18話 カジノとちょっとしたショック
ハンバーガーをお腹いっぱい食べた後、腹ごなしにセントラルパークへ移動する。
凄いな。柱にまで植物が這わせてある。でも適度な植物の量で落ち着くな、船内に木が植わっているだけで驚きだけど、景観を考えて植えてあるんだろう。落ち着く。
正直、異世界の自然は厳し過ぎる。鬱蒼とした森、巨大な虫、凶暴な魔物……森林浴なんて自殺行為だ。
その点、セントラルパークは歩きやすい地面、適度な植物、危険生物がいない、鳥の鳴き声 (録音)。疲れたりお腹がすいたらカフェやレストランがある。
ひ弱な日本人としては、人工的に作られた自然が間違いなく正解だ。盗賊も魔物も人すらいない。人がまったく居ないのは寂しいので、サポラビを3体ほど召喚して配置しておくか。
「ワタルさん、何だか綺麗だけど不思議な場所ね。船の中なのに何で植物があるの?」
アレシアさんにはわざわざ船の中に植物を植える意味が分からないみたいだ。まあ、厳しい環境、自然は沢山な世界だからな。
「この船は長旅をする事もあるので、ゆっくりできる環境の為に公園が作られてるんだと思います。危険が無い植物が生えた場所は落ち着きますからね」
ただ、この船の設計者が船の中に木とか生えてたらカッコいいよね! って考えただけの可能性もゼロではないんだけど、違うよね。
女性陣ものんびりと歩いている。と言っても植物にはあまり興味を示していない。クラレッタさんが植生に興味を持っている位かな? 地球の植物に何か特別な力があったら面白そうだけど、特にそんな事は無いみたいだ。
両サイドの沢山の部屋は気になるが、僕にとっては何となく落ち着く公園の中をのんびりと散歩する。一応端から端まで歩いたが……飽きた。
お腹もこなれたから、もういいな。カジノに行こう。イタリアンにステーキにエレガントなレストランの様子も見たし今回はこれで良いよね。
「じゃあ、そろそろカジノに行きましょうか」
僕の言葉にイネスが笑顔になる。奴隷になった原因でも反省してない所が凄いな。まあ、お小遣い制だから問題は無いか。
カジノの前に到着して、入る前にちゃんと話しておこう。破産者を出してはいけない。前に聞いた時、お金は生活費以外は僕に報酬で渡して、その後は僕に付き合ってくれているから、仕事してないからな。下手したら僕が払った10金貨しかない可能性がある。気を付けないとね。
「ジラソーレの皆さん、カジノにハマってしまうと大金を失う可能性があります。ルールは説明しますけど熱くなり過ぎないでくださいね。……そうですね今日は5銀貨以上は絶対に使わないようにしましょう」
5銀貨……5万円、大金だけど、ミニマムレートを巡っていればそこまで使わないよね? たぶん。僕も韓国に旅行した時にちょっと体験しただけだからな……
豪華客船に来てから、知らない、分からない事が沢山あるな。いかに今までの人生が豪華客船に関りが無かったのかが分かる。ちょっと悲しい。
「5銀貨ね、分かったわ。私達は今まで殆どギャンブルをしたことが無いから、気を付けるわ」
うーん、ジラソーレは連れてこないで、僕達だけで来れば良かったかな? まあ、今更だよね。どうせなら楽しもう。
注意を済ませて、カジノの中に入る。ゴージャスだな。何から遊ぼうかな? 分かりやすいのはルーレットか? 一通りテーブルゲームで遊んでスロットマシーンかな?
ルーレットのミニマムレートが5銅貨の台に座る。……どうするんだ? えーっと、画面を見るとディーラーが必要らしい。別に瞬間移動で飛ばしてくれても問題無い気がするんだけど。どうにもシステムが分からないな。風情が無いからか?
