10話 異世界に来て1ヶ月と神様の愚痴
朝か……異世界に落ちてきてから、そろそろ1ヶ月になる。レベルも少しは上がったし、お金も貯まってきた。この調子なら、何とか異世界でも生きていけそうだ。
名前 豊海 航 とようみ わたる
年齢 20
種族 人間
職業 船長
レベル 13
体力 340
魔力 32
力 36
知力 46
器用 42
運 15
スキル 言語理解 (ユニーク)
船召喚レベル1 (ユニーク)
残高1金貨32銀貨60銅貨
貯金は1金貨を超えた、日本円で約100万円だよ。チョットすごいよね。よし、今日も頑張って角兎を狩るぞ。
宿屋で朝食を食べて、お昼のお弁当を受け取りギルドに出発。角兎の依頼表を1枚取って受付カウンターへ……何度も繰り返しているから、もはやベテランの風格がありそうだ。
「おはようございます。この依頼の受理をお願いします」
「おはようございます。あの、お聞きしても良いですか?」
何だろう? キツネミミのお姉さんの方から話しかけられるのってはじめてな気が……ドキドキしてきた。もしかしてデートのお誘いですか?
「はい、何でしょうか?」
ドキドキしながらも平静を装い、返事をする。
「毎日依頼にこられてますよね? 何か理由がないのであれば、1度お休みを取られた方がいいのではと……冒険者は大変なお仕事ですので、1つ仕事が終わると休みを取られる方がほとんどです。もちろん依頼を受けるというのであれば受理しますが……」
ですよねー、デートなわけないよね。……でも、キツネミミの綺麗なお姉さんに、僕、心配されてる? その事だけで疲れなんて吹き飛びます! 落ち着け、キツネミミの綺麗なお姉さんからの厚意を無にしたら駄目だ。
「よく考えてみたら、しばらく休んでませんでした。特に理由もなく何となくギルドにきて、何となく角兎を狩ってました。お休みした方がいいんでしょうか?」
「人それぞれですが、働き過ぎに見えましたので、特に理由がないのであればお休みしてもいいんじゃないでしょうか」
それもそうだな。この世界には労働基準法とかなさそうだし、自分の休みは自分で考えて取るべきだろう。お金に余裕もできたし少しくらい休んでもいいはずだ。
「そうですね、特に理由もないので今日はお休みにしてみます。ご心配お掛けしました。ご忠告ありがとうございます」
「いえ、出過ぎたことを申しまして、申し訳ありません」
「いえいえ、大変感謝しています。ありがとうございます」
無理なくいけたか? キツネミミの綺麗なお姉さんに心配されて、舞い上がって訳の分からない事をしそうになったけど、問題行動はとってないよね。キツネミミのお姉さんにしっかりとお礼を言ってギルドを出る。
冷静になって考えると、異世界にきてから毎日狩りしてた。大きな都市なのに観光すらしてなかったよ。休みになったんだし街を見て回ろう。
落ち着いて周りを見渡す。何処に行こう……何かいい場所がないか聞いてからギルドを出たらよかったな。痛恨のミスだ。まあいい、ミスを引きずるよりも、今を楽しむ事が大切だ。
……あれ? あの人ドワーフか? おっ、イヌミミの獣人さんがいる。この街にきて1ヶ月も経つのに、何だか初めてこの街をちゃんと見た気がする。余裕がなかったんだね、今日はしっかりと楽しもう。
異世界の街、見た事がない変わったもので溢れている。人も物も、文字通り別世界だ。まったく使い道も分からない物と日本にもある物、どちらを見ても面白い。
包丁はこの世界でも同じ形をしている。鍋は鍋だし、フライパンの様な物もある。違う世界でも同じ物がある事が何となく面白い。
ふらふらと街を見ながら歩くと大きな広場に出た。大きな建物が並ぶ中に一際大きくて荘厳な建物がある。なんか教会っぽい。宗教か、異世界の神様はどんな神様なんだろう?
そういえばメッセージとスキルをくれた人?がいて、あまり手を出せないって書いてあったよね。もしかしてメッセージをくれたのは神様かもって思ったんだよな。教会でお祈りして、お礼を言えば届くかな?
