15話 鉱脈確認と開発計画
僕達は今、ダークエルフの村に向かってアッド号で走っている。昨日の休日はちょっと飲み過ぎた女性陣の面倒を見ながら、のんびりゴムボートに温泉を溜めた。
200艘以上のゴムボートにしっかりと温泉を溜め込んだ。これでいつでも温泉に入り放題だ。……これで良いのなら岩風呂を作る必要も無かったんだけど、それはそれだよね。
岩風呂でお風呂に入る事は必要な事だった。ジラソーレのちょっと乱れた温泉シーンもいつもと違う雰囲気が必要だったんだ。だから何の問題も無い。
村に戻る前に、温泉と洞窟に結界を張っておく事にした。これで洞窟にも温泉にも魔物が入り込む事は無いだろう。
くだらない事を考えながら草原を疾走する。川を船で下るのも良いんだけど、草原を疾走するのも有りだよね。
帰りは操船大好き組が運転したがったので、不安に思いながらも後ろにストッパーを配置して、乗せてみた。満面の笑みが不安に感じるが、行きも我慢してもらったので、帰りはしょうがないだろう。
僕はイネスを、ドロテアさんはアレシアさんを、イルマさんはマリーナさんを暴走した時に止める役目だ。
キャーキャー言いながら走行する操船大好き組。道がある訳でもないので、フルスロットルではないんだけど、ちゃんと限界を見極めたうえで、限界ギリギリまで攻めている。
やっぱりスピード狂だよね。運転に慣れている訳でもないのに、バランス感覚が優れているのか、センスが違うのか、直ぐに慣れて楽しそうに運転している。
ダークエルフの村に到着した時、操船大好き組はスッキリした顔でニコニコしていた。分かりやすいよね。
村の門に近づくと、村長さんが出迎えてくれた。いつも出迎えて貰って悪いなとも思うんだけど、半分はフェリシアに会うのが目的みたいだし、そのままにしてある。
「ワタルさん、お帰りなさい。ご無事で何よりです」
「村長さん、出迎えありがとうございます。良い物が発見できましたので、お時間頂けますか?」
「ええ、勿論です。副村長も呼びましょうか?」
「そうですね。いて貰った方が良いです。お願いします」
村長さんの家に向かいセシリアさんと挨拶をして、副村長さんが来るのを待つ。暫く待つと、副村長さんがやって来たので挨拶をして話し合いを始める。
「それでは、僕達が発見した物を説明しますね」
温泉の説明は、あまりピンと来ていないようだ。お風呂に入る習慣が無いのでしょうがないか。鉱脈に関しては喜びを露わにして聞いていた。
温泉と鉱脈の視察をして貰う為に、人員を派遣してもらう事と、温泉の場所に村を作る提案は、夜に緊急集会を開いて話し合うそうだ。
森の中に村を作ることは計画にあったそうだが、今は準備段階で材料を集めながらこの丘の上の村をしっかりと作り上げる予定だったそうだ。
僕が好き勝手やってるからな、予定も狂うよね。ちゃんと謝っておいたら、温泉はよく分からないが鉱脈だけでもこの島にとって大歓迎の発見だそうでしきりにお礼を言われた。
貴金属の取り分としては、発見したのは僕達だから、生活の役に立つ鉄なんかが出れば分けて貰うだけで十分だと言われた。この島で金銀財宝は装飾ぐらいにしか使えないそうだ。
確かにそうかもしれないけど、採掘までして貰って上前を撥ねまくるのも気まずい。協議の結果僕が3割、ジラソーレが3割、ダークエルフが4割になった……洞窟を発見したのもアントを討伐したのもジラソーレが中心なんだけど、僕達が3割貰って良い物か?
良いらしい、僕がいないと貴金属がいくらあっても無駄なんだそうだ。移動手段を押さえていると強いんだね。アレシアさんもこの島で儲けるつもりもないと言っていたが、押し切られていた。
一応ジャイアントアントの事も伝えておいたが、数が居ないのなら問題無いそうだ。あの洞窟に居るアントは狩りつくしたから、居たとしても野良アントだから大丈夫だろう。
色々と質問されたが、僕には食料の生産は厳しそうな事ぐらいしか分からない。取り敢えずダークエルフの生活が分かっているフェリシアにまかせた。
温泉と鉱脈には明日、視察に行く事が決まった。今夜、会議をして視察に行く人物と大まかな方針を決めるそうだ。どうなるかな? 忙しくなるだろうから、浜辺に戻りシーカー号に泊まる。
「ワタルさん、この島って鉱脈しだいで凄い事になるんじゃない? どうするの?」
シーカー号のリビングでお茶を飲んでいるとアレシアさんが聞いて来た。……どうするって、どうしよう?
