4話 フェリシアの話し合いとワタルの出番?
フェリシアが小舟に乗ってダークエルフの筏に向かう……今更だけどフェリシアに手を出したら潰すとか、脅しを入れておくべきだったかな? 同胞とか言ってたから大丈夫だとは思うんだけど。
「ご主人様、フェリシアは大丈夫よ。わざわざこの状況で敵対行為を取る程相手もバカじゃないわ」
「……顔に出てた?」
「ふふ、まるわかりよ」
どうも僕にはポーカーフェイスの才能も無いらしい……船召喚を貰ってなかったらどうなってたんだろう……怖い想像は止めておこう。
時間が掛かりそうなので、リムを抱きしめながら雑談をする。
「うーん、食糧庫船を出してお茶でも飲みたいんですが、さすがに目立ちますよね?」
「私もご相伴に与りたいんだけど、目立つから止めておいた方が良いわね。隠せるだけ隠すんでしょ?」
アレシアさんには完全に行動が読まれてるな。愛の力か? ……常に隠そうとしてきたからな、愛が無くても分かるよね。
「ええ、まあこの様子だと移住を決断した場合、船召喚はバレそうですけどね」
「そうね、でもまだ移住しない可能性もあるんだから、止めておくべきね」
「ええ。今度からは和船に乗る時はお茶の道具位出しておきますね」
「ふふ、それが良いわね」
フェリシアが居る所を気にしながら雑談を続ける。見える位置で話し合うように条件を付けておくべきだったな。考えているつもりになっても抜けてる事があり過ぎる。もう少し色々な事を考えられるようになりたい。
~フェリシア視点~
ご主人様達と別れ小舟に乗り込む。ふふ、ご主人様はとても心配そうに見ていたけど、おそらく大丈夫だと思う。ご主人様に頂いたチャンス、しっかり生かさないと。
「フェリシアと言ったな。私はガエル、あの村の男達を纏めている」
「改めましてフェリシアです、よろしくお願いします」
警戒心を抱きながらも、私の事を同情的な目で見ている。優しい人なんだろう。言葉は少ないが、ポツリポツリと気遣いの言葉をくれる。筏に着くと、家の中に案内される。
家の中に入ると男性が2人椅子に座っている。椅子とテーブル以外は家具も殆どなく、所々、壊され補修した跡が見える。湖の上でも襲われるのかしら?
「村長、村に現れた者達にダークエルフがおりましたので、話を聞く為に連れて来ました。正規の奴隷だそうですが、ウソは吐かない事とこの者の判断で話せる命令を出させましたので、話し合いは大丈夫です」
「分かった。ご苦労だったな。警備の方は大丈夫か?」
「はい、男達にはしっかりと見張らせてあります」
「ふむ、分かった。さて、お待たせしたねお嬢さん。私は村長のイアサントと言う。お嬢さんの話を聞かせてくれるかな?」
「はい、私はラティーナ王国、南西の森にあった、ダークエルフの村の村長の娘、フェリシアと申します。よろしくお願い致します」
村長さんもガエルさんも実力者ね。魔の森で生き抜くには力が必要なのでしょうね。
「……村長の娘が奴隷になっているのだから、何かが有ったのであろう。だが先に君の同行者について聞かせて欲しい。この村に人が来るのは初めてなのでね、我々も対応に苦慮しているんだ」
初めて? ……ここに来るまでの道のりを考えると納得出来るのだけど、この人達はどうやってここまで辿り着いたのかしら? ……信用も無い私が聞いても答えてはくれないわよね。
「私の主ともう一人の奴隷、そして護衛の冒険者、Aランクパーティーのジラソーレでここまで来ました。この村に危害を加えるつもりも無く、私が奴隷になった時の契約の為にダークエルフを探しています」
「契約か、君との契約でこんな危険な場所に来る。……俄かに信じられない話だ。契約の内容は何なのかね?」
私も信じられなかったわ。自分の条件が無茶な事だと分かっていて、それでも諦められなくて条件を出した。最終的にはオークションで売られる事になる事も、少しでも村に多くのお金が入るのならと思っていた。
今でも夢かもしれないと疑う事がある。村は誰もいない島に移住し、私は幸せな生活を送っている。奴隷だと蔑まれる事も無く、美味しい物を食べ、見た事も無い世界を見ている……幸せ過ぎて私の心が作り出した都合の良い妄想なのかと何度も疑った。
ご主人様に抱かれてからは、不思議と現実だと受け入れられるようになった。初めてで朝まで何度も求められたので、現実だと心も体も認識したのかしら?
