18話 目的地の決定とゴムボートの活用方法
商業ギルドでの用件を済ませて、ルト号に戻る。南方都市を離れて、探索か……異世界ポイよね。
幾つか調べた情報の中から今回の目的地を決定する。南方都市からパレルモに船で向かう途中に、臨検してくる人族至上主義国家、ジェーラ王国に行く事にした。どうせ移住を計画するなら、危険な国のダークエルフを移住させた方が良いのでは? との判断だ。
ちなみにその意見が出た時、僕は面倒だなっと思ったが、評判を気にして賛成した。世間体って大事だよね。そのままドロテアさんが調べてきた話の続きを聞く。
ジェーラ王国には広大な森があるらしい。代々の国王がその森を開発しようと、兵を送っては森で迷い、魔物に襲われ、大損害を被って失敗し続けているらしい。
魔の森と呼ばれているそうだ。安直な名前だよね。その森に向かう事にならなければ笑えるのに。……自分が行く事になると笑えない……よし、反対しよう。世間体なんて知った事か。ある程度危険な場所に行くとは思ってたけど魔の森とか危険すぎる。
「ちょっと良いですか?」
「はい、何か分かりにくかったでしょうか?」
「いえ、ドロテアさんの説明はとても分かりやすかったです。ですが、危険過ぎませんか? そのような危険な場所で、ダークエルフが生活できるとは思えないんです。無駄足になりませんか?」
住んでいない場所を探してもダークエルフは見つからない。見つからないなら行く必要は無い。完璧な理論だ。
でも良かった、最初の予定なら見つけた森に片っ端から入るつもりだったから、魔の森にも知らずに入っていた可能性があったな。情報は大切です。チートを貰って最近異世界をナメてました。
「ワタルさんの仰る事も尤もなのですが、強い魔物がいない森は冒険者が探索してしまいます。隠れて住む事は難しいんです。
ある程度強い魔物がいる森でも高ランクの冒険者が探索します。隠れ住むなら、高ランクの冒険者でも避けるような森でないと難しいですね」
「隠れられないと意味が無いから、危険な森の方がいる可能性は高いという事ですか?」
「はい、おそらくですが、そうなります」
そう言えばフェリシアの村も陸側からは危険な地帯を抜けないと辿り着けないって言ってたな。……ならどうやって襲撃者はフェリシアの村を襲ったんだ?
今聞くのはデリカシーが無い気もするが、聞いておかないとこれからの探索にも不安が残る。
「ねえ、フェリシア、辛い事を聞くけど、フェリシアの村は危険な場所を通り抜けないと辿り着けないんだよね? どうして襲われたの?」
うわっ、フェリシアが悲しそうな顔してる。やっぱり聞くんじゃなかったか? どうしよう。
「えーっと、ごめんね。無理に思い出さなくても良いよ」
「いえ、大丈夫です。私達の村が襲われたのは、おそらくですが助けた冒険者が村の位置を売ったのだと思います。襲撃にその冒険者も参加していたそうですから」
……えーっと、冒険者が迷ったか怪我か何かでダークエルフに助けられた。そして助かった冒険者が村の位置を売って、奴隷狩りを引き連れて戻って来たって事?
最悪だけど、なんで村の位置を知ってる冒険者をそのまま放置したんだろう? 隠れているんだから対策は取るべきだよね?