「えーっと、この島はダークエルフの島ですから、あまり目立つのは嬉しくないですね。貴重な金属が出たなら、僕が南の大陸辺りに売りに行きますよ。
人が少ないので、そんなに金属は採掘出来ないと思います。溜めておいて一気に卸せば数年に一度の商売って事になるかと。畑も出来て食料も安定しているので、金とか銀より、生活の役に立つ鉄があればそっちを中心に掘る事になりそうですね」
「確かに目立つのは良くないわね。ここがバレたら、胡椒を買いに行くより近場ですもの。命知らずのろくでなしが押し寄せて来るわね。ああ、だから南の大陸に売りに行くのね」
「南の大陸の方が距離がありますから、安全ですよね。まあ、本物の金かどうかも分からないので、無駄な悩みかもしれませんが」
キラキラしていたのが金と似ている方の金属だったら、他に貴重な金属が見つからないかぎり考え損になるな。
「ふふ、そうね。鉱脈を調べてからの話ね」
そうなんだよね、なのに、取り分の割合も決めちゃってるよ。これで貴重な金属が出なかったら恥ずかしいな。
……………
そこからは早かった、トントン拍子に話が進み、会議で村長と副村長みずからが視察に行く事が決まった。土魔法が使える人が必要だと言うと、副村長が使えるそうだ。
湖の村では魔物が狂乱した時に避難する大岩の加工や修復の為に、土魔法は熟練しているとの事だ。護衛を連れて行くように言うと、僕達の足手まといが増えるだけだと言われた。
2人で視察するより、人数がいた方が良いと思うと伝えると、人数が増えると、温泉に興味を持っているダークエルフの女性が付いて来たがるので困るそうだ。
女性陣の筆頭はセシリアさんで、フェリシアの話を聞いて、絶対に行くと言い張っていたそうだ。ダークエルフの女性陣との温泉か……良いんじゃないのか? ああ、湯着がないから僕が混じるのは無理か。……湯着を広めておくべきだったな。混浴が作法だと今更言い出すのも厳しいし。
女性陣の要求は視察の後、ある程度整備が出来たら、連れて行く事で納得させたらしい。勝手に約束して申し訳ありませんが、温泉の使用許可を頂きたいと頭を下げられた。もう、温泉の事だけで村を作る事が決まってないか?
和船で川を遡り、森と山を歩き、夜には温泉に到着した。村長も副村長も健脚で、道が分かっているとはいえ、あっさり到着した事に驚く。
湯着を持っていないので、僕と、村長さんと副村長さんで温泉に浸かる事になった。カッコいいダークエルフの男2人と入る温泉。
引き締まった肉体、長い足、男性なのに抜群の美貌、そんな2人と一緒に入る、中肉中背の僕。なんかやってられない気持ちになるよね。
村長と副村長は初めは臭いを嫌がっていたが、熱いお湯がこんこんと湧き出るさまに驚き、掛かり湯をして温泉に浸かると表情が緩んだ。
僕が使っている洗顔、シャンプー、リンス、ボディソープを貸したら、艶々の美青年が現れた……アレシアさん達の時も思ったけど、元々が良いのに、シャンプー類を使っただけでこんなに変わるのが羨ましい。
でも、これでダークエルフの女性陣がこの光景をみると温泉に連れて行けという圧力は強まるだろうな。村長さんと副村長さんも温泉を気に入って、村を作る事に前向きのようだ。
今更秘密にしていてもしょうがないので、ハイダウェイ号を召喚して泊まる。村長は驚き、魔の森でハイダウェイ号に入った事がある副村長さんも、内装を偽装していないので驚いていた。
翌日には、鉱脈を確認するために洞窟に入り、鉱脈の一つ一つを確認する。どうやって土魔法で確認するのかを見ていると、土魔法で鉱脈を切り出して、その切り出した石にまた魔法を掛けると、石が崩れる。
その崩れた砂? に新たに魔法を掛けると、小さな金属と、石に分かれて固まった。結構時間がかかるんだな、魔法を掛けたら金属が勝手に出て来るようなイメージだったよ。