サポラビを召喚すると、ディーラーの格好をしたサポラビが現れた。……持っているメニューみたいなのを渡してきたので確認すると、ルールが書いてある。
普通のカジノだと、こんなの無いよな? 喋らせないために、こんな物まで用意しているのか? サポラビに力を入れ過ぎなんじゃ。そもそも喋れるようにすれば問題無いと思うんだけど。
ルーレットでもストップの時とか喋らなかったっけ? ……ああ、あれはベルを鳴らしてたか? なんか違和感があるんだけど、ディーラーが角兎な時点でどうしようも無いか……
とりあえず5銅貨のチップを20枚頼む。シーパスカードから引かれているはずだ。女性陣も同じようにチップを交換する。
「ワタルさん、なんでチップの色がみんな違うの?」
アレシアさんがみんなのチップを見比べながら聞いてくる。
「ルーレットは字や数字が書いてある場所にチップを置くので、だれのチップか分かりやすくするためですね」
「そうなの。分かったわ」
「じゃあ今回は外側で賭けて、感覚を掴みましょうか。この3つに分かれている場所は当たると3倍、赤か黒の選択。偶数か奇数の選択。1~18か19~36の選択。これらは当たると2倍になります。後は0と00は外側に賭けていると外れになります。やってみましょうか」
ルール説明しなくてもスタッフ任命で解決できるんだけど。……なんか理解したら理解したで危険な気がするから止めておこう。悩みながら小さな額で張っていれば、大怪我はしないだろう。
……負ける前提で考えているけど大勝ちする可能性もあるんだよな……まあ最初は少額ベットで遊べば良いだろう。慣れたら後は自由にやって貰おう、1ヶ月で1金貨以上負けたら、その月は出入り禁止位のルールを決めておくか?
……あれ? カジノにハマって貰って身を持ち崩せば、お金の力で……あれやこれや出来る可能性も……うーん、ギャンブル依存症の巨乳美女か……有りなのか無しなのか、判断が難しいな。
「ワタルさん始めないの?」
「え? ああ、すみません、アレシアさん。始めましょうか」
サポラビが「プレイス ユア ベッツ」と何気に可愛い声で言う。
「……しゃべった!」
え? いままでさんざん溜めておいて、普通にしゃべるの? 僕が驚いているとサポラビがボールを投げ入れる。女性陣も驚いていたが、取り敢えずチップを置いていく。僕は赤にチップ1枚を置く。しょぼくてすみません。
「ラストコール」
もう直ぐ締め切りですよって意味だな。
「ノー モア ベッツ」
もう賭けちゃ駄目だよって意味だな。サポラビ、普通に声を出すんだな。
……ボールが入ったのは赤の32……当たったんだけどサポラビの方が気になる。サポラビは何事も無かったように、ハズレのチップを回収して、アタリにはチップを足していく……
「ねえ、サポラビ、何か話してみて……」
コテンと首を傾けるサポラビ。可愛いと騒ぐアレシアさんとクラレッタさん。
「決まった事しか話せないの?」
コクンと頷くサポラビ。めんどくさい制限だな。あれか? RPGで決められた言葉しか話せない村人みたいな感じか?
気にするのは止めて続けよう。ルールを覚えた女性陣も楽しそうにチップを置いていく。ボールが投入されるとキャイキャイ騒ぎながら、自分が賭けた場所にボールが入る様に応援する。
これは、あれだな。僕の船じゃなかったらつまみ出されているな。出入り禁止になりそうな騒ぎっぷりだ。
合間に2択に賭けるより、3択の2ヶ所に賭ける方が儲けは小さいけど当たりやすいとか、豆知識を披露しながらルーレットを続ける。
暫く遊んでいると、イネスが数字にも賭けたいと言い出した。球の投入のタイミングと速度で、何処に入るか大体予想出来るらしい……
「良いけど、他のゲームにも行くから……あと3回だけね」
「分かったわ。見ててねご主人様。私の凄さを見せてあげるわ」
ギャンブルで身売りした人間が自信満々で僕に宣言する。……駄目だろうな。僕はリムと一緒に赤か黒で予想をしながら楽しむ。運が関係してるからか、僕よりリムの方が的中率が高い。
ステータス的には運は一定なんだけど、運が良い日も悪い日も関係ないのかな? トータルで僕の運勢は15だったら、かなりヘコムな。
「違うのよ、ご主人様。本当に分かってるの。あと一回だけ。ね、ねっ、良いでしょ?」
3回の数字賭けをあっさりハズシて、もう一回と騒ぐイネスを宥めてブラックジャックのテーブルに移動する。ちなみにルーレットの結果はアレシアさん、イネスがチップを全部失い、他はちょい勝ち、ちょい負けだった。
アレシアさんはイネスに釣られて数字賭けに挑戦して全敗していた。別に1枚のチップでも、線が交わっている所に置けば、2ヶ所、4ヶ所に賭けた事になると説明したんだけど、1点集中に拘って全部外していた。イネスはギャンブラーじゃなくて賭け事が好きなだけだな。
テーブルに座り、サポラビを召喚する。デフォルトでルールを書いた紙を手渡される。
しっかり全員で回し読みしてルールを確認する。ヒットとステイのハンドサインを教えて、ダブルやスプリット等はゲームをしながら説明しよう。
サポラビは相変わらずプレイス ユア ベッツ、ノー モア ベッツぐらいしか話さない。ルールを説明して、全員では座れないので交代でルールを確認しながらゲームをする。
相変わらず騒がしい。あと性格が分かるのが面白いな。イケイケなのはアレシアさん、カーラさん、イネスだ。カーラさんがイケイケなのは違和感があるな。
ドロテアさん、マリーナさん、イルマさん、フェリシアは自分の手札と、ディーラーの手札をきちんと確認して、判断するオーソドックスなタイプだ。
クラレッタさんは慎重なのか15以上でのヒットが極端に少ない。……これって性格が出てるんだよね?
