22話 騒動と捕縛
温泉に入る光の神様、美食神様、森の女神様と別れて部屋に戻る。部屋に戻り、ベッドで横になるが頭の中には3柱の女神様の入浴シーンが思い浮かぶ。
妄想に破壊力があると困る。なかなか寝付けずベットの上をゴロゴロと転がる。ようやくウトウトしだした頃、外から轟音が聞こえた。
「ひっ!」
……なんだ? 何があった? 悩んでいる間も外では連続して爆発音が響き渡る。……おそるおそる外を見ると沢山の女神様が飛びまわり攻撃をぶちかましている。
「あははは、何が起こってるの? いきなり僕の船で神様達が暴れてるよ! ハルマゲドン? 僕の船で世界の終末が始まったの?」
なんか、音も光も打ち上げ花火の比じゃない、ジラソーレの全力攻撃がお遊戯に見えるような魔法? や技が気軽に放たれている。
「うおー、マジか、なんだコレ、勘弁して欲しい。どうする?」
……轟音が響いているのに、船体には傷一つ付いていない。不壊の効果か……部屋の中に居れば安全だよな? 外に出てあの攻撃に巻き込まれたら死ぬ。
取り合えずゴムボートを召喚して中に入る。乗船拒否は創造神様の攻撃以外は大抵弾き返せるんだよね。……あれ? 船内では乗船拒否の能力で殺傷行為は禁止になっているはずだよね?
何で気軽に攻撃できるの? 何で船外に弾き出されないの?
「うおー、なんだよ。訳が分からない。怖すぎる」
ゴムボートの中で布団を引っかぶって震えていると、部屋の扉がノックされた。
「ど、どなたですか?」
震える声を必死で抑えながら声を出す。
「航さん、光の神です。開けて貰えますか?」
怖いんだけど、開けて良い物なのか? ……光の神様を疑ってもどうしようもないか。用心の為に扉の手前にゴムボートを召喚して素早く移動する。
少し迷った後にゴムボートの中から恐る恐る手を伸ばして扉を開ける。
「あっ、航さん、騒がしくして申し訳ありません」
扉を開けると光の神様が居た。
「あっ、いえ、でも、何が起こっているんですか?」
「恥ずかしい事なのですが、女神達と特定の男性神の間で争いが起こっています」
「あのー、この船の中では殺傷行為は禁止で、攻撃をしたら船外に弾き出されるはずなのですが」
「ええ、最初に攻撃した者は弾き出されました。慌てて創造神様に回収してもらい、女神達の圧力により創造神様が殺傷行為の禁止を一時的に解除しています」
創造神様が女神様達の圧力に負けるって、何が起こってるんだよ。
「えーっと、安全なんでしょうか? 安全なら今の状況を説明して欲しいんですが。大丈夫ですか?」
「ええ、大丈夫です。部屋の中なら安全ですので中に入っても良いですか? 殺傷行為以外の航さんの能力はそのままですから」
いや、殺傷行為の禁止ってかなり大事な能力なんだけど。元に戻るんだよね? まあいい、部屋の中が安全なら余裕はある。
「光の神様、缶コーヒーで良いですか?」
「ええ、ありがとうございます」
缶コーヒーを取り出しテーブルに座る。
「それで、いったい何があったんでしょう?」
少し困った顔をした光の神様が話し出した。
「恥ずかしい話なのですが、私と美食神、森の女神の入浴が覗かれました。それを発見した女神達と覗きに加わった男性神達の間で争いが起こったんです」
光の神様、美食神様、森の女神様の入浴を覗いただと……誘って貰いたかった。……いや、外の光景を見ると、僕が参加していた場合、消滅してそうだ。
あれだな。お風呂の覗きとか修学旅行のイベントみたいな出来事だな。まあ、外から聞こえる轟音を考えると、修学旅行なんてレベルの騒ぎじゃない。
僕が犯罪だと思いとどまった覗きを神様が実行するとは。なんかこの状況だと今までのビデオ撮影も危険な気がして来た。下手な事で怒りを買ったら、本気で消されそうだ。
「……覗きは分かりました。女神様達が怒るのも理解が出来ますが、ここまでの大騒ぎになるんですか?」
「いえ、覗きがバレた後に酔っぱらった男性神が、問い詰めた女神達に、酷い暴言を吐いたんです。それで騒ぎが大きくなりました」
「えーっと、どのような暴言だったのか聞いても良いですか?」
「……簡単に言いますと、問い詰めた女神達に、お前達を覗く事は無いから安心しろ、と言った意味の事を言ったそうです。まあ、その後も酔った勢いで色々と言ってしまったので、女神達が本気で怒ってしまって、今の騒ぎになっています」
……子供か? 神様がこれほどくだらない理由で争って良いのか? この世界に住んで居る事に不安を覚えるんだけど。
詳しく聞いてみると、覗いたのは酔っぱらった戦神様を含む8柱の男性神。神の力を駆使して光の神様達の覗きに成功。……海側なのにどうやったんだろう?
