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めざせ豪華客船!!  作者: たむたむ
第七章
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1話 魔の森とスイッチオン

 目の前に、魔の森と呼ばれる物騒な森がある。今から何日も中に入るんだよなー、見た感じ西方都市で入っていた森と変わらない雰囲気なんだけど、この森は上級冒険者でも避ける……帰りたい。


「ワタルさん、そろそろお願いね」


 アレシアさんがニコニコと話しかけて来る。この人もなんで楽しそうなのかな? Aランクでもどうしようもない森に入るのに。僕の船召喚があると言っても緊張しないのかな?


「アレシアさん、魔の森はジラソーレでも厳しい場所ですよね。僕の結界があると言っても緊張しないんですか?」


「あー、そうね。厳しい森だと思うのだけど、ワタルさんの船召喚も頼りになるし、まだ探索された事の無い場所に行けるかもしれないんですもの。緊張もしているけど、楽しみの方が大きいわ。あっ、護衛はちゃんとするから安心してね」


 根っからの冒険者って事なのかな? 未知への探求が大好きなんだな。気持ちは分からないけど。


「はい、お願いします。じゃあゴムボートを召喚しますね」


「ええ、お願いね」


 3艘のゴムボートを召喚して引っ繰り返す。組み分けは先頭のゴムボートにアレシアさん、マリーナさん、イルマさん、ふうちゃん。真ん中に僕、イネス、フェリシア、リム。後方にドロテアさん、カーラさん、クラレッタさんで一列に並んで、取り敢えず中心をめざして魔の森に入る。


 ……結論から言うと失敗した。魔の森に入って直ぐに魔物にスイッチが入った訳ではなく、順調に進めたが、奥に進むにつれて茂みや枝に引っ掛かる。


 外から見えていた部分は開拓の成果か、ある程度切り開かれていたようだ。奥に進むにつれて通り易い道を選んで進んで行っても、必ずどこかで引っ掛かる。


 僕のゴムボートだけなら許可を出すのも面倒だが問題は無い。しかし前方のゴムボートに僕が許可を出すのは難しい。陰になって見えない場所もあるし、気が付かない事の方が多い。


 暫くはアレシアさん達が引っ掛かる部分を切り払っていたが、木ごと切り払わないと進めない場所や、いちいち蔓が引っ掛かり足止めされたりと、ストレスがたまる。


 一度森から出て、作戦を考え直す。色々相談した結果、結局ゴムボートの召喚は無しになった。頑張って考えたのに、結構ショックだ。


 単純に僕をジラソーレとイネス、フェリシアで囲んで魔の森の探索を再開する。僕の役目は魔の森の魔物にスイッチが入った時に、直ぐにゴムボートを召喚して避難場所を作る事だ。Aランク冒険者のジラソーレならそこまで急がないでも大丈夫だそうだ。


 陣形を組み替えて改めて魔の森に入る。うん、いちいち立ち止まる事も少ないし、問題無く森の奥に進めるけど、なんだか頼りない。


 ジラソーレに囲まれているのに贅沢な話だけど、結界が無いと小さな虫が飛んできてビクッってなる。もはや結界に依存しているな。異世界に来た頃は1人で森にも入っていたんだけど、生活環境が戻って打たれ弱くなってるな。


「ワタルさん、そんなに緊張しなくても大丈夫ですよ。私達が必ず守りますから」


「ありがとうございます、クラレッタさん。でも、やっぱり緊張はしちゃいますね」


「ふふ、慣れていないとそうかもしれませんね。ですが疲れてしまいますから、出来るだけ落ち着きましょうね」


「はい」


 うーん、結界の中にいないと、緊張感は段違いだな。僕だけゴムボートを利用する案も出たんだけど、いちいち許可を出しながら移動するのも、素早い行動が出来なくなるから、止めておいたが……後悔している。


