12話 ゴムボートと紅
ジャイアントクイーンアントを討伐した後、汗をダラダラと掻きながら広い部屋で鉱脈を探す。岩盤の亀裂が鉱脈に見えるから難しい。
「ワタルさん、何か見つかった?」
「何もありませんね。アレシアさんはどうでしたか?」
「こっちも何にも見つからなかったわ。次に期待ね」
見つからなかったか。でもこの部屋で見つかったら、暑い中での採掘作業になるから良かったと思う。サウナの中で肉体労働、死ぬな。土魔法でもこの環境は辛そうだ。
「じゃあ、そろそろ次に行きましょうか」
次の部屋に移動するために集まる……何故かリムとふうちゃんが穴からマグマを見ている。
「リム、ふうちゃん、どうしたの?」
『いる』
『……ともだち……?』
「? いる? ともだち? リムとふうちゃんの友達がいるの? 友達ってスライムだよね?」
僕の言葉にドロテアさんがダッシュしてくる。……ドロテアさん、いままで我慢してたもんな。普通のスライムをモッチモッチして、探索には連れて行けないから諦めていた。切ないけど可愛かった。
「リムちゃん、ふうちゃん、どこにいるの?」
『あっち』
『……うん……』
ドロテアさんの言葉に、リムがプルンと揺れた。……うん、リム、それじゃあ分からないと思うよ。ドロテアさんも困惑してるし。
「リム、光魔法で方向を教えてくれる? 攻撃はしたら駄目だよ?」
『? んーこう?』
リムが光の玉を浮かべ、動かしていく。遠くて分かりづらいが光の玉が行きついた所には、真っ赤に光るマグマの上に真っ赤なスライムが居るようにも見える。
赤と赤で分かり辛い上に遠い。本当にスライムか断言できない。しかもスライムだとしてもマグマの上に居るのなら近づく事も出来ない。これって無理だよね。……そもそもスライムはマグマの上で生きられるのか?
「ドロテアさん、あそこはかなりの高温なはずなんですけど、スライムってあんな場所で生きられるんですか?」
「スライムの事は殆ど分かっていないの。環境に適応したのかもとしか言えないわ」
うーん、環境に適応したらマグマの上に居られるのか? どんな進化なんだよ。
「リム、こっちに来てくれるように呼べる?」
『……とどかない』
思念が届かないのかな? そういえばどの位の距離まで思念が届くのか知らないな。試しておかないとな。
「これは無理かな」
僕がつぶやくと、ドロテアさんが悲しげな表情で見つめて来る。……これは僕が何とかする流れなのか? でもなー、マグマだよ? 落ちたら死んじゃうんだけど……
「ワタルさん、何とかならない?」
アレシアさんが無茶な事を言い出した。
「そう言われましても、あれって物凄く熱くて、落ちたら死んじゃうんですよ?」
「そうかもしれないけど、ワタルさんの船召喚なら何とか出来ない?」
「……出来るんですかね?」
船召喚の船はマグマでも大丈夫なのか? 不壊だから壊れはしない、乗船拒否で熱気も拒否出来れば出来ない事も無い……のかな?
「ワタルさんの力なら出来そうな気もするのよね」
「うーん、試してみますけど、駄目だったら諦めてくださいね?」
「ワタルさん、お願いします」
ドロテアさんにお願いされちゃった。ちょっと頑張ってみよう。成功したら好感度アップだ!
「まずはゴムボートが大丈夫なのか実験してみます」
ゴムボートを召喚して、中に大きな氷を置く。そのまま送還して、そのゴムボートをマグマの上に熱気を拒否するように念じて再召喚する。
「ワタルさん、何をしているの?」
アレシアさん、楽しそうだな。実験とか好きなのかな? ピタ〇ラスイッチとか見せたらハマりそうな気がする。DVDとか出てないのかな?
「あの、ゴムボートの中に氷を入れてるんですよ。マグマの熱気が遮断出来るか確認しないと、遮断出来なかったら熱くて死んじゃいそうですから」
「そんな方法で確認できるのね」
熱の遮断は試さなくても出来そうなんだけど、出来なかったら洒落にならないから確認しておかないとね。暫く待ってからゴムボートを手元に召喚しなおす。
「ちょっと溶けてるわね。熱が遮断出来なかったの?」
「多分大丈夫だと思いますよ。ゴムボートには焦げ跡一つ付いていません。氷も熱気が遮断出来ていなければ全部溶けて蒸発してもおかしくない熱さのはずです。これは常温で放置したので溶けたんですね」
「じゃあ、出来るのね」
「あははは、まだ分かりませんよ。無事に下に辿り着けるか試さないと」
安全なのはマグマの上にハイダウェイ号を召喚して、ロープで降りる。……ハイダウェイ号をマグマの上に召喚するとマグマに刺激を与えて、噴火の切っ掛けになったりしないかな?