偶々覗きに気が付いた女神様達が問い詰める。酔っぱらった男性神達が謝ればいいのに、開き直った上に、女神様達に言いたい放題。女神様達がブチ切れて、女神様達VS8柱の酔っ払い男性神が勃発したらしい。
「こう言っては何なのですが、神様がそれで良いのでしょうか?」
「よくは無いのですが、久しぶりの下界と異世界のお酒に男性神のタガがハズレてしまったようです」
「あー、開放的な気分になってたんですか。そう言えば、光の神様、美食神様、森の女神様が覗かれたんですよね? 美食神様、森の女神様は戦闘中なのですか?」
「いいえ、私達が着替えて状況を把握している間に戦いが始まってしまったので、戦闘を終息させるように動いています」
覗かれた挙句に騒動の後始末か……仕切る立場の人って大変だよね。
「光の神様、こんなに大事になって大丈夫なんでしょうか? この船で神様が消滅とか嫌なんですけど」
「大丈夫ですよ。お仕置きぐらいです。戦闘をおこなっている者達もそこは理解しているので、弱い攻撃しかしていません、安心してください」
……安心って、ジラソーレの攻撃がお遊戯に見えるレベルなのに、弱い攻撃なんだ……さすが神様だな。迷惑だけど。
「そうなんですか。……それで、これからどうしたら良いですか?」
「戦神達も時間が経てば落ち着きますので、申し訳ありませんが、それまで部屋で待機して頂きたいのです」
創造神様が暴走している訳じゃないから、部屋に居れば安全なんだよな……なら音が煩い以外で問題は無いか。
「分かりました。部屋でゆっくりしていますね」
しかしあれだな、この世界の神様って僕が思っていた神様と違うな。どっちかと言うと、地球の神話に出て来る無茶苦茶な神様に近いのかも? ……嫌だな。
「ええ、よろしくお願いします。ご迷惑をお掛けして申し訳ありません」
光の神様って本当に大変なんだな。キャッスル号で疲れを癒してもらいたかったんだけどね。話しているとコンコンとドアがノックされる。
「ん? 誰か来ましたね。光の神様、出ても大丈夫ですか?」
「一応、私が出ますね」
光の神様がドアを開けると、魔神様にブラーンと襟を持たれて吊り下げられた創造神様と、美食神様、森の女神様が居た。取り合えず中に入って貰い、缶コーヒーを出す。吊り下げられている創造神様に対する突っ込みは無しだ。
「それでどうされたんですか?」
「あっ、航君、乗船拒否に手を加えちゃってごめんね。神が船外に弾き出されたからしょうがなかったんだ。あと怖かったし」
「あっ、騒動が収まってから戻して貰えれば大丈夫です」
「うん、ちゃんと戻すから安心して」
元に戻して貰えるのなら、問題無い。後は収まるのを待つだけだ。
「ありがとうございます。それでどうしてここに来られたんですか?」
「あのね、戦神達が一つの部屋に閉じこもっちゃったんだ。それで僕にドアを開けろと煩いんだよ。僕が与えた能力とは言え、航君が召喚した船なんだから、僕が開けるわけにはいかないよね」
そう言えば静かになってる。膠着状態なのか……なんか嫌な予感がする。これは僕にドアを開けろって話の流れか? 気にせず創造神様が開けて欲しい。
「いえ、伝えて下さってありがとうございます。ですが、騒ぎが収まるまで創造神様のお力でお願いします」
「うーん、僕が連続でスキルに手を加えるのってあんまりよくないんだよね。航君が対処した方が良いと思うよ」
……船召喚は僕の生命線だ……おかしな事になるのなら、僕がやらないと駄目だな。……面倒だから適当な事を言って僕に丸投げをしたとかじゃないよね?