 まあ、殆どの魔物は簡単にジラソーレとイネス、フェリシアで対処できるそうなので、今の陣形が一番だろう。早く探索出来れば早く魔の森から出られるからね。


 偶に襲って来る虫の魔物は出来るだけ見ないようにしている。一瞬で片付けられるので、トラウマにはなっていないが、虫の魔物にスイッチが入るのだけは止めて欲しいな。


「あっ、ワタルさん、あれがフレンジーモンキーですよ」


 クラレッタさんの指した方向を見ると、少し離れた木の枝の上に、明るい茶色の毛皮の……幼稚園児位か? その位の大きさの猿が数匹いる。


「……意外と可愛いんですね」 


「見た目は可愛いかもしれませんが、魔物ですから油断しないでくださいね」


「はい、分かっていますから大丈夫ですよ」


 いくら何でも訳したら、逆上とか狂乱の名前が付いている魔物を可愛いからと言って油断はしない。どうせ近づいたら、歯をむき出しにして襲い掛かって来るんだろう。心構えをしておけば醜態は晒さないはずだ。


「倒すんですか?」


「襲って来るのなら倒しますが、動かなければ無視します。何がスイッチになるのか分かりませんが、攻撃によってスイッチが入る可能性が高いですからね」


 僕の質問にドロテアさんが答えてくれた。みんな魔物を確認しても油断している訳じゃないんだけど自然体なんだよな……達人? Aランクだもん達人なんだろうな。


 フレンジーモンキーを避けて森の奥に進む。僕達が動くとフレンジーモンキーは木を飛び移りながら、追って来る。


 いきなり襲い掛かって来るんじゃなくて、こちらを観察する様子が、嫌な感じだな。全然逆上とか狂乱の雰囲気が無いな。暫く歩くが付かず離れずの距離でフレンジーモンキーが付いて来る。


「ずっと付いて来ますね、何か作戦があるんでしょうか?」


 隣を歩いているクラレッタさんに聞いてみる。


「作戦ですか? こちらが他の魔物に襲われる等の隙を狙っているのかもしれませんね」


「あー、それは面倒ですね」


「大丈夫ですよ。あの程度の魔物なら、問題無く対処出来ます」


 クラレッタさんがあの程度とか対処とか言うと違和感を覚えるな。優しい巨乳な神官さんなのに……怒ったら怖かったな。それに一流の冒険者なんだし当然なのか。僕が勝手にイメージしてたんだな。でもあの巨乳に優しく包まれたいんだからしょうがないな。


「よろしくお願いします」


「ふふ、任せてください」


 それからも夜まで休憩を挟みながらも奥に向かって歩き続ける。何度かヴィンディクティヴウルフと虫の魔物にも襲われたが、ジラソーレがあっさりと対処してくれる。


 でもそれを切っ掛けに魔物にスイッチが入る可能性を考えると心が休まらない。ちなみにフレンジーモンキーはまだ後を付いて来る。


 食事を終えて遠目からフレンジーモンキーに見守られながら、小屋船を3艘と見張り用のゴムボートを召喚して、それぞれ分かれて休む。まだフレンジーモンキーを討伐しなくて良いのかな? 疑問だ。


 そう言えばパルレモの時はチケットが無かったから、見張りの交代の時に起こされてたんだよな。地味に嬉しい。ちなみに今回も僕の見張りは免除された。


 小屋船に入ってイネス、フェリシア、リムと眠りにつくと外が騒がしくなった。小屋船の扉を開けると歯をむき出しにして、激しい叫び声を上げながらフレンジーモンキーがゴムボートに襲い掛かって来た。夜襲がしたかったんだね。


 見張り中だったマリーナさんとカーラさんがサクサクとフレンジーモンキーを討伐していく。2~3分でアッサリとフレンジーモンキーは全滅した。……魔物のスイッチは入らなかったらしい。安心して寝られるな。


 朝……イネスとフェリシアとキスをしっかりと済ませ、頭の上にリムを乗せて小屋船の外に出る。挨拶をして、朝食を済ませる。


 話を聞くと見張りの間に何回かフレンジーモンキーが襲撃して来たそうだ。……スイッチが入らなくて良かったな。朝起きたら周りの全てがモンスターだったとか嫌な目覚めだよね。


 森に入っただけでスイッチが入る事もあるらしいし、今の所運が良いのかも。……ステータスでは15しか無いけど。……深く考えても分からないので探索を再開する。


 取り合えず中心部に向かって進む。中心部にダークエルフがいなかったらその後どうしようか? 何か手掛かりぐらい早めに見つけたいな。


 昨日と変わらない魔の森の中を進む。ようやく雰囲気に慣れて来てリムをムニュムニュしながら歩く。魔物の襲撃も簡単に対処してもらい、落ち着いて行動できる事になった頃それは起こった。