「フェリシア、フェリシア、どうしたのかね?」
「あっ、申し訳ありません。信じられないと仰られたので、私もつい最近まで現実感が無かった事を思い出してしまいました」
いけないわ、自分の望みを叶える為に連れて来て貰っているのに、なんて事を思い出してるのかしら、気を引き締めないと。
「辛い目に遭って来たのだな。君が保護を望むのなら、私達も力を貸そう。何とかなる方法はある」
……? あっ、現実感が無いって悪い意味に取られちゃったのね。
「違います。不幸な目に遭って現実感が無いのではなく、幸せが信じられなくて現実感が無かったんです」
「ん? そうなのか? ……それなら良いのだが、それで契約の内容は教えて貰えるのかな?」
「はい、契約の内容はダークエルフにとって安住の地を見つけて下さる事と、移住のお手伝い、他のダークエルフを見つけた時にも移住をお手伝い頂く契約をしました」
「ダークエルフの安住の地? 詳しく説明してもらえるかな?」
私は村の襲撃から、島でのお祭りまでの話を秘密にしている事以外は出来るだけ詳しく説明した。
「……そうか。ダークエルフの安住の地……祭りに歌と踊り。そのような事思いつきもしなかったな」
そうよね。森の村でも、島に移ってからも思いもしなかったもの、更に厳しそうな環境に住んでいるんだもの難しいわよね。
「どうでしょうか?」
「ふむ、結論を出す前に君達がどうやってここまで来たのか、教えて貰えるかな?」
「……申し訳ありませんが、能力に関する説明は出来ません。移住される場合は見る事があるかもしれません」
「……そうか。村の者と話し合わねばならんが、君の主とも話がしたい。明日、使いの者をだす。君はガエルに送らせよう」
「伝えておきます。最後に、信じがたい話であったと思いますが、信じて頂けたらと思います。ここに何の不満も無いのであれば必要ないかもしれませんが、よく考えてください」
「しっかりと考えるとするよ。ありがとう」
「いえ、では失礼します」
どうなるのかしら? 精一杯話したつもりだから、信じて貰えると良いのだけど……。ガエルさんに和船まで送って貰う。ご主人様はホッとした様子で迎え入れてくれた。
~フェリシア視点終了~
フェリシアが無事に戻って来た。怪我も無いみたいだし表情も明るい。手応えがあったのかな? ガエルさんと名乗ったダークエルフから明日、村長が話し合いをしたいと伝えられた。
村に泊める事は出来ないと言われたので、適当にキャンプをするから大丈夫だと言っておく。さすがにピリピリした村の中で警戒しながら泊まるのは嫌だから逆に助かる申し出だったな。
明日の午後、またここまで来ると伝えて今日の所は引き上げる事にする。
「フェリシアも無事に戻りましたし、取り敢えず村から見えない場所に行って、今日は休みましょうか」
みんなの賛同を得て、村から見えない位置まで走り、ハイダウェイ号を召喚する。食堂で紅茶を飲みながらフェリシアの話を聞く。
村は元気がある訳でもなく、フェリシアの話も、興味は持っているようだが半信半疑のようだ。まあ、いきなり現れて、良いところに連れて行ってあげるって言われたら、通報ものだよね。
明日、話し合いがしたいと言われたから拒絶されたわけじゃ無いんだし、これからの僕の行動しだいってことか……僕と話して移住拒否されたら切ないな。
フェリシアに話を聞きながら明日の事を考える。……結論として出たとこ勝負になった。情報が少なすぎるよ。食事を取ってたっぷり明日の英気を養って寝よう。
朝……イネスとフェリシアとキスをして、リムを抱っこして食堂に行く。朝食を済ませて、約束の時間までのんびりしようと考えるが、落ち着かない。