ブラックジャックを終えて、ポーカー、バカラ、クラップス等を楽しんでいく。何故かバカラで覚醒したイネスが勝ちまくり、有頂天だ。後々が心配だな。
僕が2銀貨の負け、女性陣はイネスが33銀貨の勝ち。アレシアさんが5銀貨の負け。他のメンバーはちょい勝ち、ちょい負けで終わった。
「カジノはどうでしたか?」
「そうね、負けちゃったけど楽しかったわ。やっていないゲームも沢山あるから、また来たいわね。次は私が勝つわ」
アレシアさんは、一番負けた事に納得がいっていないのか、リベンジを強く願っている。一方イネスは。
「みた、ご主人様。凄いでしょ、大勝よ」
有頂天のまま満面の笑みではしゃいでいる。……絶対にフリだよね。最初に勝たせておいて、後で全財産をカッパグつもりだよね。
僕ならそうする。サポラビは最低限の仕事しか出来ないはずなんだけど、カッパグ事は最低限の仕事の中に入っている気がするもん。
他のメンバーも楽しめたみたいだ。カジノで散財しそうなのは、アレシアさんとイネスだな。注意しておかないと。
「じゃあ、夕食に行きましょうか。今日は僕の故郷の料理が食べたいんですが、良いですか?」
いよいよ日本食。ハンバーガーもステーキも大好きだけど、日本食と言う名前には惹かれちゃうよね。
「良いわよ。いままでワタルさんに食べさせてもらった料理、全部美味しかったから楽しみね」
「期待に応えられたら嬉しいんですが」
物凄く楽しみにして日本料理屋に向かう。
…………………………思ってたのと違う。…………………………お寿司は美味しかった。女性陣はこの日本料理店が美味しい、楽しいと大好評だ。
でも、鉄板焼きを頼むと、サポラビが必要な事が分かって、鉄板焼きだから、目の前で焼くのなら必要だろうとサポラビを召喚する。
そこからが違和感の始まりだった。サポラビが鉄板焼き用のコテ? をキンキン打ち鳴らし派手なアクションをしだした。
卵をクルクルと鉄板の上で回し、コテでリフティングを始める。最後には上空に卵を投げて被っているコック帽? でキャッチしていた。
それからも様々なアクションで肉や魚介、野菜を焼く……チャーハンは日本料理ですか? 味は美味しかったんだけど、これは日本料理じゃないと言いたい。連れて行ってもらった事がある日本の鉄板焼き屋は、あんなに激しいアクションをしてはいなかった。
誤解を解くか解かないか悩むが、楽しんでいる女性陣にこれは日本食じゃないと言い辛い。今度は日本の豪華客船を買おう。飛〇だったかな? あの船なら日本食は大丈夫なはずだ。
やんわりと日本食の誤解を解いていこう。飛〇の日本料理店に連れて行ってアクションがない事にガッカリされる可能性もあるけれど……
何だか切ないな。バーでお酒を飲んで、イネスとフェリシアに甘えまくって寝よう。
誤字脱字、文面におかしな所があればアドバイスを頂ければ大変助かります。
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