16話 ビッグクラブとジラソーレの真意
湯着を取って戻って来たジラソーレを乗せてルト号で出航する。途中で陸地に船を寄せ、女性陣に大量の石を拾ってもらう。
その後、尾行を警戒しつつあっちこっち走りながら外海に出て、ハイダウェイ号を召喚して乗り換える。
「みなさん、ビッグクラブを茹でるのにゴムボートを使いたいんですが、問題ありませんか?」
「ゴムボート? あれでビッグクラブを茹でるの?」
「ええ、僕が念じれば船が綺麗になるのは知ってますよね。それとクラレッタさんとリムに浄化をして貰って、熱湯で茹でるので汚くはないと思うのですが、気分的に嫌なら切り分けてから茹でますがどうします?」
「うーん、綺麗になるのなら問題無いのかしら? でも何でそんなに丸ごと茹でる事に拘るの?」
「ああ、それはですね、切り分けると茹でた時にそこから旨みが逃げ出すそうなんです。だから丸ごと茹でるのが美味しいらしいです。……そう言えばこのビッグクラブ、傷が無いですがどうやって倒したんですか?」
「ああ、それはね。お土産用だから綺麗に倒したの。カーラが盾でバンってね。まあ最初はぺちゃんこにしちゃったんだけど、何度目かで綺麗に倒せたのよ。そんな理由があるのなら頑張って良かったわねカーラ」
「うん」
「そうだったんですか。ありがとうございます。おかげで美味しい蟹が食べられます。それでゴムボートで茹でて構いませんか?」
何匹もぺちゃんこになったビッグクラブの為にも、美味しく食べねば。まあ自己満足だけどね。
「そうだったわね。私は良いわよ。皆はどう?」
他のメンバーも問題無いそうなのでゴムボートで茹でる事にする。言葉だけだと意味が分かんないよね……そうだ、茹で汁がゴム臭くなりそうだし、船偽装でゴムボートを鉄に変えよう。見た目も安心感が出て良いよね。
「それでは、始めますね」
「あっワタルさん私達もお手伝いします」
「ええ、お願いします。クラレッタさんとリムには召喚した船と、海から汲んで貰った海水に浄化を掛けて欲しいんです。リム、クラレッタさんと一緒にお手伝いしてくれる?」
『いっしょ、がんばる』
「ありがとう、リム」
反射的に抱きしめて撫で繰り回してしまう……女性陣が生暖かい目で見ている。あっ、マリーナさんは頷いている。気持ちは分かると言ってくれているんだな。同志がいると心強い。
「分かりました。リムちゃん、おいで」
ポヨンとクラレッタさんの胸に飛び込むリム。ポヨヨンと受け止めるクラレッタさんの胸……
「ありがとうございます」
まずはゴムボートを召喚して、綺麗になれと念じる。船偽装で素材を鉄に変えて、もう一度念じて綺麗にしておく。さっそくクラレッタさんとリムが船に浄化を掛けてくれる。
「イルマさんとイネスは拾って来た大量の石を綺麗に洗った後に、魔法で焼いてください。フェリシアは僕と一緒に蟹を洗って。他の皆さんはこの鍋に海水を汲んで、浄化をして貰った後にゴムボートに流し込んで下さい」
みんながそれぞれの作業に移り、僕はフェリシアと蟹を洗う。確かふんどしの部分をよく洗わないと駄目なんだよな。
しかし、ビッグクラブってタラバガニに似てるな。タラバガニってヤドカリだったと思うんだけど、ビッグクラブはどうなんだろう? まあ、美味しければ良いか。
「だいたいの準備は終わりましたね。イルマさん、イネス、焼き石を船に投入してください」
僕の声と同時に焼き石が船に投入される……いちいち焼き石に乗船許可を出すのが面倒過ぎる。でも焼き石にチケット発行しても意味が無いか……あっ纏まっている焼き石に全部乗船許可を出せば良いのか。
沸騰した海水に甲羅を下にしてビッグクラブを入れる。
「ワタルさん、どの位の時間茹でるんでしょうか?」
クラレッタさんの言葉に僕は愕然とした……こんな大きな蟹茹でた事無いから時間が分からない……
「あー、分かりません。どの位だと思いますか?」
「……1時間位でしょうか?」
「その位は掛かりそうですよね。では1時間ゆでて様子を見ましょう。イルマさん、イネス、沸騰した状態を出来るだけ維持してください。あと途中で石が足りなくなったり海水が少なくなったら言ってください。対応します」
「「はい」」