今回の移住が成功すれば、ダークエルフの島の人数も増えるから、わざわざダークエルフを探そうとしなくても出会ったダークエルフを勧誘するだけで十分になると思う。
取り合えずフェリシアとの契約に区切りを付けられるから、出来れば成功させたいな。森に入るのはもう遠慮したいし。
豪華客船を買う道筋も出来てるんだから、移住を済ませ、豪華客船を買えば後は楽しむだけだ。あっ、ドロテアさんのテイムには協力したいな。どんなスライムが仲間になるのか楽しみだ。
落ち着かない時間を過ごし、和船でダークエルフの村に向かう。ただでさえ、交渉がへたくそなのに出たとこ勝負とか、胃が痛くなって来た。村付近まで行くとガエルさんが小舟で迎えに来た。
「こんにちは。話し合いという事でしたが、予定は変わってませんか?」
「ああ、しかし全員を連れて行く訳にはいかん。フェリシアとフェリシアの主、2人で来てもらいたい」
「ちょっと待って。数を減らしたいのは分かるけど。こちらも護衛として、最低でも1人は付いて行けないと困るわ」
確かに2人より3人だよね。絶対に安全な訳じゃないんだし、ましてや魔の森の中だ少しでも安全な方が良いよね。アレシアさん頼りになる。
フェリシアが行く時は何も言わなかったけど、フェリシアの護衛じゃないから当然だよね。決してフェリシアなら大丈夫だけど僕が居ると不安だからじゃないと信じたい。
「……森を抜け此処まで辿り着いた者達だ。1人でも人数が増えるのは此方としても緊張感が増す。出来れば遠慮して欲しい」
「はいそうですかと納得する事も出来ないのよね。護衛を1人つけさせてと言うのも、あなた達の事情を考えてだいぶ譲歩しているのよ。判断が出来ないのなら、村に戻って相談してきてくれる?」
「……分かった、もう1人の付き添いを認める」
聞きに行かなくて良いの? 男達のまとめ役って結構偉いのか?
「ありがとう。私が行くわね」
アレシアさんが着いて来てくれるらしい。
「……そのスライムも連れて行くのか?」
「……駄目ですか?」
「神経質と思うかもしれんが、遠慮してくれると助かる」
うーん、ここで僕とリムはセットだって言い張るのは流石に無いよね。
「リム、ここで待っていてくれる?」
『まつ?』
「うん。少しお出かけしてくるから、お留守番しててね」
『おるすばん、する』
リムの可愛さに思わず撫で繰り回す。
「……もう良いか?」
「ああ、すみません。大丈夫ですよ」
僕がリムを撫で繰り回すのをガエルさんは不思議そうに見ていた。この人もスライムの良さが分からないのか……布教するか?
僕とフェリシア、アレシアさんを乗せて村に到着する。静かだな。疑問に思うが、十中八九僕達の影響なので聞くのは止めておこう。
巨大な岩の周りにいくつかの筏を浮かべ、その筏に家が建てられている。遠目でも巨大に見えた岩は近くで見ると更に巨大に見える。
大きさで言うと見えてる部分だけで日本の一般的な2階建ての民家が2軒並んでいる位の大きさだ。水面下の部分を考えると凄い大きさだな。
でもこの村って家の形が殆ど同じだな。筏に合わせてるみたいだししょうがないか。家の中に案内されると2人の男性が出迎えてくれた。
「村長のイアサントです」
もう一人の男性とガエルさんは村長さんの後ろにたつ。あの2人も護衛なんだな。でも3人の美男子が? 美中年が並ぶと、不愉快に思うのは僕の心が病んでいるのだろうか?
「ワタルと申します。よろしくお願いします」
椅子を勧められ、僕が座ると、フェリシアとアレシアさんが背後に陣取った。……もう一つ椅子があるんだし、隣に座ってくれれば助かるんだけどな。確実に僕がメインの話し合いになる。
プレッシャーが増したが頑張ろう。僕の幸せの為に。
誤字脱字、文面におかしな所があればアドバイスを頂ければ大変助かります。
読んで頂いてありがとうございます。