11話 討伐と鉱脈探し
アントの襲撃が終わり、さっそく探索再開だと気合を入れたが……目の前には大量のアントの死骸が……処理しないと先に進めないね。足の踏み場も無いよ。
「処理しないと先に進めないんですが、どうやって処理しますか?」
余っている200艘ぐらいのゴムボートに乗せて送還するか?
「ワタルさん、油の樽を召喚してもらえる? 燃やして処理するわ。火を付けたら昨日の目印の向こうまで戻って、大部屋で待機ね」
アレシアさんの作戦通りに油をまく。まくと言うより、ふうちゃんの風魔法で油を遠くまで行き渡らせる。
作業が終わりある程度離れると、イルマさんが火の魔法を放ち、蟻の死骸が燃え上がる。急いで目的の場所に戻り、休憩する。
「アレシアさん、あんな風に火を点けられるなら、昨日の時点で燃やせばよかったんじゃ?」
「生きている間に火を放ってもある程度は倒せるけど、パニックで巣の中を動き回るわ。散らばったアントを倒すのは面倒でしょ?」
「ああ、そうですね。納得できました」
十分に時間を空けて、用心の為にふうちゃんに洞窟の奥に風を吹かせて貰う。アントを討伐した場所に戻ると僅かに焦げ臭く燃え残りもあったが、先に進めるようになっていた。
そこからは簡単な作業が続く。枝分かれした通路の先の部屋に入り、アントの食料を燃やし偶に出て来るアントを討伐しながら先に進む。
忘れたらいけないのがふうちゃんの風魔法だ。いくら空気穴が開いていても燃やしまくっていると酸素が足りなくなる。火をつける度にふうちゃんに空気穴から風を吹き込んで貰う。意外と大変だ。
話し合った結果、部屋の確認は最下層まで行ってクイーンを討伐した帰りにする事になった。行きは全部の部屋を燃やすだけだ。次々に火をつけながら、下って行く。
「……アレシアさん、アントの巣ってこんなに広いんですか?」
「そうね……冒険者が探索で見つけた巣の中には5日でも回り切れないほどの巨大な巣もあったそうよ。この巣も結構な大きさだけど、出て来たアントの数を考えると中規模ぐらいだと思うわ。まる1日もあれば回り切れるんじゃないかしら?」
えーっと、結構下って来たのにまだまる1日も掛かるの? 広すぎるんですけど。空気穴ってそんなに下まで届くの?
「そんなに広いんですか」
僕がげんなりした顔で言うと、アレシアさんが広い方が期待が持てると言い出した。
「ワタルさん、燃やしたりと時間がかかるから1日だけど、普通に進むだけならもっと早いわ。それに巣が大きいほど鉱脈が見つかる可能性が高いのよ。良い事なんだから頑張りましょう」
「……そうですね。面倒だと思いましたが、鉱脈が発見できればみんなが潤うんです。良い事ですよね」
なんかチョットやる気が出たな。ダークエルフの村が大きく豊かになれば面白いよね。問題は人数なんだけど、わざわざ森に入って探すのはもう嫌だ。どうにかならないかな?
食事を取り、休憩を挟んだり仮眠を取ったりしながらアントの巣を探索していく。アレシアさんの予想通りに約一日が経った頃、変化が訪れた。
「あれ? この通路、臭くないですね」
枝分かれした通路に入ると、異臭が強くなっていたのが、この通路は臭くない。
「そうね、クイーンに近づいて来たんだと思うわ」
臭くないとクイーンが近いのか? 理由を聞こうとすると、アントやソルジャーよりも大きく、見た感じもゴツイ蟻が襲い掛かって来た。
……サックリとアレシアさんの剣で真っ二つにされた、新たな敵。たぶんガードなんだけどこれで良いのだろうか?
