15話 気になる豪華客船と残高照会
結界の実験も終わり、南方都市に戻る。久しぶりにルト号に来たジラソーレのメンバーは、送還しておいた自販機コーナーの食事を喜び、シャワーを浴びて帰って行った。
今日はジラソーレが居て助かったな。イネスはパリスさんの事は話で知っていただけで、見た事は無かったらしい。フェリシアは存在自体知らなかったと言っていた。
あんな化け物の攻撃を予備知識なく見ていたら、ビビッていたのは確実だと思う。海水ごとルト号が空中に打ち上げられちゃったし……
まあ船底は海水に触れているんだから、海水ごと打ち上げればどうにかなるのは分かる気がするんだけど、槍でどうやったら海水が打ち上げられるんだろう? 意味が解らん。
「ねえ、僕達がルト号に乗っている時に、パリスさんがしたように船を打ち上げられたらどうしたら良いかな?」
「そうね、あの位の高さなら私達なら問題無いと思うわよ? でも心配なら船内でもフェリシアに結界を張って貰いましょうか。それならどこかにぶつかっても大丈夫だし、大きな船を呼び出す時間も取れるわ」
「あー、なるほど。フェリシア、お願いしても良いかな?」
「はい、全員に結界を掛けておきますね」
「うん、ありがとう」
気にし過ぎかもしれないけど、予想外の事があったんだ、出来る事はしておこう。これで安心なはずだ。
さて、時間も出来たし、豪華客船を確認して、良さそうな船をピックアップしておこう。
……そうなんだ、豪華客船って大きければ凄いと思っていたんだけど、お客として楽しむなら、色々な選び方があるんだな。
施設ばっかり気にして、そんな所まで考えなかったよ。ラグジュアリーとかプレミアムとかカジュアルとかクラスがあるんだな。
まあ購入する側なんだから結局気に入った船を選べば良いか。いくつか欲しい豪華客船が見つかったんだけど悩むな。
見ているとオアシスオ〇ザシーズかハーモニーオ〇ザシーズが気になる。22万トンって……どうして海に浮いていられるのか不思議だよね。
食事はメインダイニングだけじゃなくビュッフェレストラン、イタリアンレストラン、ステーキハウスにハンバーガーショップ、和食にピザ……
施設も映画館、プール(複数)、ミニゴルフにアイススケートリンク、ソラリウム、ジップライン、ロッククライミング、図書室……
何だか施設が多すぎて覚えきれない、20世紀のアメリカを再現した場所とか、本物の木や花が植わった船上公園とか、スケールが大き過ぎて画面では想像できない。
メリットはとにかく楽しそうな施設が多い事。沢山のお食事処があり、食生活がかなり充実する事。後、無料の食事処が沢山ある……これって、無料で食べられるんだよね?
デメリットは船の値段が1255白金貨と高い事と、大きすぎる事、乗客だけで5000人以上って、必要ないよね……
でも、大きな船って憧れるし安心もする。この船があれば、部屋もゴージャスだったし引き籠って何年でも暮らせる。
他にも5万トン、10万トン、15万トン、前後の豪華客船も色々あるが、施設の面だとどうしても22万トンの豪華客船に軍配が上がる。
施設の為にお金を貯めて豪華22万トンの豪華客船を買うか、ある程度買いやすそうな10万トン、15万トンの豪華客船で満足するか……これも難題だな。
特に15万トン前後の豪華客船は施設も充実しているし、悩みどころだ。高い買い物だけに気に入らなかったから別のを買うなんて事も難しい。
……結局お金か。口座に入っているお金と、60艘の胡椒を卸したお金、その後の収入しだいで、22万トンの豪華客船に手が届きそうなら時間が掛かっても頑張ろう。
せっかく異世界に落ちて来て船召喚ってユニークスキルを貰ったんだから、一番欲しい船を買わないとね。
明日は商業ギルドに出向いてお金の確認をきっちりしよう。……駄目だな、よく考えたらパリスさんが南方都市にいるんだ。たぶん大丈夫だと思うけど、襲って来られたら絶望的なんだから用心しておこう。
港に居る商業ギルドの職員に商業ギルドにお使いに行ってもらって、カミーユさんを呼んで来て貰おう。口座の残金ってギルドカードが無くても確認できるのかな? それも頼んでみよう。
翌朝、港に居る商業ギルドの職員に伝言を頼み、ルト号の内部を偽装して、カミーユさんを待つ……お休みだったらどうしよう。
でもこんな風に警戒するのも面倒だから用事を済ませたら、さっさと南方都市から離れよう。パリスさんを見て無かったらもうちょっと気楽に出歩けたんだけどな。
「ご主人様、カミーユさんが来たわよ」
「ありがとう、出迎えるね」
カミーユさんに乗船許可を出して船内に案内する。
「わざわざすみません、カミーユさん」
「いえ、問題ありません。ワタルさんの現状も分かります。それに胡椒の事でお伺いしたい事がありましたので、助かりました」
「胡椒ですか?」
「はい、卸して頂く胡椒の代金と、口座から下ろされるお金を白金貨でご用意するのは時間が掛かりますので、その間の胡椒の品質低下が勿体なく、先に卸して頂ければと、お願い出来ませんか?」
「あーなるほど……ちょっと考えさせてください」
「はい」
胡椒の品質か……南の大陸を何往復かした設定になっているから、時間は経ってるんだよね。それなのに卸した胡椒はかなりの高品質……疑われるよね。
沢山胡椒が卸せるからって欲張り過ぎた、その場の勢いで物事を決めると碌な事にならんな。どうしよう?
