14話 予想外の出来事と温泉
一つ目の鉱脈が発見され僕のテンションも急上昇だ。しかも金の可能性がある。黄金の茶室も夢じゃない。……お茶はしたことが無いから、某大統領のお部屋みたいなのを作るのも楽しいかも。
「そう言えば、洞窟の地図とか無いんですけど、鉱脈の位置確認はどうするんですか?」
「そうね、地図はいずれ必要だけど、今回は鉱脈の側と部屋なら通路の入り口に大きな傷を付けて、見つけた鉱脈の数を覚えておけば良いわ」
なるほど、それなら分かるな。どうせ後で詳しく調査するだろうから、最初はおおまかで良いか。
「分かりました。アレシアさん、ありがとうございます」
鉱脈の近くと、メイン通路の入り口に傷を付けて次に向かう。うーん、運の数値が低いからかなかなか見つけられない。マリーナさんがもう1ヶ所見つけて、カーラさんも1ヶ所見つけた。僕も見つけたい。
諦めずに探し続けるとついに一つの鉱脈を発見した。アントの食糧庫だった場所に太い白い筋がある。銀色の細かいキラキラが混じっているから、銀が取れる可能性もあるかも?
自分で発見した事に大喜びしてしまった。ちょっと恥ずかしいけど喜びが抑えきれなかったよ。
………………
丸一日をかけて洞窟の入り口まで戻って来た。発見した鉱脈は7ヶ所。金らしきものが見えた鉱脈が1ヶ所、銀らしきものが見えた鉱脈が1ヶ所、残りの5ヶ所は、採掘してしっかり確認しないと、何が混じっているのか分からないが、何かしら金属が取れそうだ。
鉱脈は色々な金属が混じっている事が多いらしく、上手く行けば大半の金属が手に入る可能性がある。金、銀、銅、鉄が手に入る様になればラッキーだよね。
こうなると金属の事を詳しく知らないのがもったいないな。この世界のファンタジー金属は教えて貰えるだろうけど、合金とかはまったく分からない。キャッスル号の図書室に合金の本とかマニアックなのも置いてあれば良いんだけど。
「ワタルさん、行きましょう。温泉に入りたいわ」
考え事をしていると、アレシアさんに声を掛けられた。
「そうですね。行きましょうか」
ハイダウェイ号でお風呂には入っていたけど、温泉は別物だよね。疲れた体が温泉を求めている。
ウキウキと岩風呂に戻ると、衝撃の光景が……
「……これってどうなんでしょう? 物凄く不愉快なんですけど」
「ええ……復讐のつもりなのかしら?」
アレシアさんも同意見のようだ。心の底から不愉快だな。女性陣も怒気を発している。
「グギャ、グギャギャギャギャギャ」
僕と目が合うとあざけったような顔をした後に、不快な笑い声をあげる。温泉には10匹以上のゴブリンが浸かったりと岩風呂周りでたむろしている。しかも何かの動物の生肉を貪りながらの宴会気分だ。
確かに柵で囲ったわけでもないし、独占する気も無かったんだけど、あの態度は頂けないな。次からはフェリシアに結界を張って貰おう。
「あの、真ん中に居るやつが、この前捕まえた奴ですかね?」
「多分そう。顔に私が殴った痣がある」
捕まえて来たマリーナさんが言うのなら間違いないんだろう。不愉快だが、逃げ出したあと、ゴブリンキングになって復讐に来るとかじゃなかったのは良かったね。
「実験でお湯に浸かる事を覚えたんですかね?」
「うーん、分からないわ。ただ言える事は、一匹も逃がさないわよ。あと温泉の中で殺すのは駄目よ」
アレシアさんの言葉と同時に女性陣から途轍もない殺気が膨れ上がる。いままでこんな殺気立った女性陣を見た事が無い。
殺気に反応したのかゴブリンも騒ぎ出す。慌てて木の棒を手に温泉から出て来る。いや、まあ、戦い辛いのは分かるけど、温泉から出て来たら瞬殺されちゃうよ?
しかもボロボロの毛皮を身にまとったまま温泉に浸かっている。神経を逆なでするのが上手いな。……いや全裸で出て来られるよりマシか。全裸のゴブリンなんて見たくない。
前回、実験に使われたゴブリンが、木の棒で地面を叩きながらグギャグギャと言っている。おそらく、この前はよくもやってくれたな、殺す。とか言ってるんだろうな。
「いくわよ」
アレシアさんの言葉と同時にジラソーレのメンバーから攻撃が叩き込まれる。……呆れるほどのオーバーキルだ。容赦がない。バラバラになったゴブリンをイルマさんが燃やして綺麗にする。
ゴブリンにしても、殴られ、熱湯に浸けられと言いたい事は沢山あったんだろうけど、やり方が不味かったよね。ただでさえ駆除対象なのに喧嘩を売って来たら駄目だ。
「あーん、温泉を楽しみにしていたのに、この後に入るのは嫌よ」
あーんってアレシアさん、いくら何でもそれはどうなんでしょう?