熱気も危なそうだし止めておくか。ハイダウェイ号ごと噴火とか洒落にならない。ゴムボートなら刺激は少ないだろう。
「取り敢えず水を吸わせたロープを下ろしてみます、どの辺りで燃えるのか確認してください」
イネスとフェリシアに水を出して貰ってロープに水を吸わせる。吸わせ終わったら、ロープを下ろす。残り5メートル辺りでロープから水蒸気が出て来る。ロープを下ろし続けて、残り50センチ辺りから燃え上がった。
「うーん、これ位なら大丈夫ですね。熱気を遮断する結界が2メートルはあります。水を吸わせておけば下まで辿り着けますね」
怖いけど、船召喚があれば問題無さそうだ。ならば行くべきだよね? ドロテアさんに褒めて貰うんだ。
「何とかなりそうなんですが、いきますか?」
「いきます!」
間髪を入れずにドロテアさんが答える。じゃあ私もと次々に女性陣が立候補する。ダ〇ョウ倶楽部の鉄板ネタみたいな状況だな。
「あー、人数が増えるとロープに負担が掛かるので逆に危険だと思います。僕とドロテアさんだけが良いかもしれません」
「えー……でも、それならワタルさんじゃなくて、私が行くわ。ワタルさんを危険な目に遭わせる訳にはいかないしね」
なんだろう、アレシアさんは確かに心配してくれているとは思う。だけど隠しきれてない好奇心も見えるんだよね。ワクワクしてるし。
「ご主人様、こういうのは奴隷の仕事よ。私が行くわ」
イネスもアレシアさんと同類だな。好奇心でいっぱいだ。フェリシアも立候補してくれたが、こちらは真剣に申し出てくれているな。あとでお小遣いをあげたい気分だ。
「ゴムボートに体を結び付けておけば安全です。それに何かあった時に対処できるのは僕だけです。いざとなったらキャッスル号を召喚してでも生き残りますから安心してください」
女性陣を説得して、穴の前にハイダウェイ号を召喚する。
「ハイダウェイ号にこの4本のロープを結び付けてください。僕達が下に行く事で噴火する可能性もゼロでは無いので、異変があったら直ぐハイダウェイ号に避難してくださいね」
まあ、ゴムボートが乗ったぐらいで噴火する事は無いだろうけど、大げさに言っておけば、ドロテアさんの好感度も上がるはずだ。姑息な考えだけど僕は頑張るよ!
僕とドロテアさんは召喚したゴムボートにしっかりと体を結び付ける。これで結界から外には放り出される事は無い。安全だね。
ロープをゴムボートの四隅にしっかりと結び付け、熱と有毒なガスを乗船拒否する。後は……何かあったかな? 思いつかないから大丈夫なんだろう。
僕とドロテアさんを乗せたゴムボートを穴から降ろす。不安定なゴムボートの底が心許ないな。僕とドロテアさんは崖にぶつかったり引っ掛かったりしないようにオールを持ち、崖から少し距離を取る。
偶にゴムボートが斜めになる。安全の為にロープを結んでいても、下にマグマがあると心底怖い。ゆっくりと降ろして貰いながらオールで慎重にゴムボートを支える。
「ドロテアさん、結構怖いですね」
「そう? 大丈夫よ。ワタルさんは凄いんだから」
「はは、僕が凄いんじゃなくて、船召喚が凄いんですけどね」
「ふふ、ワタルさんの能力なんだから、ワタルさんが凄いのよ」
「ありがとうございます」
なんかちょっと嬉しい。結局船召喚の力しか褒められていない気もするけど、満足しておこう。ドロテアさんと話しながらゆっくりと降りる。
「ふー、取り敢えず無事に降りられましたね。ロープを外しましょうか」
マグマの上に降りる。ゴムボートがマグマに接触する時は怖かったが、乗船拒否が完璧に仕事をしてくれた。船底から一切マグマの熱を感じない。凄いな船召喚。
「ええ、こっちは私が外すわね」
四隅のロープを外し、上のメンバーにロープを回収してもらい、先に進む。
「リム、上から見たスライムの場所は分かる? 分かるならさっきみたいに案内してね」
『うん』
返事と同時にリムは光の玉を浮かべて、ゆっくりと動かす。この光に付いて行けば良いんだな。
「ドロテアさん、僕が漕ぎますので、進路がズレたら誘導してください」
「ありがとう、ワタルさん」
ゆっくりとオールでマグマを漕ぐ……マグマを進むゴムボートか、凄いのは間違いないんだけど、カッコいいかな?