詳しく話を聞いてみると、砂みたいな状態にしないと、金属が取り出し辛いらしい。金属も魔法を掛けた人物が認識している金属しかより分けられないそうだ。……便利は便利なんだけどね……採掘には時間がかかりそうだな。
全部の鉱脈を回り外に出るまで2日掛かった。マグマにはかなり驚いていたな。発見された鉱脈からは金、銀、銅、鉄、鉛が見つかった。他にも知らない金属を教えれば、新しく発見出来るかもしれないな。図書室で調べないとな。
今回の探索で、村長さんと副村長さんは必ずここに村を作ると盛り上がっていた。村に戻ってからさっそく会議を開き、急速に温泉の村の建設に向かって進みだす。
最大の原動力は、村長さんと副村長さんの変貌が原因だ。フェリシアから詳しく温泉の話を聞いていたセシリアさんが、温泉の効能を確認して女性陣を集めてプレッシャーを掛けだした。
会議では丘の上の村に全員分の家を建ててから、温泉の村に取り掛かると話し合っていたのが、取り敢えず先行して温泉周りに柵を建て、宿泊できる施設を作る事が決定した。
温泉宿をお勧めにしておいたけど……僕の語彙で作れるのか? 微妙な雰囲気が出来上がりそうな気がする。……そうだ、フェリーの観光ガイドに温泉宿のコーナーがあったな。詳細は分からないけど、今度持って来よう。売店に売っていたはずだ。
家を後回しにされる湖の村の人達も怒りそうなものだが、セシリアさんが集めた女性陣には湖の村の女性陣も居て、スムーズに進んだ。
別にそこまで急がなくても良いと思ったが、子供がいる家族の住む家は完成しているので、問題無いそうだ。それに温泉の村を作るのなら、移住する人間の家が空くので、温泉の村を作る方が効率的だそうだ。
これは、あれだな、鉱脈とか忘れられているな。金とか見つかったんだけど……
温泉の村の建設予定が決まり、ようやく鉱脈の話がでる。農作業との関係もあるので何人の土魔法使いを採掘に回すのかが話し合われる。
結局は温泉の村を整備しないと採掘も出来ないとの結論で落ち着いた。あっさりしているな。
会議が終わり、副村長さんが、温泉開発に必要な人員を率いて出発する事になった。決定が早い。人数が少ないと身軽に動けるんだな。シーカー号に戻りお茶にする。
「ご主人様、温泉の村の開発には協力するの?」
あー、どうだろう、手伝った方がいいのか? 僕達がいたら邪魔そうだよね。
「フェリシア、僕達が関わった方が良いのかな?」
「いえ、大丈夫だと思います。危険な魔物もいませんから、村の人達で十分です」
「それなら、僕達がいても気を遣わせそうだから、明日、必要な物が無いか聞いてから出航して、キャッスル号で少しのんびりしようか?」
此処の所、少し頑張ったからな、ちょっと堕落した生活を送りたい。
「ふふ、少しのんびりするのね。楽しみだわ、少し飲んでも良い?」
「お休みを作るつもりだから、その時にね」
お休みにお酒を飲む事を考えたのか、イネスの顔が笑顔に変わる。ちょっと前に温泉でたらふく飲んだのに好きだよね。
まあ、楽しみが先に出来ると嬉しいよね。僕も堕落した生活を想像するとテンションが上がって来た。
リム、ふうちゃん、べにちゃんとキッズルームで遊ぶのも楽しそうだ。部屋に籠ってイネスとフェリシアとイチャイチャするのも良い。ジャグジー温泉も忘れたら駄目だよね。
うん、今から村に行って必要な物を聞いて来るか? 今夜からキャッスル号に戻りたい気分だ。……ここにキャッスル号を召喚するか?
流石に大きすぎるか。船が消えただけで騒ぎになったからな、キャッスル号みたいな巨大な船が現れたら騒ぎになるよね。しかも座礁もするだろうから、止めておくべきだ。堕落した生活の為にそこまでするのはワガママが過ぎるだろう。
今日はシーカー号で休んで、明日から精一杯お休みを楽しもう。
誤字脱字、文面におかしな所があればアドバイスを頂ければ大変助かります。
読んで頂いてありがとうございます。




