12話 カミーユさんと報酬
~カミーユ視点~
「マスター、ワタルさんの話に納得してもよろしいのですか? 明らかに何かを隠していましたけど」
まあ、私にでも分かるんだから、マスターが気が付かないはずが無いわよね。そもそも、私とかギルドマスターとか関係なく、誰にでも分かる位にウソが下手だったわ。でも、話に乗った理由が知りたいわね。
「話の方は考えてあったようだが、あれだけ顔に出ておっては駄目だな。まあ、ワタルが魔導士で間違い無かろうが、暴き立てて敵にまわす必要も無い。
あ奴はお人好しで臆病だ。実力がある分、追い詰めればとんでもない事をしかねんが、恩を売っておけば何かが有った時は手を貸してくれるだろう。あ奴の話を広めて他の者には手を出せんようにするぞ」
「分かりました」
マスターの人を見る眼は間違いないと思うのだけど、ワタルさんが恐ろしい魔導士って想像が出来ないわね。王子様を土下座、これが特に意味が分からないのよね。
王子様が土下座をする状況ってどうなの? 王子様にとっては自ら死を選びかねない屈辱よね? 何をどうすればそんな事になるのかしら?
いつも会っているワタルさんも、今日、頑張ってウソをついていたワタルさんも、どう考えても魔導士とは思えないのよね……もしかしてマスターがボケちゃったのかしら?
「カミーユ、何か不愉快な事を考えておらんか?」
「いえ、ただ、マスターの話を聞いても、ワタルさんが噂の魔導士に思えなかったものですから」
いけない、つい正直にマスターを見てしまったわ。商人失格ね。
「まあそうだろうな。噂はだいぶ捻じ曲がっておる。特に土下座させられた第2王子の側近は、ルッカを救う為に王子が我が身を犠牲にしたと、美談に仕立てて広めようと必死らしいぞ。まあ、ルッカでの魔導士の評判は好意的なものが多い、そちらが真実だろうな」
「そうだったんですか。それなら少しは納得できます」
「うむ、ワシは南方伯様の所に向かうのでな、お主は冒険者ギルドに行き、実力者、出来ればSランクのパリスを借りて来てくれ。ワシの手紙も持たせるから大丈夫なはずだ」
「パリスって槍のパリスが南方都市にいるのですか?」
「うむ、ちょうど良いから奴に頼もうと思っての」
「しかし実験のような頼みにSランクの冒険者が付き合ってくれるのですか?」
「手紙にも書いたのだが、魔導士の船は帝国のユニークスキル使いの攻撃をあっさり弾き返したそうだ。その魔導士の船があり、試す事が出来るのなら、食い付くと思うがの」
「なるほど、分かりました。ですが依頼中なら断られるかもしれません。その場合はどうしますか?」
「んー、そうじゃな、その場合は冒険者ギルドマスターに推薦してもらうように書きたそう。これで良いだろう、では頼むぞ」
「はい、行ってきます」
もしかしたら槍のパリスに会えるかもしれない、冒険者ギルドに向かう私の足は軽い。槍のパリス、ユニークスキルを持たずSランクにまで上り詰めた、冒険者だけでなくこの国の人達にとっても憧れの人物。
今日、会う事が出来なくても、依頼を受けてくれれば、明日の実験に付いて行けば会える。頑張りましょう。
冒険者ギルドに到着し、商業ギルドマスターからの使いとして、冒険者ギルドマスターに面会を要請する。時間が空いていたらしく、直ぐに通された。
「突然お邪魔して申し訳ありません。商業ギルドのマスターより手紙を届けに参りました」
「ああ、聞いてるよ。しかし商業ギルドのじーさんから手紙か……あのじーさんはとんでもない事を平気で言って来るからな。今回はどんな用件なんだか……知ってるか?」
「申し訳ありません、手紙に書いてありますので」
「それは分かってるんだが、あのじーさん、苦手なんだよな」
南方都市の商業ギルドのマスターと冒険者ギルドのマスターは不思議と仲が良い。年齢も性格も違うが馬が合うらしい。ただし、商業ギルドのマスターが一方的に迷惑を掛ける事も偶にある。
だいたいはうちのマスターの派手好きのワガママに、冒険者が駆り出される事が多い。多くの冒険者をいきなり連れて行かれて、冒険者ギルドのマスターは苦労するそうだ。
今回は、明日で済むし1人の貸し出し要請だからマシなのかしら? Sランク冒険者だけど……
「なんでじーさんはパリスが居る事を知ってるんだよ。極秘だぞ?」
「申し訳ありません、私もここに来る前に聞いたばかりで、何故かまでは……」
本当にうちのマスターは何処から情報を仕入れて来るのか、驚く情報を平気で隠している。しかも質が悪い事に、騒ぎが大きくなるタイミングで情報を出して来る。まあ、その混乱で儲けてしまうのだから何も言えないのだけど。
「あー、そうだよな。あのじーさん、秘密主義だしな。ふー、しかもパリスが好きそうな依頼だ……少し待っていろ呼び出すから」
やったわ、パリスに会える。握手とかお願いしても良いかしら?