教会らしきところまで行って、聞いてみる。
「ここは教会ですよね? 一般人でも入っていいですか? 無学者でお祈りだけでもと思ったのですが、どうなんでしょう?」
「ええ、入ってもいいですよ。中に入ると祈っている方達が沢山いますから、同じようにすれば大丈夫です」
「ありがとうございます」
同じ様にすればいいのか。適当な感じがするんだが……いいのか? まあ、教会の人がそう言ってるんだ。問題ないか。
気を取り直して教会の中に入ると、何だろう空気が変わった様に感じる。魔力がある世界だもんね、神力とかもあってもおかしくない。
中では信者達が神様の像の前で、両膝を着いて手を顔の前で組んで祈っている。あの真似をすればいいんだろう。
両膝を着き、手を顔の前で組んで目をつむる。スキルとメッセージを与えて下さったのは神様なんでしょうか? おかげさまで、何とか異世界でも生きていられます。ありがとうございます。
「どういたしまして」
祈っていると突然声が聞こえた。驚いて目を開けると、光り輝く豪華絢爛な部屋が……。
「初めまして豊海 航君」
声が聞こえた方を向くと、やんちゃそうな少年が煌びやかな玉座に座っている。将来イケメン間違いなしだな、うらやましい。
「えっと、初めまして、ここは?」
「君の国で言うところの神界と言ったところかな?」
深海……違うよね、この場合は神界だよね。そうなると、この少年は神様?
「えっと、改めましてスキルを与えてくださり、ありがとうございます」
「君、動じないね、ビックリしなかった?」
「ビックリしてますし、キョドってます。でも日本の物語で、教会でお祈りすると神様のところに呼ばれるとかあるので、何となくそんな可能性もあるかなって考えてたので、少しは落ち着いてるのかもしれません」
「あー、君の世界の文化は面白いよね」
「知っているんですか?」
「神同士の付き合いもあるからね」
「そうなんですか……もしかして、戻ったら時間は進んでいないとかありますか?」
「正解!!」
テンプレだけど、神様すごい。
「呼ばれるのなら、真っ白で何もない部屋だと思い込んでたので驚きました」
「うん、真っ白な部屋でいこうかなって思ったけど、僕の趣味でこっちにしたんだ。偉そうに見えるでしょ?」
「ええ、でも神様なんですよね? 偉いんですよね?」
「うん、偉いよ、創造神だもん。この世界を作ったの僕だよ。でも、偉いのと偉く見えるのは違うよね」
「たしかにそうですね……っていうか、創造神様なんですね。それで、何故僕はここに呼ばれたんですか? あまり手出しができないとメッセージにあったと思うんですが」
「そうだった、ちょっと聞きたい事があってね。ねえ、君の異世界生活ってどうなの? 僕的にはあれはないと思うんだけど」
俺が質問すると、創造神様が俺の生活を否定しだした。
「えーっと、何が駄目なんでしょう?」
「何が駄目って君、角兎狩ってるだけじゃん。冒険してないじゃん、完璧に埋没しちゃってるよね」
「でも、メッセージには目立たない方がいいって書いてましたよね?」
メッセージの中には、脅しに近いような怖い事が書かれていたはずだ。
「そうそれ、それで文句言われちゃってね。見てて面白くないって。面倒臭いよね。って言うか創造神に文句とかありえないよね」
口をとがらせてグチグチと文句を言う創造神様。神界にまで呼ばれて、真面目に生活しているのにディスられている僕の方が、ありえないと言いたい。言えないけど。
「えーっと……よく分からないのですが、僕は見られているんですか?」
「うん、異世界人だからね。予想もつかない行動をとってくれるし、結構楽しみにしてる神々は多いんだよ?」
「いや、多いんだよ?とか言われましても、見られているのは恥ずかしいんですが……」
「まあ、それは大丈夫。トイレとか寝床とかは見てないから」
それは大丈夫とは言わない。
「できれば見ないで頂けると嬉しいです」
「うん、君の行動がつまらな過ぎて、見るのやめた神々とか結構いるんだよ。娯楽神とか君の行動をみてると吐き気がするって言ってたよ」
「普通に生活してただけなのに吐き気がするって……」
神様って真面目に生きる人間を応援してくれないのかな? 娯楽神だからって吐き気がするとかこの世界は大丈夫なのか?