こう、ピンチとか、弱点を狙うとか色々ある気がするんだけど、スパっと一振りで真っ二つはファンタジー的に間違っている気がする。
「ほら、ワタルさん、これがジャイアントガードアントよ。少し大きくて、防御力もありそうでしょ。この先の部屋を守っていたのよ」
防御力はありそうだけど一振りでしたね。後ろで見ているだけなのに文句を言うのはおかしいんだろうが、納得がいかない。
ゲームバランスが明らかに崩れている。推奨レベルが20レベルの所に80レベルで入ってしまった感じだな。相手になってない。
「クイーンですか?」
「違うわ。卵よ」
卵? ……ああ、通路の奥にはアントの卵があるのか。だから臭気がしなかったんだ。通路が終わり部屋の中に入るとガードが3匹襲い掛かって来る。何事も無くあっさり討伐されるジャイアントガードアント。
本来なら「か、固すぎて剣が通らない」とか「な、なんて大きさだ」とかイベント的なものがあったんだろうと想像すると、ちょっとだけ可哀想に感じる。
虚しさを振り払い部屋の中を見ると、ビッシリ部屋中に卵が積まれている。
「……気持ち悪いですね」
「ええ、さっさと燃やして次に行きましょう」
部屋の外に出てイルマさんとイネスに火を放って貰い次に行く。ここからは大体が卵部屋で偶に食料部屋だ。取り合えず全部燃やしていく。ふうちゃんの風魔法も大活躍だ。
しかし、勝手に巣に侵入して、大量虐殺をおこない、食料と、卵も全て燃やす……人類と魔物、敵対関係にあるとはいえエゲツナイ事をしているな。
「……アレシアさん、なんか暑さが増していませんか? 火をつけ過ぎてるんじゃ?」
さっきからドンドン暑くなっている。このままだと蒸し焼きみたいになるんじゃ?
「うーん、熱は下から来ているわ。私達がつけた火とは関係が無さそうよ」
「下からですか?」
「ええ、下るほど暑さが増しているのはそのせいね。温泉が関係しているのかしら?」
温泉が地下で大量に湧いているのか? 上の温泉も温度が高かったからサウナみたいになってるのかも……アントが生きているからガスは大丈夫だと考えても良いのだろうか? もしかしてアントが温泉を掘っていたりして。……無いか。
そもそも蟻は熱いのが駄目なんじゃないのか? 暑いのも寒いのも駄目って聞いた事があるのに、ドンドン暑くなる場所にクイーンが居る意味が分からん。……分からない事は考えても意味が無いか。
取り合えずふうちゃんに沢山風を吹かせて貰おう。薄まれば少しは安心だと思いたい。気持ち悪くなったら直ぐに戻らないと。
今更だけど洞窟はガスが出たりして危険な可能性があるって事を思い出してしまった。ゴブリンか鳥を捕まえて来るべきだったか?
「アレシアさん、洞窟に危険な毒ガスが出る事があるって思い出したんですけど、このまま進んで大丈夫でしょうか?」
「うーん、どうなのかしら? アントの巣に危険な毒ガスが出るなんて聞いた事無いけど……注意して進みましょうか。気分が悪くなったら直ぐに引き返しましょう」
アントがガスが出ないように地面を掘り進める能力とか持っているのかな? それなら助かるな。
「分かりました。注意して進みましょう」
慎重に進むが、やる事はあまり変わらない。枝分かれした先の部屋でガードを倒して火をつけるのを繰り返す。しかしどうやったらあれだけの卵が産めるんだ? 異常な数なんだけど。
全部生まれたら、もうこの島が埋まっちゃうんじゃないか? 理屈が合わないよ。
何度も同じ事を繰り返しながら進むと、メイン通路の先に今までとは比べ物にならない程の大きな部屋に出た。
僕達が部屋に入ると大量のアント、ソルジャー、ガードが襲い掛かって来た。その奥に絶対にメイン通路から出られない、5メートルはありそうな、巨大なジャイアントクイーンアントが見える。キモイ。
この暑い部屋があの巨体を維持するのに必要だったりするのかな? でも温泉は湧いてないな。地熱だけか?
部屋が圧倒的に広くなったので、女性陣はある程度自由にスキルや魔法が使えるようになった。こうなると数が多かろうが、相手にもならない。
近づく事すら出来ずに切り刻まれ、押し潰され、吹き飛ばされる。正直、今は虫の気持ち悪さより、柱も無い広い空間が攻撃の衝撃で崩れて来そうで怖い。ビビっている間に襲って来たアント達は全滅した。
「ワタルさん、クイーンは倒しちゃって良い?」
「? 何か倒してはいけない理由があるんですか?」
「いいえ、生かしておいても意味が無いから討伐はするんだけど、ワタルさん達が倒した方が村の人達が喜ばない?」
……いや、それは情けなさ過ぎる。しかも手柄を譲って貰ったら、更に僕の株が無意味に上がってしまう。現在でさえ評価が高すぎて困っているのにこれ以上は無理だ。
「問題無いです。ジラソーレの皆さんでお願いします」
「そう? じゃあ倒すわね」
アレシアさんがそう言って剣を振るとスパッとクイーンの頭が飛んだ。あっさりし過ぎじゃない?
飛んだ頭と体が壁に倒れ込み、鈍い地響きとガラガラと壁が崩れる音がした。
「今、壁が崩れた音がしませんでしたか?」
崩落は……大丈夫……だよね?
