24話 掌で転がるワタルと転がす神様
なんだろう? 許可を貰って安心してキャッスル号に戻れる所だったのに。娯楽神様はニコニコしてるんだけど、嫌な予感が……
「えーっと、娯楽神様、何か御用ですか?」
「もうちょっと待ってね。もう直ぐみんな来るから。異世界人君が来てるって聞いて急いで集めたんだよ」
みんな? 僕が来たから? 嫌な予感が膨れ上がる。なんとかキャッスル号に戻りたい。創造神様を見るが、創造神様は戦神様をどうしても追い込みたいみたいだ。未だに噂を広めようと僕に迫って来る。疲れるな。
創造神様が戦神様の覗き事件を神託で世界に広めるのでは駄目なのか? 現実逃避をしていると、美食神様、森の女神様が合流した。お美しいです。
「集まったね。僕が話すより美食神が話した方が良さそうだからお願いね」
「そう? 分かったわ。航さん、お願いがあるんだけど良いかしら?」
「お願いですか?」
美食神様のお願いなら直ぐに頷きたい所だけど、娯楽神様の存在が、即断を躊躇わせる。ぶっちゃけ騙されそうで嫌だ。
「ええ、娯楽神と話していたんだけど、下界で豪華客船を開放してもらえないかしら?」
「はっ? えーっと、開放と言うのは、豪華客船に人を乗せるって事ですか?」
物凄い面倒事を言われている気がする。頭が痛い。
「ええ、豪華客船の料理や娯楽が広まると、下界の文化が豊かになるわ。私や娯楽神にとって大歓迎な事なのよ」
確かに、体験すれば広がって行くだろう。でも僕にメリットが無いよね。面倒が増えるだけだ、いくら美食神様の頼みでも頷けない。
「うーん、申し訳ありませんが、難しいです。豪華客船を開放すると船の召喚枠が減ってしまう上に、豪華客船が自由に使えなくなってしまいます。僕にメリットが無く、危険ばかり増えてしまいますので、困ります」
ボソリと美食神でも駄目か……っと娯楽神様の声が聞こえた。腹黒いのか? マジで苦手なタイプだ。美食神様のお願いを断ってしまったのも地味にヘコム。
「うーん、確かにそうよね……ねえ、創造神様、何とかならない?」
「ん? ……うーん、航君にメリットを与えれば頷いてくれると思うよ。例えば豪華客船に遊びに行った時に毎回デートしてあげるとか。一緒にプールで遊んで、ついでに耳かきでもしてあげれば?」
「そんな事で頷いてくれるわけないじゃない。ねえ、航さん」
耳かきだと……
「耳かきは膝枕のやつですか?」
「ほら、食い付いたよ。航君って目先のチョイエロに弱いよね。僕が思うに豪華客船の利用時に毎回のデートと耳かき(膝枕バージョン)で落ちるよ。あとは美食神しだいだね」
「それは、どうなのかしら? 仮にも神が人間とデートに耳かきって良いの? それに女を利用しているみたいで、ちょっと抵抗があるわね」
「別に肉体関係になる訳じゃないんだから良いんじゃない? 肉体関係になるかは航君の頑張りと美食神の気持ち次第だけど、希望があるなら航君は抗えないよ」
僕の目の前で露骨な話はやめて欲しい。でも、美食神様とデートに耳かきか……たまらないな。いやいや、いくら何でも簡単すぎるだろう。……どうするんだ僕。
「そうなの? なら良いのかしら? 航さん、私とデートと耳かきで、お願いを叶えてくれる?」
「はい! いえ、ちょっと待ってください」
普段、あまり動かない頭脳をフル回転させる。ちゃんと考えないと、美食神様はともかく娯楽神様にひっくり返される恐れがある。
「うわー、僕、異世界人君のあんな真剣な顔って初めて見たかも。創造神様は見た事がある?」
「どうだったかな? 戦争に巻き込まれてた時に、似たような顔をしていた気もするね。たしか逃げるか逃げないかの決断の時だったね。娯楽神は見てなかった?」
「へー、そんな場面があったんだ。見逃してた」
外野が煩い。
「ふぅ、いくつか確認したい事が出来ましたので、質問を良いですか?」
「ええ、いいわよ」
「では、まず、光の神様。今回の事は下界の干渉に当たらないのですか? 創造神様は僕にジラソーレの情報を与えた事で怒られていましたけど」
「なんで光の神に聞くのかな? 僕がここに居るのに」
「創造神様は規則を破るからね。信頼が違うよね」
「煩いよ、娯楽神」
煩いのはあなた達です。
「そうですね……普通なら下界への干渉になり、許されない事です。しかし、創造神様のせいで航さんの船は聖域扱いになっています。聖域への干渉は許されているのが現状ですね。もっとも航さんの船が聖域になるまで、どの聖域も殆ど干渉されてなかったのですが」