「じゃあ、僕はカニ酢を作りますので、他の皆さんはお風呂の前にテーブルを運んでもらえますか? 夜は遅いですが、飲んで食べて、お風呂に入って、宴会しましょう」
「宴会!」
「やったー」
宴会と聞いて皆の動きが3倍速になった気がする。まあ、ジラソーレのメンバーもフェリーのお酒を飲むのは久しぶりだからしょうがないだろう。
僕はカニ酢を作る。酢と醤油と砂糖、塩を適量混ぜるだけの簡単レシピだ。あっ漫画にもカニ酢の作り方が載ってたかもな。まあ、今回はこれで良いか。
漫画で思い出したけどフカヒレも試してみないとな。あの後もグラトニーシャークに何度も襲われたからフカヒレが再度溜まりまくってしまった。成功してたら、もう一度フカヒレを作ろう。おっと今は蟹だな。
何度か海水を足し、石を回収して再び焼き石にして再投入する。1時間後、ビッグクラブは美味しそうにゆであがった、たぶん。中まで火が通ってるかな? 不安だ。取り敢えず送還してテーブルの側に召喚しなおす。
買い溜めしておいた、フォートレス号とストロングホールド号の料理やお酒をテーブルの上に並べる。沢山の料理とお酒が並ぶとテンションが上がるな。
「準備完了ですね。あっ、ビッグクラブを解体しないと。アレシアさんは剣でカニの足を切り落として食べ易いように切れ目を入れてください。僕は甲羅を剥がします」
「分かったわ」
アレシアさんが一瞬でカニの足を切り取り、一瞬で甲羅に切れ目を入れる。
「終わったわ」
「はやっ」
僕はまだ甲羅に手すら触れてないのに……取り合えず急ぐか。ふんどしを引きはがし、そこから甲羅を引きはがす。カニの甲羅にはたっぷり蟹味噌が……美味そう。
甲羅をこぼさないように脇に寄せ。もう片方の……これってエラだっけ? を外し。半分に折る。これでまあ、食べれるだろう。
「準備出来ました。冷めないうちに食べましょう。蟹の身はそこに作っているカニ酢につけると美味しいので試してくださいね。では、いただきます」
「「「「「「「「いただきます」」」」」」」」
いただきますと同時にメインのビッグクラブに群がる。ビッグクラブの足を手に取る……大きい、なんか僕の太もも位あるんだけど……
意を決して殻から身を抜き出す。ブリンっとプリプリの蟹の身が現れた……此処まで大きいと美味しそうに見えないのが不思議だ。
もう、これだけでお腹いっぱいになるよね。いやその前に飽きそうだ、切り分けるか? いや、そんな事は出来ん。男ならかぶりつくべきだろう。
カニ酢につけ、かぶりついて蟹の身を口いっぱいに頬張る。うん……美味いな。大きな体を動かす為か身がプリプリとして味が濃い。夢中で何度もかぶりつく。
「ワタルさん美味しいですね」
「おいしい」
「ええ、本当に美味しいですね」
クラレッタさんとカーラさんも満面の笑みだ。他の皆も豪快にかぶりついている。僕も蟹の身にかぶりつきながら、おにぎりを頬張り、落ち着いたらお酒を飲む。
そう言えば甲羅酒って飲んだ事が無いな。美味いのかな……あの甲羅で甲羅酒は無理だなどの位お酒が必要なのかすら分からん。
リムを見ると、取ってあげた蟹の足をふうちゃんと一緒に両サイドから食べ進んでいる……ポ〇キーゲームじゃん、蟹の身で高度なイチャイチャ技を。恐ろしい子達だ。
「リム、ふうちゃん、美味しい?」
『おいしい、すき』
『……おいしい……』
「良かったね。おっきな蟹だから沢山食べられるよ」
『たくさん、うれしい』
『……たくさん……』
デレデレで見守っていると。ドロテアさんとマリーナさんもリムとふうちゃんを見つめて微笑んでいる。やっぱり可愛いよねリムとふうちゃん。
まあ良い、次は蟹味噌だ。スプーンで豪快にすくい頬張る。火を通したからか生臭さは消え、濃厚な……濃厚な……なんて言えば良いのか……とにかく濃厚な味とわずかな苦み。とにかく美味しい。
「ワタルさん、その気持ち悪い所も食べるの?」
「ええ、好き嫌いはありますが、好きな人にはたまりませんよ。カーラさんも試してみますか?」
「うん」
そう言うや否やパクっと蟹味噌を食べる。いま、気持ち悪いのとか言ってたよね? 少しも躊躇しない所が凄いな。
「うーん、不思議な味だけど美味しい」
「そうですか? 好きなら蟹の身につけても美味しいですよ」
「試してみる」