冒険者ギルドのマスターがギルド員を呼び伝言を走らせる。極秘なんじゃ無いのかしら? 知っているのはあの人だけなのかしら?
パリスが来るまで大人しく待っていようと考えていたら、冒険者ギルドマスターがうちのマスターに対する愚痴を話し始めてしまった。パリス、早く来て。
「そりゃあよ、依頼を受けたら熟すのが冒険者の役目だよ? でもよ、依頼をしてるのはじーさんだけじゃないわけだ、分かるよな?」
「ええ、分かります」
素面なのに管を巻き始めたわ、困ったわね。
「なのによ、じーさんと来たら、朝、突然やって来たとお「失礼しますパリスさんをお連れしました」も……」
やっと来てくれたわ。想像以上に長く感じたわね。
「お待たせしました、何か御用ですか?」
「ああ、そちらのお嬢さんがお前に関係がある手紙を届けに来たからお前に来て貰ったんだ」
「そうなんですか。初めまして、パリスと申します。よろしくお願いしますね」
「あっ、はい、カミーユと申します。こちらこそよろしくお願いします」
キャー、パリスと握手しちゃったわ。落ち着いた雰囲気で紳士的で、そのうえSランクの冒険者……冒険者のイメージが変わりそうね。
「それで、ギルドマスター、どんな手紙なんですか?」
「おう、そうだったな。商業ギルドのじーさんが、お前に依頼を受けて欲しいと言って来てな。明日1日で済むんだが、極秘行動中だしな……内容的にはお前が好きそうなんだがな、どうする?」
「ああ、商業ギルドのマスターですか。相変わらず早耳なんですね。誰にも見られずに来たはずなんですが」
「ああ、その為に門番にまで手をまわしたんだが、届けられた手紙にはしっかりお前を借りたいと書いてあったよ。もはや妖怪だな」
「あはは、否定は出来ませんね。それでその依頼の内容はなんですか?」
「ああ、ブレシア王国で現れた魔導士の事は知っているな? その魔導士が結界を張った船を購入した奴がいるそうだ。その結界を試すためにお前の力が借りたいんだとよ。
ちなみにその魔導士が張った結界は、ユニークスキルの攻撃を無傷で弾き返したそうだ。じーさんもお前の好きそうな依頼をしっかり送って来るんだから困ったもんだな」
「ええ、私好みの依頼ですね。ユニークスキルを無傷で耐える結界ですか……ぜひ試してみたいです。ギルドマスターが問題無いのなら、お受けします」
「まあ、明日で終わる依頼だから、問題は無いだろうし、構わんだろう。俺も興味あるしな」
「ありがとうございます。ギルドマスターも来るんですか?」
「ああ、興味があるなら来いと書いてあったからな。噂の魔導士の実力が一部とはいえ見れるんだ、行くしかないだろう」
「そうですか、楽しみですね。明日はいつ頃行くんですか?」
「ああ、じーさんが南方伯の所に行くそうだ。その結果次第で時間が決まるだろう。後で知らせが来るそうだ」
「そうですか。では、私は戻りますので、知らせが来たら教えてください」
「ああ、分かった」
「それでは、カミーユさん、お先に失礼しますね」
「はい、お会いできて光栄でした。また明日、よろしくお願いします」
「ええ、では、また明日」
「はい」
ふー、パリスの参加は決まったのだし、私も戻りましょう。
「では、私も戻ります。パリス様の参加は決定でよろしいですか?」
「おお、じーさんによろしく伝えてくれや」
「はい、では失礼します」
明日はどうなるのかしら? 久しぶりにワクワクするわね。
~カミーユ視点終了~
朝か……、しっかりと2人とキスをして、しっかりと満足した後、朝食を食べる。
「ご主人様、今日はルト号の結界の確認にお偉い方達が来られるんですよね? ルト号の内部は偽装されないのですか?」
「うーん、中には入れたくないんだけど……断っても面倒そうだし全部偽装しておこうか。じゃあ、いつ来るのか分かんないし、今から偽装してしまうね」
「分かりました」
「ええ」