問題無いって事か。創造神様に対する不満が見え隠れしている所は、気が付かなかった事にしよう。
「ありがとうございます。では、もし、開放した場合に広めない方が良い物とかありますか?」
「難しい所ですが、機械式の売り物、映像、本、聖域は隠しておいた方が、神々としては安心です。それ以外は見た目でヒントを得ても開発に時間がかかるでしょう」
「直接、技術が広まるのは良くないという事ですか?」
「ええ、そうですね。私達は試行錯誤を望んでいます。全部を与えられては歪な社会が出来上がるだけですからね」
もう既に歪な気もするんだが、黙っておいた方が賢明だろう。
「次は美食神様に質問です。僕は美食神様とデートが出来て、耳かきをして貰えるのなら大概の事は頑張れる気がします。ですが問題は、美食神様が豪華客船に来た時と言うのがネックなんです。お忙しい時や外せない用事の時はしょうがないですが、遊びに来て頂けないとデートも耳かきもやって貰えません。それでは困るんです」
「航君って真剣な顔して、凄く情けない事を言ってるの気付いてるのかな?」
「気が付いてないと思うな。気が付いてれば、あんな恥ずかしい事言える性格じゃないもん」
「そうだよね。娯楽神、ビデオ買ってたでしょ? 撮影しておかない?」
「今、充電中なんだ。創造神様も買ってなかった?」
「僕も充電してるんだ。戦神達の折檻とか面白すぎて、何度も見ちゃったよ」
「創造神様、性格が悪いよ」
マジであの2柱が煩いな。
「何だか、そこまでストレートに言われると照れるわね。重要な用事や仕事が無い時は必ず行くって事で良いかしら?」
「はい! では……あっ、開始は新しい豪華客船を買った後で良いですか? キャッスル号がまったく使えなくなるのは辛いので」
「ええ、航さんのペースで頑張ってくれれば良いわ。お願いね」
「はい、頑張ります!」
「ちょっと待ってもらおうか」
なんかいきなり細身で神経質そうな男性神が現れた。キャッスル号には遊びに来てなかったよね? 男性神の記憶はあやふやだ。
「あら、商売の神、どうしたの?」
「面倒な事は早めに対策する主義でな。美食神、私にも話させてもらうぞ」
この方が商売の神様なのか。
「さて、異世界人、船召喚の能力で、貨幣が神界に集まっているのは知っているな。豪華客船を開放したら更に貨幣が集まるだろう。対策を打たねば貨幣が回らん、協力せよ」
これは……僕にメリットが無いとか言えないんだろうな。
「初めまして、商売の神様、いつもお世話になっております。原因が僕にあるのは分かりますので、出来る限りの事はしますが、何をすればよいのでしょうか?」
「金を使え。船召喚で大金が神界に流れるのはしょうがないが、限度がある」
「あの、お金を稼いで新たに豪華客船を買うつもりなのですが、駄目でしょうか?」
「お前が自分で稼いだ金を如何使おうが自由だ。それとは別に神界に集まった金を渡す。それを世の中に役に立つ形で使えば良い。少しは自分に有利になるように使っても良いが、遊びまわる為に使う事は許さん」
金をやるから慈善事業をしろって解釈で良いのかな? 僕のせいで貨幣に偏りが出来るのは聞いてたけど、創造神様のせいな気がしないでもないんだよね。しかも船の品物以外に大して欲しい物が無いのが辛い。
「あのー、例えばですが、豪華客船のスタッフを、奴隷で揃える為にお金を使っても良いですか?」
「ふむ……金は回るが、世の為になるとは言い難いな」
「違法奴隷を買って開放するのはどうですか?」
「違法奴隷を買えば、悪党に資金が流れ、更に奴隷狩りが広まる。逆効果だな」
難しい。世の為なんて考えた事も無いよ。
「世の為ですか……定番の孤児院を作るとかですか? あとは……そもそも教会に寄付は駄目なんですか?」
「……まともな教会も結局は上の屑に搾取されている。お前では見分けがつかんだろうから、教会に資金を流すのはやめた方がよいな。孤児院を作るのは良いだろう。雇う者も不正を許さん契約をしておけば資金を入れても問題無い」
「まともな教会を商売の神様に教えて頂いて、寄付をするのはどうですか?」
「構わんが、大金を寄付すれば結局は嗅ぎつけられて、搾取される。細かい寄付を繰り返す事になるぞ」
「……やめておきます」
面倒だ。世の役に立つって難しい。僕が使ったお金は楽勝で1000億円を超えてるんだもん、孤児院だけでは使いきれないよね。何かあるかな?