……上手い考えも思いつけない。時間が経てばそれだけ品質で疑われる事になるなら、少しでも早めに卸した方がマシか。
白金貨を用意してもらった後に卸して、お金を受け取ってから直ぐに旅に出るのも良さそうだけど……そうしたら次の時に南方都市に来辛くなりそうだ。先に胡椒を渡すか。
「分かりました。先に胡椒を卸しますね」
「ありがとうございます」
カミーユさんに笑顔でお礼を言われるだけでちょっとトキメク自分のチョロさが怖いな。
「では、明後日の朝に、港まで胡椒を受け取りに来てもらえますか? 3回に分けて運んで来る事になりますので、前回と同じ量の胡椒を持って来ます」
「分かりました。準備しておきますね」
「それで僕の口座に幾ら入っているのかと、白金貨を集めるのにどの位の時間が掛かりそうなのか分かりましたか?」
「はい、ワタルさんの口座には龍の鱗の代金とプリン、アイス、リバーシ、ジェ〇ガの契約料も入ってまして、242白金貨30金貨になります。
これに胡椒の代金が品質しだいですが200以上の白金貨ですから、全部で450枚以上の白金貨を用意しないといけません。少し前に大量の白金貨を下ろされた方がいらっしゃいますので、時間が掛かりそうです。
マスターが王都の商業ギルドにも話してくださるそうなので20日程お待ち頂けますか?」
「分かりました、お手数ですがよろしくお願いします。あと口座を空にするのも何なので金貨以下の貨幣はそのまま預けておきます」
少し前に大量の白金貨を下ろしたのって、ジラソーレだよね。かなり商業ギルドに迷惑を掛けている気がするな。
「分かりました。それでプリン等の契約料の内訳をご説明致しましょうか?」
「あっ、そうでしたね……大まかに全部で幾らになったのかで結構です」
あれ? なんか呆れられてる?
「ワタルさん、商人なのですから、金銭は細かく管理しないといけませんよ? まあ、胡椒で莫大な利益を得てらっしゃるので問題は無いのかもしれませんが……」
「ははは、すみません」
無理です、算数の時代から数字には拒否反応が出てしまうんです。思えば僕って船召喚以外は商人にも向いてないな。
「大まかにですが、全ての契約で1白金貨60金貨が入っています。今はそれぞれが広がって行ってる段階ですのでこれからも入金額が増えて行くと思いますよ」
1白金貨60金貨……利益の3%が貰えるんだったかな? たいして高くない物で1白金貨を超えるんだ、数の力って凄いな。
「分かりました。ありがとうございます。それで白金貨が集まったら持って来て貰えるんですか?」
「いえ、申し訳ありませんが下すには手続きが必要ですので、商業ギルドにお越し頂くしかありません。胡椒の代金は、口座に入れなければ、こちらにお持ちする事が可能です」
「そうですか……」
うーん、どうしよう……ジラソーレに相談してみるか。
「分かりました、胡椒の代金はこちらにお願いします。商業ギルドに行くのはその時の状況で考えますね」
「分かりました」
だいたいの話が終わったので、お茶を飲みながら雑談する。楽しく雑談したかったが、会話の合間に何処に胡椒を置いているのか等、さりげなく情報収集をされて微妙に気が休まらなかった。
胡椒の置き場所なんて実際に無いから助かったけど、存在していたらポロッと言ってしまいそうだった。カミーユさん恐るべし。
雑談が終わり疲れたので船を出航させる。今日は疲れたしストロングホールド号でご飯を食べて、マッサージチェアでのんびりしよう。
それからは2日毎に外海から南方都市に戻り胡椒を卸す。やっぱり品質が良い事を怪しまれるが、知らない分からないで通して60艘分の胡椒を卸し終えた。
外海に出る時は毎回尾行を警戒しながら船で走るが、何の反応も無いので少し虚しくなる。一応用心の為に惰性で続けているが必要なんだろうか?