「言い難いんだけど、村の位置を知っている冒険者をそのまま放置したって事?」
「いえ、冒険者は村から離れた場所で助けたそうです。助けてから襲って来るまでにかなりの時間が空いたので、私達が居る事を知って、慎重に調べた結果村に辿り着いたのではないかと父は言っていました」
あー、なるほど。ダークエルフが居る事を知って、欲望に目が眩んで危険地帯をものともせずに村の位置を割り出したのか。腕の良い冒険者なのかな? 性格は最悪だけど。
それで、安全なルートを見つけて襲ってきた……うーん危険地帯にも比較的安全な場所とかがあるのなら可能なのかも。リスクが高そうだけど。
ダークエルフは危険な場所の中で、比較的安全な場所を見つけて住んでいるのかもな。魔の森も全てが危険な訳じゃないんだろうし……
「分かった。辛い事を思い出させてごめんねフェリシア」
「いえ、大丈夫です」
でも、僕が村に行ったのは村が襲われてから、数ヶ月は経ってたよね。撃退って言ってたし全員を殺した訳じゃないんなら、その後も襲って来てもおかしくなさそうだけど、よく無事だったな。
「しかし、その冒険者は許せませんね。命の恩を仇で返すなんて、同じ冒険者として許せません。フェリシアさん、その冒険者はどうなったんですか? 生きているのなら必ず償わせます」
おうふ、クラレッタさんのお怒りモードだ。まあ、気分が悪い話だからな。僕もその冒険者が生きているのなら地獄をみてもらいたい。
「その冒険者の遺体は確認したそうですから。大丈夫です」
「そうなんだ、逃げられてたら気分が悪いから良かったよ」
なんかしょうもない事しか言えなかった。ちゃんとフェリシアを慰められれば良かったんだけどな。
「はい」
フェリシア、笑顔で頷いてくれてありがとう。自分で振った話だけど、暗い話になっちゃった。話を変えよう。
「フェリシアの話を聞くと、やっぱり危険な森の、比較的安全な場所にダークエルフは住んでいそうですね。魔の森に行ってみますか」
結局、危険な森の方がダークエルフがいる可能性が高いと自分で結論を出してしまった……微妙に悲しい。
誰も反対する事もなく、魔の森行きが決定してしまう。怖いから陸地でも安全性が増す船召喚の使い方を考えないとな。
取り合えず、ルト号で外海に出て、魔の森の辺りに自動操縦をセットする。
「目的地は魔の森で良いとして、情報を集める為に人族至上主義の国で情報を集めないとダメですよね? どう動くんですか?」
「そうね、私と、ドロテア、マリーナで情報を集めるしか無いわね。その間はワタルさん達はのんびりしていて」
「大丈夫ですか?」
「ええ、人族なら問題無く行動出来るわ。あっ、でも臨検の可能性もあるから船の偽装と、隠れられる場所も作っておいた方が良いわね」
「あー、確かにそうですね。外海からジェーラ王国に近づく時に偽装しますね」
だいたいの事が決まったので、紅茶を飲みながらまったりする。魔の森か大丈夫かな……そう言えば最近レベルの確認をしてなかったな。レベルも上がってるだろうし確認してみよう。
名前 豊海 航 とようみ わたる
年齢 21
種族 人間
職業 船長
レベル 216
体力 4400
魔力 438
力 442
知力 452
器用 448
運 15
スキル 言語理解 (ユニーク)
船召喚レベル4 (ユニーク)
槍術レベル1
弓術レベル1
生活魔法レベル1
テイムレベル2
確かパレルモでレベルを確認した時が182だったから34レベルも上がってるのか……凄いな。ステータスで力と体力は自覚出来るんだけど、知力とかまったく上がっている感覚が無いんだよな。あと運の低さが凄く悲しい。
それにスキルが全く上がってないな。素振りぐらいじゃ駄目なのか。弓術はそろそろ上がっても良さそうなんだけど……
……何気に年齢が1歳上がっている事に驚く。もう誕生日を過ぎてたのか。異世界だと時が経つのが早く感じるな。
うーんこれだけレベルがあってフェリシアにも結界を張って貰うんだから、後は船召喚の陸地での使い方を考えれば魔の森でも何とかなるか?