「ワタルさん、何か?」
「い、いえ、何でもないです。しょうがないですから掃除しましょうか」
「ええ、そうね。しっかりお掃除しないと、気持ち良く温泉に入れないわ」
岩風呂には排水の穴を開けてなかったからな。自分で穴を開けると壊れそうだから、どうしたものか。今回は水を汲みだして、穴は大工さんに相談しよう。
ムカつく事にゴブリンは熱くて入れない、一つ目の岩風呂に、食べ終わった動物の骨や毛を放り込んでいた。
そのお湯が自分達が入っている岩風呂に流れ込む事が理解出来ないんだろうか? まあ嫌がらせとしては効果的だよね。2つの岩風呂を掃除しないと駄目なんだから。
樋を使って別の場所にお湯を流し、岩風呂のお湯をくみ出す。面倒な上に、温泉に入る気満々で戻って来たから地味に辛いな。
偶に岩風呂の側で遊んでいる、リム、ふうちゃん、べにちゃんを見てホッコリしないとイライラしそうだ。
お湯をかきだした後は、ハイダウェイ号に備え付けられている、デッキブラシと洗剤でお風呂を洗う。今まで念じれば綺麗になったから、船に備え付けられている掃除道具は無駄な物だと思ってたけど、意外な所で役に立つな。
しっかりと洗った後に水で洗剤を洗い流す。綺麗に洗い流した後はクラレッタさんが浄化を連打する。浄化が使われているのが分かると、リムもお手伝いと言って、浄化を使ってくれた。可愛い。しっかり綺麗にした後、樋を外し温泉を岩風呂に入れる。
「お疲れ様でした。温泉が溜まるまで、ハイダウェイ号でお茶にしましょう」
「ふぅ、そうね。思わぬところで疲れちゃったから、温泉が溜まるまでゆっくりしたいわね」
念のためにフェリシアに結界を張って貰い、ハイダウェイ号に移動する。休んでいる間に再びゴブリンが温泉に浸かってたら、山狩りが開催されそうだからな。
僕は缶コーヒーを選び、女性陣も好みの飲み物を選んで休憩をする。
「まさか、Aランク冒険者になって、数匹のゴブリンに振り回されるとは思わなかったわ」
アレシアさんが、苦笑いしながら今回の事を話す。たしかにゴブリン討伐ってFランク冒険者の依頼だよね。キングやジェネラルが出て来たら違うんだろうけど、今回は普通のゴブリンに引っ掻き回されたから驚いたんだろう。なんだかシミジミしてる。
「ゴブリンも侮れないって事ですね」
「ふふ、そうね。真向勝負なら問題無いんだけど、今回みたいな復讐のされ方は予想外だったわ」
まあ、ゴブリンとしても僕達を殺すつもりで復讐に来たんだろうけど、僕達に一番ダメージを与えたのは温泉に浸かっていた事なのは予想外だったろうな。
温泉が溜まったので、部屋に戻り湯着に着替える。予定外に焦らされたので温泉に入れるとなったら、気分も上がるな。
結界を解いてもらい、ゴムボートを召喚して、掛かり湯をしてから温泉に浸かる。
「あー、やっぱり温泉は良いですね」
女性陣も次々と掛かり湯をして温泉に入って来る。何度見ても良い光景だよね。全部僕のものにしたい。
「ふぅ、時間がかかったから、更に気持ち良く感じるわ」
アレシアさんも同意見みたいだ。お腹が空いた方がご飯が美味しいのと同じ理屈かも。
「そうですね。不愉快な出来事もお湯に溶けてしまいそうです。心と体を癒すのが、この温泉の効能なんですね」
今、ちょっと良い事言ったかも。
「えっ? ああ、……そうかもしれませんね」
アレシアさん、何で敬語になったの? ハズシちゃった? 何となく気まずい雰囲気になってしまったので、近くを漂っていたリムを抱き寄せ、話を逸らす。
「ドロテアさん、べにちゃんは温泉でも問題ありませんか?」
「ええ、気持ちが良いそうです」
マグマでも問題無くて、温泉でも気持ちが良い……空気が涼しくなっても平気みたいだし、ただ、熱に強いだけなのかな?