船の偽装を済ませ、暫くのんびりとリムと遊ぶ。そして今日、新しい遊びが生まれた、何時もは上に高い高いしていたのだが、リムがイネスの方に放り投げるように頼んで来た。
僕からイネス、イネスからフェリシア、フェリシアから僕にと何故かキャッチボールみたいな遊びになった。僕はなんだかリムをボール扱いしているようで、嫌なんだけど、リムはどこ吹く風で楽しんでいる。
「あら、ご主人様ジラソーレの皆が来たわよ」
ん? 外を見ると、ジラソーレが歩いて来るのが見える。昨日、宿に伝言を残していたから、わざわざ来てくれたんだな。皆で出迎える。
「皆さん、お久しぶりです。わざわざ来て下さってありがとうございます」
「ふふ、お久しぶりですワタルさん。宿に伝言がありましたから、お邪魔させて頂きました」
「ありがとうございます。取り合えずサロンにどうぞ、お茶でも飲みながら話をしましょう」
「はい」
ジラソーレを中に招き入れ紅茶を出す。
久しぶりに会ったリムとふうちゃんは大興奮でポヨンポヨンとぶつかりあっている。やっぱり種族が同じだと通じ合うものがあるんだろうな。ちょっと嫉妬しそうなぐらい楽しそうだ。
「ワタルさん、中まで偽装しているんですね。何かあったんですか?」
「ええ、昨日帰って来て商業ギルドに行ったら、ギルドマスターに呼ばれまして、話していく内にルト号の性能を試す事になりまして、今日その人達が来るんですよ。まあ、いつ来るのかまだ分からないんですが」
「そうだったの、私達が巻き込んだせいでご迷惑をお掛けして申し訳ありません」
「ああ、皆さん頭を上げてください。こうなる事は分かってましたし、何度も謝って貰うとこちらが申し訳なくなるので、もう気にしないでください」
「ありがとうございます。それで、遅くなってしまったのですが、こちらが家族を助けて頂いた報酬です。ワタルさんのおかげで家族もルッカも救われました。本当にありがとうございます」
目の前に革袋がおかれ、ジャラっと音をたてる。また頭も下げられちゃったな、今度はお詫びではなく、お礼だから良いのか?
「いえいえ、報酬を頂いたのなら、依頼を熟しただけなんですから、これも気にしないでください。有難くお受け取りします」
「はい」
幾らぐらい入ってるのかな? こういう場合この場で確認するものなのか? 失礼だからと後で確認するべきなのか? ……自信はないが、今回は商取引と同じなんだから代金は確認すべきだよね?
取り合えずチラッと中身を確認してみる。……白金貨がザックザックだ……
「……これは、いくら何でも多すぎです。どの位入っているのですか? それにAランク冒険者ってそんなに儲かるんですか?」
「ワタルさんは昨日、商業ギルドに行かれたんですよね。口座の確認はされなかったのですか? オークションでの龍の鱗の代金も入金されていますよ。あっもちろんお預けしてある龍の素材も全てワタルさんの物です」
オークションのお金も入金されていたのか。白金貨ザックザックに加えて龍の素材? 龍の素材は僕が持っているだけでは送還して眠っているだけになりそうだからな、遠慮しておこう。
「あー、払えるだけのお金で良いと言ったんですから、龍の素材はジラソーレの皆さんの物です。龍の素材を大量に持っていても困りますしね。それにこの現金だけでも多すぎる位です。失礼ですが、いくら入っているのですか?」
「そうですか? 出して頂いた結果を見れば、全てを差し出しても足りないと思うんですが」
「あはは、これだけで十分過ぎます。もう気にしないでください」
体を要求したい気持ちももちろんあるが、フェリシアとしてから生殺し状態からも脱出出来たし、これだけの白金貨があれば、豪華客船も遠くない。そうなればイネスとも……
ジラソーレの皆とはゆっくり仲を深めて行こう。恩も売ったんだし、僕にも余裕が出来た。ガツガツしないで少しずつ攻略していこう……まるでエロゲーみたいな考え方だな。
誤字脱字、文面におかしな所があればアドバイスを頂ければ大変助かります。
読んで頂いてありがとうございます。