「ええ、したわね。たぶんクイーンの体がぶつかった所が崩れたんだと思うけど、大丈夫よ」
崩れて来ないし、壁の一部が剥がれただけか?
「そうですね。討伐も終わりましたから、これからどうしましょうか?」
「そうね、取り合えずこの部屋も燃やしましょうか。私達は必要ないんだけど、クイーンアントの死骸は少しは役に立つから、回収する?」
「そうですね……フェリシア、ジャイアントクイーンアントはダークエルフの村で使える?」
「……ジャイアントクイーンアントの固い殻や爪は使えると思います。お願い出来ますか?」
「分かった、じゃあゴムボートを召喚するから、解体してくれる?」
取り合えずゴムボートを3艘ぐらい召喚しておけば良いか。解体しようと、ジラソーレにも協力してもらってクイーンを壁から離す。
壁から離すとムワッとした熱気が漂って来た。
「ワタルさん、壁が崩れて穴が開いているわ」
壁に穴? 温泉フラグの回収か? 穴に近づき確認すると……マグマが……15メートルぐらい下にマグマが溜まってボコボコしている。マグマの海か? 所々黒いのは固まりかけてるんだろうな。
「あー、マグマが溜まってますね。熱気がハンパないです」
どうしよう、マグマか…………なんだコレ? 火口でもないのに何でマグマが見えるんだ? ……これだからファンタジー世界は。どう対処したら良いのか分からない。
マグマって有毒ガスとか出るのか? ……ムワッとした空気が僕にあたる。だいぶ前から穴が開いてたんだし、今、気分が悪くなっていないなら大丈夫か……たぶん。
一応ゴムボートを召喚して、穴を出来るだけ塞いでおこう。危険な空気を乗船拒否と念じてゴムボートを召喚して穴の前に設置する。
「マグマって? うわっ、熱いわね」
女性陣も興味を持ったのか集まって来て、ゴムボートの上から、穴を覗き込む。崩れて落ちたりしないだろうな?
「ワタルさん、熱いけど綺麗ね。マグマって鉄が溶けているのに似ているけど同じなの?」
アレシアさん、なんでそんな難しい質問を僕にするの? ……マグマって石が溶けてるんだっけ? 鉄も含まれている気もするんだけど。
「確か石が溶けてあんな風になってるんだと思います」
「へーそうなの。石って溶けるんだ。知らなかったわ」
石が溶けるって不思議だよね。鉄は溶けるイメージがあるんだけど、石はなー。でも金とかも石に含まれていて溶かして取り出すか……珍しい事でもないのか?
「暑いのでそろそろ解体を終わらせて、部屋を調べて戻りませんか?」
汗がダラダラと流れ落ちる。壁に穴が開いて更に熱くなっちゃったよ。
「そうね。確かに暑いわ。さっさと終わらせましょう」
ジラソーレにも解体を手伝って貰って、ドンドンとジャイアントクイーンアントがバラされて小さくなって行く。さっさとゴムボートに積み込み送還する。
「周りの、アントの死骸はどうしましょう? 詳しくはないのですが、マグマの近くで火とか、水を使うのは危ない気がします」
「そうなの? うーん、じゃあ死骸をマグマに投げ込む?」
それはそれで危険な気がする。
「危なそうですので、面倒ですが、ゴムボートに乗せて運びましょうか。上の部屋で燃やしましょう」
頭と体を切り離し、召喚したゴムボートに積む。かなり数が多いので大変だ。地道に召喚と送還を繰り返し何とか綺麗に片付ける。暑い中での単純労働は気が滅入るな。
送還作業が終わり、周辺に鉱脈が無いか確認をする。広い部屋をウロウロと見回るが、そもそも鉱脈がどんな物かが分からない。聞いてみるか。
……えーっと、取り合えず、土の部分は無視して、岩盤部分を探すそうだ。岩に筋が入っていると、何か別の物が入っている可能性があるらしい。
見つけたら、土魔法を使える人が、鉱脈を分析するらしい……土魔法って使えるメンバーがいないよね? 大問題だ。
そういう場合は鉱脈の位置を調べておいて、土魔法が使える人を連れて来るらしい。ダークエルフの村に居るのか? いなかったら、土魔法が使えるダークエルフを探して見つけて来ないとこの島では無意味なんだけど……
「フェリシア、土魔法が使える人って村にいる?」
神に祈るような気持ちで聞いてみた。
「ええ、います。母や農作業をしている人達も使えますよ」
おお、いなかったら鉱脈が見つからない事を願いそうだったから良かった。これで鉱脈探しにも気合が入るね。頑張ろう。
誤字脱字、文面におかしな所があればアドバイスを頂ければ大変助かります。
読んで頂いてありがとうございます。