 ヴィンディクティヴウルフの襲撃をジラソーレが対処した後、魔の森の雰囲気がガラリと変わった。森のあちこちでヴィンディクティヴウルフの遠吠えが響きわたる。


「ワタルさん、ゴムボートの召喚をお願い」


「はい」


 アレシアさんの指示に従い、3艘のゴムボートを並べて召喚する。


「皆さん入ってください」


 僕の声に3人ずつに分かれて、ゴムボートに乗り込む。遠吠えがドンドン近づいて来る。1匹のヴィンディクティヴウルフが現れるとあとはもう止まらない、あっという間に周辺はヴィンディクティヴウルフに埋め尽くされた。


「これって確実にスイッチ入ってるよね?」


 絶え間なくぶつかって来るヴィンディクティヴウルフを見ながら、イネスとフェリシアに確認する。


「そうね。これでスイッチが入ってなかったら逆に怖いわ」


 ……イネスの言う事も一理あるな、これでスイッチが入ってなかったら、スイッチが入った時が怖すぎる。


「あー、そうだね」


「それでご主人様。これからどうするんでしょう?」


「うーん、まあみんなで相談しようか」


 フェリシアの問いに答えて周りを見ると。ジラソーレは結界に飛び掛かって来るヴィンディクティヴウルフをサクサク討伐している。まあ数が数なので全然減っているように見えない。逆に増えているな。


「皆さん、取り敢えずどうするのか話し合いませんか?」


 両隣に別れているジラソーレに声をかける。


「そうね、今少しぐらい数を減らしても変わらないわね」


 アレシアさんがそう言いながら、真ん中の僕が乗っているゴムボートに移って来る。他のメンバーも攻撃を止めて集まる。


 全員が1つのゴムボートに集まると狭苦しいので、移って来たのはアレシアさんだけだが、すぐ隣に並べて召喚しているので声は聞こえるから問題無い。


「ふぅ、凄い数が集まって来るって言ってたけど想像以上ね。この数だと結界が無かったら危険だったかも、これに虫の魔物とフレンジーモンキーが加わったら、正直想像したくもないわね」


「ええ、そうね。大技を打ち込みながら協力すれば暫くは持つでしょうけど、ヴィンディクティヴウルフだけでこの数ですもの。虫の魔物とフレンジーモンキーが加わったらギリギリ撤退できるか、数に押し潰されるわね」


 アレシアさんとドロテアさんの会話を聞いて想像してみる。……無いな。気持ち悪くなりそうだ。今でさえ一面ヴィンディクティヴウルフで埋め尽くされているのに。


「まあ、ワタルさんの船の結界があるんだし、ゆっくり減らしていきましょうか。ワタルさんもそれでいい?」


「そうですね。船の召喚と送還を繰り返せば先に進めますけど、手間が掛かります。いずれ他の魔物も参戦してくるんでしょうが、暫く様子をみましょうか」


 方針を決定してジラソーレとイネス、フェリシアがヴィンディクティヴウルフに攻撃を加える。僕もリムとふうちゃんと一緒にちまちまと攻撃する。


 攻撃をして飽きたら休む。休んだらまた攻撃を再開する。目の前にあふれているヴィンディクティヴウルフにちまちまと槍を突き刺す簡単なお仕事です。槍術のスキル上がるかな?


 ジラソーレのメンバーが武器を振るい、魔法を放つと簡単に切り裂かれ貫かれ、燃やされ、弾き飛ばされる。まあ続々と集まって来るから直ぐに隙間は埋まっちゃうんだけどね。


 それよりもリムはまだしも、ふうちゃんもしっかり風の魔法を放ちヴィンディクティヴウルフを切り裂いている。


 ……生活魔法で満足していたけど、僕も攻撃魔法を覚えよう。そんな事を考えながらも余裕を持っていたが、その余裕も虫の魔物とフレンジーモンキーが参戦するまでだった……


誤字脱字、文面におかしな所があればアドバイスを頂ければ大変助かります。

読んで頂いてありがとうございます。


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― 新着の感想 ―
自分もそれ考えたけど今までの合理的でない行動を見る限り航はそこまで切れ者じゃないんでしょうね。 自分ならでかいフェリーを召喚-送還―召喚―送還の繰り返しで敵を潰して、縦にでかフェリーを召喚して木々も…
[一言] 船召喚で踏み潰せば良くなくない??
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