10話 取引とダークエルフの村
夜明け前にイネスとフェリシアに優しく起こして貰い、日課のキスで幸せを噛み締める。
「ご主人様、どうしたの?」
「ん? 何でもないよ。さっそく出発しようか」
「「はい」」
昨晩、僕達は外海に出てシーカー号に乗りかえた。港からそのまま出航すると魔導士を調べている人達に追跡されそうだし、秘密の取引なんだから用心しないとね。
外海で一晩過ごせばほぼ追跡を振り切れる。単純な方法だけど、船召喚の力が無かったら出来ない方法だよね。
「目的地に自動操縦をセットしたし、少し早いけど朝食にしようか」
「はい、ですがジラソーレの方達はどうしますか?」
「出来合いの物で済ませるから、わざわざ起こさなくても良いよ。いつもの時間になったらもう一度船召喚すれば良いだけなんだし」
「分かりました」
フェリシアにそう言って、起こさないようにそっとリムを抱きかかえて食堂に向かう。食堂と言っても単に食べる場所を決めただけなんだけどね……何故かジラソーレの皆が揃っている。
「皆さんおはようございます。まだ寝ていても大丈夫なんですが、起こしてしまいましたか?」
「おはよう、ワタルさん。大丈夫よ、船が動き出したから起きて来ただけだから。別に二度寝をしても良かったんだし気にしないで」
船が動き出したら目覚める。いつも最後に起きていたから知らなかったよ。周囲の変化に敏感なんだね、二日酔いの時以外は。
取り敢えず船を召喚して、朝食を並べる。あっ、リムとふうちゃんが動き出した。いつもより早い時間でもご飯の時間になれば起きるんだね。可愛い。
全員で朝食を取った後、目的地に到着したので、ゴムボートを召喚してドンドン陸に下す。陸でゴムボートを召喚すれば早いんだけど、光の魔法陣が目立つし偶然見られる可能性もあるので、面倒だが船内で召喚して陸に運ぶ。
ゴムボート120艘分の胡椒……こうしてみると凄い量だな。レベルアップして体力が上がってなければこんなに早く運びきれなかったね。この大量の胡椒が大陸中に売られるんだな。どの位運んだらこの大陸で胡椒が余るんだろうか? その前に白金貨が無くなりそうだな。
シーカー号のデッキで紅茶を飲みながら話していると、中型ガレー船が近づいて来た。カミーユさんかな? 違ったら面倒なのでカミーユさんでお願いします。
シーカー号の近くに停泊したガレー船からカミーユさんが降りて来た。僕も女性陣に囲まれながらカミーユさんの所に向かう。
「ワタルさん、おはようございます。あれが新しい船なんですね。中型の魔導船を持つ商人なんてごく僅かなんですよ。凄いですね」
ごく僅かなんだから、気を付けないと駄目ですよって言われてる気がする。言葉の裏を読むのは苦手なので出来ればストレートな忠告が欲しいな。
「はは、ありがとうございます。あっ、胡椒はあちらに降ろしてありますので、確認をお願いします」
「分かりました、積み込みながら確認させて貰いますね。今回の取引には職員を連れて来ておりません。奴隷に秘密を守る様に命令しますので、手伝わせても構いませんか?」
「ええ、命令して秘密を守って貰えるのなら問題ありませんよ」
荷運びの人員なんて考えていなかったな。さすがカミーユさん細かい所も気が付く。これぞ出来る女性だな。僕の気が回らないだけかもしれないけど、カミーユさんが有能な事は間違いない。商業ギルドの人って引き抜けないのかな?