船召喚を陸地で使うのなら、ゴムボートだよね。小さいゴムボートを抱えて行くか? 森の中だと邪魔になりそうだけど四方をゴムボートで固めれば、上下以外は気にしなくても良くなるな……
……ゴムボートを引っ繰り返して傘みたいにすれば歩きながら移動出来る……良い考えかも試してみよう。デッキに出てゴムボートを召喚する。
「ご主人様、突然どうしたの?」
「あイネス、このゴムボートを引っ繰り返したいんだ、手伝って」
「? 分かったわ」
疑問顔のまま手伝ってくれるイネスと協力して、ゴムボートの端と端を持ち、ひっくり返そうとすると、結界が船の縁や壁に当たって上手くひっくり返らない。
おかしい、船内でゴムボートを召喚した時はルト号の天井とか何の問題も無かったのに。召喚した時に結界内にある物は許可が出ている状況になるのか? 動かしたら、新たに入る部分は許可しないといけないって事になるのかも。
それなら光の魔法陣の時に飛び込んでこられたら、誰でも入れるのか? いや、創造神様が魔法陣の時でも乗船拒否は発動するって言ってたな……よく分からん、後で考えよう。
「イネス、ちょっと待って、狭いとやり辛いからフォートレス号に移るよ。皆に知らせて来て」
「分かったわ」
取り合えず全員でフォートレス号のデッキに移り、皆の見守る中実験を再開する。
「ご主人様、ひっくり返したいのは分かるけど、結界が床と反発して上手くひっくり返らないわ」
フォートレス号に乗船許可を出せば問題は解決するけど、何も許可を出していない状態で引っ繰り返したらどうなるのか興味がある。
「うーん、許可を出さないとどうなるのか興味があるから、頑張ってみよう。ドロテアさん、リーチがあればいけると思うので、槍でゴムボートを引っ繰り返してくれませんか?」
「えっ? ……ええ、分かったわ」
ごめんなさい、意味の分からない事を頼んで。困惑した表情で、ドロテアさんが槍を船底にひっかけ引っ繰り返す。
「これは、融通が利かないと言うか、逆に融通が利き過ぎると言うか、どう言ったら良いのか悩む光景ですね。自分が召喚したゴムボートですけど、不思議です」
「ええ、そうね。ある意味馬鹿らしい光景な気もするわ」
「不思議」
「どうしてこうなったのか、理解は出来るけど、理不尽ね」
僕の言葉に、アレシアさん、カーラさん、イルマさんが答えてくれる。リムとふうちゃんは目の前の不思議な光景に大興奮だ。
目の前には2メートル程上空にひっくり返ったゴムボートが浮いている。……まあ結界に支えられている事は分かるんだけど、不思議な光景だ。
「ねえ、ワタルさん。今更だけど何でボートを引っ繰り返そうと思ったの?」
ごもっともな疑問ですアレシアさん。ここできちんと答えないと、いきなり変な事を始める訳の分からない男に分類されてしまう。しっかり説明しないと。
「それはですね、僕が想像していたよりも危険な森の中に入る事になりそうですから。安全に森を探索できる方法を考えてたんですよ。逆さにして持ち運べば全方位が守られると思って試したんですが、どうでしょう?」
「あー、そうね。安全は確保できそうだけど、違和感が凄いわ。床を乗船許可したらどうなるの?」
「試してみますね。許可」
許可と同時にボスンとゴムボートが落ちた。このまま再度床を拒否したらどうなるんだ? ゴムボートが浮かぶなら問題無いけどフォートレス号を弾こうとしたらどうなるか……怖い事が起こりそうだから止めておこう。
下手したら、不壊と神ぐらいにしか破れない結界の大勝負が始まりかねない。悲惨な事になりそうだ。
「このまま持ち運べば、木々が邪魔でもしゃがめるし、運びやすいわね」
「あー、森の中だと、地面に許可を出しても、木の根とか、石等でいちいち許可を出さないといけないので、足止めされそうな気がします。使うなら地面を許可してない状況のゴムボートの方が良さそうですね」
僕の言葉に再度アレシアさんが考え込む……使えるかな?
「間違いなく安全で、使うべきだと思うのだけど、冒険ってこれで良いのかしら?」
……アレシアさんの言いたい事はよく分かります。でも怖いのも痛いのも、極力避けたいです。
「アレシア、今回は何時もの冒険ではなくて、ワタルさんの護衛がメインなのよ。安全に移動できるのなら、お願いするべきよ。……私達の護衛の必要が大幅に減ってしまった気もするけど」
ドロテアさん、フォローありがとうございます。そして、何かすみません。気を取り直してゴムボートを送還、再召喚してみる。新たに出て来たゴムボートは上を向いていた、毎回引っ繰り返さないと駄目か。
色々試してみた結果、3艘のゴムボートを召喚して、1艘に3人、棒で押しながら頭上のゴムボートを移動させると、楽に移動できる事が分かった。
凹凸や障害物があると少し面倒だが、狭い所が通れないのと目立つ事以外は問題無さそうだ。実際に森で試してからになるが、ある意味陸地でもチート移動が出来るようになった、歩きだけど。
そんな風に、森での行動を考えたり、映画を観たり、ゲームをしたりと、楽しい時間を過ごす。特にクラレッタさんは、フォートレス号とストロングホールド号のユー〇ォ―キャッチャーのぬいぐるみが変わっていたのでご満悦だ。本気でぬいぐるみ部屋が必要になりそうだな。
のんびりした時間を過ごし、ついにジェーラ王国付近の外海に到着した。魔の森はもう直ぐだ!
誤字脱字、文面におかしな所があればアドバイスを頂ければ大変助かります。
読んで頂いてありがとうございます。