「それなら良かったです」
話は逸らせた。ただちょっと良い事を言ってみただけなのに、思わぬ反応だったな。
「それで、ワタルさん、これからの予定は?」
アレシアさんも先ほどの空気を忘れて、話を変えてくれた。
「そうですね、温泉と鉱脈の事を伝えて、確認して貰わないといけないので、一度ダークエルフの村に戻りますか。村長さんと土魔法が使える人を連れて来られれば、話が早いですね」
「ああ、それもそうね。鉱脈も見つかったから、ここに村を作れば便利になるわ」
そうだよね。洞窟で金属を採掘して、疲れたらいつでも温泉に入れる。問題と言えば山を越えなきゃ村までいけない事だけど、そんなに大きな山じゃないから川まで道を作れば許容範囲内だと思う。
何より貴金属が手に入れば、生活にも役立つ。トータルで考えたら、かなりのプラスになるだろう。
「ええ、採掘される金属しだいですが、鉄が見つかれば道具も自力で賄えるようになります。遠くない内に全部自力で生活出来るようになりそうですね」
「ふふ、それは良いわね。明日、村に出発するの?」
「うーん、どうなるか分からないので、先に温泉を溜めておきたいので、出発は明後日にしましょう」
「温泉を溜めるの?」
「ええ、送還しておけばいつまでも温かいですからね。いつでも温泉が入れるようになりますよ。僕はキャッスル号のバルコニーで、海を見ながら温泉ジャグジーを楽しむつもりです」
想像だけど海を眺めながらの温泉ジャグジーはかなりいい感じのはずだ。缶ビールを飲みながら楽しもう。
「良いわね。それは良い考えね。ワタルさん、私達もお願いして良い?」
「ええ、大量に溜める予定ですから、いつでも大丈夫ですよ」
「ありがとう、ワタルさん」
「いえいえ、そう言えば最近お酒を飲んでませんよね。明日は温泉を溜めるだけですから、今日はお酒を飲みますか? 鉱脈も見つかりましたからお祝いしましょう」
女性陣の歓声があがる。さっそくという事で、まずはビールで乾杯する。後はもう楽しく騒ぐだけだ。
洞窟探索と岩風呂掃除で疲れているうえに温泉で血行が良くなり、酔いが回るのが早い。乱れる女性陣を見る為に僕はお酒をセーブする。
日本酒を出そうかと思ったが、飲みやすい方が良いだろうと、冷やしたシャンパンと白ワインを出してみた。
狙いは当たり、水のように飲まれて行くワインとシャンパン。作ってくれた人、こんな飲み方でごめんなさい。でもいい仕事してくれています。
お酒の瓶を持って、注いで回る。この行動によって自由に岩風呂内を移動して、女性陣に接近する大義名分を得た。
お酒が入り陽気になった女性陣は、楽しそうに笑いながら、体の洗いっこをしたり、抱き着いたりと、楽しそうに騒いでいる。楽しそうに騒ぐと当然、湯着が乱れる。素晴らしい事です。
「ワタルさん、ありがとう」
べにちゃんを抱きしめたドロテアさんが、いきなりお礼を言って来た。目がウルウルしてる。あっ、べにちゃんに頬ずりしだした。……完全に酔っぱらってるな。
「突然どうしたんですか?」
「べにちゃんの事です。テイムスキルを獲得してから、なかなかテイム出来なかったから、羨ましかったの。でもべにちゃんと出会えて幸せ。ありがとうワタルさん」
だいぶ待たせてしまったから。喜びが爆発してるんだな。今回のべにちゃんの発見は狙ってやった訳じゃないんだよね。……でも、まあ、良いか。好感度アップの為にちょっとは頑張ったんだから、有難く受け取っておこう。
「どう致しまして、でもべにちゃんと出会ったのは運命だったんですよ。ドロテアさんが頑張ったから神様が出会わせてくれたんですね」
なんか運命論者みたいな事を言ってしまった。
「運命! そうですね。べにちゃんとは運命の出会いだったんですね」
立ち上がってべにちゃんを両手で持ち上げながらクルクルと回り出した。なんか疲れと、喜びと、温泉にお酒が加わった事で、変なふうに決まっちゃってるな。
でも、酔っぱらっているからフラフラと揺れながらクルクル回っている。大丈夫か? でもお胸様もプルンプルンで、僕に背を向けた時はお尻が目の前に。湯着がピタリとお尻に張り付いて、最高です。
狙い通り、ラッキースケベが頻発した。これだけ明け透けに乱れてくれるって事は仲良くなった証拠だよね。しっかり温泉とHな光景を堪能して温泉から上がる。
再びフェリシアに結界を張って貰いハイダウェイ号に戻り、欲望のままに、イネスとフェリシアに飛び掛かる。明日はお休みだから良いよね?
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