イルマさんとカミーユさん、2人の巨乳キツネミミお姉さんに甘やかされたい。たぶん物凄く……本当に物凄く幸せなはずだ。
「ありがとうございます。では始めさせて頂きます」
そう言って、ガレー船から奴隷を呼び出し、胡椒の品質を確認しながらガレー船に積み込んでいく。……奴隷商館以外で、奴隷を初めて見た気がする。
ガレー船に専属で配置されているのか、全員筋骨隆々の男達だ。微塵も萌えないな……でも奴隷と言っても手酷く扱われている訳でもなさそうだな。商業ギルドが自分達の財産を無駄にする事も無いか。
「……確認が終わりました。ワタルさんから卸して頂ける胡椒はいつも品質が素晴らしいので大変有難いです。代金はお約束通り9日後になりますが構いませんか?」
時間が止まっているんだから、産地直送よりも鮮度が良い事になるんだよね。胡椒が無ければ海のお魚を内陸部に新鮮なまま届けたら大儲け出来たかな? 陸の旅が面倒だし結局諦めてそうだな。
「はい、9日後に商業ギルドにお伺いしますね」
「ありがとうございます。お待ちしております」
挨拶もそこそこに雑談もせずに素早く別れる。秘密の取引なんだからスピード勝負だ、悪い事をしている訳じゃないけどドキドキするね。なんかゴッコ遊びをしている気分だ。
カミーユさんと別れ、一度外海に出てルト号に乗りかえてから南方都市に戻る。僕達は昨日と同じくルト号で待機して、ジラソーレに買い物をお願いして、運ばれて来た荷物を受け取る。
これだけ荷物が届けられたなら、今日の夜にはダークエルフの島に出発できそうだな。南方都市に居ても外出し辛いしジラソーレに問題が無かったら今日出発しよう。9日後に戻ってくれば、豪華客船だ。
「お帰りなさい、お疲れ様でした」
「ただいま。リストに有った荷物は全部手に入ったわ。運ばれて来たわよね?」
「ええ、全部受け取りました。ありがとうございます。それで相談なんですが、ジラソーレの皆さんに予定が無かったら、今夜からダークエルフの島に向かいたいのですが、どうでしょう?」
「どうかしら? みんななにか用事はある?」
……話し合いの結果、特に急ぐ用事も無いので、ダークエルフの島に向かっても良いそうだ。お言葉に甘えてさっそく出航する。
「みなさん、外海に到着したので、船を乗り換えますけど、どの船が良いですか?」
いつもは何となくで僕が決めていたけど、今日はリクエストを聞いてみる事にした。……予想外な事に女性陣が白熱した議論を交わしだした。纏めてみると。
フォートレス号組。アレシアさん、イルマさん。理由は自販機コーナーでお酒。
ストロングホールド号組。カーラさん、クラレッタさん。理由はバイキングとユー〇ォーキャッチャー。
シーカー号組。ドロテアさん、マリーナさん。理由はまだ十分満喫していないシーカー号を見て回りたい。
面倒な事に綺麗に2人ずつ分かれている。お互いに自分の陣地に引き込もうと説得を繰り返す。
「ご主人様、余計な事を言ったわね……」
そんな目で見ないで欲しい。
「うん……」
「ご主人様止めた方が良いのでは?」
「フェリシア、女性陣の話し合いに僕が入って何か出来ると思う?」
静かに目を逸らさないで欲しい。
「ワタルさん達はどの船が良いの?」
巻き込まれた。
「私はお酒が飲めるフォートレス号かしら?」
「私はシーカー号が良いですね。ゆっくり見て回りたいです」
……あれ? イネス? フェリシア? 先に答えちゃったら駄目だよね? ほらみんなの視線が僕に集まってるよ? どうしよう? 正直どの船でも問題無いから聞いたのに、どの船を選んでも問題になる状況になってしまった。
「……ストロングホールド号でバイキングを食べて、ユー〇ォーキャッチャーをした後に、フォートレス号で好きな物をたらふく買って、シーカー号で飲みましょうか?」
……取り敢えず無難に出来るだけみんなの意見を取り入れてみた。……それで良いそうだ。
僕もDVDを見たかったので、フォートレス号でDVDを借りてシーカー号で見る事にした。外海だしフェリーを召喚したままにする。見つかっても入れないから問題は無いよね。DVDを見終わったら送還すれば良いんだし。
今度から意見は聞かないで僕の気分次第で決めよう。ダークエルフの島で1日位外海に出て、フォートレス号、ストロングホールド号、シーカー号を並べて休暇にしても良いかもね。
よく考えたら何時も単独の召喚だったし、並べて楽しむのも良いだろう。召喚枠は1枠空いていればそこまで不便でもないしね。楽しそうだ。