ドロテアさんの誘導に従いながらリムの光を追いかける。マグマ……怖いんだけど綺麗な光だ。幻想的な光景で外が灼熱地獄な事を忘れそうだよね。景色を眺めながらオールを漕ぎ続ける。
「あっ、いたわ。ワタルさん、あそこにスライムが、赤なのかしら? もっと綺麗な色をしてるの」
ドロテアさん、興奮し過ぎて言葉がおかしくなってるな。えーっと、あのスライムか。
「本当ですね、赤と言うより、紅って感じですね」
「紅?」
紅ってないのか? 某有名グループの名曲が……もともと通じないよね異世界だもん。
「えーっと、紅色とも言って、紅花というお花から取った染料で布を染めると、あのスライムみたいな鮮やかな赤になるんです、たぶん」
スライムは自分で薄らと発光しているから、もっと綺麗だね。しかしマグマにのんびり浸かっている。マグマが平気なスライム……亜種なんだろうな。
「へー、鮮やかな赤なの。ピッタリね」
「それよりドロテアさん、スライムは良いんですか?」
「そうでした!」
……いつもの落ち着いたドロテアさんは何処に行ったんだろう? 長く我慢していたから、感情のコントロールが効いてないのか。ドロテアさんが結界の外に手を出そうとするので慌てて止める。
「ドロテアさん、結界の外は危険なんですから、注意してください」
「あっ、そうだったわね」
マグマにのんびり浮かんでいたスライムは、こちらの騒ぎに警戒したのか、プニプニと体を動かしながらゆっくりと離れて行く。可愛いな。
「ドロテアさん、取り合えず僕とリムが話しかけますから、その間に落ち着いてください」
「わ、分かったわ」
ゴムボートをゆっくりと逃走しているスライムの隣に寄せて話しかける。
「騒いでごめんね。少しお話をしてくれないかな?」
『……? ……』
よく分かってないのか?
「お話ししない?」
なんか、下手なナンパをしている気分だ。内容的には間違ってないから良いか。
『……いや……』
あっさりフラれた……地味にショックだ。僕では駄目みたいだからリムにお願いしよう。
「リム、あのスライムとお話をしてくれる? ドロテアさんが契約したいんだ。あっ、結界の外には出たら駄目だからね」
『うん』
そう言ってリムはゴムボートの縁に飛び乗る。落ちないかがかなり心配だ。後ろから軽く支えておこう。リムが話しかけると、スライムは興味を持ったのか移動を止めた。さすがリムだね。
お互いのみ思念で会話しているので内容は分からない。でも離れて行く事も無いし順調なのか?
『わたる。なかはいる』
「なかはいる? ……スライムが船に乗るって事?」
『うん』
「仲良くなったの?」
『ともだち』
友達か……僕は未だに友達が出来ていないのに。まあ船に乗ってただけで友達が出来る訳も無いよね。リムが羨ましい。
「分かったよ。乗船許可を出したから、入って良いって伝えてね」
『うん』
リムが伝えてから、スライムはゴムボートにへばり付いて登って来た。うん可愛いな。ただ触っても大丈夫なのかな? 普通に考えたら火傷しそうなぐらい熱いと思うんだが。
僕の後ろにいるドロテアさんがにじり寄って来る。全然落ち着いてないな。手がワキワキしてるし、触る気満々だ。
「ドロテアさん、火傷するかもしれないので、不用意に手を触れないでくださいね」
「え、ええ」
目をキョドらせ少し慌てながら、納得してくれた。でも物凄く残念そうだ。こんな感じで上手くテイム出来るのか不安だ。頑張らなくても良いから落ち着いて欲しい。
誤字脱字、文面におかしな所があればアドバイスを頂ければ大変助かります。
読んで頂いてありがとうございます。