「……分かりました。戦神様達が立てこもっている部屋を、僕が使用禁止にすれば良いんですよね?」
「うん、それで放り出された戦神達を女神達が確保すれば、それでお終いだよ」
意外とお手軽な解決方法だね。
「直ぐに部屋を使用禁止にしますか?」
「ん? ……魔神、どうするの?」
「……そうだな、部屋の周りに捕縛する者を増やした後が良いだろう。酔っぱらっているとは言え相手は戦神だ。油断したら逃げられるぞ」
魔神様、不機嫌だな。イライラを隠すつもりも無いみたいだ。
「光の神様、なんだか魔神様が不機嫌なんですけどどうしたんですか?」
「魔神は今回の騒ぎで、図書室から無理やり連れだされたのが不服なんですよ」
なるほど、活字中毒っぽいのに、異世界の本のお預けをくらってるから不機嫌なんだな。
「あー、早く終わらせましょうか」
「ふふ、それが良いですね」
魔神様が指示を出し、女神様や手伝いに駆り出された男性神が部屋を取り囲む。僕の部屋と同じフロアに逃げ込んで来たらしく、ドアを開けると戦神様達が籠っている部屋が見える事で、作戦本部みたいになってしまった。
「じゃあ、航君、お願いね」
「分かりました」
戦神様達が持っているチケットの部屋指定をいじくり、籠っている部屋を使用禁止にする。それと同時に大声で焦る声が聞こえ、ドアが開き戦神様達が放り出された。
「捕まえろ」
魔神様の号令と共に部屋の前に待機していた神様達が一斉に攻撃を打ち込む。捕まえろって言ったのに、なんで一斉攻撃なんだろう?
ああ、飛び掛かろうとした男性神様達を押しのけて、女神様達が攻撃している……とても楽しそうだ。魔神様を見ると、頭を抱えている。
「もう、良かろう。そろそろ捕まえろ」
魔神様の言葉に渋々と攻撃をやめる女神様達。その隙をついて男性神様達が飛び掛かり、戦神様達を捕まえる。ロープでグルグル巻きになるのかと思ってたら、なんか光の帯みたいなものに縛られている。神様をロープで捕らえるのは無理があるか。
「航さん、お手数をお掛けしました」
「い、いえ、大丈夫です」
光の神様が声を掛けてくれるけど、爽やかな笑顔で戦神様達を引きずって行く女神様達が気になってしょうがない。あれだけ攻撃していたのに満足してないのか? 戦神様達、どれだけ怒らせてるんだよ。
これ以上先を見るのも怖いので、部屋に戻り、きつめのお酒を飲んでから眠りにつく。僕もちょっと調子に乗ってセクハラ気味だから反省しよう。
………………
神様滞在2日目……朝から美食神様を案内してメインダイニングに向かう。
「美食神様、今日は1日メインダイニングで良いんですか?」
「ええ、朝、昼、晩、全部メニューが違うんでしょ? 作れるだけ作るわね」
美食神様、朝一から燃えているな。
「また夜に、料理を作って貰いに行っても良いですか?」
「もちろんよ。航さんが沢山注文してくれるから、沢山作れるんだもの、必ず来てね」
必ず行くと約束をして、メインダイニングで美食神様をスタッフに任命する。ついでにクラシックブレックファストを注文して、朝から美食神様の手料理を食べられる幸運に感謝する。
美味しい朝食を終えて、散歩がてら船内を見回る。まだ朝が早いのに神様達は結構出歩いているな。昨晩の話題も出ているようだ。聞こえて来る話では、戦神様達の評判がガタ落ちになっている……僕も気を付けないとな。おっ、光の神様だ。
「光の神様、おはようございます」
「航さん、おはようございます」
「戦神様達はどうなりましたか?」
「はは、まだ尋問中……? ……お説教? そんな状況です」
ちょっと恥ずかしそうな光の神様……ナイスです。
「ああ、まあそうなりますよね。かなりの騒ぎでしたから……」
人の船で覗きに戦闘……しっかりと怒られて欲しい。
「航さんにもご迷惑をお掛けして、申し訳ありませんでした」
「気にしないでください、船には傷一つ付いてません。僕はなにも問題ありませんよ」
朝食に行く光の神様と別れ、散歩を続ける。今日は騒ぎも無く、楽しい一日になるようにお祈りしておこう。……創造神様にお祈りをするのも違うな。
……逆に騒動が起こりそうだ……誰に祈れば良いのか分からない。光の神様、美食神様、森の女神様に祈る事にしよう。癒される。
誤字脱字、文面におかしな所があればアドバイスを頂ければ大変助かります。
読んで頂いてありがとうございます。