いって漠然と言われてもな……具体的にどのぐらい必要なんだ?」
「そうですね、大き目の貴族様のお屋敷ぐらい欲しいです」
「具体的にって言っただろ。まあいい、直接見に行くぞ。ついて来い」
そう言うと、商業ギルドのおっさんはカウンターを出て歩き出した。何故か旗を幾つも持っている。不思議に思っていると、ドンドン進んで行くおっさん。遅れないように小走りで付いて行く。外に出ると海軍本部に向かって歩き出す。
商業ギルドのおっさんが、街の解説をしてくれる。ただ、ここには何があった、あそこには何があったと、説明が物悲しい。暫く歩くと海軍本部の裏門が見える。
「ここら辺が良いだろう。あそこの裏門から海軍が直ぐに駆けつけて来る。ここら辺は被害が大きかったから、殆どの者が亡くなったか権利を売って出て行っちまった。権利を持っている奴も俺が話せば譲ってくれるだろう。何処から何処まで欲しいのか印をつけて見ろ」
商業ギルドのおっさんが持っていた旗を僕に渡しながら言う。ああ、なるほど、この旗は目印だったのか。
しかし、ボロボロだな。気分的に不安だけどリムと神官のクラレッタさんも居るから大丈夫だろう。土地の範囲は……どうせなら大きい方が良いよね。子供が沢山なら運動するスペースも必要だろう。
だいたいの大きさを考えながら旗を立てる。この位か? 欲張り過ぎかな? キャッスル号二隻分ぐらいの大きさで旗を立ててみた。一隻分に建物を建てて、もう一隻分は運動場だな。大きすぎる気もするが小さいより良いだろう。土地が買えるのは今しかなさそうだからな。
誤字脱字、文面におかしな所があればアドバイスを頂ければ大変助かります。
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