みんなでバイキングに行き、ユー〇ォーキャッチャーをしてから、フォートレス号でお酒とツマミを買い漁る。ストロングホールド号でもお酒とツマミは買えるんだけど、自販機コーナーのホッ〇メニューが好きらしい。僕も同意見だ。良いよねホッ〇メニュー。でも元々、食糧庫船にストックはあるんだけどな……
買いながら飲みたかったのなら、気を使ってくれたのかな? まあ今度のダークエルフの島で船を並べて思いっきり楽しんで貰おう。
シーカー号に乗り換えてダークエルフの島に進みながら、シーカー号の大きなテレビでDVDを見ながらお酒を飲む。イルマさんもお酒を飲んでるしもう一度生乳を……今はTシャツだから無理か……
ノーブラTシャツも素晴らしいんだけど、浴衣も捨てがたいんだよね……誰か浴衣を気に入ってくれれば良かったんだけど、皆Tシャツの方を気に入っちゃった、上手くいかない物だな。色々着てくれた方が楽しいのに。
衣装か……豪華客船に服屋はあるよね。チャイナドレスとか売ってたらみんな足が長いから似合いそうだな。スリットが深い奴をお願いしたいな。
……豪華客船でブラジャーも売ってるよね。どうしよう、何に使うのか分からないって言うか? ブラジャーが流行ったら正直最悪だ。
どうする? 豪華客船かノーブラ……難しい。豪華客船は当然欲しい、欲しいんだけどブラジャーをジラソーレが着けるようになったらそれはそれで最悪だ。
イネスとフェリシアに関しては命令してでもブラジャーは着けさせないけど、ジラソーレはそうはいかないよね。ブラジャーだけ返品とか出来ないのかな?
絶対にブラジャーの説明はしないか、男性が使用する物だとか言っとくか? ……そうだプールもあるんだから水着も売ってるだろうな。絶望的なのか?
……上手い考えが思いつかない。もう直ぐ豪華客船が買えるのに……大聖堂まで行って創造神様に頼むか? いや会ってくれなかったら辛すぎる。前に会った時は光の神様に怒られてたし、僕が行ったら迷惑になる可能性もある。悩ましい。
………………
ダークエルフの島に到着した。シーカー号から買い揃えた物資を下ろすと、出迎えてくれた村の人達がドンドン運んでいく。人数が増えたので荷物を運ぶのが早いな。
「村長さん、副村長さん、村の様子はどうですか? 問題は起こっていませんか?」
「問題ありません。私達両方の村は人数が足りなさ過ぎましたから、人が増えた事は喜びでしかありません」
「村長の言う通りですね。特に湖の村では自由がありませんでしたから、この村に来て、皆喜びに満ち溢れています。子供達も友人が出来て大はしゃぎですよ」
上手くいっているなら良かったな。簡単に友達になっている子供達の事は考えないようにしよう。村に向かいながら話を聞くと、人海戦術でドンドン家を作っているそうだ。
もともと、森から木を伐り出して乾燥させた木材が豊富にあって、直ぐに家作りに着手出来たそうだ。キャンプファイヤーで燃やす余裕があったからな。
でも森を大切にしているダークエルフがドンドン木を伐る事に疑問を覚える。聞いてみると、村長さん達の答えは、人の手が入っていない森だから、間伐しないと駄目との事だ。そう言えば日本でもそんな事聞いた事がある気がするな。
だから村の家を建て終わった後でも、間伐した木材が送られて来るのか。しょうがないので取り敢えず乾燥して保存しておくそうだ。今回は役に立ってるから良いけど、大きな森だ……いずれ村に木材が溢れるんじゃないのか?
みんな大工仕事に熱が入ってるからな。木材があまり出したら、色々面白い物を作り出すかもしれない。建築の本とか見つかったら持ってくるのも楽しいかもな。和風建築に住むダークエルフ……ミスマッチか?
村に辿り着くと、聞いていた通り村の中はトントン、カンカン、ギコギコと騒がしい。買って来た物資に大工道具も入っていたから更に騒がしくなるんだろうな。
「あれ? 柵の場所が変わりましたか?」
「ええ、人数も増えました。これから子供も生まれて来るでしょう。いい機会でしたので村の範囲を広げる事にしたんです」
村長さん、頑張ってるな。聞いた話だとフェリシアの事を随分と気に病んでいるそうだから頑張り過ぎないと良いんだけど。まあ、やりがいがあるなら良いか。フェリシアを買った僕が心配するのも違う気がするしね。
森に滞在する人数も増やして、小さな村を作る計画も持ち上がっているらしい。誰に気兼ねする事も無く、自由に行動できると色々やりたい事がみつかるみたいだな。
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