「戦神とか魔神とかが、ユニークスキルがクソだから、こんなになったんだって言うんだよ。ひどくない?」
今は船召喚も面白いって思える。でも、落ちてきた当初は、どちらかと言うと戦神、魔神という、物騒な名前の神様の意見に賛成だな。
「川も海もないところに落ちたんですが、そこで船召喚は正直どうなんでしょう? 名前がそれっぽいからとか書かれてましたが」
「ぴったりだと思ったんだもん。いいじゃんすごいスキルなんだから。だいたい海や川がないなら、あるところに行けばいいじゃん。乗船拒否ってすごいんだよ、ドラゴンブレスぐらいなら楽勝で弾くんだよ。攻略できるの神くらいだよ。それなのに君はゴブリンにすら逃げ出して戦わない。そんなんだから戦神とか魔神がクソスキルとか言うんだよ」
「だもん、じゃん、って……いえ、そう言われましても、乗船拒否がそこまで強力なんて僕も知らなかったですし……」
「知らなくてもせめてゴブリンは試そうよ。ユニークスキルだよ。あと君、一生気が付かなそうだから教えてあげるけど、船召喚してわざわざ乗り込まなくても、光る魔法陣に乗れば、勝手に思ってる場所に乗れるからね」
「そんな裏技が……」
「魔法陣が出たら水面にだって立てるし、守られるよ。あと船が送還されている間は、船に積んである荷物も時間が止まってるから利用するといいよ」
なにそれ、アイテムボックスの船バージョンだよね。すごく便利じゃん。あっ、じゃんって言っちゃった。
「ありがとうございます」
「だいたい君さ、船の購入画面すらもう見てないでしょ。お金も貯まったし何か買おうとか思わないの? いい船沢山あるでしょ? 船召喚のレベルは船を買ってたら上がるんだし」
「使う場所もないですし、ゴムボートすら目立ちそうなのにモーターボートはちょっと……それに船召喚って船を買ってたらレベルが上がるんですね」
「そんな事は船召喚のレベルが上がれば、何とでもなるようになってるの。僕が与えたスキルだよ。君は慎重すぎるんだよ」
「えーっと、でも目立たない方がいいってメッセージがありましたから」
「限度があるよね。確かに昔落ちてきた人間にユニークスキル与えてたら、英雄とか聖人とか魔王とか国王とか、みんながはっちゃけちゃったから問題になってね。少し弱めたユニークスキルとメッセージを与えてたんだよ」
英雄? 魔王? 突っ込みどころが多すぎて付いて行けないんですけど……。
「でもね、大抵の人間はね、どこかで知識を出したり、力を見せたりして、歯止めはかかってるけど少しずつ世界に影響を与えたりするんだよ。そして目立たない様にしながらも、欲を満たすために力を使うんだ。それなのに君はなに? 小屋船召喚で満足してるのってどうなの? もっと頑張りなよ」
言いたい事は分かるけど、理不尽に怒られている気がする。
「僕にも欲はありますよ。だいたいまだこの世界に来て1ヶ月くらいですよ。これから活躍してたかもしれないじゃないですか」
「大抵の神々の意見が、このままのんびり一生を終えるか、ゴブリン、もしくはオークくらいまでなら倒すかも?で人生を終えるって思ってるんだよ。そうなったら僕が与えたユニークスキルが駄目だったとか、あのメッセージが余計だったとか言われるんだよ、テコ入れだよ」
テコ入れって……人の生活にするものなのか?
「えーっと、わかりましたよ。頑張ります。ドラゴンでも入れないって教えてもらったので、少しは魔物とも戦いますよ」
「はー、本当に頑張ってよ。だいたい君、ボッチだよね? もう少しちゃんと人間関係を構築しなよ」
「ちゃんと話す相手ぐらいいますよ、失礼な」
「話すだけじゃん、相手の名前とか知ってるの?」
「これからですよ、これから」
「本当に頼んだからね」
神様が真剣に頼んでくる。……内容はともかく、神様に頼まれるってある意味すごい事だよね。
「もう少し餌を与えないと君の場合不安だな。君、故郷の味とか懐かしくない? 船に出店してる店って、お金を出したら食べられるよ。豪華客船なら世界中の1流店が出店しているからね」
「それって、お米が食べられるって事ですよね?」
「そうだよ、それとテレビやネットは無理だけど、DVDとか映画は見れるよ。新作もね……無論それ以外にも出店している店、施設は使用可能。神が与えたユニークスキルはすごいんだ」
ものすごくやる気になる事を教えてもらえた。豪華客船があれば、かなり文明的な生活が戻ってくるじゃん! 美味しいご飯に映画……信じられないくらいにテンションが上がる。
「やる気になりました。頑張ります!」
「今までにない力強い返事だね。信じてるから頑張って。じゃあね」
ん? 戻ってきたのか? しかし神様達に見られてるとは思わなかったな。有益な情報も結構もらえたし、これからはもう少し、創造神様が喜ぶように頑張るか。
教会を出ようとすると、祈っていた人達が神官にお金を渡している。お布施かな? 有益な情報ももらえたので、奮発して1銀貨を渡そう。予想外の情報が沢山手に入ったし、今日はもう宿に戻って色々と考えるか。
残高 1金貨 31銀貨 60銅貨
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