港を作るとか、港の開発とかもろに貴族が関わって来そうで嫌なんだよね。あっ、どっちにしても豪華客船を開放すれば貴族と関わる事になるか……面倒だ。
「取り敢えず、孤児院以外は思いつかないので、孤児院を作りながら次の事を探すのでは駄目ですか? いざとなったら、いろんな国に沢山の孤児院を作る事で対応します」
思いつかないから、先送りだな。
「ふむ、良いだろう。しっかり考えておくようにな」
「はい、考えておきます」
やっと終わったか、許可を得に来ただけなのに予想外に話が膨らんでしまった。考えると大変だよな。デートと耳かきで割に合うのか?
……うーん、普通なら圧倒的に割に合わないんだけど、相手が女神様なんだよね。しかも美食神様とデートで耳かき……掌で転がされてるって分かっていても抗えない。やるって返事をしちゃったんだからやるしかないだろう。
「創造神様、そろそろ戻して頂けますか?」
「航さん、待ってください。私のお願いも聞いてください」
森の女神様が居た。何となくお願いが分かるだけに避けたいんだけど……話を聞かないのは無理なんだろうな。お美しく豊かなお胸が素晴らしい女神様。お願いを叶えてあげたいんだけど。危険な森に入るのは辛い。
「森の女神様、お願いって何ですか?」
「あのですね。場所はお教えしますので、ダークエルフの子達を救って欲しいのです。お願い出来ませんか?」
やっぱりその事だったか。どうする? やる事が結構増えて手が回らない気がする。
「駄目ですか?」
悩んでいたら森の女神様に悲しそうな顔をさせてしまった。
「やる事が増えてしまって、手が回るか心配なんです。豪華客船の開放に、孤児院を作らないといけないですから」
「あの子達の事を頼めるのは航さんしかいないんです。何とかお願い出来ませんか? 私で良ければ、美食神と同じ、デートと耳かきを……私では駄目ですか?」
……これは……断れない、危険な森に入るのは嫌だ。だけど同じ条件で美食神様の依頼を受けて、森の女神様の依頼を断る訳にはいかない。凄く悲しそうな顔をしているし。
何より膝枕で下から森の女神様の豊かなお胸様を見たい……頑張るしかないな。そしてあの豊かな胸でどうやって僕の耳を確認するのか知りたい。手元が見辛そうだよね。
「いえ、森の女神様にそこまで言われたら断れません。頑張ってみます」
「ありがとうございます。航さん」
「あー、引き受けちゃった。航君って簡単すぎるよね」
創造神様が煩い。創造神様があんなに素晴らしい条件を出さなければ、こんな事にならなかったのに。怒ったら良いのか、褒めたら良いのか分からないよ。
「でも航君、僕達が遊びに行くのが3日間として、その間に2回も耳かきが必要なの? 何方か一方は直ぐに終わっちゃうね」
「………………えっ?」
「大丈夫、大丈夫です航さん。殆ど綺麗になっていてもじっくり時間を掛けて、丹念に耳かきをしますから。完全に綺麗になりますよ。ねっ、美食神」
「え、ええ、そうね。どちらが先でも後でも、丁寧にじっくりと耳かきするわよ。安心してね」
それなら良いのか? ……良いか。大事なのはシチュエーションだからな。丹念にやってくれるのなら問題は無い。
「そうですよね。耳かきを丁寧に時間を掛けてやって貰えれば僕は満足です。創造神様、ビックリするような事を言わないでください」
「航君が良いのなら、それで良いけどね。どうせなら光の神も何か頼んでみる? 航君にはまだ1日空いてるよ?」
「……今の所、頼み事はありませんね。航さん機会があったらお願いしますね」
「楽しみに待っています」
光の神様とのデートと耳かき、これも素晴らしいな。耳から血が出ようともいつかお願いしたい。でも急に忙しい事になっちゃったな。ジラソーレは手伝ってくれるかな?
「あっ、あの、今回の依頼は一緒に居るメンバーに話しても良いですか? 話した方が協力が得られそうなんですが」
良かった構わないそうだ。神様の名前が使えれば説得も楽だよね。しかも、商売の神様がジラソーレへの依頼料を、商売の神様から渡すお金で払って良いそうだ。至れり尽くせりだ。さて創造神様に戻してもらうか。
誤字脱字、文面におかしな所があればアドバイスを頂ければ大変助かります。
読んで頂いてありがとうございます。