他の女性陣も興味を持ったみたいで、恐る恐る挑戦する。ドロテアさん、イルマさん、マリーナさん、イネスは平気で、他のメンバーは苦手だそうだ。
まあ、好きなら食べて、嫌いなら食べなければ良いんだよね。お酒を飲みながらカニを食べ満腹になった所で、湯着に着替える。……満腹で酔っぱらってお風呂に入る。吐きそうだな、少なくとも体には悪いだろう。
でも僕は入る。そして他の皆が入って来るのを待つんだ。お風呂のライトを光らせ泡を発生させながらゆったりと浸かる。うん、酔いが回って来る気がするな。
取り合えず上がって、冷たい水をイッキしてからお風呂に戻る。うーん、何かいい気分になってきた。幸せだな。
「お邪魔するわね」
きたー。
「ええ、どうぞ。でもお酒を飲んでると酔いが回りやすいですから、気を付けてくださいね」
「うふふ、分かってるわ」
うーん、相変わらずイルマさんは妖艶だな。甘やかされたい……。
「楽しんでますか?」
「ええ、とっても楽しいわ」
なんかありきたりの会話だな……もっと素敵な会話がしたいな。例えば星の話とかどうだろう? この世界にも星座があれば、ロマンティックな会話が出来るかも。星には全然興味が無かったけど……。
「ワタルさん、ごめんなさいね。私達の態度が変わって戸惑ってるでしょ?」
「えっ、ああ、まあそうですね。違和感がありましたから、何か理由があるんですか?」
「ええ、ワタルさんに大きな恩を受けたんだから、しっかり恩返ししましょうって話しあったのよ」
「恩ですか? 結構な大金を貰ったんです。僕は納得していますよ」
「ふふ、まあその大金もワタルさんに稼がせてもらったのが大半なのよね。それに、ルッカを解放したせいでワタルさんは厄介事を沢山抱える事になったわ。だからせめて護衛をしようって決めたのよ」
「有難い事ですけど、護衛をして貰う事と、態度が変わる事の関連性がちょっと……今まで通りでも護衛は出来ますよね?」
「ええ、そうなんだけど、今までは依頼か、旅行中だったでしょ。普段は一緒じゃないから守れないってアレシアが言い出して、ならもっと仲良くなれば良いのよって結論になったわ……」
「言って良いのか分かりませんが単純ですね」
「ええ、もう少し方法があると思うんだけど、ずっと冒険者をして来たからか、冒険以外の事に疎い人間が出来上がっちゃったの」
「出来上がっちゃったんですか……でも、イルマさんはそうでもないですよね?」
「まあ、私はこう見えて色々考えるタイプなのよね。だから周りをよく観察してたから少しは常識があるのよ。まあ、私も結局はずっと冒険者をやってただけだから、常識も中途半端なのよね」
「そうなんですか。まあ、原因が分かれば安心できます。皆さんと仲良くなれるのも嬉しいですし、守って貰えるのも助かります」
「ふふ、ありがとう。よろしくね」
イルマさんが横にピタッと、横にピタッと。常識が中途半端な人はそんな事しません。でもありがとうございます。ふにゅっとした感触最高です。
「こういう事は仲良くなる為に必要かしら?」
「一般的に必要かどうかは分かりませんが、僕にはとても効果的です」
「ワタルさんに効果的なら問題無いわよね」
イルマさん、問題ありません。頭に血が上ってクラクラして来たけどいっさい問題ありません。
「はい、ありがとうございます」
「あら、頭がグラングランしてるわよ。逆上せてるじゃない。上がるわよ」
「えっ、もう少し」
「うふふ、駄目よ。また今度ね」
横のソファーに寝かされて、冷たい水を持って来て貰う。……美味い。いかんな逆上せるとは、でも気持ち良かったから良いか。
それに好意がランクアップした原因が分かったから良かったな。何事かと不安だったけど、不安が無くなった、頑張って仲良くなろう。
復活するまでリムを抱きしめながら、お風呂に入る巨乳美女達を目に焼き付ける。また逆上せて来そうだ。
あと寝ころんだままでいると、心配して近寄ってきてくれる事が分かった。お水を持って来てくれたり、調子を尋ねに来てくれたり。
そうするとお湯で濡れて、湯着がペトリと張り付いたお胸様が目の前に現れる……ムッツリですみません。でも本望です。
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読んで頂いてありがとうございます。