商業ギルドに向かう事の是非をジラソーレに聞いてみた。Sランクの冒険者が白昼堂々と襲って来る事はあり得ないらしい。実験の時はいきなりのSランクの登場に警戒したそうだが、人目のある場所で後ろ暗い事などしないそうだ。
注意するのは人気のない所、危険な所に近づかない事、1人で行動しない事だそうだ。なんだか海外旅行の注意事項みたいだな。
フェリシアに結界を張って貰っているし、レベルも高いのでイネスとフェリシアから離れなければ昼間は大丈夫だと言われた。一応商業ギルドに行く時は付き添ってくれるそうだ、心強い。
「ねえ、ワタルさん、明日は何か予定はある?」
「予定ですか? 特に無いですね」
アレシアさんの突然の質問に答える。何だかニコニコしているな。
「ふふ、なら明日の夜、またみんなで来たいのだけどいい?」
「ええ、構いませんよ」
「じゃあ、今日は帰るわ。また明日。あと、ワタルさん敬語が抜けてないわよ」
そう言って帰って行った……なんだろう? あと敬語は癖になってるから今更変えるのが難しい。まあ、徐々に慣れて行こう。
次の日の夜、言っていた通りにジラソーレが尋ねて来た。大きな袋を担いでやって来たアレシアさん達が嬉しそうにお土産よ、と担いできた袋を差しだして来た。
「お土産ですか? なんでしょう」
貰った袋の中を見ると大きな蟹が入っていた……なんだコレ? ……あーもしかしてビッグクラブか?
「アレシアさん、これってビッグクラブですか?」
「ええ、前に食べたいと言ってたでしょう? 丁度依頼があったから今日獲って来たのよ」
「ありがとうございます。とっても嬉しいです。ですが、ビッグクラブってこんなのなんですね。想像では人より大きい位の大きさだと思ってました」
「ふふ、都市から近い所の依頼なのに、そんなに大きな蟹が居たら大騒ぎになるわよ。まあこの大きさでも魔物だし危険なんだけどね」
「あー、よく考えればそうですね。大きな蟹って事だけを聞いていたので、物凄いのを想像してました」
冷静に考えれば甲羅の部分だけで高さ50センチ、横幅は1メートルはある。……十分大きいよね、どうやって料理しよう。
「でも見上げる程の大きさの蟹の魔物もいるそうよ。機会があったら獲って来ましょうか?」
「美味しければありがたいんですが、そんなに大きい蟹だと、どうやって料理すれば良いのか……」
「確かにそうね。ある程度解体しないと運べないでしょうし、何とかなるのかしら?」
「どうなんでしょう? まあ、今回はこのビッグクラブを楽しみましょう。うーん、ハイダウェイで料理しましょうか、皆さん湯着を持って来てたりします?」
「いいえ、さすがに依頼に湯着は持って行かないわ。でも楽しそうだし、ちょっと荷物を置いて取って来るわね」
「分かりました。出来る準備をしておきますね」
「ええ、じゃあ行ってくるわ」
「ご主人様、どのように料理するんですか?」
「うーん、こんなに大きな蟹って料理した事無いんだよね。焼いたり、煮たり、蒸したり、なんだろうけど、この大きさの蟹を丸ごと入れられる調理道具が無いんだよね。切ったりすると旨みが逃げちゃうんだけど……」
「でも、今から調理道具を探すのは難しいわ。私が魔法で丸ごと焼いてみる?」
イネスの炎魔法でグラタンを焼いてもらった事もあるけど、この大きさの蟹だと焼き加減とか難し過ぎるな。何とか丸ごと茹でたい。
……そうだ、ゴムボートだ。ゴムボートを念じて綺麗にして、それに焼き石を大量投入して丸ごと茹でる。ゴムボートで茹でた蟹が嫌だと言われたら、素直に切って茹でよう。
まあ切って茹でたら茹で汁が美味しそうだけど、今回は海水で茹でる予定だし出来れば丸ごと茹でたいな。一応海水にも浄化を掛けて貰った方が良さそうだな。
衛生的には大丈夫だと思うんだけど、結局は気分の問題なんだよね。どうなるかな?
誤字脱字、文面におかしな所があればアドバイスを頂ければ大変助かります。
読んで頂いてありがとうございます。